橋下徹「明石市長の暴言は許されるのか」
プレジデントオンライン / 2019年2月6日 11時15分
■最初は「火付けてこい」の暴言で批判の嵐だったが……
兵庫県明石市の泉房穂市長が2月1日に辞職を表明し、2日付で辞任した。
今から1年半以上前に、市内の道路工事が遅れていることに関して、市長が部下である担当職員に対し暴言を吐いた。その様子が録音されていたものが、あと数カ月後に市長選挙が近づく今、公にされた。
(略)
第一報として全国的に報道されたのは、暴言の部分だ。その際、市長に対して猛批判の嵐が吹いた。
しかしその後、後追いで、暴言以外の部分も報道されるようになった。特に最後の、なぜ暴言に至ったかの部分が報道されるようになってからは市長擁護の声も強くなってきた。
泉さんと僕は司法修習生の同期。49期生。司法試験合格後、裁判官、検察官、弁護士になる前に司法研修所で研修を受けるんだけど、その同期だった。司法試験に合格する年齢には幅があるから、同期であっても同い年とは限らない。僕らの頃は2年間の研修だったけど、今は1年間ほどに短くなったらしい。その分は法科大学院でしっかり勉強して来いという趣旨。
(略)
僕は中学、高校とラグビーをやっていたので、司法研修所でもラグビー部に参加した。そこに同じく参加していたのが、泉さんなんだ。研修所内のグランドでほんとに軽い練習をして汗を流したり、近くの居酒屋や寮内で飲み会をやったり。そういや、自分たちでラグビージャージ(ユニフォーム)を作ったりもしたね。修習生が胸元に付けるバッジは、赤青白の色を基にしたものなので、その色を基調にジャージを作り、確かジャージの胸元に修習生バッジと同じ柄を刺しゅうするという嫌味なこともやっていた気がする。
泉さんは、僕より6つ年上で、当時から熱血感溢れる人。お世話役も凄くする人だった。研修所のクラスは違ったので、泉さんの日々の生活状況までを知っていたわけではないけど、研修所内にできる人権活動サークルなんかでも積極的に活動していたことは耳にしていた。ラグビーチームでもチーム内のお世話役を積極的にしていた。僕なんか、自分のことしかやらないタイプだったので、泉さんて根っから他人のために働く人なんだな、と当時から感心していたのを覚えている。
ただ道徳家というわけではない。まあ典型的な関西のおっちゃん。勢いで押していくんだけど、ちょっと走り過ぎるところがあるなとも感じていた。
■弁護士から民主党代議士、そして明石市長に転じて全国的な成果
泉さんは弁護士になってからも、いわゆる弱者救済に力を入れている弁護士だった。その後旧民主党の国会議員に転身。弁護士活動において弱者救済に限界があるところを、政治の力で救済しようとしたのだろう。
(略)
しかし国会議員は長くは続かなかった。落選である。そこで泉さんは、明石市長というポジションにターゲットを絞った。
(略)
市長、知事という立場では、確かに日本全体の法制度に縛られはするが、市長、知事として、自分の地域内において独自の法制度を作ることもできる。泉さんは、明石市において、自分の問題意識をとことん解決する法制度を作り続けた。
その結果、明石市は、子育て支援先進地域として全国的にも有名になった。これまで弱者救済のために全国の弁護士が取り組んでも法制度によって跳ねのけられていた問題が、明石市では解決できるようになったことがいくつもある。
(略)
このような泉さんの経歴、人柄、仕事ぶりについて、いわゆる「人権派」という人たちは良く知って、理解していたのだろう。だから、泉市長を応援したいという気持ちがどうしても先に来てしまい、今回の泉市長の暴言報道が出た際、これら「人権派」の人たちの多くは、一斉に泉市長擁護の姿勢をとった。
しかしこれこそ、いつもの「人権派」のダブルスタンダードの典型だ。
特に、普段はセクハラやパワハラなどを大きく取り上げ、そのような発言を厳しく糾弾している人たちに限って泉さんを擁護していて、ほんとびっくりしたよ。
多くは、
「泉さんの発言は確かに問題だが、人命を守るための工事を必死にやろうとしている気持ちが強くてあのような発言になった」
「仕事をしない役所に対する厳しい喝だ」
「泉さんのこれまでの活動は素晴らしいんだから、これくらいは許してあげて」
「次の選挙で明石市民が判断すればいいじゃないか」
というもの。
特に凄かったのは、テレビ朝日系の「羽鳥慎一モーニングショー」だよ。テレ朝系列は、普段は政治権力に対してめっぽう厳しい批判をする。それは民主国家における権力チェックとして、まあよい。
だったら泉さんの今回の件についてもその姿勢を貫かないといけないね。
(略)
■国会議員は泉さんの爪の垢でも煎じて飲め!
そうこうするうちに、泉さんは辞職会見。この会見を受けて、泉さん擁護の声はまた強まっている。僕は、それはそれでいいことだと思う。
あのまま責任も取らず市長を続けるよりも、しっかり辞任までして責任を取った方が、これからの泉さんの活動領域はさらに広がると思う。
だって、あのまま市長を続けていたら、泉さんはパワハラについて今後二度と厳しい批判をすることができなくなる。「お前もだろう!」とブーメランで跳ね返ってくるからね。それにここできっちりと責任を取った方が、さらに支持が強くなる。
(略)
泉さんを惜しむ声や擁護する声は多い。だからこそ責任を取って辞任することに価値がある。普通の引責辞任とはちょっと違う。泉さんは最高の責任の取り方、辞任のやり方を実践した。このことは必ず今後のチャンスを広げると思う。
責任を取ることのできない国会議員たちに、泉さんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよ。
(ここまでリード文を除き約2300字、メールマガジン全文は約1万3000字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.138(2月5日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【明石市長辞任(1)】気に入らない政治家は非難し、仲間は擁護する「人権派」のダブルスタンダードはここが問題》特集です。
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=時事通信フォト)
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