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コーヒー人気なのに喫茶店が半減した理由

プレジデントオンライン / 2019年1月28日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/grandriver)

平成の30年間で、国内の喫茶店は半減した。だが、コーヒーの消費量は拡大した。なぜコーヒー好きが増えているのに、喫茶店は減ってしまったのか。フードビジネスコンサルタントの永嶋万州彦氏は「消費者の舌が肥えた分、原材料や抽出技術にこだわった店舗だけが生き残っている」と説明する――。

■喫茶店数は半減、コーヒー輸入量は1.4倍に

平成の30年間で、「喫茶店」(カフェを含む)の店舗数は半減した。総務省統計を基にした全日本コーヒー協会のデータでは、以下となっている。

・「12万6260店」 1991(平成3)年
・「6万7198店」 2016(平成28)年

過去もっとも喫茶店が多かったのは、1981(昭和56)年の「15万4630店」。平成時代に店は減り続けた。

一方、コーヒーの消費量は拡大した。こちらは複数のデータがあるが、比較しやすいコーヒー輸入量「生豆換算」で見ると、約30年で1.4倍、約13万4000トンも増えている。

・「32万4841トン」 1990(平成2)年
・「45万8961トン」 2017(平成29)年

つまり、コーヒーの輸入量・消費量は増えたが、喫茶店数は減ったのだ。これは「コーヒーを飲む場所」が増えた一面が大きい。かつては珍しかった「コンビニコーヒー」が拡大し続け、レストランも業態・価格帯が多様化してコーヒーを置く。全国各地のカラオケボックスや自販機でもコーヒーは必需品だ。今やどこでも飲める飲み物となった。

今後のコーヒー業界・カフェ業界はどうなるのか。現在を踏まえつつ、過去の視点でも考えたい。指南してくれるのは業界歴50年、元ドトールコーヒー常務でフードビジネスコンサルタントの永嶋万州彦氏だ。一問一答の形で紹介しよう。

■生産技術・評価基準の進歩で味が向上

――永嶋さんは33年前に独立後、飲食業界のコンサルタントとして活動され、カフェチェーン「トラベルカフェ」社長も務めました。平成時代、コーヒー業界・カフェ業界はどう変わりましたか。

まずコーヒーに関しては、味が格段においしくなりました。まずいコーヒーを出す店を探すのが、難しいほどです。その理由はいくつかあります。

そもそもコーヒーは「3たて」=煎りたて・挽きたて・淹れたてが一番おいしいと言われます。そのとおりですが、私は「原料7割・焙煎2割・抽出1割」だと考えます。良質なコーヒー豆を仕入れなければ、本当のおいしいコーヒーはできません。原料のコーヒー豆は農作物ですから、産地の取り組みなど生産方法が進化し、浅煎りや中深煎り・深煎りなど豆の特性にあった焙煎の研究も進んだ。抽出器具も進化した。味は、これらの集大成です。

その味覚構成に大きな影響を与えたのが「スペシャルティコーヒー」です。スペシャルティコーヒーと呼ぶ高品質なコーヒーは、推定で収穫量全体の3%程度ですが、甘さや酸味、口に含んだ時の質感など、コーヒーの味を体系化した指標もできました。国内でも「日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)」が発足し、商品展示会やバリスタ競技会も運営しています。

生産地の支援態勢も進みました。まだ課題は残りますが、良質なコーヒーを栽培して収穫・精製するノウハウは、コーヒーロースター(焙煎業者)をはじめ各社が支援しています。その結果、特別なコーヒーを栽培する農園、一般普及型コーヒーを栽培する農園といった生産体制も整備されてきた。インターネットの進展もそうした活動を支えました。

■カフェにとって「コーヒー」はどれだけ重要か

――そもそもカフェにおけるコーヒーの存在とは何でしょう。

コーヒーは店にとって、主力メニューであり、ドル箱商品です。コーヒーオークションで、よほど高価な豆を買わない限り、利益率も高い。これを自宅や職場では味わえない空間やこだわりの什器、心地よい接客で提供するのが、カフェビジネスの基本です。

昭和時代に「喫茶店ブーム」がありましたが、そのブームが去った理由を2つ挙げましょう。ひとつは、喫茶店にコーヒー豆や食材を納入するロースターが「コーヒーの味を変えるとお客が逃げる」と、あえて重要でないことを店主に伝えたこと。そのほうが商売しやすかったからです。もうひとつは、コーヒーに対する学びを怠り、蒸らし機能のない安易なコーヒーマシンを導入する店主の方がいたことです。その結果、原材料も抽出技術も低下したのです。

その手の店を敬遠したお客さんが選んだのが、「自家焙煎珈琲店」や「専門店」でした。現在も人気の老舗店や、新しくできた繁盛店は、店主やスタッフが非常に勉強しています。

■コーヒー好きの女性も増えた

――昭和時代には「紅茶のおいしい喫茶店」という歌がはやりましたが、ティーサロンは減りました。

もともと紅茶を好むのは女性でしたが、コーヒー好きの人も増えました。紅茶がおいしい店は、気のきいたスイーツやサンドイッチなど、サイドメニューの上品さ、上質な雰囲気が求められたのです。だから百貨店と相性がよく、百貨店内にはティーサロンがあります。しかし最大手のティーサロンチェーン店でも、売り上げの過半数はコーヒーです。働く女性が一般的となり忙しく、平日の昼間に紅茶でゆったり……という生活習慣も減りました。

■消費者の「舌」はどう肥えたのか

――男性客中心の「喫茶店」から、「カフェ」となり、女性客がブームを牽引しました。20代や30代の店主も増え、高級なコーヒーも飲める時代です。消費者の意識はどう変わりましたか。

人によりますが、コーヒー好きな人が増えて経験値が上がり、間違いなく「舌」は肥えています。でも、「好き嫌い」=自分にとっておいしい・おいしくないで判断しています。嗜好品なので、どう楽しむかは人それぞれですが。一度、本当においしいコーヒーを飲んだ人は、その違いに驚き、価格の高さにもびっくりします。店側の工夫も大切で、コーヒー先進国・ドイツのように、「高い=おいしい」になるまで、まだ時間がかかると思います。

消費者の意識は変わりました。例えば高級スーパー「成城石井」のコーヒー豆売り場のゴールデンゾーンに置かれているのは、京都の「小川珈琲」の豆です。「UCC」でも「キーコーヒー」でもありません。もともとコーヒーの飲用場所で圧倒的に多いのは「自宅」で、次いで「職場・学校」です。これは昭和時代から変わりませんが、平成時代はこの2つが際立っています。

そうなるとカフェは「コーヒー豆」販売の大切さを、考え直さなければなりません。

■なぜ「豆売り」に力を入れるのか

――以前、小川珈琲の本店を取材しましたが、直営店は京都府中心に10店程度です。

カフェの店舗数は少ないが、コーヒー豆では存在感があります。実は国内店舗数1位の「スターバックス コーヒー」も2位の「ドトールコーヒーショップ」も、最大の誤算は店で豆が売れないことです。「売れている」と彼らは言うかもしれませんが、当初期待したほどは売れていません。店舗で観察すれば、コーヒー豆を買う人をあまり見かけない。

ドトールもスタバも、本来は自社焙煎するロースターなので、大量の豆を卸売・小売するのが大動脈なのです。私は1986(昭和61)年に独立した際、こんなことを唱えました。

「これまでの喫茶店は、コーヒーロースターが喫茶市場を創った。その理由は“素人”でも開業でき、コーヒー豆と食材を一緒に納入するロースターのノウハウでも通用したからだ。一方、欧州では喫茶店(カフェ)が少なく、バールやパブが多い。将来こうした外食市場になったら、いま330社あるロースターのうち半分は生き残れない」

そこで自社直営の「セルフカフェ」でのコーヒー豆の大量販売、「物販併設型店」の開業などを提唱して、もっと豆売りに注力するよう働きかけました。

現在はネットの進展で、個人でもコーヒー豆調達やカフェ開業ノウハウの情報が手に入りやすくなりました。小売りや通販のコーヒー豆で突出する業者もいます。「カルディ」は総合食材店となり、「ブルックス」は実店舗を構えていません。「丸山珈琲」や「サザコーヒー」など、地方の人気個人店は、スペシャルティコーヒーに力を入れています。

■「空中戦」で採算ベースに乗せる

――永嶋さんは、かねてから「実店舗は地上戦」で「豆売りは空中戦」と話していますね。

「カフェという業態は『FLR』コストで考えよう」と話します。「F」はフードコスト(原材料費)、「L」はレイバーコスト(人件費)、「R」はレンタルコスト(地代家賃)です。カフェビジネスとして成り立たせるには「FLRコスト70%未満」が理想なのです。でも東京都心では、アルバイトの時給=1000円の時代です。一方、ネット通販の豆売りでは、人件費や地代家賃を抑えられるなど、さまざまな工夫ができます。

それなら最初は無店舗でという考えもありますが、「実店舗の評価」が、「コーヒー豆の評価」につながる一面もあります。品質とともに気づかいが大切です。たとえばコーヒーの分量を120mlで出す店があります。フードメニューと一緒に頼むと、量が足りません。コーヒーを飲み終えたお客さまは、水と一緒に食べていることがあります。自分がお客の立場だったらどう思うか。店は生きもので、毎日の営業がマーケティングなのです。

私の最初の「師匠」は21歳の鈴木チーフという人で、1歳年下。新橋にあるカフェを開業する学校の1期生でした。この人から学び、家ではやかんのお湯で淹れ続けました。カフェを仕事にする以上、「キレイで、ラクで、好きなことができる店」は存在しません。

その喜びを感受するのは、主役のお客さまです。私たちは脇役であり、主役を照らす照明係です。カフェ業界は歴史に学び、「温故知新」で考える大切さもあるでしょう。

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永嶋 万州彦(ながしま・ますひこ)
フードビジネスコンサルタント/永嶋事務所 代表取締役
1969年株式会社ドトールコーヒー入社。常務取締役を歴任後、1986年に独立。フードビジネスコンサルタントとして、新規事業の開発、フランチャイズパッケージの開発業務を中心に活動する。著書に『人気のカフェをつくる本』『繁盛するカフェ成功開店法』(旭屋出版)などがある。
高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト 高井 尚之 写真=iStock.com)

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