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ゾゾ前澤 聴衆の心を掴む“赤い靴物語”

プレジデントオンライン / 2019年2月7日 15時15分

時事通信フォト=写真

「始めよければ終りよし」というがスピーチも同じこと。柳井正、孫正義、前澤友作……名経営者の話術から話の掴み方を学ぶ。

■落語と同じ冒頭の話の重要性

世界的に有名な講演会である「TED Conference」をはじめ、私はこれまで数多くのスピーチを聞くなかで、魅力的なスピーチは共通して導入部分に工夫が凝らされていることに気づきました。ここでは代表的な5つのテクニックを、名経営者のスピーチを例にご紹介していきます。

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▼「掴み」の達人に学ぶ5つの法則(写真左から)
柳井 正 ファーストリテイリング会長兼社長
[距離を縮める]
私のことをより年寄りにしていましたが(笑)、本当は1949年生まれです。大した違いはないです。


孫 正義 ソフトバンクグループ会長兼社長
[問いかける]
戸籍の住所っていうものを、そこに生まれた由来みたいなものを、気に留めたことはありますでしょうか?
高田 明 ジャパネットたかた創業者
[衝撃的な数字や事実を投げかける]
ルンバは高いでしょう? でも、きょうは3万円を切りますから。
前澤友作 ZOZO社長
[マイストーリーで欠落を語る]
高校時代、入学式で、みんな普通に黒のローファーのなか、1人だけ赤のニューバランスのスニーカーを履いていて浮いていた。
スティーブ・ジョブズ アップル共同設立者
[タイトルやテーマを語る]
きょうは君たちに、私の人生から3つのストーリーを話します。たったそれだけ。大したことじゃない。

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それというのも一般のビジネスパーソンだって、スピーチを求められることが少なからずあるからです。朝礼、所属部署の報告会、そして友人や知人の結婚式などオン・オフを問わず……。そんなときに聞き手をどうひきつけるか。話の内容が大事なのはいうまでもありませんが、導入部、いわゆる「掴み」が大切になります。冒頭の話が退屈だと、聞く気をなくしかねません。

写真=iStock.com/kasto80

考えてみると、それは落語の「まくら」と同じことなのです。落語では通常いきなり演目には入らず、世間話や、演目と関連する小咄をしたりします。観客や聴衆が落語の世界に自然に入っていきやすくするための工夫の1つです。スピーチも同じで、いきなり本題に入るのではなく、聴衆に関心を持って聞こうという気持ちにさせることが何よりも重要なのです。

1つ目は、聞き手との「距離を縮める」ことです。「話題のニュース」「会場や地元のネタ」などを使い、ときにはダジャレやギャグなども織り交ぜ、堅苦しくない雰囲気を演出します。

政治家の小泉進次郎さんは非常に上手で、よく地元ネタで聴衆をひきつけています。この方法は簡単なのでスピーチ初心者に特におすすめです。たとえば地方で話をするとき、「ここは○○が名産ですね。私も大好きでよく食べています」などと話し始めると、親近感や好印象を与えることができます。

また、前の人が話した内容を受けて話し始めるのも、聞き手はすんなりと入りやすくなるので、私もよく使います。ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さんが以前、公認会計士らが集まる会で講演した際の導入部分は好例です。

司会者が柳井さんの生まれた年を1942年と間違えて紹介したのを受けて、柳井さんは「司会の方が、私のことをより年寄りにしていましたが(笑)、本当は1949年生まれです」といって会場を笑わせました。笑いで場が和むと、話が続けやすくなります。

次の2つ目は、聞き手に「問いかける」というテクニックです。人は質問されると答えを考えるので、スピーカーの話に集中しようとします。

ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義さんはかつて留学を控えた学生向けのスピーチで、自分の戸籍について考えたことがあるかを問いかけました。孫さんの戸籍の住所には番地が記されておらず、「無番地」と書かれていたそうです。孫さんの祖父母が朝鮮半島から入国した経緯が複雑だったためのようです。しかし、それでも孫さんは大成功を収めた。これから異国で学ぶ若い学生にとっては、強く関心を引く内容だったのではないでしょうか。

■数字はインパクト大非常に有効なテク

そして3つ目は、最初に「衝撃的な数字や事実を投げかける」というものです。TEDで英国のある有名シェフは、「これから私が話をする18分の間に4人の米国人が死にます。食べ物が原因で」と話し始めました。確かにこういわれたら、非常に大きなインパクトがあるでしょうし、誰もがどんな話が続くのだろうと興味を持つはずです。

ジャパネットたかた創業者の高田明さんは話が上手ですが、テレビショッピングで「ロボット掃除機ルンバ」を紹介した際の導入部分は見事でした。「ルンバは高いでしょう? でも、きょうは3万円を切りますから」と切り出します。その結果、ルンバは高額だから我が家には関係ないと思っていた人たちに、「えっ3万円切るの」と驚かせ、購買欲を刺激することに成功したのです。数字はインパクトが大きいので非常に有効なテクニックです。

4つ目は「マイストーリーで欠落を語る」ことです。不幸な生い立ちなど重い内容でもいいですし、日常生活での失敗エピソード、学生時代の部活や新入社員時代の失敗や後悔など、ちょっとした欠落でもマイストーリーになります。たとえば、ZOZO社長の前澤友作さんによる2010年の新卒採用セミナーでのスピーチがそうです。

前澤さんは自分の高校の入学式の話から始めました。制服は学ランで同級生はみな黒のローファーなどを履いているのに、自分だけが真っ赤なニューバランスのスニーカーを履いていて浮いたといいます。そして、それはいま振り返ると、社会に対する小さな反抗や抵抗の芽生えだったのではないかと述懐しつつ、その後の人生、会社設立に至る経緯へと結び付けていきました。これから社会に出る若者の心を掴む、巧みな導入だと思います。

最後の5つ目は、最初に「タイトルやテーマを語る」こと。「結論を述べる」と言い換えてもいいでしょう。名スピーカーとして知られるアップル共同設立者のスティーブ・ジョブズ氏はあるスピーチの冒頭で、「きょうは君たちに、私の人生から3つのストーリーを話します。たったそれだけ。大したことじゃない。3つのストーリーです」と述べています。たった3つという内容のアウトラインがわかるので、聞き手は安心して耳を傾けられるのです。

いかがでしょうか。いずれもさほど難しくないと思います。この5つは組み合わせて使っても効果的です。まず問いかけをしてから、マイストーリーを語るなどいろいろなパターンが可能です。スピーチを始めて聴衆が無反応だととても焦るものです。冒頭でうまく掴めると、そのあとは気分的に楽に話ができます。ぜひ5つのテクニックを活用してみてください。

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川上徹也
コピーライター
1985年、大阪大学人間科学部卒業後、大手広告代理店勤務を経て独立。2008年、湘南ストーリーブランディング研究所を設立。『あの演説はなぜ人を動かしたのか』など著書多数。

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(コピーライター 川上 徹也 文=野澤正毅 撮影=小倉和徳 写真=時事通信フォト、iStock.com)

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