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青木宣親がメジャーで学んだ自分の育て方

プレジデントオンライン / 2019年2月27日 9時15分

東京ヤクルトスワローズの青木宣親選手

海外で活躍した日本のスポーツ選手は、現地で何を学んできたのか。メジャーリーグ6年間で7球団をわたり歩いたヤクルトスワローズ・青木宣親氏は「最大の学びはマインドコントロールだった」という。イーオンの三宅義和社長が、青木氏にそのわけを聞いた――。

■メジャー6年で慣れたこと、慣れなかったこと

【三宅義和氏(イーオン社長)】日本の野球とアメリカのベースボールは大きく違うと聞きます。たとえばベンチの雰囲気なども日本とは違うのですか?

【青木宣親氏(プロ野球選手)】全然、違いますね。まずメジャーのベンチはそこら中にヒマワリの種が落ちていて、清潔じゃない。そのおかげで日本の素晴らしさも感じました。やはり海外に行くと自分が育ってきた環境が当たり前ではなかったことに気づかされますよね。日本の良さといいますか。

【三宅】メジャーだと引き分けがないので深夜まで試合が続きますよね。

【青木】そうそう。そこは本当に大変でした。深夜まで試合をしてその後に移動があって、さらに時差があると、身体的にとんでもなくきついんです。時差が2時間違うだけでも起きる時間はだいたい同じですから、けっこう響くんです。だから試合をしていても夜9時くらいになると身体が急に重くなることもありました。メジャーで6年間やりましたけど、それだけは慣れなかったです。

■なりふり構わずチームの和に飛び込む勇気

【三宅】では体調管理が重要になると思いますが、どのように気を遣われましたか?

【青木】やはり食事ですね。日本人なのでお米を食べないと力が出ないような気がしていて、1日1回はお米を食べるようにしていました。

ホームゲームのときは必ず奥さんにおにぎりを作ってもらっていたのでいいのですけど、問題なのが遠征のとき。とくに僕が3年間在籍した中地区(アメリカ中西部および南部)は日本人コミュニティが少なく、日本食レストランもあまりないので困りましたね。だから結構お世話になったのが韓国料理です。アメリカのどの都市にも韓国料理と中華料理はあるんですけど、中華料理はどうしても当たりハズレが大きいじゃないですか。

【三宅】青木さんはメジャーで7つのチームをわたり歩いたわけですが、新しい環境に慣れるコツというのは何かありますか?

【青木】どれもチームのカラーは違いましたし、強いチームと弱いチームも両方経験しました。基本姿勢としては積極的に自分をアピールするとか、どんどんチームの和に飛び込んでいくようにしていました。めちゃくちゃな英語でもいいので。

■日本の「当たり前」は海外では珍しい

イーオン社長の三宅義和氏

【三宅】外国人の輪のなかに入っていくときに心がけたことは?

【青木】愛嬌って大事だと思うので、あえてバカを演じたりしましたね。たとえばメジャーの選手って、試合後に決まったバーに行くことが多いんです。そういうところに行って普通に飲みながらちょっとバカ騒ぎして「こいつ面白いやつだな」という雰囲気を出す。短期間で心の距離を縮めたいのであれば、そういうのは大事だと思いますね。

あと、僕は2017年にヒューストン・アストロズにいるときに通算2000本安打を打ちました。そのときはメンバー全員に日本の焼酎の「いいちこ」をプレゼントしました。たまたま製造元の三和酒類の方と出会って、アメリカで広めたいとおっしゃっていたので、「じゃあ、ちょっと特別仕様のものを作ってもらっていいですか」とお願いしたんです。

【三宅】日本のお酒というと日本酒である「SAKE」のイメージが強いですからね。

【青木】そうなんです。だから「『SAKE』じゃなくて『SHOCHU』だよ」と言ったら珍しがってもらえました。そういう意味だと日本のものってアメリカ人からすると基本的に珍しいので絶対に喜ばれますよね。

カンザスシティ・ロイヤルズにいたときに妻がワールドシリーズ進出の記念で日本の扇子に「World Series 2014」と書いてチームメイト全員に配ったんですけど、チャーター機のなかで選手もその奥さんもみんなそれを使っていて、ちょっとうれしかったですね。

■最大の学びは「俺はできる」と言い聞かせる強い気持ち

【三宅】日本とアメリカで生活されて、アメリカの良さ、日本の良さといったものは何か感じましたか?

【青木】日本の良さとしては、やはり団結力がありますよね。みんなで一丸となって何かを行うといったような団結力は日本人の強みかなと思います。

アメリカの良さでいうと、選手一人ひとりがすごく自信を持っているところが素晴らしいなと一番感じました。どんなことでも「俺はできる。絶対にできるんだ」という気持ちを持っている選手がほとんどで、そういうマインドの持っていき方はメジャーで得た最大の学びだと思います。

【三宅】小さいときからそういう教育を受けたんでしょうね。

【青木】そうだと思います。それは野球の指導の仕方を見ていても感じましたね。メジャーリーグの監督とかコーチって、どんな当たり前のことであっても、本当にいいところを徹底して褒めてくれるんです。

それこそ普通のフライを捕っただけでも褒めてくれるので、はじめのうちは「一応、プロだし。もしかしてちょっとバカにされているのかな?」と思ってしまったくらいで(笑)。

でも、それってそもそもの教育の仕方が違うだけなんですね。例えば日本だとエラーをすると、エラーをしたことを責められることが一般的ですけど、アメリカだと「エラーはしたけど早くボールに行こうとしたからいいじゃないか」みたいなことを言われるんです。

そういう指導をずっと受けていると、人のマインドって変わるんです。初めはおちょくられているのかなと思った僕でも、1年、2年たつにつれてすごく自信を持てるようになって、「日本とは違う環境だけど胸を張ってプレイできるぞ」というマインドになっていきましたね。

【三宅】それは褒めて育てる教育ですね。自信は大きいですよね。

【青木】ええ、本当に。

■試合中は絶対にネガティブなことは言わない

青木「自分の中で状況が悪いときに粘れるかどうかが大切です」

【三宅】では、いま日本に帰ってこられて若い選手と接するときも、できるだけポジティブな言い方をされているんですか?

【青木】はい。試合中は絶対にネガティブなことは言わないように意識しています。何があっても「絶対に大丈夫」という言葉をかけるようにしています。もし失敗したとしても「おわったことはいいから次、次、次」と。

そうはいっても、僕の場合はバランスが大事だと思っているので、全部を褒めるわけではないですよ。だから多少は改善点を指摘するなどしますが、それはあくまでも試合が終わったあと。やっぱりプロ野球って毎日試合があるので、いかにうまく気持ちを上げられるかって本当に大事なんです。

僕もいまだに打席に立つと怖くなるときがあるんですよ。長い間野球をやっているからこそ打てないときがわかるんです。それはだいたいが疲れから来る技術的なところですが、本当に打てなくなります。要は嫌でもストレスは毎日かかるので、試合中ぐらいはなるべくポジティブにしてあげたい。そういうのは考えているつもりです。

【三宅】青木さんといえば200本安打を2回も達成されているわけですが、そのコツはなんですか。才能と努力のどちらでしょう?

【青木】両方が不可欠だと思うのですけど、メンタルもすごく大事だと思います。自分のなかで状況が悪いときに粘れるかどうか。それは打席のなかでもそうです。わかりやすい例でいうと、マイナーリーグ(日本でいう2軍)に落ちるかどうかという状況もそうです。

僕もマイナーに落ちそうな時期は何回もありました。長くやっていれば「次に声がかかるのは俺かな」という状況がわかるんですね。そこをなんとか持ちこたえながら6年間やって来られたのは、やはりメンタルの面が大きかったと思います。

■英会話の意外な効用

【三宅】メジャーとマイナーでは相当、待遇が違うのですか。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【青木】全然、違います。一度だけマイナーに落ちたことがあるのですけど、バスで12、3時間移動したり、そのままバスで寝泊まりしたりすることが普通の世界。そんな状況ですから、みんなとにかくメジャーにはいあがりたいし、メジャーに行った選手はマイナーに戻ってきたくない気持ちが強いんです。

あるときチームメートで足に肉離れを起こしていて、相当痛そうにしている選手がいて「早くトレーナーに言ったほうがいいんじゃないの?」と聞いたら、「そんなことをしたらマイナーに落とされる」と言うんです。実はその選手、マイナーで10年もプレイしてやっとメジャーに上がってきた選手なんですよ。だから、「あんなところに帰りたくない」と言って、足をテーピングでぐるぐる巻きにしてコーチの前では普通を装ってプレイをする。そういうマインドが大事なんだなと思いますね。

【三宅】世界での活躍を目指しているアスリートの後輩に、ぜひメッセージを。

【青木】やはり異なる環境にアジャストしていくために大事なことは積極性とか自信を持つことだと思うので、もしいま外国人教師の方から英語を教わっているなら、同時にそういう心構えも学んでいただけると本業でもいい結果につながりやすいと思います。そして外国の方々と触れ合うことを通して、人間的にもさらに大きくなってほしいなと思います。

【三宅】ありがとうございました。

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青木宣親(あおき・のりちか)
プロ野球選手
1982年宮崎県生まれ。早稲田大学卒業。2003年ドラフト4位で東京ヤクルトスワローズに入団。最多安打、首位打者、盗塁王、最高出塁率、ゴールデングラブ等、数々のタイトルを獲得。2度のシーズン200安打以上達成は史上初。WBC、五輪など国際大会にも度々選出。12年、米メジャーリーグのミルウォーキー・ブリュワーズと契約。7つの球団で活躍し、18年、東京ヤクルトスワローズに復帰。日本プロ野球通算打率ランキング1位(2018年シリーズ終了時点)。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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(プロ野球選手 青木 宣親、イーオン代表取締役社長 三宅 義和 構成=郷和貴 撮影=原貴彦)

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