異業種交流会を"年収増の機会"にする方法
プレジデントオンライン / 2019年2月15日 9時15分
■お金は「交換手段」でしかない
思い描く自分らしい人生を過ごしていくのに、お金は欠かせません。しかし、私たちは、お金より大切なものがあることを日々の暮らしを通じて感じています。お金を稼ぐことそれ自体を人生の目的にすえると、ろくなことにはなりません。お金は、手に入れたい暮らしに必要な交換手段でしかないのです。
では、何を大切にしたら、人生は豊かになるのでしょう。
リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットは『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』のなかで、「お金より大切なものは、無形資産」であると提唱しています。「無形資産」とは、家族、友人、高度なスキルと知識、肉体的・精神的な「健康」などです。
リンダらの指摘で納得するのが、「無形資産は、それ自体として価値があることに加えて、お金などの有形資産の形成を手助けし、100年ライフを送る上で鍵となる要素だ」と、指摘している点です。噛み砕いて述べるなら、無形資産を増やしていくことは、それ自体が幸せなことであると同時に、有形資産の形成にもつながっているのだと教えてくれているのです。
■「生産性資産」「活力資産」「変身資産」
それでは、無形資産について詳しくみていくことにします。無形資産は、(1)生産性資産、(2)活力資産、(3)変身資産の三つに分類されます。
(1)生産性資産は、仕事の生産性を高め、所得とキャリアの見通しを向上させるのに役立つとされます。語学、プログラミング、ライティング、編集、統計処理等、さまざまなスキルや知識が生産性資産になります。
生産性資産を増やしていく上で見逃してはいけないポイントが二つあります。一つは、「いつ」身に付けるのか、もう一つは「どの種類」の生産性資産を身につけていくのかということです。
生産性資産を増やすことは、100年ライフを通じて「学び続ける」ということでもあります。大学を卒業して、学ぶことを終えてしまえば、その人の生産性資産は増えないわけです。例えば、語学やプログラミング言語は、お金を払ったらすぐに習得できるわけではありません。投資コストだけでなく、相当数の時間をかけなければ、資産化することはできないのです。
そのため、投資コストと労力を考えて、あなた自身のライフステージの、どのタイミングで集中的に取り組むかを判断することが必要になります。無理のない範囲で、集中的に継続していくことが、生産性資産を蓄えるポイントです。
■社会が変化しても「身体」は変わらない
また、「どの種類」のスキルや知識を資産化するかも重要な点です。これまでの経験はすでに資産化されているので、その上で、いかなる資産を増やしていくのかを戦略的に考える必要があります。どのようなスキルや知識がこれからの時代の中で必要とされるのかを見抜き、時間をかけて資産化していくのです。誰もが持っている資産であれば、有形資産の形成へとつながる転換の確率は低くなります。
無形資産の形成においても、「希少価値」戦略は侮れません。「強み」という曖昧な認識ではなく、資産として戦略的に管理していくのです。
(2)活力資産は、肉体的・精神的な健康と心理的幸福感・充実感から形成されます。テクノロジーの進展や大きな社会変化の中で、最も変わりにくいのは「身体」です。突発的な事故や災害等による想定外のダメージをのぞいて、身体の状態は時間をかけて維持されるものです。健康状態は自然と維持されるのではなくて、適切な食生活や定期的な運動習慣への投資によって、活力資産として形成されるのです。
そして、良好な身体を維持しながら、良好な人間関係を構築していきます。グラットンが別書『ワークシフト』で述べているのは、心の支えと安らぎをもたらす、前向きで親しい友人ネットワークからなる「自己再生のコミュニティ」です。活力資産とは、親しき仲間への「感情の投資」からも形成されるのです。
■「自分は何者であるのか」を知る
(3)変身資産は、人生の途中で変化と新しいステージへの移行を成功させる意思と能力のことです。この変身資産は、グラットンらの『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』のなかで、最も独創的で鍵となる考え方だといえます。
会社が倒産するようなケースでは、外的な要因から「変身」を迫られます。それよりも多いのは、自ら仕事を辞めて次のステージへと歩んでいくケースですね。どちらの場合にせよ、突然の変化に翻弄されない準備が不可欠になります。
その時にポイントとなるのが、「自分とは何者であるのか」という知識です。やや専門的にいうと、「生得的で変わらない自己の分析」ではなく、「社会的に構築されるアイデンティティの分析」になります。
それは、急激な変化に直面し、自らを変えていく姿勢でもあります。この変化に適応する力を変身資産として捉えているのです。
■「異業種交流会」で変身資産を蓄積する
変身資産を蓄積していく手段として再評価されていいのが、社外ネットワークです。
例えば、「異業種交流会は、行っても意味がない」と言われがちですが、その場限りの交流ではなくて、人的ネットワークを広げ、変身資産を築く機会として捉えるようにすれば意味があります。ここで想定している異業種交流会は、セミナーへの参加や、社外の人たちとの勉強会も含みます。
こうした機会に、ただ顔を出すというのではなくて、そこでの出会いをいかに生かしていくかが大切です。
異業種が集まる機会で変身資産を蓄積していくためには、次のような点は気をつけておきましょう。
(1)名刺交換の「回数」を目的にしない
(2)できるだけ「1人」で参加する
(3)今まで話したことのない人と、話すようにする
よく見かけるのが、できるだけ多くの人と名刺交換をしようとする参加者です。例えば、あなた以外に30名が参加しているとして、30名全員と名刺交換をすることで、変身資産が蓄積されるわけではありません。
名刺交換の「回数」よりも大切なのは、社外の人とのコミュニケーションです。すぐに、ビジネスにつなげようとするのではなく、どのような仕事をしているのか。これまでどのような仕事をしてきたのか。今、どのようなことに関心を持っていて、どこに向かっているのか。丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
■「1人で参加」がいい理由
また、同僚や部下と一緒に参加するのではなく、できるだけ1人で参加するようにしましょう。異業種交流会での学びや経験を同僚や部下と共有して、社内に持ち帰り、活かしたいという気持ちもわかりますが、1人で参加することで、「あなたのことを知らない」人とのコミュニケーションに繋がります。
会社勤めを長くしていると、いつ間にか、誰もがあなたの仕事ぶりを知っているというような錯覚に陥ります。あなたのことを全く知らない人とのゼロからのやりとりが、変身資産の蓄積につながるのです。
1人で参加して、丁寧なコミュニケーションを心がけます。この点を抑えた上で、あえて、これまでに話したことがないタイプの人だと印象を抱く人に話しかけてみましょう。人はそれぞれさまざまな経験を積んで、別々の無形資産を蓄積しています。
あなたの無形資産とは、異質の無形資産を持っている人とのコミュニケーションが、あなたの変身資産を蓄積させていくのです。
誰にでもできるちょっとした心がけですが、これらの点を意識して行動している人とと、全く意識していない人では、変身資産の蓄積に相当の差が出ます。
■「異業種交流会」を甘く見た人が失うもの
逆にいえば、こうした機会を軽視していると、活力資産も変身資産も失って、「自己再生のコミュニティ」が次第に弱くなっていきます。仕事のストレスを一人で抱えてしまったり、転職を迫られたときに選択肢が少なくなってしまったりするのです。
この変身資産の蓄積は、社会的ネットワーク論者として著名なマーク・グラノベッター教授が提唱する「弱い紐帯の強み(“The Strength of Weak Ties”)」ともリンクしてきます。
弱い紐帯の強みとは、家族や親友、職場の仲間といった「社会的に強いつながりを持つ人々」よりも、友達の友達やちょっとした知り合いなど「社会的なつながりが弱い人々」の方が、新しく価値の高い情報をもたらしてくれる可能性が高いことを示した説です。この弱い紐帯を機能させるために、日頃から変身資産を蓄積していくことを心がけておく必要があります。
生産性資産と活力資産と同じように、変身資産も戦略的に管理し、形成していくのです。そうすれば、変身資産は、新しいことに挑戦し、行動していく背中を押してくれるものになります。
■戦略的に「資産」をマネジメントする
さて、これらの理解を踏まえて、「あなた自身の資産管理」をしてみましょう。(1)生産性資産、(2)活力資産、(3)変身資産、そして(4)有形資産の「増減」を、あなたのライフチャートの中に落とし込んでいくのです。
無形資産と有形資産を合わせた複合的な資産管理は、現在の資産分配状況を可視化させるだけではありません。最大のメリットは、今後のライフプランをこの資産管理の戦略的なマネジメントから構想できる点にあります。
労働の対価としての有形資産は増えてはいるものの、無形資産が増えていかない日々を過ごしているのであれば、人生100年時代を生き抜く上で、不安が募ります。逆に、現状の生活をしていく上で最小限必要な有形資産しか形成できていない場合であっても、無形資産を豊かに増やしている暮らしであれば、その日々は、自己充実度も幸福度も高い毎日なのです。いずれ有形資産の形成にもつながることにも期待がもてます。
さあ、あなたはどのような資産を形成していきますか?
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法政大学 キャリアデザイン学部 教授
1976年生まれ。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめ、2008年に帰国。専攻は社会学、ライフキャリア論。著書に『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『ルポ 不法移民――アメリカ国境を越えた男たち』(岩波新書)など18冊。社外顧問・社外取締役を歴任。新書に『教授だから知っている大学入試のトリセツ』『辞める研修 辞めない研修―新人育成の組織エスノグラフィー』
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(法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中 研之輔)
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