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入居者の昼食でバレる老人ホームの満足度

プレジデントオンライン / 2019年2月19日 9時15分

写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

不動産を「負の遺産」ではなく「優良な資産」にするためには、どうすればいいのか。専門家に話を聞いた。第3回は「老後の暮らし編」――。(全4回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年12月3日号)の掲載記事を再編集したものです。

■有料老人ホームだからサービスが手厚いわけではない

高齢者施設には、さまざまなものがあり、費用もまちまちだ。介護福祉ジャーナリストの田中元さんは、「一口に高齢者施設といっても、制度的にはかなり幅があります」と語る。今回は、まだ介護が必要ないことを前提に高齢期の住まいとしての施設を考えるので、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(以下、「サ高住」)、シニア向けマンションなどを対象に検討してみよう。いずれも身の回りのことは自分でできる自立した高齢者向けの住まいだ。

介護・暮らしジャーナリストでNPO法人パオッコ~離れて暮らす親のケアを考える会~理事長の太田差惠子さんは「高齢者施設の区分けは難しくてわかりにくい。有料老人ホームだからサービスが手厚いわけでも、サ高住だからサービスが手薄なわけでもありません。実際に入居先を検討するときは種類からではなく、そこで何をしてくれるかをもとに考えましょう」とアドバイスする。

まずはどんな分類があるか見てみよう。

有料老人ホームは、老人福祉法に基づく施設である。その定義は「おおむね60歳以上の高齢者を1人でも入居させ、食事、介護、家事、健康管理のサービスのどれか1つでも提供していること」。この条件に当てはまる施設は、ごく小さい規模であっても有料老人ホームとみなされ、事業者は都道府県に届け出なければならない。事業者は社会福祉法人から株式会社までさまざまだ。

これに対して、サ高住は高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づく施設。国が定めた基準をクリアしている高齢者向けの賃貸物件だ。施設内がバリアフリーで、安否確認、生活相談サービスを提供していることなどが求められる。

一方、シニア向けマンションには特に規定はなく、基本的には一般の分譲マンションと変わらない。バリアフリーに配慮されている、レストランやプールなど共有施設が充実している、管理者が常駐して入居者の生活相談を受けるなど高齢者が暮らしやすくなるサービスの提供をアピールして、各社が競い合っている。

■一時金ゼロなら、月額利用料が高い

高齢者施設に入居する際の契約形態や利用料の支払い方式は、施設によって違う。有料老人ホームの多くは「利用権方式」契約で、入居時にまず一時金(前払い金)を支払い、終身にわたり居室と共用施設を利用する権利と介護や生活支援サービスを受ける権利が保障される。サ高住では、住宅部分は「賃貸借方式」で契約を結び、さらに別に「サービス利用契約」を結ぶ。シニア向けマンションは、不動産売買契約を行い、入居者は「所有権」を持つ。

有料老人ホームの利用権は、所有権とも不動産の賃借権とも異なることに注意が必要だ。たとえば何らかのトラブルが発生した場合、施設側から契約解除を告げられ退去しなければならない場合もある。また、入居中に事業主体が変わったら契約内容は必ずしも継承されないし、利用権は譲渡や相続、転売ができない。

その点、サ高住は賃貸借なので、一般の賃貸住宅と同じく借地借家法で入居者の権利が守られているから、事業者側の都合で退去させられることはないし、経営者が変わっても契約は継承される。シニア向けマンションは、所有権を持っているから、転売も相続も可能。

有料老人ホームの場合、かかるお金は、入居一時金(前払い金)と毎月の利用料(居住費)、それに食費と日常生活費の実費部分だ。介護が必要になった場合は、これに介護費が加わる。太田さんによれば「入居一時金は、数百万円から数千万円まで開きがあります。契約の際には、入居一時金のうち初期償却が何%で、償却期間が何年になっているのか、途中で退去したらどのくらい戻ってくるのか、こないのかなどを確認しましょう」。

見逃せないのが、有料老人ホームには事業者の倒産リスクもあるということだ。「一時金の未償却部分の保全といった消費者保護の仕組みはありますが、入居者には利用権しかないから相続・転売ができない。トラブルを避けるため、事前に事業者の財務諸表を確認しておくことをおすすめします」(田中さん)。

一時金の返金トラブルが相次いだことから「一時金ゼロ」という施設も増えているが、その分、月払い部分は高額化している。最近では、「一部前払い・一部月払い方式」のバランスを変えたコースがいくつか用意されていて、そのなかから選べる施設が増えている。

■介護付き有料老人ホームでも80~90%は日中のみ

料金メニューを見ると高い施設から安い施設までさまざま。金額を左右するのは「場所の利便性とサービスの内容」(太田さん)だ。

「一般的な施設で一時金がゼロなら、毎月の利用料は25万円以上。本人が元気でサービスが不要なら、月々20万~60万円の間くらいと見てください」と太田さん。良質なサービスを保つには手厚い人員配置が必要で、その分だけコストがかさむ。

「特に看護師が24時間常駐だと料金が高くなります。老人ホームというからには看護師が常駐しているのだろうと思い込んでいる方が多いのですが、実際には介護付き有料老人ホームでも、80~90%の施設が日中のみの在勤です。もちろん、看護師がいる時間が長いほど、料金は高くなります」(太田さん)

入居者へのサービスには食事の提供も含まれる。施設内の食堂で食事をとり、その分は実費で払うのが一般的だが、人によってはそこでストレスを感じる場合がある。「富裕層の人たちが入居している施設だと、食事の好みが庶民とはかけ離れているとか、食堂へ行くにもおしゃれが欠かせないということがあるようです。そこへ一般の人が紛れ込んだら、落ち着かないですよね」(太田さん)。

プラスαのサービスとして田中さんと太田さんがともに注目するのは、施設に「療養室(退院後の看護ルーム)」があるかどうか。

「今は入院期間が短めになっていますから、仮に病院で手術をしても退院するのが早い。でも、退院直後から1人で暮らすのは無理があるというときに、施設内に独立した療養室があり、看護師が様子を見に来てくれたり、薬の管理のサポートをしてくれたり退院後のケアをしてくれると安心です」(太田さん)

仕事の打ち合わせが必要な人や、金融機関の担当者が訪ねてくるような人には、施設内に打ち合わせスペースがあると便利だろう。スポーツクラブやシアタールーム、図書室、お茶室などが付いている施設もある。これらは必要か、ただの贅沢か。

「設備が充実していれば当然、料金も高めになります。しかし足腰が弱れば、趣味のために外出するのも億劫になります。そういうとき、こうした設備があれば趣味を諦めずに済むわけです。その場合は意味のある設備といえます」(田中さん)

もうひとつ大事なことは、家族や友人が来やすい場所にあるかどうか。

「以前なら月に1回は会っていたのに、お盆と暮れくらいしか会えなくなると、本人に覇気がなくなってしまいます」(田中さん)

■「夫婦で入居」は現実的か?

深刻だが、見落とすことのできない点も指摘しておきたい。「施設に入るときは、たとえ今は元気でも『将来、介護が必要になったらどうするか?』を考えておかなくてはなりません」と太田さん。

介護付き施設がそばにある、グループ会社が介護付き施設を経営していてすぐに移れる、現在居住中の施設で介護が受けられるなどを想定しておいたほうがいい。太田さんによれば「住宅型の有料老人ホームでは、親しい居住者に要介護になっていく姿を見られるのがイヤだから、という理由で別の施設に移る人がいます。また、介護型の施設が同じ敷地内にあっても、移ったのを知られるとプライドが傷つくというケースもあって複雑です」。

夫婦単位での入居を考えている人も多いだろう。が、それはあまり現実的とはいえない、というのが太田さんの意見である。

「夫婦入居では、別々の部屋へ入るより2人部屋のほうが費用は抑えられます。ただ、自宅よりも狭くなった部屋で夫婦が顔を突き合わせていると、夫婦仲が決定的に悪くなることがあります」。また、片方が要介護状態になったときのことも想定しておかなくてはならない。有料老人ホームでは常に介護スタッフの手があるわけではないので、夜間などに自分が配偶者の介護をするはめになるかもしれないのだ。

入りたい施設を探す手がかりはどんなところにあるのだろうか。

「多いのは、今住んでいるところの近くか出身地。転勤で住んでよかった地域を選ぶ人もいます。なじみがあってもう1回戻りたいと思っていた場所ですね。男性では、出身大学の近くで探す方、農業をやりたいからとIターンする人もいます。都心から離れると価格が安く物件が広くなります」(太田さん)

太田さんは、施設を選ぶときは施設長と面会し、昼食をとる際に入居者を“観察”してほしいとアドバイスする。

「施設長の理念や思いが、その施設の運営に大きな影響をもたらしています。できれば事前にアポをとっておき、施設長に会って話を聞きましょう。現地へ見学に行くときは、昼食を試食することがおすすめです。施設の入居者同士のコミュニティの雰囲気もわかるし、味付けもチェックできますから」

田中さんが着目するのも、施設の理念だ。

「その施設がどんなサービスを提供していて、マネジメントがどうなっているかを聞いたときに、担当者がキチンと説明できるかどうかが大事です。付加価値部分ばかりを強調する施設には気を付けたほうがいい。相手の答えを聞きながら、自分が介護を受けるようになったときにどう対応してくれるかを想像しましょう」

高齢者施設にもさまざまなタイプがあり、実を言うと現時点で供給量は足りている。焦って選ぶ時代ではないから、消費者視点でしっかりと選択したい。

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田中 元
介護福祉ジャーナリスト
群馬県生まれ。高齢者の自立・介護をテーマに取材。著書に『安心で納得できる老後の住まい・施設の選び方』(自由国民社)など。
 

太田差惠子
介護・暮らしジャーナリスト
京都市生まれ。『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本』(翔泳社)など著書多数。
 

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■▼【図表】いわゆる「老人ホーム」の種類はこれだけある

(フリーライター 生島 典子 撮影=大杉和広 写真=iStock.com)

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