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急所を突かれると興奮する安倍首相の性癖

プレジデントオンライン / 2019年2月13日 9時15分

自民党大会で演説する安倍晋三首相=2月10日午前、東京都港区のグランドプリンスホテル新高輪(写真=時事通信フォト)

■アベノミクスは「統計」をいじって成果を装ったのか

厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正問題をめぐって、国会で論戦が続いている。2月4日の衆院予算委員会では、安倍晋三首相が「統計をいじってアベノミクスをよくするなんて、できるはずがない」と激怒するシーンが映された。

立憲民主党の小川淳也議員の質問に答えたもので、昨年の“もりかけ疑惑”でも、国会で野党に痛いところを追及されると、安倍首相は興奮して声を荒らげる。野党の追及が的を射ているから一国の首相という立場を忘れ、思わず興奮してしまうのだろう。安倍首相の性癖である。

小川氏は2015年10月の経済財政諮問会議で、麻生太郎副総理兼財務相が毎月勤労統計について発言したことを取り上げた。厚労省はこのときの麻生氏の発言を受けてすぐに動いたというが、小川氏はそこを質した。

■「いい数字を出せ」という政治的圧力はあったのか

小川氏によると、同諮問会議で麻生氏は「(499人以下の中小)企業サンプルの入れ替え時にデータの変動があるとされている。改善策を検討してもらいたい」と話し、この発言を“指示”と捉えた厚労省は中小企業に加え、都内の従業員500人以上の事業所の調査データを補正するため、プログラムを改修した。その結果、2018年の月ごとの名目賃金上昇率が実態より高くなった、というのだ。

小川氏は「不正調査の背景には『いい数字を出せ』という政治的圧力があった」と追及。だが、麻生氏は「統計の精度向上の話をしただけだ」とかわした。安倍首相は前述した答弁に加え、「安倍政権が偽装しようとしたという結論ありきだ」と抗議する姿勢をみせた。

麻生氏の3年半前の発言が毎月勤労統計にどう具体的に影響を与えたのか。そのからくりはまだよく分からないが、どうやらキーマンは麻生氏らしい。

■焦点のひとつは「実質賃金」と「総雇用者所得」の違い

この国会論戦では、物価変動を加味した「実質賃金」と、国内の労働者の所得を合計した「総雇用者所得」の違いが焦点のひとつになっている。

実質賃金を重視する野党側は2018年の毎月勤労統計の調査事業所のうち、前年の2017年も調査対象となっていた共通事業所に絞って算出してデータ化し、「9カ月もマイナスだ」と追及している。

これに対し、安倍政権側は「総雇用者所得は、名目でも実質でもプラスで、アベノミクスの成果だ」と主張している。

野党の追及と安倍政権の主張のどちらが正しいかは専門家によく調べてもらいたいが、アベノミクスによって株式などの金融資産をもつ富裕層が恩恵を受け、給与所得に頼る大半の国民が景気のよさを実感できていないことは確かである。焼鳥屋で一杯やっていて「お客が減っている」と店主から愚痴を聞く回数は、増えるばかりである。

■「子どもを産まなかったほうが問題」が本音ではないか

キーマンは麻生氏と書いたが、2月6日付の朝日新聞がこんな社説を掲載している。

朝日社説は皮肉を込めて「発言を撤回し、陳謝したが、むしろこれが、偽らざる本音ではないのか」と書き始める。偽らざる本音とは、だれの何を指しているのか。

麻生氏の「年を取ったやつが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるが、それは間違い。子どもを産まなかったほうが問題なんだから」という発言を指す。麻生氏は3日の地元、福岡県芦屋町での国政報告会で少子高齢化に絡んでこの発言をした。しかし4日の衆院予算委員会で野党から「不妊治療を行い、つらい思いをしている人もいる。極めて感度の低い、不適切な発言だ」と批判され、発言を撤回した。

麻生氏は2014年にも同様の発言をして、やはり批判を受け、釈明している。麻生氏は懲りない性格なのだ。確信犯と言われても仕方がない。共産党の小池晃書記長は「麻生太郎さんの辞書には『反省』という言葉はない」と批判していたが、まさしく猿でもできる反省が全くできないのだから、「財務相としての適格性を疑わざるを得ない」(小池氏)と批判されて当然である。

一連の発言については、プレジデントオンライン編集部が「ウケ狙いで弱者を嗤う"失言大魔王"麻生氏」という記事(2月8日付)を出している。是非、一読してほしい。

■安倍首相が憎い朝日は、自民党も嫌う

「子どもを産むか産まないかは、個人の自由な選択によるもので、政治家が口をはさむべきではない。加えて、麻生氏の発言は、子どもを持てない人への配慮を欠き、少子化の責任を個人に転嫁しようとするものだ。看過できない」

朝日社説は麻生氏を糾弾し、さらに自民党をも批判する。

「非正規雇用が増え、低賃金や将来不安から、結婚や出産をためらう人たちがいる。子育てをしながら働ける環境も十分ではない。少子化の危機が叫ばれながら、抜本的な対策を怠ってきたのは、長年政権の座にあった自民党ではないか」

朝日社説が安倍政権を嫌っているのは分かっていたが、自民党をも毛嫌いするようになったようだ。

ただ沙鴎一歩の目には、安倍政権嫌いが高じるあまり、本来分けて論じるべき対象の与党自民党までを毛嫌いしているように見える。これでは坊主憎ければ袈裟まで憎いという構図だ。

朝日社説は「個人の生き方を支援するというよりも、国力の維持のために出産を奨励する。自民党の政治家からはむしろ、戦前の『産めよ殖やせよ』を思わせる発言が後を絶たない」とも指摘し、過去の自民党議員らの問題発言をいくつか取り上げたあと、「安倍政権は『全世代型の社会保障』を掲げ、子育て支援にも力を入れるというが、一連の発言をみれば、人権と多様性を尊重し、子どもを産み育てやすい社会を本気で築こうとしているのか疑わしい」と訴える。

もちろん、国力維持のためだけに子供を産むことを求めるのは問題だが、深刻な少子化を解決できる妙案が安倍政権にないから無理もない。だから「産めよ殖やせよ」という落とし穴にはまってしまうのだ。

ここは朝日社説が安倍政権に代わって政策を示すべきではないだろうか。

■不正調査問題の解明には及び腰と言わざるを得ない

話を毎月勤労統計の問題に戻そう。

2月5日付の朝日社説はここぞとばかり、冒頭から手厳しく批判する。

「政策決定の基礎となる統計に対する信頼が大きく揺らいでいる。政権与党は口では再発防止を誓うが、前提となる厚生労働省の毎月勤労統計の不正調査問題の解明には、及び腰と言わざるを得ない。これでは行政への信頼回復はおぼつかない」

見出しも「統計不正解明 政権与党の本気を疑う」である。

この朝日社説では手始めに「与党は、厚労省の大西康之・前政策統括官(局長級)ら、野党が求める関係者の参考人招致を拒否した」と指摘する。

そのうえで主張する。

「政策について責任をもって説明するなら現職である必要もあろうが、目的は過去の経緯をつまびらかにすることである」

朝日社説の成果かどうかは分からないが、その後、大西氏の参考人招致は2月8日の衆院予算委員会などで実施される。

■新聞の読者は「調査報道」を期待している

朝日社説は次に厚労省の特別監察委員会を槍玉に挙げる。

「厚労省の特別監察委員会がわずか1週間でまとめた報告は、その後、第三者性が疑われ、再検証を余儀なくされている。誰が検証を急がせたのか、この間の経緯も焦点だ」
「予算委には、監察委の委員長を務める樋口美雄労働政策研究・研修機構理事長が出席したが、野党の質問に『独立行政法人の理事長として招致された。答弁は差し控えたい』と繰り返した。監察委の委員長として改めて証言を求める必要がある」

当然、だれがなぜ検証を急がせたのかについての解明は必要だし、拒む監査委の委員長に証言を強いることも重要だろう。ただ、朝日新聞自らが取材力を駆使した調査報道によって解明する努力も怠ってはならない。新聞の読者はそこに期待しているからだ。

■形ばかりの検証で幕引きを急いでいるのではないか

不正調査問題を追及する朝日社説は、攻撃のその手を緩めない。

2月8日付社説でも「統計不正検証 この態勢では不十分だ」との見出しを掲げ、真相解明のために政府が総務省に新たに発足させた検証チームをこう批判する。

「できるだけ大ごとにしたくない。そんな意識で、場当たり的に対応しているように見えてならない。検証態勢の根本的な見直しが必要だ」
「政府自体が真相究明に後ろ向きではないかと見られている時に、違う役所とはいえ、職員同士による検証にどこまで理解が得られるだろう。形ばかりの検証で幕引きを急いでいるのではないか、とみられないやり方を考えることが重要だ」

「根本的見直し」といい、「幕引きを急ぐ」といい、手厳しい批判の言葉が並ぶ。安倍首相を嫌う朝日社説は、とことん統計不正の問題を追及する気なのだ。

■安倍政権批判を続ける朝日社説の絶好の攻撃材料

朝日社説は2月9日付けでも「統計不正審議 国会は責任を果たせ」(見出し)と主張する。

朝日社説は「統計不正問題をめぐる国会審議で、野党側が求めてきた厚生労働省の大西康之・前政策統括官の衆院予算委員会への招致が実現した」と書き出しながら、「大西氏の招致は真相究明の一歩に過ぎない。過去の経緯を知る当事者なども呼び、国会は引き続き解明に努めるべきだ」と訴える。

そのうえでこれまでの経緯を簡単に説明する。

「今回の統計不正が発覚したのは昨年12月13日、総務省の統計委員会が、毎月勤労統計で本来は全数調査のはずの大規模事業所のデータに不審点があることを指摘したことがきっかけだ」
「厚労省の統計部門の責任者だった大西氏は、この時期に不正を把握し、5日後に次官級の幹部らに報告したことなどを説明した」

朝日社説は「ならばこの頃には、問題が単なる統計調査のルール違反にとどまらないことを厚労省は認識できたはずだ」と指摘し、「雇用保険や労災保険の過少支給の可能性に気付いたのは年末の27日になってからだと言うが、本当なのか。この間の対応に問題はなかったのか。引き続き解明が必要だ」と主張する。

統計不正問題は、安倍政権批判を続ける朝日社説の絶好の攻撃材料となっている。それだけ問題が大きく、根深いからである。

■アベノミクスに成果があったのか、なかったのか

その勢いに乗せられ、朝日社説を2月5日付から9日付まで4本も取り上げてしまった。最後は2月9日付の読売新聞の社説を取り上げてみよう。

読売社説はその後半部で次のように解説している。

「政府は18年1年間の毎月勤労統計を発表した。賃金の伸びに物価変動の影響を加味した実質賃金は、前年比0・2%増だった。東京都で行われていた不適切な抽出調査の数値を補正している」
「野党は、調査対象の事業所を入れ替えなければ、実質賃金はマイナスのはずだ、と主張し、共通事業所に絞った調査結果を公表するよう要求している」
「取りようによって統計は様々な見方ができるだろう。経済の実態を客観的に把握し、冷静な政策論戦を心がける必要がある」

要はアベノミクスに成果があったのか、それともなかったのかだ。実質賃金がマイナスでなく、本当に伸びているのか。野党の言い分が正しいのか。野党の求める共通事業所に絞った調査だと結果はどうなるのか。

■「不正調査」と書かずに「不適切調査」とする読売らしさ

疑問が次々と湧いてくる。そこを読売社説は「取りようによって……」と逃げてしまう。新聞の顔である社説である以上、きちんと解説して説明してほしいと思う。

読売社説は中盤で「勤労統計の調査・検証は、厚労省の特別監察委員会が引き続き行い、新たに問題が発覚した賃金構造基本統計の検証は、総務省が担うことになった」と書き、その後で主張する。

「なぜ不適切な調査が長年続いたのか。隠蔽はあったのか。政府は態勢を整え、過去の経緯や背景を解明した上で、再発防止策を講じねばならない」

この主張にはうなずける。

しかし読売社説は、朝日社説のように「不正調査」とは書かずに「不適切調査」と書く。その辺りに「安倍政権擁護の新聞だ」と批判される読売らしさがにじみ出ている。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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