ビジネス書は"終わり"から読み倒しなさい
プレジデントオンライン / 2019年2月7日 9時15分
■難しい内容は、すっ飛ばせばいい
あらゆる業種に欠かせないITと会計をはじめとする数字の知識。この分野に明るいビジネスパーソンは、市場価値も高く、現場でも重宝される。
『統計学が最強の学問である』
西内 啓 ダイヤモンド社
2位 会計の面白い部分だけをピックアップ
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』
山田真哉 光文社新書
3位 財務諸表の見方を体系的に理解できる
『増補改訂財務3 表一体理解法』
國貞克則 朝日新書
公認会計士の山田真哉さんも、「数字に関する情報は知らないと損してしまう」と、その重要性を強調する。
「たとえば、確定申告をすれば還付金が戻ってくる、自治体や公的機関に手続きをすれば助成金がもらえるなど、知らないと損する情報はたくさんあります。ただ、それらの情報、あるいはやり方自体は学校で教わるものではない。しかも、家計について人に話すことはなかなかありませんよね。お金は病気以上にプライベートに関わることなので、身内以外で気軽に相談できる相手はほとんどいない。そのため、お金やそれに関連する数字のセンスは読書を通じて学んでいくのが重要になってきます」
一方、ITについては、もう少し馴染みもあり、話題に上りやすいのかもしれない。しかし、それらがどういったもので、何ができるかをわからなければ、スタートラインにも立てない。やはり読書で基本的な情報を得ることが必要になる。
そうした目線で今回のランキングを眺めると、トップ10に入った書籍のほとんどが「入門書」だということが見て取れる。
「いずれも、その分野のWikipediaを見てもサッパリわからないなという人でも、わかるように易しく、噛み砕いて書かれている本ですね」と山田さん。ランキング上位から、順を追って見ていきたい。
まず、1位の『統計学が最強の学問である』。山田さん自身も統計学の知識を学ぼうと手に取った一冊だという。
「ほかの多くの統計学の本とは違って、数字を苦手とする人に敬遠されがちな『微分積分』の数式がほとんど出てこないから、一般の人でも親しみやすく感じるはずです」
書籍にある図表にしても、手書き風で柔らかな印象。後半はやや難解な内容も増えてくるが、怖気づくことはない。山田さんも、最後のほうは流し読みだったという。
「この手の本は、課題解決や情報を得るために読む場合が多いですよね。ですから、すべての内容が自分にとって必要とは限りません。何もクソ真面目に最初から最後まで読むのではなく、難しい部分は思い切って読み飛ばしてしまえばいいのです」
■会計から人間の本質が見えてくる
2位は、山田さんの著書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(2005年発売)。現在までに163万部という大ベストセラーの会計本だ。本書では、過去に簿記や経理をかじった経験があるか、取り組もうとしたが挫折した人をターゲットにしたそうだ。
「これより前に会計の本を2冊出していたのですが、さらにわかりやすく作ろうとしてできたのが、この『さおだけ屋~』でした。会計を学ぶための、本当に初歩の初歩としての位置づけの本ですね。会計のひとつの見方として面白い話だけをピックアップしているので、すべてを学ぶことはできません。今回、久しぶりに自分の本を読み返しましたが、巻末に索引をつけたり、会計用語集をつけたり、作り込んでいるな、と。手前味噌ですが、そうやって細部まで丁寧に作り込んだ本は読者にも伝わるものです。当時、今よりも暇で、ここまでやるだけの時間と余裕があったんでしょうね(笑)」
『さおだけ屋~』以降、会計本は続々出版されるようになる。07年に出版された、3位の『増補改訂財務3 表一体理解法』も、この分野では長く売れ続けている一冊。
「会計学について、体系的に学べる本ですね」と言う一方で、その間の橋渡しとしてオススメするのが5位の『マンガで入門! 会社の数字が面白いほどわかる本』だ。
「実は、『決算書を読みたい、理解できるようになりたい』という人には、漏れなくこの本をオススメしています。漫画のストーリー中に情報量も多く入っており、面白く学べる。ビジネスコミックの多くは、たとえば1章の漫画と2章の漫画の間に、文字による解説がたくさん詰め込まれていることが多いですが、この本にはそういうごまかしがない。用語解説にしても、ストーリーに沿って、漫画と同じページに書いてあるので理解しながら読み進めることができる。会計のビジネスコミックとしてパーフェクトです」
4位の『稲盛和夫の実学』は、会計を扱いながらも、道徳を学べる本だ。
「私が会計士になったばかりの、23、24歳の頃に読んで衝撃を受けた本です。というのも、教科書や試験勉強で学んだことは、一切載っていなかった。実務や現場で直面する会計のグレーな部分について、どのように判断すべきかを、道徳の話と結びつけながら書かれている。会計を学びながらも、人間として何が正しいのかというところまで考えさせられる。そういった現場感を大切にする姿勢は、今でも役立っています。稲盛さんの本は様々読みましたが、これが一番道徳的な本だと思います」
『稲盛和夫の実学』
稲盛和夫 日経ビジネス人文庫
5位 決算書を読みたい!という方へ
『マンガで入門! 会社の数字が面白いほどわかる本』
森岡 寛、渡邊治四 ダイヤモンド社
6位 人工知能の第一人者による入門書
『人工知能は人間を超えるか』
松尾 豊 角川EPUB選書
7位 読むだけで使えるエクセル技が満載
『Excel 最強の教科書』
藤井直弥、大山啓介 SBクリエイティブ
8位 演習問題付き! 解いて身につく
『はじめての統計学』
鳥居泰彦 日本経済新聞社
9位 どの力を高めればいいかが見える
『人工知能を超える人間の強みとは』
奈良 潤 技術評論社
10位 ITとビジネスを「橋わたし」する
『ビジネススクールで教えている武器としてのITスキル』
グロービス経営大学院 東洋経済新報社
■ビジネス書は、終わりから読む
数字に強くなると同時に身につけたいのが、AI(人工知能)をはじめとしたITに関する知識だ。ランキングトップ10には、6位『人工知能は人間を超えるか』、7位『Excel 最強の教科書』などの4冊が並んだ。
「ITの導入が最も早いのが会計部門だといわれます。そもそも、デファクトスタンダード(事実上の標準)であるパソコンを開発したIBMは、1920年代から会計ソフトを販売しているなど、この分野の親和性は高いです。実際に、会計分野ではAIの導入も進んでいます。おそらく、車の自動運転よりも早いうちに、AIによる決算書作成ができるのではないでしょうか」
山田さんは、「最新テクノロジーの全体像を把握することで、今後どのスキルを高めるべきかが明確になる」と話す。
「前出の『統計学が最強の学問である』にも、ビッグデータは統計学の知識がないと使いこなせないといった内容があります。同じデータであっても、使い手のセンスや能力によって出力されるものが変わってくるということ。どうしても仕事に直結する分野の本から手に取りがちですが、ITは優先して学んで損がない分野だといえます」
たとえば銀行では、フィンテックの進展により定型的な事務作業をはじめ、営業現場においても提案資料の作成に用いるなどして、仕事量が軽減される。
その分のリソースが、戦略、企画などのアウトプットに差が出る領域に注ぎ込まれることになる。まさに9位の『人工知能を超える人間の強みとは』のタイトルにある通りに、AIやフィンテックを学ぶことで逆に何を人間の強みとするか、今後消える職種は何か、残る職種は何かが浮き彫りになってくるのだ。ちなみに本書ではAIが持つ能力と思考法の種類は人間よりも少ないとして、人間の強みとしての「直感」について多く取り上げている。
最後に、山田さんがどんなふうに読書しているかを聞いた。
「ビジネス書を読む場合は、終わりのほうから読みはじめますね。後半に書かれた内容を読むことで、本のゴールがわかる。そうすると、前半部分にどんなことが書かれているかの見当がつく。ビジネス書の著者視点から見ると、冒頭と最後に面白いものやキャッチーなものを持ってくるので、後半部分を読んでイマイチだったら『推して知るべし』ですね」
1.『帳簿の世界史』
ジェイコブ・ソール文春文庫
2.『サクッと起業してサクッと売却する』
正田 圭 CCCメディアハウス
3.『マンガ日本経済入門』
石ノ森章太郎 日本経済新聞社
(1)は世界史の大事件と絡めて会計を学べると推薦。30歳前後の今どきの経営者の考え方に触れられる(2)もオススメだという。
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公認会計士・税理士
大阪大学文学部卒業後、東進ハイスクール、中央青山監査法人/プライスウォーターハウス・クーパースを経て、独立。一般財団法人 芸能文化会計財団理事長。著書に『女子大生会計士の事件簿』など。
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(ライター 吉田 彩乃 撮影=石橋素幸、市来朋久)
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