"転職に9回成功した人"が語る転職のコツ
プレジデントオンライン / 2019年2月14日 9時15分
■クラス替えが大嫌いだった小中学生時代
小中学生のころ、クラス替えが嫌いだった。小学4年生が終わるタイミングに合わせて、神奈川県川崎市から東京都立川市に引っ越しをしたのだが、その際も新しい学校に行くのが恐怖でたまらなかった。実際のところ、立川の公立小学校で過ごした5~6年生の期間は奇跡的に良い仲間に恵まれ、楽しい2年間を送ることができた。しかし、そこからほぼ全員の生徒が進学する同地域の公立中学では、小6時のクラスメイトが6人ほどしかおらず、なんとなく寂しさを覚えたものだ。
中学2年生になる時にもクラス替えがあったのだが、1年生の後半、絶対に一緒のクラスになりたくない生徒の名前を心の中で念じながら「○○と同じクラスになりませんように」と日夜呪いをかけていた。
最終的には、一緒のクラスになりたくないヤツと同じクラスになってしまったものの、2年生になってから初めて喋る人間も多く、新しい友達もつくることができた。そうして、それなりに楽しく中学校生活を過ごすことができたのだが、クラス替えがあるたびに緊張を強いられるような仕組みには本当に辟易して、「いっそのことクラスなんていらない!」と何度思ったかわからない。
その後、親の仕事の関係でアメリカの中学・高校に通うことになった。現地には日本の学校のような「クラス」はなく、1日7時間分の時間割のなかで、自分が選択した授業を受ける形式だった。教室には同じ科目を受講する生徒がいるだけで、そこに一切の連帯感はなかった。大学と同じようなものなのだが、これは非常に居心地が良かった。
■新しい環境に飛び込む恐怖
結局、私が苦手なのは「与えられた人間関係でうまくやる」ことなのだと思う。いい年をした大人になったいまでも、いわゆる「社会人サークル」や「異業種交流会」などに入りたいとはまったく思えない。さらに付け加えてしまうと「いまさら転職なんて絶対にできるわけがない!」と考えている。
齢45の男が新たな環境、新しい組織に入って、皆の前で「今日からお世話になる中川淳一郎と申します! これまでの経験を○○社で活かせるよう日々働く所存です。わからないこともあるかもしれませんが、その際はいろいろと教えていただければ幸いです!」なんて挨拶をしなければならない状況は、想像するだけで恐怖である。
あと、転職で来た人間の机の上にハート型かなんかの風船が浮かんでいて、先輩社員たちが歓迎の意を表すのと同時に、「気軽に話しかけてくださいね」なんてムードづくりの手助けをしてくれる会社もあるが、あれにも怖気がする……。
■「9回も転職に成功した人」に聞いてみた
私は新卒で入った会社を4年で辞めて以来18年間、一度も就職をしたことがない。恐らく自分は「転職ができない人間」なのではないかと思う。もっというと「新たに人間関係を構築するのが苦手」ということなのだろう。だからこそ、私は転職という決断ができる人のことを尊敬するし、何度も転職した経験を持つ人に対しては畏敬の念にも近い感情を抱いてしまう。
そこで今回、9回もの転職を経験した友人のGさん(40代)に、3つの質問を投げかけてみた。どれも「転職をしたいと思えない」「新しい人間関係構築が苦手」な自分にはなかなか意図が想像できない、素朴な疑問ばかりである。
Q1.なぜ転職を何度もするのですか?
A1.「好条件を提示された」とか「現職の事業縮小や組織の解体で転職を余儀なくされた」とか「やりたい仕事が、その会社にあった」など、理由はその時々によって異なります。ただ、「転職」は常に選択肢のひとつとして考えているので、結果的に何度もしてしまった、という形になっています。
Q2.毎回、新たに人間関係を築くのは苦じゃないのですか? 新しく知り合った人といかにして仲良くなるのですか? その際の工夫はありますか?
A2.苦にはなりません。というより、苦だと思ってはいけません。人間関係の構築は仕事をする上で最も大切なことですし、それがうまくできないと、すぐに人間関係が原因で仕事が円滑にまわらなくなり、また転職せざるを得ないということにもなりかねません。
良い関係を新しい同僚とつくるためにいちばん重要なのは、最初の1カ月間で、とにかく社内のいろいろな人と、自分から積極的に会話をしていくことだと思います。最も簡単にできるのは、自分が“新しく来た人”であるうちに、周囲の人々にできるだけいろいろな質問をしてみるということでしょうか。業務の流れや社内の文化がわかりますし、環境にも溶け込みやすくなります。
Q3.転職をするにあたって、何か助言はありますか?
A3.基本的に、転職は「最後の手段」だと考えるほうがいいと思います。自分がやりたい仕事、得られる待遇、その他、自分が仕事に求めているものに対して、いまよりも早く近づくことができる――そう確信できたときに「転職」というカードを切るのが理想的でしょう。
逆に「転職しようかな、どうしようかな」などと悩むくらいなら現職にとどまるほうが、結果的には良い結果につながると思います。転職はあくまでも手段であり、目的ではありません。目的にしてしまった瞬間、失敗になるリスクはぐんと高まります。また、転職したら「前職の話」は(「どうしても話してほしい」と言われた場合は別ですが)極力しないほうがいいです。過去は振り返らず、前だけを見てください。
■転職を成功に繋げる秘訣
う~む、なるほど。何度も転職を経験し、そのたびにキャリアアップ、収入アップを実現してきたGさんだからこそ言える話ばかりである。
結局Gさんには「ステップアップしなくちゃ!」みたいな焦りが一切なく、「その時々の最適解が転職だった」ということで建設的に進路を選択していることがよくわかる。A2で出てきた「人間関係」の面については、これだけ多くの転職を経験した彼でもそんな配慮をしていたのか! と驚くとともに、やはり「私にはできない」と暗澹たる気持ちになるが……。
さらに、何度も転職できる人は以下の優れた点があると感じている。
【1】「立つ鳥、跡を濁さず」を徹底している
【2】面接を毎回通過できている
だいたい、転職というものは業種が同じか、職種が同じ会社に移るもの。となれば、共通の知り合いも多いわけだから、業界に悪評が立っていたりしたらなかなか転職などできないだろう。実際、Gさんに関しては悪い評判を一切聞かないし、毎回、円満に転職を成功させている。つまり【1】を徹底しているのだ。
■「転職35歳限界説」は本当か
【2】についてだが、かつて「転職35歳限界説」というものがあった。35歳を過ぎたら職業人としての成長も鈍化し、アタマもかたくなってくる。さらなるキャリアアップはなかなか望めなくなるので、35歳になるまでに転職は済ませておきましょう……といった言説のことである。
しかし、Gさんは35歳を過ぎても転職を成功させている。完全に「35歳限界説」を覆す転職を何回も実現してきたわけだが、それは彼がキャリアを誠実に積み重ねているからに他ならない。そして、これまで属してきたいくつもの会社で得たものを確実に自身の血や肉としてきた。そのような姿勢が、人懐っこい人柄と合わせて面接でも評価されたであろうことは、想像に難くない。
■転職できないヤツはダメなのか
Gさんの素晴らしい転職歴については私も素直に称賛の声を送りたいが、一方で、一般論としては「焦って転職という道を選択してほしくない」と考えている。
とりわけ若い方に顕著なのだが、新卒で入った大企業に身を置き続けていると「この環境は“ぬるま湯”だ」などと感じ、過剰に危機感を抱いてしまう人がことのほか多い。そして、社歴2年目、3年目で転職した大学の同期のことを「厳しい環境に身を置くスゴいヤツ」といった調子で“特別な人”扱いをしたりする。
「自分は、出身大学が偏差値上位だったがゆえにこの人気企業に入れたが、転職を成功させた偏差値下位校出身の同期のほうがよほど向上心を持っていて、ビジネスマンとして優秀なのではないか」「転職をしない限り、私はここで“ぬるま湯サラリーマン”としてぬくぬくとしたビジネス人生を送り、いつしかこの会社でしか通用しない無能になるのでは」――そんなふうに考えて、不安を募らせてしまうのだ。
■同じ会社で働き続けることも「能力」
そうした気持ちになるのもわからなくはない。しかしGさんにしても、ことさらに転職をすすめているわけではないし、以前、私に「転職はしないに越したことはないですよ」「自分はたまたま転職の回数が多いだけ」とも語っていた。
ここで強調しておきたいのは、Gさんが持っているような高い「転職能力」は確かに素晴らしいものだが、その能力を持っていないとしても、社会人としての評価が下がるわけではないという点だ。
仮に一度も転職しないまま、ひとつの会社や役所に勤め続けて定年を迎える――そんな人生を送ったら、その人のことはどう評価すべきなのだろうか。言うまでもなく、それはそれで素晴らしいことだ。ひとつの組織で粛々と業務にあたり、無事にその職務を全うした。これは十分、称賛に価する。
■コミュニケーション能力が苦境を救うこともある
対して、私のようなフリーランスの場合は、基本的には雇い主(発注者)も自分も「ゆるい付き合い」で繋がっているケースが多い。担当者と気が合えば長く続く関係が培われたりもするが、その人が転職してしまうと、わりとあっさり付き合いが終わってしまうことも少なくない。
お互い気が合わなければ一回きりの仕事で簡単に縁が切れたりする一方、しばらく付き合いが途絶えていた人が転職をしたり、社内で出世したりして、久しぶりに仕事を振ってきてくれたりすることもある。
結局のところ「仕事がうまくいくか、いかないか」というのは「人間関係が良いか、悪いか」が最も大きなファクターになっていることが多い。人材の評価基準として賛否両論ある「コミュニケーション能力」だが、私は案外、重要ではないかと考えている。
「コミュ力が高いだけで実務能力は大したことがない人材」などと揶揄する向きもあるが、実際のところ、コミュニケーション能力が高ければ、難局に陥っても乗り越えられる場面はかなり多い。
■仕事は「能力」だけでなく「相性」「好き嫌い」も大きく影響
世の中の大半の仕事がチームプレイである以上、コミュ力の高さはやはりメリットだろう。前述したGさんの回答からも、それが見て取れる(もちろん、Gさんは実務能力もかなり高い方だが)。
また、手前味噌になるが、私がフリーランスとして生き残ってこられたのも、信頼できる相手には私なりに誠実にお付き合いし、拙いながらもコミュニケーションを厭わず過ごしてきたことが、多少は影響していると思われる。いや……私の場合は「相性」だけで生き残ってきたかもしれないな。とにもかくにも、長いご縁を築いてくれた取引先の皆さまには、感謝しかない。
仕事は「能力」だけでなく、「相性」「好き嫌い」がかなり影響するもの。そのあたりは意識しておいて損はないだろう。「オレはこんなに立派なキャリアを持っているのに、なぜこんにも冷遇されるのだ」みたいなことを転職先で思う場面もあるかもしれないが、単にその場のエラい人と相性が悪いだけなのかもしれない。だからこそ、どんな転職先でも活躍できるGさんのような人を、私は尊敬するのだ。
そう考えると「転職回数が多いから雇うのは危険かな……」などと考えて一概に採用を控えるような人事部は、見方を改めたほうがいいのかも。もちろん、それまでの経歴や転職理由を踏まえる必要はあるだろうが、転職経験の多さを理由に「不採用」としてしまうと、優れた人材を逃してしまうかもしれない。
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・転職に成功する人には共通するのは「仕事に関わる人間関係への配慮」がきちんとできることである。
・仕事がうまくいくかどうかは「実務能力」だけでなく、「人間関係の良し悪し」も多分に影響する。
・何度も転職に成功する人は確かに素晴らしいが、同じ職場で働き続けることができるのも同じくらい素晴らしい。
・「転職=ビジネスパーソンとしての成功」と単純に捉えないように。転職に迷うくらいなら、同じ職場で働き続けるほうが賢明だ。
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1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 写真=iStock.com)
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