"IT長者の儲けすぎ"は社会の活力を奪う

プレジデントオンライン / 2019年2月10日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/nopparit)

大学時代のルームメイトがマーク・ザッカーバーグだったことから、フェイスブックの共同創業者となり、20代にして富裕層となったクリス・ヒューズ。その後、政財界で存在感を見せるが、自分のように「たまたま運がよかった人間」が冨を恒久的に独占することに疑問を感じるようになる。彼が提案する「勝者総取り社会」の改革案とは――。

※本稿は、クリス・ヒューズ著『1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■オバマの選挙キャンペーンで指揮を執った

2013年5月、僕はアトランタの屋内競技場、ジョージア・ドームの中央に設けられた木製ステージの演壇の横に立ち、ジョージア州立大学の学長が、その年の卒業式に列席した学生とその家族、計2万人の聴衆に僕を紹介してくれるのを聞いていた。

「クリスは2004年に起業家としてキャリアを開始し、ハーバード大学のルームメイトとともにフェイスブックを設立しました」と彼は言った。「2007年にはバラク・オバマの選挙キャンペーンでオンライン戦略の指揮を執りました」。学長はあといくつか僕の業績を挙げ、聴衆は割れんばかりの拍手で応えた。僕は自分の人生で最大の観衆にスピーチをするために演壇に上がった。一瞬、ロックスターになったような気分を味わった。

そんな栄光もつかの間のことだった。2012年に、僕は100年ほどの歴史をもつ雑誌『ニュー・リパブリック』を買収し、この由緒ある組織を導き、デジタル時代における印刷媒体の新しいビジネスモデルを見出そうとした。それまでの華々しい成功から一転、このときの失敗は深刻で明白で早かった。

■一夜にして「時代の寵児」から転落した

僕は過剰投資を行い、現実味のない目標を設定し、困難な転換を進める忍耐力に欠けていた。1年後、かつて賞賛された僕のデジタルスキルや手腕は、『ワシントン・ポスト』や『バニティフェア』で僕をペテン師呼ばわりする輩の目には何の価値もなくなっていた。

これが転機になった。僕に長年注がれていた表面的な賛美は、本物の僕ではなく、人が僕にこうあってほしいと思う虚像に向けられているという疑念は、確信に変わった。人は「フェイスブック共同創業者」という肩書きを見て僕を天才だと思い込んだ。

ビジネス誌の『ファストカンパニー』は、「オバマを大統領にした若者」という見出しをつけて、僕を表紙に載せたりもした――まるで僕がたった1人でやってのけたかのように。砂上の楼閣が崩れ始めると、僕の物語の「運の力」だけが注目され、それ以外のすべてが無視された。

僕は一夜にして時代の寵児から、マーク・ザッカーバーグの幸運なルームメイトに転落した。真の姿は、この両極端の間のどこかにある。

■普通の努力家が「超富裕層」になれた3つの要因

幼少期、僕の物語はまるでアメリカンドリームの映画のように展開した。僕はノースカロライナ州の小さな町の中流階級の家庭に育った。勉学に励み、奨学金を得て有名な進学校に通い、ハーバード大学へ進んだ。2年生のときにルームメイトとフェイスブックを立ち上げ、この会社とのちのオバマの選挙キャンペーンでの成功で、持ち上げられたり叩かれたりした。

フェイスブックのIPO(新規株式公開)で莫大な資産を手にした。出世の階段を駆け上がり、与えられたすべてのチャンスをものにした。そして僕はとても幸運だった。幸運といっても、マーク・ザッカーバーグのルームメイトだったことだけじゃない――それよりずっと大きな力が働いていた。

過去40年間にアメリカで下されたさまざまな経済的・政治的決定が、「1%の人たち」とひとまとめに呼ばれる少数の幸運な人たちに、空前の富をもたらしている。この国は、グローバリゼーション、急速な技術進歩、ファイナンスの成長という3つの強力な経済発展の要因を生み出し、支えてきた――この3要因が、ラリー・ペイジやジェフ・ベゾスなどの大富豪の台頭をもたらしたのだ。

■3年間の労働で500億円以上稼げる異常さ

僕らの会社が寮仲間のアイデアから数千億ドル規模の資産をもつまでに成長したのは、アメリカが爆発的成長を生み出す豊かな環境を企業に提供しているからだ。グーグル、アマゾン、フェイスブックが極端な例だとしても、そうした企業が少数の選ばれし者にもたらす莫大な富は、世間で考えられているほどまれなものではない。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Andrei Barmashov)

アメリカの不平等は、いまや世界大恐慌が始まった1929年以来最悪の水準に達し、今後も悪化の1途をたどると見られる。巨大企業と富の集中を生み出したまさにその環境の下で、労働者は経済機会から本来期待できるはずの利益をますます得にくくなっている。

データによれば、アメリカ人は以前と変わらず勤勉に働いているのに、暮らし向きはまるで楽になっていない。ほとんどのアメリカ人が、自動車事故や入院などの、たった400ドルの緊急出費も捻出できないのに、僕は3年間の労働で5億ドル(約550億円)を手にした。そんなことが可能になる社会はどこかが根本的にまちがっていて、それは解決されなくてはならない。

■世界は20世紀初頭に逆戻りしつつある

われわれがいま足を踏み入れようとしているのは、鉄道王や海運王が空前の財を成した20世紀初頭のような騒乱の時代だ。あの進歩主義時代の先進的なリーダーたちにならって、われわれも斬新で新しいアイデアを広く取り入れなくてはならない。

彼らは所得税を導入し、上院議員の直接選挙を施行し、選挙運動への企業献金を禁止し、女性に参政権を与え、最低賃金や老齢年金のような労働者保護の下地づくりを進めた。極端な不平等を解決するためにいま求められているのは、こうした大胆な施策だ。

富の格差の最も有効な解決策は、最もシンプルなものである。すなわち、最も必要とする人たちに現金をわたす。

僕が提案している「保証所得(ギャランティード・インカム)」という手法は、革新的で、なおかつきわめてわかりやすい考え方だ。年収5万ドル未満の世帯の成人労働者に、月500ドルの最低所得を保障すれば、9000万人のアメリカ人の生活を改善し、2000万人を一夜にして貧困から救うことができる。

賃金労働者だけでなく非正規労働者――幼い子どもをもつ親、高齢の親の介護をする人、学生など――にも分け隔てなく現金が給付される。そしてそれを負担するのは幸運な「1%の人たち」でなくてはならない。

■「前の世代よりも少しよい暮らし」という希望がない

僕と同性のパートナーである夫は今年、第一子となる男の子を迎える予定だ。息子が暮らすことになるこの世界と、彼が占めることになる恵まれた立場のことを、僕はとても憂慮している。

彼はマンハッタンのグリニッジビレッジで育つことになる。もとはアーティストやクリエイティブな人たちが多く住む地域だったが、いまでは上位1%に属していなければ住めなくなりつつある。彼は僕の生家よりずっと広く立派な家に住み、お金で買える最高の食事や教育、医療を与えられるだろう。だがこうした恵みも、不安定と貧困が蔓延する国では何の価値ももたない。

資本主義の潮流は否応なしに不平等へと向かうため、市場を富裕層だけでなく万人のために機能させるには、不断の警戒が欠かせない。これは重要なことだ。なぜなら、ほとんどの人が基本的に公正な世界を望んでいるからであり、また近年のペースで富の集中が続けば資本主義の崩壊を招きかねないからでもある。富裕層の投資ポートフォリオに集中したマネーは、巨大ヘッジファンドの高度な取引操作にとらわれ、最も多くの人に恩恵を与える生産的な市場に流れなくなる。

もしかすると万事がうまく運び、誰もが豊かさを分かち合える世界を息子たちが受け継ぐこともあり得る。だがより恐ろしく陰鬱なのは、富裕な地主階級が困窮する大衆を支配していた、昔のヨーロッパの文明社会のようなアメリカになる可能性だ。

アメリカの活力も起業家精神も、そんな世界の前では萎えてしまう。われわれには軌道を修正する力がある――そして実際に修正した実績がある。

■財源は「上位1%の富裕層」への課税

あまりにも大きく大胆なアイデアだからという理由で、保証所得を擁護したがらない人もいる。もし導入されれば、労働者支援のために政府にできると思われていることが大きく広がることはまちがいない。それには莫大な費用がかかり、最富裕層への新たな課税が必要になる。試算によれば上位1%の富裕層に「勤勉なアメリカ人の所得と同じ税率」まで増税するだけで、財源はすべて賄える。

いまの政治が守りの体制に入っているからといって、より安定した正しい未来を構想し、実現することを放棄してはいけない。慎重になりすぎた政策がどんな結果を招くのかを、われわれは近年目の当たりにしてきた。また一丸となって目指すことのできる勇壮な野心が必要なことも、われわれは学んだ。大胆なアイデアを、馬鹿げているから、突飛だからという理由で避けていると、ポッカリ空いた穴をいたずらな脅威論や排外論が埋めてしまう。

ドナルド・トランプがこれまで進歩主義的価値観を攻撃してきたせいで、僕らのような左派の多くは、社会的セーフティネットを排除しようとする試みや不正に抵抗し、つねに守勢に回っているように感じている。だがこれは重要な仕事であり、僕と夫、多くの友人たちが生涯を捧げると決めた仕事だ。

そして守勢に立つだけでなく、この国をどんな国にしたいかという夢や希望に訴える、大胆な解決策を攻撃的に追求しなくてはならない。目先の政治的闘争がどんなに重要であっても、それにとらわれるあまり、大きな夢をもち、誰もが繁栄を謳歌できるアメリカ経済を構築する仕事をおろそかにしてはならない。

■民主主義の基盤そのものが脅かされている

ニューエコノミーの恩恵を最も受けている人々は、経済の公平性ということについて大胆に考える特別な責任を負っている。

フェイスブックのIPO後、僕と夫は30歳にもならないうちに数億ドルの資産を手にした。そのとき、資産の大部分をより公正な世界を目指す取り組みに捧げようと決めた。そのために、僕らはこれまでさまざまな道を歩んできた。直接の慈善活動や政治活動もあれば、高級ジャーナリズムの柱を支える試みといった、思いがけない脇道もあった。成功したものもあれば、そうでないものもあった。

だが民主主義の基盤そのものが脅かされているように思われるいま、僕らはこの責務の緊急性をひしひしと感じている。保証所得を求める闘いと、それと並行するセーフティネットの防衛は、われわれがいま立ち向かわなくてはならない、最も喫緊で重要な課題だと考える。

■息子には「選ばれた少数者」の真実を伝えたい

もしも僕らの息子が、ほかの人や周りの世界に対して自分が負っている責任を理解せずに育てば、僕は親として失格ということになる。彼が大きくなったら、僕が数十億人のコミュニケーションの方法に革命を起こした企業の草創期に、そしてアメリカ初のアフリカ系大統領を選出した選挙キャンペーンに関わっていたことを教えるつもりだ。

クリス・ヒューズ著『1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法』(プレジデント社)

僕が犯した過ちについても正直に語るつもりだ。僕がときとして野心にとらわれたことを打ち明け、理想主義的な目的を実現するために地道な手段をとることを恐れないよう、教えるつもりだ。彼の祖父母がどこでどうやって育ったか、僕を養うためにどんなにがんばって働いてくれたか、どんな価値観を僕に伝えてくれたかを、彼に話して聞かせるつもりだ。彼らの職業倫理と、自分たちに与えられた世界をさらによくしようとする熱意を息子が学んでくれることを願っている。

そして彼には僕の考える人生の真実を語るつもりだ――僕は運がよかったのだと。僕ら家族が豊かなのは、僕の優秀さや数十年間の努力の賜ではなく、21世紀初頭のニューエコノミーが僕らのような選ばれた少数の者に、思いがけない大収入を一夜にして与えたからなのだと。

また、僕らの富を生み出したのと同じ要因が、ほかのアメリカ人の成功を阻んでいるのだと。そしてほかの人たちに公正なチャンスを与えるために、僕が残りの人生をかけてきたことを伝えられればと願っている。

僕らには長い道のりと多くの仕事が待っている。政策文書を書き、予算を詰め、試験プロジェクトを開発し、キャンペーンを展開しなくてはならない。だがその道の終着点には、安定した着実な収入がもたらす自由と尊厳をすべてのアメリカ人が享受できる、そんな国が待っている。

この仕事を始めるべきときは、いまだ。

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クリス・ヒューズ(CHRIS HUGES)
フェイスブック共同創業者
ハーバード大学でルームメイトのマーク・ザッカーバーグほか3人とともに、フェイスブックを創業。広報やカスタマーサービスを担当した。その後フェイスブックを去り、2008年のアメリカ大統領選挙でバラク・オバマ陣営のソーシャルメディア戦略チームを率いる。2012年、老舗のリベラル雑誌『ニュー・リパブリック』を買収。2016年に同社を売却後、友人のナタリー・フォスターとともにEconomic Security Project(ESP)を立ち上げる。ニューヨーク州とカリフォルニア州のスタートアップ企業の投資家/社外取締役でもある。

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(フェイスブック共同創業者 クリス・ヒューズ 写真=iStock.com)

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