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外資系が"新卒採用はお得"と考えるワケ

プレジデントオンライン / 2019年2月4日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/TAGSTOCK1)

政府や経団連は「年功序列賃金・終身雇用」の解体を視野に入れ、「新卒一括採用」の見直しに動いている。一方、外資系企業では、「中途採用より新卒採用のほうがコスト安だ」と新卒を囲い込む動きもある。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「安易な新卒一括採用の見直しでは、日本企業を弱体化させる」と指摘する――。

■政府・経団連「新卒一括採用」を見直しの本当の狙い

「新卒一括採用」を見直そうという議論が沸き起こっている。

発端は昨年10月、経団連が採用活動の日程を定めた「採用選考に関する指針」を2021年春入社の新卒学生から廃止すると発表したことだ。

指針廃止の背景には、新卒一括採用やそれをベースにした終身雇用などの日本の雇用慣行に対する疑念がある。経団連の中西宏明会長は「終身雇用制や一括採用を中心とした教育訓練などは、企業の採用と人材育成の方針からみて成り立たなくなってきた」と話している。

日本企業は社会経験のない学生を大量に採用し、内部で長期間にわたって育成し、戦力化することで企業の競争力を維持してきた。それを支えたのが長期雇用である。

今日のようにビジネスモデルがめまぐるしく変化する時代では、内部の人材では足りず、外部から人材を調達する企業が増えている。中西会長は欧米のように企業が求めるスキルと能力を持つジョブ型採用をイメージしているのだろう。

新卒一括採用見直しは安倍晋三首相が議長を務める「未来投資会議」でも議論された。

その中でジョブ型採用の推進や中途採用の拡大の意見も多かった。安倍首相も「新卒一括採用中心の採用制度の見直しを促すため、大企業に対して、中途採用比率の情報公開を求めるべきだと考える」と発言している。

■中途採用を増やせば、当然ながら新卒の門戸が狭まる

そして昨年11月に公表された「経済政策の方向性に関する中間整理」では、新卒一括採用についてこう述べている。

<大企業に伝統的に残る新卒一括採用中心の採用制度の見直しを図るとともに、通年採用による中途採用の拡大を図る必要がある。このため、企業側においては、評価・報酬制度の見直しに取り組む必要がある。政府としては、再チャレンジの機会を拡大するため、個々の大企業に対し、中途採用比率の情報公開を求め、その具体的対応を検討する>

さらに「上場企業を中心にリーディング企業を集めた中途採用経験者採用協議会を活用し、雇用慣行の変革に向けた運動を展開する」と述べている。

つまり、年功序列賃金・終身雇用を解体して雇用の流動性を高めることによって中途採用を増やす。それを政府が積極的に後押しするというシナリオだ。言うまでもなく、中途採用の拡大は新卒採用を抑制するということだ。

ターゲットは中途採用が多い中小企業ではなく大企業だ。中途採用を増やせば、当然ながら新卒の門戸が狭まることになる。

■新卒学生の40%が大企業から閉め出される

ちなみにリクルートワークス研究所の「中途採用実態調査」(2017年度実績)によると、従業員5000人以上の新卒採用比率(2018年卒)は62.6%、中途採用比率は37.4%。1社あたりの採用人数は新卒128人、中途76人だ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ijeab)

少なくとも新卒と中途の採用比率を逆転させなければ政府が狙う労働市場へのインパクトは小さいだろう。そうなると新卒学生の40%(52人減)が大企業から閉め出されることになる。

だが、新卒重視の採用は企業にとってそれほど問題がある仕組みなのだろうか。

事業を推進する現場の管理職や幹部は即戦力となる中途採用を欲しがる傾向がある。とくに外資系企業は中途採用が主流だと言われる。しかし、意外なことに外資系企業でも「新卒は重要だ」と指摘する声も少なくないのだ。

■国内企業とは真逆 外資系が新卒採用に積極的なワケ

外資系のグローバルIT企業の元アジア地区の人事責任者はこう語る。

「日本における新卒か中途採用かの議論はナンセンスだと思います。グローバル先進企業はもちろん中途も採っていますが、新卒も重視している。その理由の1つは中・長期的に見て、新卒はコストが安いということです。たとえば中途でマネージャークラスを採用しようとすれば、市場価値が高いので割高です。もちろん新卒は内部で育成し、外部の研修を受けさせるなど、それなりのコストもかかりますが、コスト全体で比較すれば中途採用よりも安いのです。そのことに気づいたのはアジア地区の人事責任者のときです。日本に新卒採用という定着した良い仕組みがあるのであれば、中途採用を抑えて新卒を採れ、と指示しました」

中途採用よりも新卒のコストが安いというのは意外な話だ。本当にそうなのか。日本では業種に関係なく新卒の基本給は約20万円。初年度のボーナスは4月入社なので夏が低く、年末のボーナス合計を合計しても3カ月ぐらいだろう。そうすると初年度の基本年収は約300万円だ。

では中途採用はいくら払っているのか。外資系IT企業の年収に詳しい人材コンサルタントはこう語る。

「30歳のSE(システムエンジニア)だと700万円ぐらいで転職しています。営業をサポートするプリセールスエンジニアは35歳で900万円以上、プロジェクトマネージャークラスになると1000万円を超えます。外資系大手になるとさらに高くなるのが普通です」

30歳のSEで新卒の2倍超、35歳のプロジェクトマネージャーで3倍超になり、年収ベースでも新卒は“お買い得”と言えるかもしれない。

■外資系「内部で育成したほうが定着率もロイヤリティも高い」

また、前出の人事責任者は「新卒のメリットはそれだけではない」と言う。

「内部で育成したほうが転職者よりも定着率も会社に対するロイヤリティも高くなります。新卒を将来の幹部候補として育成する外資企業も多いのです。たとえばGEのジャック・ウェルチ、次のジェフリー・イメルトも第二新卒で入社しています。史上最高の業績を残したIBMのサム・パルミサーノも新卒で入社している。とくに米国の東部の大企業は新卒を重視しており、生え抜きの社長も多いのです」

じつはアメリカ企業の中には一時期、日本企業の新卒重視の雇用慣行を取れ入れたケースも少なくないという。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/BartekSzewczyk)

社内にいないスキルの持ち主を外部から採用することも必要だろう。将来の基幹要員となる新卒と中途を組み合わせたハイブリッド型の採用は、経営的観点からも企業の人材基盤を強固にする可能性を持っている。

中途採用を増やせ、という議論は結構だが、極端に中途採用に偏ると、企業の弱体化につながるだけではなく、「新卒無業」の若者が増える恐れがあるのだ。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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