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串カツ田中より鳥貴族が客に愛される理由

プレジデントオンライン / 2019年1月25日 9時15分

全席禁煙に踏み切った居酒屋チェーン店、串カツ田中の赤坂店(東京・港)。(写真=時事通信フォト)

ここ数年、店舗を急増させてきた串系居酒屋。特に勢いがあるのはファミリー層に訴求している「串カツ田中」だ。一方、低価格が売りの「鳥貴族」は2017年10月の値上げ以降、業績が低迷している。プレジデントオンラインは調査会社エモーションテックの協力を得て、2社のNPS(顧客ロイヤリティスコア)を試算した。「全面禁煙」や「値上げ」が顧客の感情をどう揺さぶったのか――。

■ほぼ全店で「全面禁煙」を実施した串カツ田中

飲食業界で注目を集める「串系居酒屋」。その魅力はなんといってもコスパのよさでしょう。特に好調なのは「串カツ田中」です。2018年11月期の連結決算は、営業利益ベースで実質的な3期連続の増収増益と絶好調。ファミリー層を取り込むために住宅街などにも積極出店し、関東中心に210店舗以上を展開しています。18年6月には、ほぼ全店で「全面禁煙」を実施したことも話題となりました。

一方、このジャンルを引っ張ってきた「鳥貴族」は、18年7月期の売上高は前年比15.8%増の339億円で、増収率は低下しています。また、閉鎖店舗の減損損失を計上したことから、純利益は前年比31.6%減の6億円と大幅な減益となりました。報道などでは17年10月に「全品280円均一」から「全品298円均一」に値上げしたことが、客足を遠ざけたと指摘されています。

明暗が分かれている2社ですが、消費者はどう感じているのでしょうか。両店舗のNPS(※)を調べてみました。

※NPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

NPSとは、「あなたはこの商品やサービスを誰かに勧めたいと思いますか」という設問に対する回答を分析することで、既存の顧客満足度よりも収益との相関が高いとされている指標です。欧米の主要企業が経営に取り入れており、NPSを判断材料として用いる投資家も増えています。

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設問設計:
 1.あなたは○○(ブランド名)を利用することを親しい友人や知人にどの程度おすすめできますか? ▶0‐10点の11段階で回答
 2.Q1で「おすすめ度:0~10」の点数をつけるうえで、以下の体験はどのように影響しましたか。▶業界ごとに設定した「顧客体験」について、「非常にプラスに影響」~「非常にマイナスに影響」の7段階で回答 ▶さらに「その理由」を自由記述で回答
 3.属性質問(性別、年代、年収、世帯年収)

調査対象:
 
串カツ田中利用者217名、鳥貴族利用者259名
回答取得手法:
 
インターネット調査
調査期間:
 
2018/12/25~2019/1/8

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■ファミリー層をターゲットにした戦略が功を奏した

串カツ田中のNPSは、マイナス39.2%でした。マイナスと出ていますが、日本では多くの産業でマイナスに出る傾向にあり、外食店舗のNPSはマイナス40前後が平均です。そう考えると、串カツ田中の愛着度はそこまで高くありません。

男女別でみると、男性のNPSはマイナス43.4%、女性はマイナス34.6%と、女性のほうが10ポイント近く愛着度が高いことがわかります。

このことは、串カツ田中のファミリー層をターゲットにした戦略が功を奏しているといえるでしょう。例えば、串カツ田中では、子どもが店員とじゃんけんして勝てばジュースが無料になったり、アイスクリームもサービスでもらえたりします。そのほか、たこ焼きを自分で焼くことができ、ポテトサラダはすり鉢でポテトをつぶして手作りします。子供をよろこばせる仕掛けが満載なのです。

調査結果の詳細を見ると「店員の感じの良さ」がNPSの押し上げ要因になっています。調査アンケートの回答者からも「店員が元気で気持ちがいい」「接客態度が良かった」といった好評の声が相次ぎました。これもまた、子どもをよろこばせたいという母親目線に起因することと思います。

それではなぜ、男性のNPSが低いのでしょうか。その答えのヒントは全面禁煙化にありそうです。

■いまだに「飲みとたばこはセット」と考える人は多い

「禁煙・喫煙スペースの有無」については串カツ田中のNPSを押し下げています。日本では喫煙者が年々減っている傾向にはありますが、まだ「飲みとたばこはセット」と考える人は多いのでしょう。

回答者からは、全面禁煙化によって「子どもを連れてきやすい」という声もある一方で、「タバコを吸えないのは嫌」といった声も見られました。全面禁煙化はプラスにもマイナスにも作用にしています。ただ、2つの意見をかけあわせるとマイナス要因が多くなっています。

居酒屋の全面禁煙化は画期的な取り組みで、非喫煙者が増えている中では時代を先取っているように感じられます。一方で、依然として喫煙できることが居酒屋を選ぶ基準であるという意見もあり、時代の流れの中で全面禁煙に対する捉え方がどの様に変化していくのかは注目です。

■「ブランドへの信頼感」がかなりマイナスに

串カツ田中はNPSを上げるのは何をするべきでしょうか。「店内の雰囲気・居心地」には改善の余地があります。

串カツ田中の店内は活気があり、子どもが騒いでもあまり気にならないというメリットがある一方で、回答者からは「席が狭くてギュウギュウ」「椅子が冷たい」などの不満も上がっていました。調査の詳細を読む限り、顧客は「店内の雰囲気・居心地」に関してはNPSを左右する強い要因に上げています。ここに注力すればNPSはグンと上がるでしょう。

また、今後ファミリー層の取り込みをより強化していく為には、女性からより一層受け入れられるお店づくりもポイントです。今回、女性に絞ると昨年末のFC店での盗撮問題などの影響からか、「ブランドへの信頼感」がかなりマイナスに作用していました。今後、ファミリー層の取り込みをさらに加速していくためには、「ブランドへの信頼感」の回復に努めていくことも重要だと考えられます。

■鳥貴族は業界水準よりもNPSが高い

次に鳥貴族です。NPSはマイナス31.7%でした。これは業界水準のマイナス40よりも高く、良い結果といえるでしょう。男女別では、串カツ田中と違って差が出ませんでした。

「禁煙・喫煙スペース」に関しては分煙店舗などもある鳥貴族では、特に影響はありませんでした。鳥貴族ユーザーにとって吸える人にとっては吸えて当たり前、吸わない人にとっても、喫煙席で他の客が吸っていても気にならない、ということなのだと思います。

「店内の雰囲気・居心地」に関しては串カツ田中よりも悪い結果が出ました。「狭い」「ガヤガヤしている」といった回答もありましたが、多くの店舗が路面ではなく、雑居ビルの中にあることが影響しているのかもしれません。串カツ田中同様、ここを改善すればNPSを押し上げられるでしょう。

一方で「商品の提供までの時間」「料理の味」「料理の量・ボリューム感」に関しては、多少の改善余地はあるとしてもかなり顧客の要望に応えられています。

■「18円の値上げ」の影響は見られず

また「値上げ」については、今回の結果では影響は見られませんでした。むしろ「コストパフォーマンス」に関しては、総じてプラスに捉えられています。「とても安くてサラリーマンの財布にも優しい」「値上げされたがそれでも安い」などの声も多く、「18円の値上げ」には、世間で騒がれているほどのインパクトはなかったようです。

また、その安さゆえに「ブランドへの信頼感」の項目においては「安っぽい」ということがマイナスに影響していました。店の雰囲気・居心地などに不満をもっていること、値上げについての抵抗感がなかったこと、安っぽいイメージがマイナスにとらえられていることなどから、もう少し価格を高めに設定した“プレミアム鳥貴族”が求められているのかもしれません。

顧客の年収別では、串カツ田中でNPSが最も高かったのは年収200万円以下の人だったのに対し、鳥貴族は年収200~400万円が一番高く、比較すると顧客の年収は高めでした。ゆったりとした落ち着いた雰囲気で、より味や量に追求した商品を提供すれば、顧客の求めている理想に近づけるのではないでしょうか。

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今西良光(いまにし・よしみつ)
Emotion Tech 社長
1982年、東京都生まれ。早稲田大学大学院修了。日立製作所、ファーストリテイリングを経て、2013年に現在のEmotion Tech(エモーションテック)を創業。

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(Emotion Tech 社長 今西 良光 写真=時事通信フォト)

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