萩本欽一"若くいる秘訣は気づかないこと"
プレジデントオンライン / 2019年3月2日 11時15分
■欽ちゃんが大学に入学した理由
【小池】萩本さん……いや、欽ちゃんと呼んでもいいのかしら?
【萩本】もちろん。欽ちゃんと呼んでもらえたほうが僕は嬉しいんですよ。
【小池】(笑)。じゃあ、改めて、欽ちゃん。今は駒澤大学に通っていらっしゃるんですよね。
【萩本】そうです。こう見えて、大学4年生ですから。
【小池】どうして今になって大学に行こうと思ったんですか?
【萩本】70歳になって、いよいよ爺さんになってくるなと思ったとき、どういう人生を送ろうか、改めて考えたんです。年を取ったら、だんだん自分の仲間もいなくなっていくでしょ。ちょうど同じころに東日本大震災もあって、「明日会える人がいるということが、人にとっての大きな幸せなんだ」という思いを抱きましてね。
【小池】それは本当にそうですね。
【萩本】でも、ぼくのようなおじさんが、明日も会える人がいる人生ってどんなものだろう? そう考えていたら、ずいぶん前、野球解説者の中畑清さんに呼ばれて駒澤大学で講演をしたことを思い出したんですよ。そのとき、大学のスタッフに冗談で「この大学、来ちゃおうかな」と口約束をしちゃったの。70歳になったころにそのことを思い出して、大学生になってみようかなあ、とふと考え始めたんです。
【小池】受験勉強はなさったんですか?
【萩本】知り合いに予備校の先生がいて、家に教えに来てもらいました。「先生の教え方が悪いから、なかなか覚えられない」なんて注意しながら勉強に打ち込むと、すごくはかどることがわかった(笑)。
【小池】大学に入られてから、授業にはどれぐらいの頻度で出ているんですか。
【萩本】授業は休んだことがほとんどありません。タクシーで通っているんだけれど、以前に運転手さんがぼくに気づかず、「欽ちゃんは来ているかい?」と聞いてきたことがありました(笑)。「来ているよ」と言ったら、「へえ、遊びじゃないんだねえ」と驚いていましたよ。賑やかしで大学に行くのは嫌だし、みんなへの裏切りになるから、授業は一切休まないんです。
【小池】それは立派!
【萩本】この前嬉しかったのが、野球を観にいったら、窓口で「学生料金ですね?」と聞かれたんです。これまでは「シニア料金」を払ってましたから。
【小池】窓口の方は欽ちゃんが大学生だって知っていたんですね。
【萩本】そうなんですよ。まあ、その話をテレビ局のプロデューサーにしたら、「これからギャラもシニア料金ではなく学生料金でいいですか?」なんて言うふざけた奴もいたけれど(笑)。
■名刺がないと自分を証明できない?
【小池】実は東京都でも今度、首都大学東京に「プレミアム・カレッジ」というコースをつくるんです。だから、今日はぜひ欽ちゃんにお話を聞きたかったんですよ。
【萩本】プレミアム・カレッジ――。何だか舌を噛みそうな名前だなァ。
【小池】あまりシニアとか高齢者とかつけるとどうかなと思いまして……。変えたほうがいいかしら(笑)。「100歳まで学べる」というコースなんです。
【萩本】それはまた、どうしてそういうコースをつくろうと思ったんですか?
【小池】ある人から「日本の男性のアイデンティティは、スーツとネクタイと名刺です」と言われたことがあったんですよ。定年を迎えてそれらがなくなると、誰かに会っても名刺を渡せないし、自分の社会的な立場を証明できない。それで「居場所がない」と不安になる人たちが多いそうなんです。
【萩本】ぼくは名刺なんて持ったことがないからなァ。でも、長いあいだ、サラリーマンとして働いてきた人たちは、そういう気持ちになるのかもしれない。
【小池】肩書がなくなった途端、急にエンジンが切れたみたいになって、喪失感を抱く社会というのは寂しいじゃないですか。それなら、欽ちゃんみたいに大学に行き直してみてはどうかなと。
【萩本】学生証があって、居場所があって、人との出会いもある。これほどいい場所はないですよ。
【小池】1度、社会人になった方が大学に戻って学び直し、再び社会に出て仕事をする「リカレント教育」という考え方があるんです。そうやって生涯にわたって学び、働いていく新しいサイクルを進めていく。駒澤大学で学ぶ欽ちゃんは、その素晴らしいモデルの1つだと思います。
【萩本】ぼくも大学に行って学ぶことを、自分のテレビの仕事にもぜひ生かしたいと考えているんですよ。今、仏教学科に通っていて、仏教の中にあるたくさんの「良い言葉」を学べば、自分のお笑いのアドリブやセリフにも新しい何かが生まれる気がするので。
■セーフティネットとして大学をつくる
【小池】日本では65歳以上の方を高齢者と呼びますが、今、国の高齢化率は27.7%。4人に1人が高齢者なんですね。
【萩本】東京でもお年寄りがどんどん増えてきていますよ。
【小池】ええ。東京の高齢化率はまだ23%で全国より低いんです。だからといって若い人が多いわけではありません。むしろ、これから戦後のベビーブームの世代が一気に75歳を超えてくるのが2025年に迫っています。
【萩本】それがオリンピックの5年後の東京の姿なのか。
【小池】年齢って、嘘をつきませんからね、私もよく38歳だと言い張ってるんですけど(笑)。
【萩本】知事の見た目なら38歳でもいけると思いますよ。
【小池】ありがとうございます。でも心理学者によると、出まかせの数字を言うときは3と8の数字が入るそうですよ(笑)。冗談はさておき、超高齢社会の到来は避けられない事実です。だから、東京都でも医療や介護の不安をどうするのかが大きな課題で、さまざまなセーフティネットをつくっていかなければなりません。そのなかで私が大事だと思っているのが、お年寄り自身に居場所や「社会から求められているんだ」という実感を持ってもらうこと。その中でさまざまな活躍をしていただくことなんです。そのために都はいろいろなサポートをしてまいりますが、「プレミアム・カレッジ」はその重要な試みの1つなんです。
【萩本】病院や老人ホームをつくるのと同じように、大学をつくるというのは面白いですね。
【小池】最近、大企業の技術者の方がリタイアした後、アジアの企業から「知識を提供してほしい」と退職金の何倍ものお金で雇われる事例も多いんです。せっかくの知識や経験を、日本のために生かしてもらえたら、なお素晴らしい。だから、こうした大学での試みと合わせて、技術や知識を持つ方々の起業支援も行っていきたいんですよ。
■「年寄りは厳しくすれば、やる気が出る」
【萩本】起業するときに小池さんがお尻をたたいて応援してくれたら、頑張んなきゃいけないなあ。
【小池】日本人は非常に勤勉だし、器用だし、いろんな技術を持っている人も多い。そういう人たちが会社を辞めたら居場所を失うのではなく、より能力を生かせる社会をつくっていくのが行政の役割ですよね。そのために、まず彼らの学ぶ場所をつくって、いつまでも元気でいてもらいましょう、というのがそもそもの発想。最終的にはレストランに入ったときにメニューを見るように、たくさんの人生の選択肢があるのが理想です。
【萩本】それはぼくからもぜひよろしくお願いします。でも、チョット待って。その大学はひょっとして誰でも入れるの?
【小池】入学資格は50歳以上で、在学期間は1年間。通学日数は週に3~4日で、専用のラウンジも整備する予定です。
【萩本】なるほど。でもね、お年寄りってお上の言うことには意外と逆らうところがあるから、入り口を広めにするよりも、狭くしたほうが奮起するんじゃないかな?
【小池】「誰でも入れます」ではダメかしら?
【萩本】うん。優しい言葉をかけられるよりも、厳しくされたほうがやる気が出るという人も多いですから。大学に行こうなんていう人は特にね。ぼくも「買ってください」と言われるとかえって「いらない」と思うもの。だから、「ぜひこの狭き門を通ってきてください」と声をかけたほうが、たくさんの方が来る気がする。
【小池】50人しか入れませんとか。
【萩本】それ、いいねえ。そうしたら5倍、10倍と志願者が来ますよ(笑)。「意地でも入学してやろう」という101歳が来るんじゃないかな。
【小池】なるほど。
【萩本】成績も厳しくつけるのがいいんじゃないですか。専用のラウンジも成績が「S」「A」の人しか使えません、とかやってみたらどうでしょう。そうすれば学友たちと「ラウンジ、行ってる?」「俺は17年、1度も入れなかったよ。次の試験は頑張んなきゃ」みたいな会話ができる。
【小池】お年寄りだからってなめんなよ、ってことですね。いいヒントをいただきました。大学のキャッチフレーズも、欽ちゃんにお願いしようかしら(笑)。
■若くいる秘訣は「気づかないこと」
【小池】さきほど仏教学部に通っているとおっしゃっていましたね。好きな講義はありますか?
【萩本】最近は仏教美術の授業が好きです。いろんな仏像や仏教画を見たり、夏休みには仏像を修復している仏師に会いに行って、レポートを書いたりもしました。同級生の多くはお坊さん志望なので、彼らとお寺やお墓の新しいあり方について話すのも楽しい。
【小池】大学に行き始めたことで、今まで接点のなかった人と出会って、世界が広がるのは本当に楽しいでしょうね。
【萩本】それこそお寺は日本中にあるので、彼らが卒業した後は北海道、山形、岡山、群馬と日本全国に友達が散らばっていくんです。
【小池】それじゃあ、日本中に若い友達ができるじゃないですか。東京についても詳しいでしょうし、ぜひ東京オリンピックの都市ボランティアに参加してください(笑)。最大4人1組のチームでも応募できるので。
【萩本】みんなに聞いてみます(笑)。でも若者だけではなく、講義によっては定年を迎えた社会人のお父さん、お母さんも多いんですよ。年を取って物忘れがひどくなってきても、その分だけ頭に新しい知識を入れれば刺激になりますから。もちろん勉強をし直したいという人も多いけれど、なかには「お坊さんになりたくて来た」と言う人、「家にずっといると奥さんに迷惑をかけるから、大学に通うことにした」と言う人もいます。
【小池】本当にいろいろな方がおられるのですね。
【萩本】ぼく自身もそうだけれど、定年後に大学に来る人たちの目的は、必ずしも「学ぶ」ということだけじゃない。そこが面白いところです。
【小池】大学が「人生」を学ぶ場所になっているんですね。みなさんお若くて、素晴らしい。欽ちゃんも77歳とは思えないくらい、お元気ですよね。秘訣は何ですか?
【萩本】気づかないことかな。僕はね、自分が年を取っていることに気づいたのが、70歳なの。60代のときは30代の感覚と変わりませんでした。知事だって自分の年齢に気づいてないでしょ?
【小池】ええ。38歳だと思ってますから(笑)。
【萩本】階段につまずいたとき、「つまずいちゃった。私も年だな」なんて落ち込まないし、思わない。「この階段は造りが悪いな!」と考えればいいわけ。自分の年齢に縛られなければ、いつまでも若い気持ちでいられますよ。
【小池】それはぜひ実践したいです。今日はいろいろ参考になりました。ありがとうございました。
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1941年生まれ。コメディアン。66年、坂上二郎と「コント55号」を結成。バラエティ番組や司会として活躍。冠番組が高視聴率を記録し、“視聴率100%男”と呼ばれた。2015年、駒澤大学仏教学部に入学。
小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
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(コメディアン 萩本 欽一、東京都知事 小池 百合子 撮影=原 貴彦 写真=Getty Images、時事)
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