1枚8800円のパンツが爆発的に売れたワケ
プレジデントオンライン / 2019年1月29日 9時15分
※本稿は、野木志郎『日本の小さなパンツ屋が世界の一流に愛される理由(ワケ)』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■華々しくデビューを飾った「甲冑パンツ」
はじましての人もそうでない人も、まいどです。野木志郎と申します。
東京は渋谷でログインという小さな「パンツ屋」をやっております。
我が社が「SIDO(志道)」というブランドで展開する「包帯パンツ」はありがたいことに、私が憧れるロバート・デ・ニーロさんや、ビリー・ジョエルさん、セレブが通う人気和食レストラン「NOBU」のオーナーシェフ、NOBU(松久信幸)さんなど、世界中の著名人やセレブの方々に気に入ってもらっています。
「包帯パンツ」が何なのか気になる方は、前回の記事お読みになっていただけると幸いです。
今回は、我が社・ログインが存続するか、しないかの岐路、ターニングポイントとなった出来事についてお話したいと思います。それは約10年前のことでした――。
2008年11月6日、原宿の東郷神社で行った展示会「包帯の陣」。私はここで、甲冑パンツを大々的に発表しました。
甲冑パンツとは包帯パンツの一種で、表面にさまざまな武将の甲冑をイメージした絵柄がプリントされている商品です。
なぜ甲冑なのかと言えば、前回の記事でもご紹介したように、2002年のサッカー・ワールドカップで感動した私が、「日本代表選手たちには“大和魂”をまとってもらいたい」という気持ちをずっと持っていたからです。
甲冑パンツのアイデア自体は2005年頃にはありました。渋谷の書店で甲冑の本を見つけて ラフスケッチを描いたのです。ただ、甲冑の絵を生地にプリントする技術のハードルが高く、ほぼ諦めた状態で長らく放置していました。
■流行プリントパンツにムカついて!
2007年創業当初のログインは、業績的にはかなりやばい状況でした。包帯パンツは2007 年の11月にユナイテッドアローズで新発売、2008年の1月には伊勢丹でも発売を開始しましたが、ユナイテッドアローズには初回900枚のオーダーをもらったのみ。伊勢丹では1週間で5枚程度の販売実績。当時私を含めて社員は3人いましたが、とてもやっていける状況ではありませんでした。
一番苦しい時期だったと言っていいでしょう。
その時、私はふと、2006年の大晦日のことを思い出しました。皆さん覚えているでしょうか? 紅白歌合戦に出場したDJ.OZUMAのバックダンサー(女性)たちが全裸に見間違えるボディスーツを身にまとい、DJ.OZUMA自身も破廉恥(はれんち)なパンツ姿になって話題(問題)になったことを。
それを機に、裏原宿で冗談みたいな柄のプリントパンツがばんばん売られるようになっていたのです。私はそれを見て、無性にムカついていました(笑)。
「俺やったらそんなパンツやなくて、武将のパンツや!」と。
そこで引っ張り出してきたのが、かつてスケッチしたままで放っておいた、甲冑パンツです。
さっそくデザイナーにスケッチを渡したところ、「イケるんじゃないですか?」と。
■「シルクスクリーンの仙人」との出会い
課題は一度断念しかけていた包帯素材へのシルクスクリーン印刷。包帯は通気性が高いメッシュ調。普通にプリントすると裏まで抜けてしまう。この技術の改良に本当に時間がかかりました。まずプリントできる工場がない。あっちこっちに問い合わせをして工場見学に行き、交渉しました。
そんなある日、岐阜に在住の「シルクスクリーンの仙人」と呼ばれている方(マンガのような話ですが、本当です)にたどり着いたのです。そしてテスト印刷をしてみたら大成功!! こうして甲冑パンツは完成しました。
では、この魂のこもった商品をどうやって世に出すか? それで思いついたのが、東郷神社です。
きっかけは、ユナイテッドアローズの重松理社長(現在は名誉会長)に会いに行った帰り道。原宿を歩いていて東郷神社の前を通りかかった時、ふと思ったのです。
「あ、ここでやろう」
深い考えはありません。和風のデザインだから、神社。その程度です(笑)。
さっそく、イメージを膨らまし展示会風景のイラストを描き、東郷神社にプレゼンに行きました。
しかし、当初先方の総務部長さんは困り顔。「ファッション関係の企画は通った試しがないんです、山本寛斎さんの企画ですらお断りしているので、99.99%無理です」
![](https://president.jp/mwimgs/0/2/-/img_0277f576793acaa95c9ae86615a6cd11707695.jpg)
■なけなしのお金をはたいた「ド派手なイベント」
しかし私の熱意が通じたのか、総務部長さんがカラーで作った企画書をあえて白黒コピーにすることで「ド派手な下着の企画」のイメージを地味に仕立て、検討の俎上に載せてくれました。
すると、なんとその日の夕方に「企画が通りました。宮司が面白い、やってみなさいと言っています」との連絡が! もしかすると軍人だった東郷平八郎元帥を祀(まつ)っているだけに、「甲冑」と相性が良かったのかもしれません。総務部長さんの機転にも感謝です!
そこから半年の間、私は必死に準備しました。
たくさんのデザインパターンを用意してアイテム数を揃え、『七人の侍』風の発表会用の曲をこのためだけに作曲してもらい、凝った照明を手配し、世界的ソロ和太鼓奏者の林田ひろゆきさんに当日の和太鼓パフォーマンスもお願いしました。当然、お金はめちゃくちゃかかります。
実は私はログインの創業資金として、銀行から借りられるだけのお金をめいっぱい借りていたのですが、そのなけなしのお金の大半を突っ込んでしまいました。
創業資金をド派手なイベントにつぎ込むなんて、正気の沙汰ではありません。博打(ばくち)もいいところ。でも、私はどうしてもやりたかった。やるべきだと思ったのです。
■迷ったら、やる
結果から言うと、展示会は大成功でした。展示会中にたまたま通りかかったWEBニュースサイトの記者の方が興味を持ち、10ページくらいの記事にしてくれて、それがきっかけとなり、『笑っていいとも!』や『はなまるマーケット』などのTV番組からも取材依頼がきました。
甲冑パンツは8800円(税抜き)もする高価な商品ですが、発売後1年間で1万6000枚くらい売れました。それで会社はなんとか息を吹き返したのです。
私が常に思っているのは、「迷ったら、やる」です。
「すごくお金がかかるなあ」「これって、やる意味あるのかな?」
ビジネスには常にこのような懸念材料がつきまといます。だけど、「どうしようか迷っているということは、やりたい気持ちが少なくとも50%はある。それならやってみんかい!」と、私は自分に言い聞かせています。
なぜなら、本当にやるべきではない時は、考えるまでもなく一切迷わないから。これは直感に従うこととも似ているのですが、結局のところ、「やりたい」と思っている時は無意識のうちに好材料を探していますし、「やらないでおこう」と思っている時は悪い材料を探しているのです。
![](https://president.jp/mwimgs/7/b/-/img_7bbad653e06f3218af1711adf8eac9ae1064799.jpg)
■魂は燃えているか?
つまり、材料の良し悪しでやる・やらないを決めるのではありません。「私の魂がやりたがっているか・やりたがっていないか」が、すべてにおいて先行するということです。これ、全然ロジカルではないですよね。経営者としてほんまにそれでええんかという声も聞こえてきそうです。
でも、どんなビジネスであっても「自分の魂が燃えているか、燃えていないか」が、その成否を決める鍵だと思うのです。すなわち、燃えている=やりたがっている、燃えていない=やりたがっていない。
最初から魂が燃えないのは論外ですが、「かつては燃えていたのに、今は鎮火しそうになっている」こともありますよね。要は、魂が「冷めてきた」状態です。そんな時、そのビジネスを今後も続けるかどうかは、「もう一回、火勢を取り戻せそうか」にかかっています。
![](https://president.jp/mwimgs/d/9/-/img_d9ed2fd7ff1dee465653046ead048ea4359724.jpg)
私は、すでに消えてしまっている火を、改めて点火する必要はないと思っています。
なぜなら、本物の火と同じで、少しでも火が残っていれば、再び強い火勢に戻せる可能性はありますが、一旦完全に消えてしまった火をもう一度おこすのは、すごく大変だから。
火は、消すのは簡単。つけるのが一番むずかしい。だから、一旦火がついたのなら、それはとことん大きな火にすべきだと思います。
私のビジネス判断の基本ルールを極限まで突き詰めてみると、たぶんこんなんです。単純すぎますか?
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ログイン 代表取締役社長
1960年、大阪府高槻市生まれ。立命館大学法学部法学科卒業。87年株式会社千趣会入社。新商品、新規事業を中心に担当する。2002年に父親の会社「ユニオン野木」へ。その後「包帯パンツ」を開発し、06年にログイン株式会社を設立して独立する。包帯パンツは19年1月現在、世界で130万枚を売上げ、世界的なシェフ・松久信幸(NOBU)氏やロバート・デ・ニーロ氏など、国内外の著名人にも多くのファンを持つ。
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(ログイン 代表取締役社長 野木 志郎)
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