中学受験の面接で「通学経路」を聞く狙い
プレジデントオンライン / 2019年1月31日 9時15分
■「面接で合否は決まらない」は本当なのか
2月1日から都内・神奈川の私立中学入試が幕を開ける。
受験生が問われるのは国語・算数・理科・社会の4教科の学力だけではない。案外知られていないが、学科試験のあとに、面接試験を実施する学校もあるからだ。どういう意図や意義があるのだろうか。2校に聞いた。
玉川聖学院中等部高等部(東京都世田谷区)事務長の金城信道先生はこう語る。
「面接は受験生と教員の『出会い』の場です。わたしたちは面接の中でいろいろな質問を投げかけることで、なるべくその子の『よいところ』を引き出していきたい。そして、この面接をその子の入学後のコミュニケーションの材料として生かしたいとも考えています。ですから、面接は不合格にする場では全くありません」
頌栄女子学院中学校高等学校(東京都港区)の広報部部長の湯原和則先生はこう話す。
「わが校は親子面接の形式をとっています。わたしたちとしては『最初の保護者会』あるいは『最初の三者面談』という意味を持たせています。緊張している受験生親子に対して、教員たちは手を変え品を替え、リラックスして話をしてもらえるよう心がけています。面接はあくまでも参考程度ですから、そんなに硬くならなくても大丈夫ですよ」
中学入試の「面接試験」が合否を決するケースなどほとんどない。そうだとすれば面接対策など不要だと思えるが、わたしは事前準備をしっかりおこなうべきだと考えている。
■女子校に集中「面接」失敗で翌日以降に悪影響を及ぼす
受験生は各科目の試験結果に自信があっても、面接で失敗してしまうとふさぎ込んでしまう子が多い。するとモチベーションが下がり、翌日の入試に差し支えることがある。
子どもたちのメンタルは、連日の入試で張り詰めている。大切なことはその日の入試はその日でリセットして、翌日からは新たな気持ちで入試に臨むことだ。そのためには、面接試験を「気分よく終えること」が欠かせない。そのために、面接の準備が大切になるのだ。
中学入試で面接試験を行う主要校は別表の通りだ。
■「面接の内容によっては不合格になる可能性もある」
面接試験を行う学校は、女子校が多い。なぜだろうか。
わたしが代表を務める中学受験塾のOGから話を聞いていると、中高生活で「人間関係の摩擦、トラブル」が発生しやすいのは女子校であるように感じている。女の子しかいない中で、同級生たちは互いに濃厚な関係性を構築していく。女子校の子どもたちの多くはそういう友人関係が一生の財産となる。しかし、そのような関係性は、一度こじれると大きな摩擦に変わることもあるようだ。
よって、学校としては面接で受験生の性格を観察しておきたいのではないかとわたしは推測している。そして、観察した内容によっては不合格になる可能性がないとも言い切れない。実際、前出の2校もこう回答している。
「ウチではそんなケースはありませんでしたが、『親にこの学校を受けさせられた』『こんな学校を受験するんじゃなかった』などといった否定的な発言があれば、さすがにそれは『審議対象』になるでしょうね」(玉川聖学院・金城先生)
「先ほどお話したように、教員は子の発言を何とか引き出そうと努めます。それでも一言も話さない子、コミュニケーションがそもそも成立しないような子は『要件を満たしていない』という判断をせざるを得ません」(頌栄女子学院・湯原先生)
■面接試験に臨む理想の姿勢・ことば遣いは?
では、具体的な面接対策について説明していきたい。注意してほしいポイントは次の3点だ。
2.大きな声で返事や質問の回答をする。
3.相手(試験官)の目を見て話す。
この3点を守ることができれば。たとえ好印象を与えることはできなくとも、悪い印象を抱かれることはないはずだ。
「ええ!? でも、面接で教員に良い印象を持ってほしいのですが……」という親の叫びが聞こえそうなものだが、面接で「加点」されることはないので無難に終わらせることを考えれば十分だ。
■尊敬語、謙譲語は不要だが「お母さん」「お父さん」はNG
つづいて、面接試験の際のことば遣いはどのようにすればよいのだろうか。
面接試験では、どうしても子に正しい敬語を使わせねばと力んでしまいがちだが、その必要はない。教員たちは受験生に「尊敬語」「謙譲語」を使いこなす能力は求めていない。下手に訓練すれば、敬語を意識しすぎて、肝心の回答が支離滅裂になってしまう恐れがある。
中学入試の面接では、「~です」「~ます」の丁寧語を用いれば十分。ただし、一部注意しなければならない言葉遣いもあるので、それを下に列挙したい。
1.身内の呼び捨て(謙譲語)
「お母さん」× → 「母」○
「お父さん」× → 「父」○
「おばあちゃん」× → 「祖母」○
「おじいちゃん」× → 「祖父」○
2.一人称のことば
男の子 「ぼく」○、「私」△、「俺」×
女の子 「わたし」○、「あたし」×
3.話し方について
質問されたら、必ず「はい」と大きな声で返事をする。その上で、質問に対してハキハキと答えることが必要。気をつけるべきは「回答内容の一文を短くする」こと。「~で、~で、~で、~です」などとダラダラ話してしまわないように気をつけたい。
■面接頻出質問「良い回答例・悪い回答例」
それでは、面接試験で頻出の「3つの質問」と回答例を紹介しよう。
(1)自宅から学校までの通学路を教えてください。
(例.自宅最寄りの「自由が丘駅」から「半蔵門駅」が最寄りの学校へ行く場合)
《悪い回答例》
「自由が丘駅から電車で渋谷まで行きます。乗り換えて半蔵門駅まで行きます」
《良い回答例》
「はい。自宅から最寄りの自由が丘駅まで徒歩5分です。そこから東急東横線で渋谷駅まで約12分かかります。渋谷駅から東京メトロ半蔵門線に乗り換えて半蔵門駅まで約8分です。半蔵門駅から○○中学校まで徒歩約3分です。乗り換え時間を含めると、自宅から学校までの所要時間は約35分です」
→なるべく具体的に回答できるかがポイント。以前、ある学校の先生からこんな話を聞いた。「通学路を聞く理由は、その子が親に依存していないかどうかを試すため。親に依存しきってしまっている子どもはどこへ行くにも親に『連れられて』いるだけ。そうなってしまうと、駅名や路線名など容易に答えることはできないはず」
■「お父さんとお母さんの長所と短所を教えてください」
(2)本校の志望理由を教えてください。
《悪い回答例 その1》
「いまの人と同じです」
⇒グループ面接の場合、前の人が回答した内容と自分が言わんとしたことがかぶってしまった際、ついつい口にしてしまいがちなセリフ。グループ面接で気をつけるべき点は付和雷同にならないこと。たとえ、前の人と回答内容が重なってしまったとしても堂々と答えることが必要である。
《悪い回答例 その2》
「文化祭を見て感動したからです」
⇒あまりにも大ざっぱ。文化祭を見て「何」に感動したのかをちゃんと説明できるようにしよう。
《良い回答例》
「はい。小学校5年生の秋に文化祭を見て感動したからです。特に鉄道研究部が東京メトロ渋谷駅の内部構造を細かに復元した模型に目がくぎ付けになりました。ぼくは小さな頃から鉄道に興味があり、この模型を見てぜひ自分も作ってみたいと感じました。これがぼくの志望理由です」
⇒面接では質問に対し、『質問に対する簡潔な回答』→『具体例』→『質問内容の繰り返し』の構成を意識すると回答しやすくなる。教員が求めているのは優等生的な回答でなく(たとえば、校風に共感した……など)、その子どものオリジナリティだ。この回答例の場合、文化祭を見て感動した様子、理由が具体的に説明できていて、この子どもの個性がしっかり反映されている。
(3)尊敬する人はだれですか。また、その理由を教えてください。
《悪い回答例》
「徳川家康です」
⇒徳川家康は確かに大人物には違いないが、この回答は教員からの突っ込みどころ満載である。仮に面接官が社会担当だった場合、知識の浅薄さが露呈する危険もある。
「はい。わたしは母を尊敬しています。なぜなら、わたしは中学受験勉強のために3年間塾に通っていたのですが、塾に通う日には一日も欠かさず手作りのお弁当を用意してくれたからです。このような母の支えがとてもうれしかったです。だから、私も将来は母のように子どもをしっかり支えられる人間になりたいと考えています」
⇒このように身近な人物を取り上げたほうが話を膨らませやすい。上の「徳川家康」とは異なり、これなら教員から突っ込まれる危険性はない。立派なことを答えなければと「背伸び」をしないことが大切だ。
■入試前日、親子でいろんな話をしよう
面接試験では近年「家族のつながり」についての質問が多くなっている。親子関係の希薄さに学校が危惧を抱いているからなのかもしれない。たとえば、実際の面接試験で次のような質問があった。
「あなたの名前の由来を教えてください」
「お父さんとお母さんの長所と短所を教えてください」
「お父さん、お母さんに一番注意されるのはどんなことですか」
「家ではどんなお手伝いをしていますか」
面接の準備だと思うと堅苦しいが、親子での語らいを増やすよい機会になる。ぜひ食卓などの話題にしてみてほしい。
笑顔の春まであと少し、がんばれ、受験生のみんな!
(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平 写真=iStock.com)
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