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大坂なおみの拙いスピーチに感動するワケ

プレジデントオンライン / 2019年2月18日 9時15分

2018年3月18日、BNPパリバ・オープン女子シングルスでツアー初優勝を果たし、スピーチする大坂なおみ(写真=AFP/時事通信フォト)

テニスの四大大会連覇と世界ランキング1位を達成した大坂なおみ選手はスピーチが苦手だ。2018年3月のBNPパリバ・オープンでの優勝スピーチでは、緊張のためスポンサーへの謝辞を忘れそうになり、「史上最悪の優勝スピーチ」と自嘲したほどだ。だがそのスピーチに対して会場からは拍手が起きた。トップ・プレゼン・コンサルタントの永井千佳氏は、「プレゼンで緊張を克服する必要はない。むしろ緊張を活かせば、成功することも多い」という――。

※本稿は、永井千佳『緊張して話せるのは才能である』(宣伝会議)の一部を再編集したものです。

■プレゼンのゴールは「人を動かすこと」

これから立ち向かうプレゼンは、社内の企画会議でしょうか? それともマスコミを呼んでの記者発表でしょうか? 聴き手の規模は大小があると思いますが、「プレゼンのゴール」は共通しています。

それは、人を動かすことです。

ここで私が実際に見た、2人の経営者を紹介させてください。

日本を代表する、ある製造業の社長さんのプレゼン。満面の笑みに、自信満々の足取りで舞台を練り歩き、難しい言葉もスラスラと立て板に水のように出てきます。

「世界では競争がますます激しくなっています。我が社はさらなる経営変革を推し進め、グローバル企業を目指すべく邁進していく所存でございます」

まるでアナウンサーのように言葉は完璧。ただ客席を振り返ると、寝ている人がチラホラいました。

一方で勢いよく舞台に駆け上がった、ヤマダ食品(仮名)の新社長のプレゼン。

「み、みなさん、こんにちは! ヤマダシャ? ヤマダッ! 食ッ、品ッ! の鈴木です!」

お世辞にもスマートとはいえません。マイクを持つ手は小刻みに震え、気の毒なほど緊張しています。しかしプレゼン後、新社長の前に名刺交換の列ができました。不思議なことに極度に緊張していた新社長の話は、聴き手を揺り動かしたのです。プレゼンは大成功。

その後、この会社の業績は上がり続けています。

■緊張は「才能」である

永井千佳『緊張して話せるのは才能である』(宣伝会議)

プレゼンの目的は「上手に話すこと」ではなく「人を動かすこと」。緊張しても、話し下手でも、人は動かせるのです。

私は経営者のプレゼン・コンサルタントとして、講演会でお話しする機会があります。講演後にこっそりいただく質問で一番多いのは、これです。

「プレゼンで緊張しないようにするには、どうすればいいですか?」

人前で緊張しながら話すことは、すごく辛いもの。でも本当は、緊張は自分の才能を引き出すために必要なものなのです。むしろ緊張を活かせばプレゼンで伝えたいことが伝わり、聴き手の心を動かせます。

緊張は、克服するものではなく活かすもの。

緊張は才能である。

こう言うと「なにそれ?」「まさか!」と驚かれます。子供の頃から「緊張しないでリラックスして」と言われ続けて、「緊張を克服しよう」と考えている人が多いからです。

世の中では「緊張は悪いもの」と思われていて、多くの方々が「緊張しない方法」を教えてもらおうと相談に来る方もいます。ですから「緊張していい」と言うと驚いてしまうのです。

■緊張が「悪者」になっている

確かに緊張すると、「身体が硬くなる」「手足が震える」「手が冷たくなる」「頭に血が昇る」「しゃべりにくくなる」「集中力が散漫になる」「呼吸が苦しくなる」「心臓がドキドキする」「喉がカラカラになる」などの症状が出てしんどいものです。

ですから誰も「緊張は良いものだから、どんどん緊張しなさい」とは言いません。

緊張するとテストで失敗したり、スポーツで良い成績が出せなかったりすると思われているので、学校では、「緊張しないようにリラックスしなさい」と教えます。「緊張して受験やオーディションに失敗しては大変」と本気で心配してくれているのです。

緊張は「悪者扱い」なのです。

オリンピックのテレビ番組でも、メダル期待の選手に解説者は「4年に1度の大舞台ですし緊張しているようですね」「リラックス。集中です」とコメントします。また、メダルをとった選手もインタビューでは、大抵「あまり緊張しなかったですね」「リラックスして楽しめました」と言います。

緊張は悪いもの、避けるべきもの、ということは、今や常識なのです。

私もある時期まではそう思っていました。でもその考えは大間違いだったのです。

■良いプレゼンをする社長の共通点

私は雑誌の企画で、企業の社長さんのプレゼンを取材してコメントする「プレゼン力診断」という記事を毎月執筆しています。すでに50社の企業を診断してきました。そこで、あることに気がついたのです。

会社の業績が悪くても、メディアで批判されてピンチの状態でも、社長さんが良いプレゼンをすると、その後に株価が上がったり、会社の業績が良くなったりしていくのです。私はいつも先入観なしでプレゼンだけで診断しているのですが、繰り返しこのようなことが起こるのを経験してきました。

このような良いプレゼンをする社長さんたちには、一つの共通点があります。

実は皆さんとても緊張しているのです。

人前で手や足が震えていたり、身体が硬直していたり、早口になったり、人前で話すのが苦手だったりしているのです。でもそんな姿を見ても、「大企業の社長ともあろう人物が、こんなに緊張してダメだなぁ」とは微塵も感じません。むしろそんな社長さんたちの話を聞いていると、強い想いが伝わってきて、なぜか心が揺さぶられるからです。

テニスの大阪なおみ選手も、まさに同じです。四大大会連覇と世界ランキング1位を達成した大坂選手は、スピーチでは極度に緊張してしまうことでも知られています。

2018年3月のBNPパリバ・オープンでの優勝スピーチでは、スポンサーへの謝辞も忘れそうになり、「史上最悪の優勝スピーチ」と自嘲したほどでした。

ところがそのスピーチに対して、会場からは拍手が起きました。確かに内容はグダグダで、スピーチのプロからすれば、拙いと言われるかもしれません。でも大坂選手のピュアな緊張が伝わったからこそ、観客は心を打たれたのです。

■プレゼンは「告白」

プレゼンは、告白です。

想いを伝える場です。どんな告白を受けたら心が揺さぶられるか、イメージしてみてください。ドラマで、下駄箱の横で手紙を渡すシーンをよく見ますが、そんな場面です。告白するほうは、ドキドキして緊張しています。

「つ、つ、つ、付き合ってください!!!」

言葉もつまるし、手紙を渡す手も震えている。でもそこからは、「強い想い」が伝わってくるものです。逆に冷静な顔でこう言われたらどうでしょう?

「あなたは私と付き合うと、いろいろ得をすることが多いですよ。なぜなら私は勉強ができるからです。宿題のお手伝いもできますよ」

お付き合いしたいと思いますか? あまり心が動きませんよね。

プレゼンも同じです。「伝えたい想い」が強いほど、緊張は激しくなります。身体の動きが悪くカチコチになるのは、人並みはずれた強い想いを持っているからなのです。だから、緊張するのは当たり前なのです。そして相手に想いを伝えるためには、緊張していなければいけないのです。

■「練習すれば緊張しない」はウソ

プレゼンの目的は、聞いた人が感動して、あなたが正しいと信じる方向に行動を変えること。その目的を達成するためには、緊張をなくすのではなく、緊張を活かすことが大切なのです。

これまでは、「緊張すれば失敗する。緊張は努力で克服するもの」と教えられてきました。

「緊張は悪いもの」と考えられていました。これでは、宝物をわざわざ捨てているようなものですから、緊張を活かせないのは当たり前です。大事な本番にのぞむとき、緊張で悩んでいるあなたは、正しい緊張の活かし方を知らないだけなのです。

「たくさん練習して経験を重ねれば、緊張しなくなる」はウソです。

「緊張を克服するには練習しかありません」というのは、世の中で定番のアドバイスです。

私のもとにも、「練習では上手くできるのに本番で緊張してしまい実力を発揮できない」と悩まれて来られる方が多くいらっしゃいます。

断言しますが、練習しても緊張はなくなりません。グリコに必ずおまけが付いているように、緊張する人にとって、緊張は「プレゼンにもれなく付いてくるもの」だからです。「練習を重ねれば、心臓がドキドキしたり、頭がボーッとなったり、胃が痛くなったりという辛い症状がなくなり、リラックスしながら悠々とプレゼンができる」と思ったとしたら、それは大間違いです。

■経験豊富な社長でも「本番で緊張する」

緊張する人は、一生懸命勉強したときほど、逆に試験で緊張するようになります。勉強した量や質に対して、自分の期待値が上がりすぎると、緊張は激しくなります。勉強すればするほど、自分の中に「自分に期待する聴衆」が増えていき、「期待に応えなければ」とプレッシャーをかけるのです。

こういう人は、勉強しなければ、緊張が消えます。私はまったく勉強しなかったときはテストで緊張もしませんでした。しかし当たり前ですが、勉強しなければ成績は悪くなります。緊張をなくそうとして勉強しないのは、本末転倒ですよね。

「緊張して話せないのは、練習が足りないから」という言葉に騙されないでください。

人前で話すことには慣れているはずの経験豊富な40代、50代の社長さんや部長さんが「本番で緊張する」と悩まれている様子を、私はたくさん見てきました。年齢が上がり、さらに職位も上がれば、失敗できない立場になるために会社からの期待も大きくなり、プレッシャーはどんどん大きくなるのです。人前でガタガタ震えている姿はできれば見せたくないし、そんな姿を見せてしまったら次の日から社員や部下への説得力も半減してしまうと思うのも当たり前かもしれません。

■「緊張している」を認めるのが第一歩

経験を積み重ねれば積み重ねるほど、緊張は激しくなります。

子供がほとんど緊張しないのは、経験がないからです。私は以前、ピアニストとして小さな子供にピアノのレッスンをしていました。発表会になると、幼稚園生や小学校低学年の子供たちは、緊張もせずにケロリとして舞台から帰ってきます。それが、年齢が上がればだんだん緊張するようになり、練習と本番の出来が変化するようになってくるのです。音大卒業生の演奏会でも、緊張が激しいのは新卒の20代より、40代50代の先輩方でした。

でもがっかりする必要はまったくありません。先ほどお伝えしたように、緊張は、人の心を揺さぶり、行動を変えることができる大事なものだからです。

私のコンサルティングのお客様でなかなか上達しない方には、共通点があります。それは「私、緊張しません」と緊張を否定されることです。リーダーの立場まで上りつめる方というのは、責任感の強い方が多いものです。世間では「緊張するのは弱虫」と思われているので、「緊張するようでは、リーダーは務まらない」と考えて、緊張を認めたがらないのです。でも緊張を認めなければ、緊張はあなたの味方にはなりません。

まず「緊張している」と認めなければ、緊張は活かせません。「私は緊張する。だから良いプレゼンができるんだ」くらいの開き直りと覚悟が必要なのです。

この連載では、緊張というあなたの才能を活かして、人を動かすためのプレゼンをする方法を紹介していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

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永井 千佳(ながい・ちか)
トップ・プレゼン・コンサルタント、ウォンツアンドバリュー 取締役
桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。極度のあがり症にもかかわらず、演奏家として舞台に立ち続けて苦しむ。演奏会で小学生に「先生、手が震えてたネ」と言われショックを受ける。あるとき緊張を活かし感動を伝えるには「コツ」があることを発見し、人生が好転し始める。その体験から得た学びと技術を、著書『緊張して話せるのは才能である』(宣伝会議)で執筆。経営者の個性や才能を引き出す「トップ・プレゼン・コンサルティング」を開発。経営者やマネージャーを中心に600人以上のプレゼン指導を行っている。 また月刊『広報会議』では、2014年から経営者の「プレゼン力診断」を毎号連載中。50社を超える企業トップのプレゼンを辛口診断し続けている。NHK、雑誌「AERA」、「プレジデント」、「プレシャス」、各種ラジオ番組などのメディアでも活動が取り上げられている。その他の著書に『DVD付 リーダーは低い声で話せ』(KADOKAWA /中経出版)。永井千佳オフィシャルサイト Twitter:@nagaichika

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(トップ・プレゼン・コンサルタント、ウォンツアンドバリュー 取締役 永井 千佳 写真=AFP/時事通信フォト)

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