なぜ商社マンは外国人とうまくやれるのか
プレジデントオンライン / 2019年3月1日 9時15分
■仕事熱心な人が陥る失敗
【佐藤】AIなどの技術革新が進む中で、商社の仕事が失われていくのではないかという危機感もあるのではないかと思います。その前にまず、基本的な商社の仕事の特徴を伺いたいと思います。
【國分】はい、今日はよろしくお願いします。
【佐藤】会社の総合力という観点で言えば、商社の特徴は教育にあると思います。例えば、商社パーソン(商社マン)の使うロシア語というのは、ものすごく勢いがあって、カチッとしゃべるいいロシア語です。一方、外務省ではロシア語通訳をやりたがらない人が多い。それはなぜか。もしできるようになってしまうと難しい通訳をやらされるからです。通訳はノートテイカーも兼務しますが、もし誤訳した場合はすべて責任を取らされるのです。政治家は怒るし、上司も守ってくれない。だから、みんなやりたがらないのです。商社の語学教育では、どういったところにインセンティブを持たせているのでしょうか。
【國分】例えば、中国の要人に会って、非常にきれいな中国語で会話ができるということは、ひとつのバリューだとは思います。ただ、中国語でもロシア語でも、基本的には仕事ができるかどうかのほうが重要です。
【佐藤】外務省でもいかに情報を取ってくることができるのか。どうやって相手に食い込んで、どれだけ友達をつくれるかがポイントになります。いくらきれいな言葉をしゃべれるようになっても、そこができなければダメなのです。
【國分】当社も基本的には実践主体です。どんなに発音がまずくても、仕事を取ってくる人は取ってくる。そこが肝心なのです。実践から離れたアカデミックな語学は必要ないと思っています。
【佐藤】その意味では、やはりターゲッティングした教育が非常に重要になってきます。ただ、こういうことはないですか? 外務省でも、キャリア、ノンキャリアにかかわらず、最初の5~10年くらいまでは、一生懸命仕事をするのですが、中間管理職ぐらいになってから、疑問符がつくような行動を取る人が出てきます。
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例えば、外交官の場合、仕事のために自分の給料から必要経費を支出することがあります。そうすると、上司は一生懸命に滅私奉公していると評価して、公金を付けてあげようということになる。でも、滅私奉公型の人が、いつの間にか公金で競走馬を買ったり、愛人にアパートを与えたりしてしまうことがあります。
人間の認識は非対称ですから、公金を使える立場になると、昔自分が使った分を補填してもいいという発想になってしまうのです。滅私奉公型というのは、こうした失敗につながりやすいのです。
【國分】よく「自腹を切る」という言葉がありますが、私は会社のためにかかった費用は会社が払うべきだと思っています。滅私奉公型の人の中に、何でもブラックボックス化してしまう人がいます。仕事は取ってくる。でも、どうやって取ってきたのか、よくわからないことがある。仕事はできるのですが、非常に怖い面があります。
■脈々と受け継がれる悪に対する教育
【佐藤】商社パーソンを見ていて、すごいと思うのは、教育の中に悪に対する教育が入っていることです。要するに、どのようにすれば悪事に巻き込まれないのか。ここまでは付き合ってもいいけれど、ここから先はやってはいけない。そうしたところを商社パーソンはよく見ていると思います。
【國分】規範や尺度は時代によって変わっていきます。かつては清濁併せ呑むことが必要だと言われたようなことも、今ではコンプライアンスが優先されます。私の感覚では、法律を遵守していることは当然で、そのうえにさらに、フェアかアンフェアかというところに価値基準がなければいけないと思っています。商社パーソンは個人の信念がしっかりしていなければならないのです。
【佐藤】わかります。でも、それは組織がしっかりしていなければできないことです。そうでなければ、稼ぎさえすればなんでもいいという話になってしまいます。
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【國分】だからこそ、組織は、その文化を通じて、個人のボトムラインをきちんとつくれるかどうかが重要になってきます。結局は教育なのです。
【佐藤】モスクワで日本の商社パーソンは、ほとんど事故を起こしません。事故を起こすことが多いのは、私が今まで見てきた記憶ですと、新聞記者や外交官、あとは学校の先生です。ロシアで商社の窓口になるのは、たいていがソ連時代にKGBだった人間です。だから、商社パーソンは、そういう人間と、ものすごい緊張感を持ちながら付き合っているのです。
あるとき、全国紙の幹部から「うちの記者でロシア語の堪能な奴がいるんだけど、どういうわけかビザが出ない。佐藤さん、助けてくれ」という相談がありました。管轄はロシア外務省の新聞出版局ですから、知り合いに頼んだんです。そしたら「うちの管轄じゃダメだ」と言う。どうしてかと聞くと「麻薬取締官に逮捕された過去がある」と言うのです。いろいろ調べてみると、要するに、その新聞記者は女性と遊んでいて、女性に勧められてマリファナかなんかを吸って捕まった。そこでKGBが取引を持ち出したのですが、その新聞記者は断った。だから入国禁止になったというわけです。麻薬が絡んだら、どの組織も守れません。KGBはそこを知っていて、突いてきたわけです。
モスクワにいるとそんな怖いことがいろいろあります。でも、商社パーソンにそうしたケースはほとんどありません。悪に対する教育が伝えられていると思うのです。
【國分】そうした商社パーソンの長年の経験に基づいたDNAは今も受け継がれています。でも実は、そうして勝負できた世界が、そろそろ終わりつつあると見ています。商社パーソンの均質的な発想と行動様式では、イノベーションは生まれません。様々な価値観や発想を持った人たちの多様性をスパークさせ、化学反応を起こしていかなければなりません。これからは、商社のプラットフォームに何を載せていくのか。今ある有形無形の資産を使って、次にどういった化学反応を起こしていくのか。そうした発想でやらなければならない時代に入ったと考えています。
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作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本大使館勤務などを経て、作家に。『国家の罠』でデビュー、『自壊する帝国』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
國分文也(こくぶ・ふみや)
丸紅社長
1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。75年丸紅入社。30代のときに米国で石油トレーディング会社設立を経験。2010年丸紅米国会社社長、12年副社長を経て、13年4月より現職。
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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、丸紅社長 國分 文也 構成=國貞文隆 撮影=村上庄吾 写真=AFLO)
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