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なぜパニック障害に悩む芸能人が多いのか

プレジデントオンライン / 2019年2月5日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kieferpix)

芸能人が「パニック障害」を公表し、活動を休止するケースが目立っている。いったいどんな病気なのか。精神科医の岩波明氏は「精神障害の中では比較的症状が軽く、強制的にでも規則正しい生活を送ることが回復につながりやすい。一方で、芸能人のように生活が不規則だと症状を治しづらい」と説明する――。

■若手ジャニーズが相次いで活動休止

昨年10月、ジャニーズの若手グループ「King & Prince」(キンプリ)の岩橋玄樹がパニック障害の治療に専念するため活動を休止することを発表した。さらに11月末には同じジャニーズの若手グループ「Sexy Zone」(セクゾ)の松島聡も、同じ理由で活動休止を発表した。

キンプリは18年にシングル「シンデレラガール」でCDデビューを果たし、初週で50万枚以上を売り上げたジャニーズ期待の星。一方、セクゾも昨年デビュー6年目の、共に上り調子のグループだ。まさに“売り時”の2人の突然の活動休止は、病状の深刻さを感じさせた。

芸能界ではパニック障害を公表している人が少なくない。KinKi Kidsの堂本剛、ミュージシャンの星野源、元野球選手でタレントの長嶋一茂、シンガーソングライターの円広志、お笑い芸人の中川家・剛、アナウンサーの丸岡いずみ、ヘアメイクアーティストのIKKOらは自身の経験をカミングアウトしている。

パニック障害とはどんな病気なのだろうか。昭和大学医学部精神医学講座教授の岩波明氏に話を聞いた。

■10人に1人は一生に一度発作を起こす

「構成要件は大きく2つあります。まず1つ目は、身体的な疾患がないにもかかわらず、動悸や息切れ、めまい、呼吸困難などの“パニック発作”が頻繁に起こること。2つ目は“予期不安”と呼ばれるもので、発作が起こるのではないかという強い不安が生じるものです。パニック発作は非常に苦しいもので、このまま『死んでしまうのではないか』という強い不安や恐怖心が伴います」

発作の初発は20~30代、また男性よりも女性のほうが多いというが、「年代、性別、職業などに限らず、誰でも罹患(りかん)する可能性がある」という。

「パニック発作は珍しくない症状で、一生に1回でも発作を起こす人は約10人に1人、発作を繰り返してパニック障害に進展する人は全人口の2~3%とも言われています。睡眠不足や、アルコール・コーヒーの摂取が発作を誘発することもあり、それが体調の悪さと連動して発作となることも」

満員電車や飛行機など、逃げ場のない・助けを得られないような閉鎖的な場所に恐怖を覚え、発作を起こす人が多い。これは「広場恐怖」と呼ばれる。パニック発作という自覚はなくとも、息苦しさや動悸を感じたことのある人は少なくないだろう。初発の場合、ほとんどの人は身体の疾患を疑って救急車を要請するが、発作自体は数分~数十分で落ち着く。病院に着くころには発作が収まり、診察では当然異常は見当たらない。そのためパニック障害の診断が下りるまでは、発作のたびに救急車を呼ぶ人や、原因を探るためにあらゆる検査を受ける人も見受けられるという。

■服薬で症状はほぼコントロールできる

主な治療は抗うつ薬・抗不安薬の投与。服薬によって症状をほとんどコントロールできるという。

「薬が効き始めるまでに20分ほどかかるので、例えば広場恐怖症の人は乗り物に乗る時間を逆算して服用し、苦手な状況でも発作が起きなかったという事実を積み上げていく。この病気は、症状が起きなければ起きないほど治りやすいんです」

重篤な人の中には外出するのが怖く、自宅に引きこもってしまうケースもある。

「その場合は、日中の空いている時間に各駅停車に一区間ずつ乗るという練習をします。その距離をだんだん広げていく。これを行動療法と呼んでいます。どうしても状況を克服できない人は状況を避ける場合もあります。極端に言えば、電車に乗らない。私が診ていた患者さんの中には、自転車で通えるところに職場を移した人もいます」

■サラリーマンのほうが克服しやすい

精神障害を抱えている人には、十分な休養と無理のない状態が必要だと思われがちだ。しかしパニック障害の場合は少し事情が異なる。

「体調管理は重要ですが、パニック障害は精神障害の中では比較的症状が軽く、病に立ち向かっていくことが可能なレベル。薬の服用で見違えるように克服した人もいます。実は自営業や専業主婦などに比べて、サラリーマンの方のほうが克服しやすい。経済的に追い詰められていない人、あるいは毎日外出する必要がない人は、『治さなければ』という強制力が弱く、慢性化しやすいのです。サラリーマンの場合、毎日会社に行かなければならないので、薬を服用して多少無理してでも通勤することが逆に功を奏する。ただし、うつ病を合併しているときなどは長引くケースもあるので、注意は必要です」

■芸能人の働き方とは相性が良くない

そう考えると、生活が不規則で、移動も多い自由業である芸能人の働き方とは相性が良くないといえる。

「芸能人は、緊張を強いられる場面や日々のプレッシャーも多いでしょう。ロケバスなどの狭い環境で拘束される時間も長い。ジャニーズの2人も、活動を休止するぐらいなので、おそらくは頻繁に発作が起きているのでしょう。薬は効果がある一方、反応が鈍くなってしまう。タレントの仕事は瞬時の判断を求められるし、ダンスなどの動きも激しい。一回ゆっくり休んで、少しずつできる分野だけ復帰するのが、最終的にはいい結果に結びつくのではないでしょうか」

■谷崎潤一郎もパニック障害だった

日本で「パニック障害」という症状が知られるようになったのは、90年代以降だという。

「フロイトの時代から症状の記述が残っている病気で、1980年代までは不安神経症と呼ばれていました。80年代にアメリカ精神医学会による、患者の精神状態に関する診断基準(DSM)で『パニック障害』という名前が付いた。日本でも90年代には社会的に浸透していました」

作家の谷崎潤一郎も若いころは、パニック障害だったと見られている。

「本人は『鉄道病』と書いてましたがね。小説『悪魔』の中で実体験をもとに、名古屋から東京の道中で発作が起き、何度も下車しながらようやく帰路に就いたという記述もあります」

古い歴史を持つ病だが、その受け止められ方は社会状況によって変わってきたという。

「例えば谷崎の時代は、社会がいまよりずっと寛容だったため、パニック障害で苦しんでいる人は繊細な人だとか、個性だと思われていたようです。電車が苦手で多少出社時間が遅れようが、それほどとがめられず、その分夜働けばいいという雰囲気だったのでしょう。でもいまは一分一秒、出退勤が管理される。『今日は体調が悪いから、のんびり仕事をしよう』ということができなくなっている。そういった社会の余裕のなさが、パニック発作の遠因になっているのかもしれません」

■部下がパニック障害になった場合の対応法

では実際に身近な人、たとえば会社の同僚や部下がパニック障害となったら、どう対応すべきなのか。

「パニック発作が疑われるけども診断が降りていない場合は、まずは念のため身体の疾患を疑います。無駄足になる可能性もあるが、精密検査してもらうのは手順としては必要。また、部下に診断が下りているなら、上司としては産業医を交えて勤務の相談をする。発作が起こる状況が明らかであれば、それを避ける。出張が多い部署であれば、スケジュールや配置転換を考慮する。オーバーワークで睡眠不足になると症状が悪化するので、そのあたりも気に掛けるべきです」

ここで大事なのは、単独で判断しないこと。

「上司が単独で措置を決めると、問題になる場合があります。必要であれば、部下の主治医に意見を求めるのも手でし。実際に、上司とともに来院する人もいます」

日本には精神障害の症例ごとの統計データが存在しない。だが岩波氏の実感では、パニック障害に悩む人は徐々に増えているという。働く人を必要以上に締め付けない社会が求められているといえそうだ。

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岩波明(いわなみ・あきら)
精神科医
1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒。医学博士。都立松沢病院をはじめ、精神医療機関で診察にあたり、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授。現在、昭和大学附属烏山病院長も兼ねる。著書に『発達障害』(文春新書)、『大人のADHD 最も身近な発達障害』(ちくま新書)など多数。

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(精神科医 岩波 明 構成=佐伯香織 写真=iStock.com)

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