子供を必ず算数嫌いにする"NGな教え方"
プレジデントオンライン / 2019年2月16日 11時15分
※本稿は、「プレジデントFamily2019年冬号」の掲載記事を再編集したものです。
安浪京子さん
カリスマ中学受験家庭教師。大手塾で算数を担当し独立。これまでに多数の親子を難関校はじめ志望校に導いた。3年先まで予約が埋まっている。
杉渕鐡良さん
スーパー小学校教師。やる気を引き出す授業に定評があり「教育の鉄人」と呼ばれている。現在は東京都北区梅木小学校教諭。
■■NG声かけ1 「なんでわかんないの!」
「前に習ったはずなのに」「授業中先生の話を聞いていないかもしれない」などの思いも出てきて口にしやすい言葉だが……。
「高学歴の親御さんに多いですね。自分は子供時代に解けたはずなのに、なぜわが子は解けないのかといらだつのでしょう。結構きつく言う親御さんもいますが、子供は責められていると受け取り、萎縮しちゃいます」
と中学受験をする数々の家庭をサポートしてきたカリスマ家庭教師の安浪京子さんは言う。大事なのは、責める口調にならないように、親が子供のわからないところを一緒に探ること。子供は大人が思いもしないところでひっかかっている場合が多い。
「高学年の子が、三角形の“高さ”がどこを指すのかわかっていなかったことがありました。大事なのは、ばかにしないこと。『そんなこともわかっていないの!』ではなく『そうだったんだ?』と冷静に受け止めましょう」(安浪さん)
公立小学校で多くの親と接してきた杉渕鐡良さんも次のように話す。
「『どこで間違えたと思う?』と間違えたポイントを確認するつもりで聞きましょう。本人も気付いていないので、間違いの原因に気がつかせてやるといいですね。3ケタの計算を間違えていたら、一の位、十の位、百の位と順にやっていけば、どこでミスをしたか自分でわかりますよ」
■■NG声かけ2 「速くしなさい! 正確に!」
計算では“速く”“正確に”が大切。計算に取り組むわが子にコツを伝授するつもりで、この2大ワードを言ってしまうが……。
「言葉が非常に漠然としています。どうすれば速く、正確にできるか、具体的な方法が子供にはわからないのです。言えば言うほど、子供はあせってしまい、ミスをしたり、字が雑になったりして、さらに怒られて……」
と安浪さんは子供の気持ちを分析する。速く、正確に解くには、まず解き方や計算の手順を子供がわかっているかどうか確認すること。
「たとえば61÷9など余りのあるわり算は苦手な子が多い分野です。この問題を解くには、九九の9の段が頭に入り、かけ算をして、繰り下がりのあるひき算をする必要がある。一問を解くのに、三つものトラップがあるわけです。どこで手が止まるか見つけてください。つまずきを解消してこそ、速く正確に解けるようになるのです」
安浪さんは、高学年の子でも初めて指導する子には、繰り上がり繰り下がり、九九の6、7、8の段がスラスラできるかを必ず確認するそうだ。
「(テストや宿題で)見直ししなさい!」と言うのも子供にとっては漠然ワード。たとえば文章題なら、「答えに単位をつけたか、提出する前に見よう」など、具体的に説明するといいだろう。
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■■NG声かけ3 「あと10回やろう!」
「知識の定着には、反復学習が不可欠」と、同じ問題を解かせるのも意味はある。しかし、やりすぎてしまってはいないだろうか。
「反復学習が重要なときもありますが、すでに身についた子には面倒くさいでしょう」と杉渕さんが言えば、「子供の適性や学習進度が違うから、反復学習は万能ではありません。合わない子に簡単なことを何回もやらせると、勉強を修行のように感じてしまうでしょう」
と安浪さんも言う。
「塾や習い事の先生に反復学習の大事さを説かれ、それを忠実に守っている親御さんがいました。子供はもっと別の勉強をしたがっていたので、パズルや算数オリンピックに出るような応用問題など発展的なものを与えたらいいですよ、とアドバイスしました。算数があまり好きではない子の中には、簡単すぎてつまらないという子もいます。そういう子は、レベルの高い問題にチャレンジさせるといきいきします」(安浪さん)
反復をさせすぎて、子供が勉強自体に拒否を示すこともあるそうだ。
「そういうときは、勉強しちゃだめだよ、とやらせないのが一番効果あります。それで、お父さんとお母さんで計算の速さを競うなど勉強バトルをする。二人が目の前で楽しそうにやっていると、子供は必ずやりたくなりますよ。そうしたらしめたものですね」(杉渕さん)
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■■NG声かけ4 「Aちゃんは○○してるんだって!」
近所のしっかり者の中学生が登校前に勉強していると聞けば、わが子にも朝勉をさせてみようという気持ちが湧いてくる人もいるだろう。特にまねしたくなるのは、わが子を難関大や難関中に合格させた親御さんの手記という人も。しかし……。
「人のやり方がわが子にあてはまるとは限りません。4人の子供を東大理三に入れた佐藤亮子さんの本などを読んで、同じことを子供にやらせようとする人は結構多い。でも子供に合っていないことをさせて、勉強嫌いになったら本末転倒。本の中で一つでも自分の子供に合うものがあれば取り入れよう、というぐらいの気持ちで読むといいですよ、とアドバイスしています。それに佐藤家には4人の子供がいますが、よく読むとそれぞれに合った方法に適宜修正していたことがわかります」
と安浪さんは言う。子育てブログの家族をライバル視して、更新される情報を一生懸命追っているお母さんもいるそうだ。
「『同じ塾に通っているこの家では、算数の宿題を5分で解かせているから、うちの子も5分で!』とむちゃを強いる方もいます。理解度や習熟度は子供によって違います。わが子に最適な方法を探るのは非常に重要です」(安浪さん)
人は人と割り切ろう!
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■■NG声かけ5 「なんなのっ! その姿勢は!」
子供が机に向かって勉強している様子を見ていると、ひじを突いたり、背もたれにふんぞり返っていたりするのが気になり、ついつい、「姿勢よくしなさい」と声を荒らげたくなってしまう。
「腹が立ってしまうこともありますよね。でも、せっかく集中して取り組んでいるなら、多少姿勢がよくなくても、字が汚くてもいいのかなと思います。子供がすごく集中しているときは、机に前屈するようにしてやっているときもありますから、そういうときはなおさら邪魔しないほうがいいでしょうね」(安浪さん)
正しい姿勢で、きれいな字で、問題に集中して、スピーディーに解いてほしいとどんどん子供への注文が湧いて出てくるのが親心。だが、一度に多くの指示をされると子供も戸惑う。あれこれ注文するのは欲張りかもしれないと自覚しよう。ただし悪い姿勢の弊害もある。
「基本的に、姿勢が悪いと字が汚くなりミスが多くなります。同僚の教え子の話ですが、いつも壁に寄りかかって字を書いている子がいて、だんだん腰が痛いと言うようになったそうです。体にも問題が出てくるので、少しずつよくしていく工夫は必要ですね」(安浪さん)
背もたれがついていない姿勢矯正椅子や、姿勢を正すクッションなどを使っている家庭も多いそうだ。
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■■NG声かけ6 「1学年前に戻ろう!」
6年生のわが子がつまずいていることがわかると、1学年戻って5年生の勉強をさせようとする親はいるだろう。杉渕さんは、実は「1学年だけ戻る」というのがよくないと話す。
「戻るなら、最初の1年生に戻りましょう。6年生がダメで、もし5年生もダメなら、さらに1学年戻るということを繰り返すと子供はどんどん自信をなくします。思い切って1年生に戻り、できる体験を積み重ねて自信をつけていくのがいいですよ。急がば回れで、1年生から始めたほうが、学習には近道なのです」
自信をなくしている子にとっては、問題集に取り組むのはつらいものだ。低学年から計算を見直すなら、あるものを活用することを杉渕さんはすすめる。
「トランプです。たとえば、1から10まで使い、『2の段のかけ算』と決めます。そして9のカードが出たら、9×2で『18』と答えを言わせる。7を出したら7×2で『14』というのを繰り返すのです。たし算やひき算にも使えます。トランプを使えば、机に向かって勉強するよりもゲーム感覚で楽しく取り組めます」(杉渕さん)
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■■NG声かけ7 「パパも苦手だったんだ……」
算数に苦手意識を持つ親にありがちなのが、ミスをした子に対して「パパも算数ができなかったから、やっぱりお前も同じか……」とか「ママの子だから仕方ないわ……」と言ってしまうケース。フォローのつもりかもしれないが、子供は“自分は算数ができない遺伝子を持っている”と刷り込まれ、本当に算数が苦手になってしまうと安浪さんは警告する。
「『あなたのほうがママよりも算数が得意だから教えて』と言って、親よりできるという意識を持たせてあげるといいですよ。『すごい!どうやってやるの? 説明して』と。おすすめは、子供に先生役になりきってもらい説明させることです。家庭にホワイトボードがある場合はぜひ活用しましょう。最初はなかなかうまく説明できないでしょうが、やるうちにだんだん上手になっていきますし、人に教えることで学習も定着していきます。『どうやってパパやママに説明しようかな』『こう言うとわかりやすいかな』と考えますから、授業の聞き方も変わってきます」(安浪さん)
自信もつき、人に伝えるスキルも上がる。親子のコミュニケーションにもなるので、一石三鳥だ。
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(フリーライター 池田 純子 イラストレーション=てぶくろ星人)
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