尾畠春夫さん年金月5.5万の家計簿公開
プレジデントオンライン / 2019年2月10日 11時15分
※本稿は、「プレジデント」(2018年11月12日号)の掲載記事を再編集したものです。
■【スーパーボランティア】
自営の魚屋を畳んだ尾畠春夫さん。「月5万5000円の年金収入」を頼りに被災地へ
■宿泊は車の中、食事は「雑草」をむしって食べる
2018年8月、山口県周防大島町で2歳男児が行方不明となっていた事件。警察や周囲が男児の生存を諦めかけていた中“スーパーボランティア”尾畠春夫さんがその男児を山から見つけ出した。
ヒーローとなった尾畠さんにはマスコミが殺到。国民も尾畠さんに引き寄せられた。災害があれば、どこにでも駆けつける。中越地震、東日本大震災、熊本地震……。被災者にボランティアを続けながら、当の本人は月5万5000円の年金だけで生活している。
そんな仏のような尾畠さんだが、実際にそれだけのお金で、どうやってボランティアを続けながら暮らしていけるのだろうか。18年8月、尾畠さんが土砂の撤去作業をしていた西日本豪雨の被災地、広島県呉市に行き、休憩中の尾畠さんにどうやって生きているのかを聞いた。
そもそも、尾畠さんはなぜ、ボランティアを始めたのだろうか。そのきっかけは四国のお遍路だったそうだ。
「私はよく旅をしました。日本を横断したり、九州を一周したり。そんな中で四国のお遍路道も歩きました。そこで受けた“お接待”が忘れられなかったのです」
お接待とは四国の住人がお遍路さんを支援する昔ながらの四国の風習。寝床や食べ物を無償で提供するなど、善意によるおもてなしだ。
「お遍路中、知らない人からスポーツドリンクにお菓子、現金をもらった。親切にしてくれた人にあとでお礼をしたいので、電話番号や住所を聞いても『お遍路さん、ここでは何かものをあげたからって恩には着せない。もらったからって恩には着なくていい』と言われました」
その無償の精神に感銘を受けた尾畠さんは、体が健康で、車の運転ができる限りは、被災地に行ってボランティアをしていこうと決意したという。
「職業はいろいろ経験しましたが、最終的には小さいころからの夢だった鮮魚店を大分県で営んでいました。その店を畳んだのは65歳くらいのとき。それからは、ボランティアばかりの生活になりました」
さて、尾畠さんの収入は2カ月に1度もらえる11万円の年金がベースとなっている。たまに、ご近所さんの庭の木を剪定するなどして、数千円もらうこともあるそうだが、それ以外の収入はなく、貯金もない。これで本当に生活できるのか。
「まず、大分に持ち家があるので住居費はかかりません。鮮魚店を畳むとき、その物件を売ったお金で今の家を買ったのです。ボランティアで家を離れているときも基本的に軽自動車の中で寝泊まりするので、宿代はかかりません。家にいることも少ないですし、光熱費も最低限という値段でしょうか。外で火をおこして菜っ葉を茹でることもあります」
それでもライフワークであるボランティア活動をするためには何かとお金がかかるだろう。
「ガソリン代はたしかにかかります。例えば今回の広島・呉であれば往復で1万円くらいです。高速道路は基本的には使いませんが、災害から何日かすると、手続きさえすれば無料で使えるようになることもある。そういうときは利用させてもらっています」
食事はどうしているのか。
「基本的にはパックご飯やインスタント麺を大分県でまとめ買いしています。あとはアメも常備し、ボランティア中に住民の方や他の作業員に渡しています。山口県で発見した男の子にもあげましたよ」
しかし車中泊が続けば、ストレスもたまるだろう。たまには、酒でも飲みたくなるのではないか。
「酒は“とめて”います。私はもともと大酒飲みでした。飲むというか、浴びていましたね。なんぼ飲んでも酔っ払わないのですよ。ただ、東日本大震災で我慢しながら仮設住宅に住む人たちを目の当たりにして、酒を我慢することにしました。仮設住宅の人が全員外に出るその日まで、酒は飲まないと決めています」
タバコも、昔は1日2箱も吸っていたというが、やめた。
「魚屋を畳むとき、孫に言われたのです。『これからもっと体力が落ちていくのだから、タバコやめなよ』って。孫が自分の体を心配してくれたことが嬉しくて、その場で持っていたタバコを全部燃やした。それ以降は1本も吸っていません」
そのかいがあってか、ここ10年ほど病院に行くような病気は患っていないそうだ。だがいくら節制をしても、生きていく以上は、税金などはかかってくる。
「固定資産税やNHKの支払いがある月は意識して食費を削っています。削るといっても、ただしばらく食べないだけです。あと普段からですが、雑草などを食べることもあります」
実際、取材していた日も、尾畠さんは車を停めていた小学校の校庭にはえていた雑草(クローバー)をむしって食べていた。ちなみに翌日の昼休みは、地域住民の人が広島風のお好み焼きを差し入れしてくれて「うんまい……本当にありがとう」と涙を流しながら、おいしそうに頬張っていた。
そのほか、携帯電話は持っていない。理由は単純に「お金がかかるから」。しかし地元紙の大分合同新聞は毎月購読しているそうだ。
尾畠さんの人生観に感銘を受けた人も多いだろう。この生活ができればあなたも尾畠さんに近づける?
(プレジデント編集部 撮影=深作光輝ヘスス、プレジデント編集部)
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