雑談下手が生まれ変わる「5S」の相槌

プレジデントオンライン / 2019年3月8日 9時15分

写真=iStock.com/stockstudioX

「何か話をしないといけない」──。そう焦れば焦るほど、気の利いた話題が見つからないもの。そんなときのベストな解決法を、場をつなぐ3人の達人たちが伝授する。

■話が途切れるのがつらい人、沈黙が耐えられない人に贈る

「話の間にまつわるしくじりのことを、落語の世界では『間抜け』と呼びます。落語は『会話を継続させて最終的にストーリーを完成させてきた芸能』であるわけですが、ビジネスパーソンにとっても『会話の継続力』は重要でしょう。それなのに、なぜ間が持たないのか? それは相手との“距離”を縮めるための事前準備が足りないから。まず、相手を知る。そして、相手と自分との間の共通の関心事や話題が何かを考える。そうやって探し当てた『共通言語』をきっかけにお互いの気持ちが通じ合い、話が進んでいくのです」

こう語るのは、慶應義塾大学卒の初めての真打ちとなった落語家の立川談慶さんである。

談慶さんが弟子として入門したのは立川談志師匠。その落語の世界において、笑福亭鶴瓶師匠をはじめ名人といわれる落語の師匠は、地方で落語会があると早めに現地に入る。そして、その土地の特徴や話題になっていることなどを探り、それをネタにお客さまの心をわし掴みにしたうえで、自分の落語へ一気に引き込んでいく。

「段取り八分、仕事二分」という言葉があるが、普段の会話においても事前準備の重要性は同じ。準備が万全であれば、心の余裕も生まれて、「何を話そうか」と焦ることもなくなる。

■会話の断絶イコール人間関係途絶の恐怖

なぜ人は話の間が持たないことを恐れるのだろう。その疑問に明快な答えを示してくれるのが、著書の『誰とでも15分以上 会話がとぎれない!話し方』のシリーズが累計110万部超のベストセラーとなった野口敏さんだ。

「間が持たない、会話が続かないことによって、相手の方との人間関係が途切れてしまうことへの“恐怖感”が背景に存在するからです。本来、会話はその人の想像力から生まれてくるもの。しかし、表面的な言葉だけを聞いて何とかしようとしても、『そうですか』としかいえません。次第に『相手に嫌われるのでは』という恐怖感から緊張が高まり、ますます想像力がしぼむ悪循環に陥ってしまうのです」

その創造力を活用しながら会話を進めていくことを野口さんは「映像コミュニケーション」と呼んでいる。相手の話からだけではなく、自分が「したこと」「思ったこと」「話したこと」などから話題を探してもいい。具体的にそれらのシーンを思い浮かべてみると、その映像には言葉で表現する以上に情報が多く含まれており、そのなかから自分が一番印象深いものを話題にしたらいいのだ。

「今朝、会社に来るまでに見たことや思ったことでも構いません。電車が混んでいた。寒くなったのに、まだワイシャツ姿で出勤する人がいた。話のネタは尽きないでしょう。重要なポイントは、そうした事実に自分の感情を添えることです。人間は感情の生き物であり、相手の感情に触れると親しみが湧き、話が弾むようになってきます」

そのように野口さんにいわれると、場をつなぐことがそう難しいことではないことがわかり、「相手に嫌われたらどうしよう」などという恐怖感にさいなまれることも解消される。

■感情の「5S」で相手に話をさせる

場をつないでいくには、自分が一生懸命に話すだけではなく、相手に気持ちよく話をしてもらう方法だってある。むしろ、そのほうが自分で話題を探すよりも楽かもしれない。そのときに重要なのがリアクションで、司会者で話し方のセミナー講師も務める村松加王里さんは「5S」の感情を込めることの重要性を指摘する。

「5Sは、驚き(Surprise)、茶化し(Spoof)、残念(Sorry)、疑念(Suspect)、共感(Sympathy)から成ります。『そうですか』という単純な相槌ではなく、驚きの感情を込めて『へぇー、そうなんですか』といったり、ちょっと疑念の気持ちを指し挟んで『本当にそんなことがあるんですか?』とリアクションすると、相手は『実はね……』とか『ありますよ。たとえば、こんなことも……』などといいながら話を深掘りするようになるものなのです」

その繰り返しをしていくことで、相手は自己肯定感を強く持ち始め、「この人は自分のことを理解してくれている」と思うようになる。結果、今度はこちらの話にも耳を傾けてくれるようになり、話が一段と弾んでいくわけだ。

談慶さんにいわせると、「場をつないでいくコツは、いかに自分が会話の主導権を握るか」にかかっている。確かに共通言語探しにしても、映像コミュニケーションにしても、5Sにしても、主体的に自分の側から仕掛け、話の主導権を取っている。それでは具体的なシーンにおける場のつなぎ方を、3人の達人に教えてもらおう。

■【会議の場】上司の詰問に対しては現状報告を逆提案

ある上司と部下の会話をご覧ください。「まず、『なぜ』という上司の方の言葉が気になりますね。『なぜ』や『どうして』の裏には“叱責”の気持ちが存在し、会話を止めてしまう言葉です。このようにいわれたら、頭のなかが真っ白になって、営業現場の映像なんか思い浮かべられず、映像コミュニケーションを活用することができません」と野口さんは指摘する。

そもそも、この会議の目的は営業現場の現状を把握し、収益をアップすること。読者のあなたが上司の立場であるのなら、「なぜ」や「どうして」という言葉を安易に使わないように注意しよう。

しかし、1度口から発せられた言葉は、決して元には戻らない。部下の立場であったら、どう切り返すべきか。

野口さんは、「問題点としていろいろなことが考えられますが、まだ整理し切れていません。これまでのA社に対する営業活動の経緯をご説明します。まずお聞きください」と、肚をくくって“逆提案”することを勧める。そうすれば上司も本来の目的に立ち戻り、「わかった、では話してみなさい」といって、一緒に問題点を考えてくれるはずだ。

談慶さんも「こういった手順を踏みながら営業してきました。あと、惜しむらくはこのポイントだけだと思います。私の立場なら、どうするかお知恵を拝借できませんでしょうか」といって、場をつなぐようにアドバイスする。「一生懸命に取り組んでいる部下や弟子から甘えられて、拒絶反応を示す上司や師匠はいません」と談慶さん。

■【移動中のタクシーのなか】「ねぎらいの言葉」で沈黙もOKに

社長のお供で顧客のところへタクシーで向かっている。当日の予定の確認をしたら、後は話すことが何もない。次第に、車内に重苦しい雰囲気が漂い始めた……。

そんなときに村松さんがお勧めするのが、「B社との成約があと一息のところまできています。プッシュをお願いできませんでしょうか」などと、サポートやアドバイスを請うこと。具体的な仕事の話なら、役員は耳を貸してくれるというわけだ。

その一方で談慶さんは役員の経歴チェックという事前準備をもとに、たとえば「私の上司のB課長は新入社員のときに、役員の後輩だったそうですね。どんな感じだったのでしょうか」と尋ねてみることを提案する。

そこで指導で苦労した話を聞かされたら、「いまは私をしっかり導いてくださっていますが、役員のご指導があったからこそですね」と“よいしょ”すれば、気持ちよくなった役員は苦労話に花を咲かせ始める。そうやって上役の苦労話や愚痴を引き出せるようになると、「可愛いやつ」と思われ、距離が縮まる。

また、「ねぎらいの言葉」の活用を紹介するのが野口さんである。「お疲れではございませんか」「お考えになっていることがたくさんおありではないでしょうか」と一声かけるだけで、「あなたのことを思って黙っています」という気持ちが相手に通じるようになるのだという。口数の多いタクシー運転手に当たって、うんざりしたことがないだろうか。時には沈黙も是なのである。

■【接待の場で】相手を持ち上げる「くすぐり」のコツ

関心のない人はゴルフのことをほとんど知らない。「100を切ってね」といわれても、ちんぷんかんぷん。でも、それでは相手は興ざめで、せっかく設けた接待の場の意味がなくなる。

「でも、ゴルフ好きは“教えたがりやさん”ということくらいは知っているでしょう。そんなときは『上達のコツは何ですか? テクニック、それともパワーでしょうか?』と振れば、相手の方は堰を切ったように話し始めますよ」と談慶さんは太鼓判を押す。

そして、「100を切られたのですか。それはとても嬉しいことでしょうね」と話して、相手の方の気持ちを引き出そうとするのが野口さんである。相手は「ゴルフを始めてから、ここまでくるのに3年もかかってね」などと、喜んで話をしてくれるようになる。

ただし、ゴルフの話に深入りされると、次第に辛くなってくる。そこで野口さんは、「ところで、奥さんはゴルフについてどう思っていらっしゃるのですか」と質問を挟んで、奥さんの話題にシフトするような工夫を勧める。それなら、日頃感じている奥さんに対する鬱憤など、お互いの身の上話で盛り上がるだろう。

また、村松さんが「通われているゴルフ練習場の近くにおいしいレストランがありますね」という切り返しを勧めるのも、野口さんと同じ狙いから。料理やお酒の話題に振れば、好物などで共通点を見つけられる可能性が高く、お互いに親近感を高めながら話を続けることができるようになる。

■【エレベーターのなか】常に下手に回って相手に話をさせる

同期のなかで、営業成績トップで走り続けてきた自分。しかし、最近同期のCが激しく追い上げてきており、「いつか抜かれてしまうのではないか」などと、気になって仕方がない。そんなCとたまたまエレベーターで出くわした。それも乗っているのは自分とCの2人だけ。何か気の利いた言葉をかけたいのだが、なかなか出てこない……。

こんなシーンに対する回答について、3人の達人は「相手を褒めることと、教えを請うことです」と口を揃える。村松さんは「たとえば、『最近すごいよね。どうやって成績をあげたの? ぜひ教えてほしいな』といえば、相手は決して悪い気がしないもの。『そこまでいうのなら』という気持ちになって、ヒントを話し始めることが十分に期待できます」という。

「結局のところ出世する人たちの共通点は、『実る稲田は頭垂る』といわれるように、常に謙虚で下手に回っていることなのです。この場合、私なら『調子がいいようだね。将来の社長候補じゃないか。今度、営業の秘訣を教えてもらえたら嬉しいんだけれども』と話すでしょう。実際にCさんが社長になったら、自分の立場のリスクヘッジにもなりますしね(笑)」と野口さんはいう。

ちなみに談慶さんは談志師匠から、「嫉妬は自分と他人の差を悪口や妬みで埋める行為だ」と教わったそうだ。そうした悪口や妬みの言葉を聞いたら、相手は嫌な気持ちになる。ましてや自分の品位も損なうことになるわけで、厳に口を慎みたいものである。

■【帰宅後の食卓】相手の心に一歩踏み込んでねぎらおう

夫婦連れ添って、20年、30年と経っていくと、日常生活が次第にマンネリ化して、会話を交わすことも少なくなってくる。気を利かせたつもりで、食卓を囲みながら「きょうの料理、おいしいね」と夫がいったところで、妻は「そう……」とつれない返事。後は、お互いに黙々と食事を摂ることに。

そこで妻の立場から助言するのが村松さんで、「ただ単に『おいしい』といっただけでは気持ちが伝わりません。おいしいのなら、もっと具体的に表現したほうがいいでしょう。この場合ですと、『この里芋の煮物はボクの口に合って、とてもおいしいよ』といったように」と話す。

もう一歩、相手の心に踏み込んで話しかけることを勧めるのが野口さんである。

「1年・365日、奥さんは飽きがこないように献立を考えています。それを何十年と続けてきたのは、大変なこと。その苦労を推し量って、『毎日、献立を考えるって、面倒くさいでしょう。本当にありがとう』っていえば、『この人は私のことを理解してくれている』と思ってもらえます。そうやって心が通じ合うことを、私は『溶け合う』と呼んでいます」

最後に談慶さんが、夫婦の間の沈黙を逆手に取る“裏ワザ”を教えてくれた。「ぶっちゃけて『夫婦っていいよな。黙っていても意思疎通できるんだからさ。会社じゃあ、こうはいかないよ』といってしまいます。『馬鹿なことをいっているんじゃないわよ。でも、あなたも大変ね』と労ってくれて、和やかな雰囲気になるはずですよ」という。

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立川談慶
落語立川流真打ち。91年、立川談志18番目の弟子として入門。2000年に二つ目、05年に真打ちに。数多くの独演会を行う。『大事なことはすべて立川談志に教わった』『慶応卒の落語家が教える「また会いたい」と思わせる気づかい』など著書多数。
 

野口 敏
グッドコミュニケーション代表取締役
1959年生まれ。関西大学卒業後、きもの専門店に入社。1万人以上の女性のお客さまに接し、心を掴む話し方に開眼。コミュニケーションスクール「TALK&トーク話し方教室」を主宰。
 

村松加王里
司会・スピーチコーディネーター
静岡県出身。静岡第一テレビにて朝番組を担当。その後、NHKや各民放のレポーターに。「話し方と伝え方」セミナーの講師としても定評がある。著書に『しゃべらない会話術。』など。
 

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(プレジデント編集部 伊藤 博之 写真=iStock.com 撮影=熊谷武二、南雲一男)

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