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豚コレラを日本に持ち込む中国人のモラル

プレジデントオンライン / 2019年2月15日 9時15分

豚コレラ発生現場で作業する職員ら=2019年2月7日、愛知県豊田市(写真=時事通信フォト)

■なぜ「豚コレラ」が26年ぶりに発生したのか

豚に次々と伝染する「豚(とん)コレラ」の感染が拡大している。昨年9月、26年ぶりに岐阜県の養豚場で感染ブタが確認され、今年2月には中部や近畿の計5府県に感染が一気に広がった。

豚コレラの感染が日本で最初に確認されたのは、1887年だった。その後、一部で流行もあったが、養豚業界の取り組みと努力によって1993年以降、豚コレラの発生はなかった。

そして日本は2007年に豚コレラのウイルスを完璧に封じ込めることに成功したと宣言し、2015年には国際機関のOIE(国際獣疫事務局)から「清浄国」と認められた。

それが26年ぶりの発生である。どうしていま、感染が起きたのだろうか。これを突き止めることが、今後の防疫対策に欠かせない。

■犯人はまたしても中国である可能性が高い

最初の発生、つまり岐阜県での昨年9月の発生は、旅行者が海外から豚コレラの病原体であるウイルスを運んできたと考えられている。

旅行者がウイルスの付着した豚肉などの食品を日本に持ち込む。その食品を食べずに残飯として捨て、それを野生のイノシシが食べてイノシシの間で感染が広がり、さらに養豚場の豚に感染していったらしい。

イノシシは山中から人里に下りてきて畑を荒らして作物を食べ、ゴミもあさる。近年、こうした被害が増えている。豚コレラは豚やイノシシの間で伝染する感染症だ。当然、イノシシからブタに伝染する。

農林水産省によると、感染が確認された5府県のうち、岐阜県と愛知県の野生のイノシシ140頭から豚コレラウイルスの感染が確認されている。また養豚場などで検出されたウイルスの遺伝子のタイプは、中国やモンゴルで検出さているものにかなり近い。犯人はまたしても中国である。

■農水省は計2億1000万円の対策支援を決定

「中国・モンゴル→日本→野生のイノシシ→養豚場のブタ」という感染の連鎖を断ち切らない限り、豚コレラの新たな感染はなくならない。

第一に空港や港での検疫態勢を見直すことだ。鼻の効く犬を使って入国する旅行者の手荷物やスーツケースの中身をしっかりと検査する。旅行者には注意を呼びかけ、肉類の持ち込み禁止をきちんと伝える。旅行者にも豚コレラの流行を周知し、検疫への協力を求めたい。

一方、農水省は岐阜県と愛知県にイノシシ対策の交付金として計2億1000万円を追加支給することを決めた。3000万円でイノシシを捕獲するわなを増やし、1億8000万円でイノシシの移動を制限する柵の設置を進めるという。行政はあらゆる対策をどんどん進めてほしい。

■人には感染しないし、食べても大丈夫だ

豚コレラは感染力が強く、ブタの糞や尿、血液が付着した人の衣服や靴を介しても感染する。ただし人には感染しない。感染したブタの肉を食べても問題はない。食べた肉に火を通してあれば、他の細菌やウイルスも防げる。包丁にウイルスが付着することもある。調理器具は日頃からきちんと洗っておきたい。

ブタが感染すると、発熱や下痢、食欲不振、それにけいれんなどの神経症状を引き起こす。治療方法はない。発症したブタは最終的には命を落とす。感染が確認されたブタは殺処分される。

豚コレラに有効なワクチンはある。かつて日本が豚コレラを封じ込めることができたのは、このワクチンによる予防接種の効果が大きかったからだ。

しかし、いまワクチンを使うと、日本はOIE(国際獣疫事務局)が認定する豚コレラの清浄国から外れる。その後、清浄国に復帰するのには何年もかかってしまう。

■なぜ「ワクチンは最後の手段」と考えられているか

昨年9月の岐阜県での発生では、清浄国の認定が一時停止になった。この一時停止では最後の発生から3カ月間、発生がなければ清浄国に復帰できるが、ここでワクチンを使うと、輸出禁止が長期化し、日本の養豚業界は大きなダメージを受ける。ワクチン接種は長い目で見た場合、リスクが高い。

ワクチンを打たれたブタの肉に私たち消費者が食欲や購買欲を感じるかどうかという問題もある。

ワクチンはオールマイティーではない。農水省は、ワクチン接種を最後の手段として考えているが、沙鴎一歩はその考え方に賛成する。

農水省によれば、いまのところブタの殺処分は計1万6000頭で、これは全国で飼育しているブタの0.2%に過ぎず、需給や価格への影響もないという。何とかワクチンを使わずに今回の豚コレラ禍を鎮圧したいものである。

■「ワクチンの経口接種」の効果は疑わしい

豚コレラのワクチンは、病原体の豚コレラウイルスの毒性を弱めた生ワクチンだ。病原体を分解して作る不活化ワクチンとは違う。生ワクチンは実際にウイルスに感染させるわけだから、完璧な免疫(抗体)ができ、二度と感染しなくなる。しかし、弱毒化してあるとはいえ、病気を発症する危険は常にある。

知り合いの感染症学者から聞いた話だが、養豚業界からは今回の感染の背景にある野生のイノシシに対し、「ワクチンを経口接種すべきだ」との声も上がっているという。イノシシの好む香りを付けたワクチン入りのえさを土中に埋めて食べさせようというのだ。養豚場のブタなら注射できるが、野生のイノシシへの注射は難しいからだ。

ただ実際にワクチンの経口接種を試みたヨーロッパの国では、そんなに効果が上がらなかったそうだ。やはり野生動物は人の思い通りにはならないのである。

感染している野生のイノシシがえさを求めて養豚場に侵入し、ブタが感染した後、感染はどう広がったのだろうか。一度、豚コレラが発生すると、複数の養豚場で次々と発生するためにその感染ルートの割り出しが困難になる。だからと言って感染ルートを突き止める疫学調査をあきらめてはならない。感染ルートが分かれば、それを遮断することで感染を予防できるからだ。

■「豚コレラ」での消費者離れを食い止める方法

豚コレラの発生は今年2月6日には、愛知県豊田市の養豚場と、この養豚場から子豚が出荷された長野、滋賀、愛知、岐阜、大阪の5府県の養豚場で確認された。5府県の養豚場での感染の発生もとは、豊田市の養豚場だ。この養豚場には先月、感染が確認された岐阜県内の2軒の養豚場と取引のある飼料会社の車両が出入りしていたという。農水省はこの車両にウイルスが付着していた可能性があるとみている。

豚コレラウイルスの感染力は強く、車のタイヤや人の靴底に付着したウイルスによって感染が広まるケースがある。今後は全国の養豚場で車や人に対する消毒を徹底したい。

さらに養豚業者にとって豚コレラ感染と同じくらい怖いのが風評被害である。鳥インフルエンザが流行すると、トリ肉や鶏卵の消費が落ち込み、養鶏業者に大きな痛手となる。かつて政府は「トリ肉や鶏卵を食べても大丈夫です」と呼びかけたが、消費者離れは止められなかった。

豚コレラも同じである。政府はブタ肉の消費が落ち込まないよう対策を練る必要がある。幸いなことに、豚コレラ禍による風評被害の実害はまだ出ていない。いまがチャンスだ。消費者に豚コレラの正しい知識を学ぶよう早急に呼びかけたい。その際、豚コレラウイルスは、変異を繰り返して人の新型インフルエンザウイルスとなる鳥インフルエンザウイルスと違って、人には感染しない旨を重ねて訴えてほしい。とにかく先手、先手と対策を打つことが、感染症との戦いには欠かせない。

■獣医師らがすぐには豚コレラを疑わなかった

新聞各紙の社説はどう書いているか。

「防疫態勢に甘さがあったと言わざるを得ない。関係機関は、感染ルートの解明や養豚場の衛生管理の徹底を急ぐ必要がある」

こう書くのは2月10日付の毎日新聞の社説だ。見出しは「豚コレラの感染拡大 防疫態勢の甘さが招いた」である。この防疫態勢の甘さとは何を指すのか。

「岐阜と愛知では、豚を診た獣医師らがすぐには豚コレラを疑わず、初動が遅れた。愛知の養豚場では、豚の体調の異変を認識しながら出荷が続けられ、感染を広げてしまった」

感染拡大を許さないためには、何よりも初動が大切だ。

「豚コレラの初期症状は発熱や食欲不振などで、他の病気と区別しにくいとされる。だとしても、愛知の事例は理解に苦しむ。隣の岐阜で豚コレラが発生したことに県や農家が危機感を持っていれば、もっと迅速な対応ができたのではないか」

初動の遅れを防ぐには、日頃からの危機管理が重要となる。

■なぜ中国政府はモラルの低い国民を取り締まらないのか

毎日社説は「全国の畜産農家は、今回の感染を人ごととせず、対策の基本を着実に実施してもらいたい。他の感染症の防止にもつながる」と書き、最後に侵入が警戒されている「アフリカ豚コレラ」についても言及する。

「中国では、豚コレラより致死率が高い『アフリカ豚コレラ』が流行している。治療法もワクチンもない」
「昨年10月以降、中国からの旅客が持ち込もうとした豚肉製品から、このウイルスが相次いで検出された。水際対策の強化も欠かせない」

アフリカ豚コレラでも、中国の旅行者の問題が浮上している。どうして中国政府は他国に迷惑をかけるモラルの低い国民を取り締まらないのか。

■今後の防疫対策には「感染ルートの解明」が重要

次は毎日社説より1日早い読売新聞の社説(2月9日付)。「感染を最小限で食い止めたい」との見出しを付け、毎日社説と同じく、愛知県の養豚場の問題を指摘する。沙鴎一歩も前述した感染拡大の起点となったあの愛知県豊田市の養豚場だ。

「広域への拡散は、愛知県の養豚場が元とされる。生まれた子豚が感染し、出荷先に広がった。ウイルスは岐阜県のものと同型だという。侵入ルートを特定して、対策に生かしてもらいたい」

やはり感染ルートの解明が、今後の防疫対策に役立つ。

「子豚には出荷前、体調異変が見られた。だが、養豚場や自治体の防疫担当者は、豚コレラと認識しなかった。危機感が希薄だったと言わざるを得ない。政府は対策の重要性を改めて周知すべきだ」

毎日社説と同様に危機感の希薄さを指摘するが、獣医師が診察しても「豚コレラならこの症状」という決め手がないという問題もある。しかし昨年9月に隣接する岐阜県で発生している事実がある。それに母ブタの食欲がなくなったり、流産したりした時点で出荷を自粛していれば、一気に5府県に感染拡大しなかったと思う。

■ワクチンの投与では無症状の感染が続く恐れがある

さらに読売社説はワクチン接種についても意見を述べる。

「今月発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)を契機に、政府は、豚肉など関連品の輸出拡大を目指している。清浄国であることは貿易交渉の前提だ。日本産の豚肉はアジアで人気が高いだけに、影響が懸念される」
「ワクチンの投与は拡大抑止の手段の一つだが、無症状の感染が続く恐れがある。清浄国と再度認められるまでの手続きも長引く。まずは、初期段階の封じ込めに全力を尽くすことが肝要である」

こうした読売社説の主張に沙鴎一歩は同意したい。

まずは出入りする車両の消毒を含めた養豚場の衛生管理をしっかりと行い、感染ルートを割り出してそのルートを断ち、海外からの侵入を水際で確実に防ぐ。一連の防疫態勢を再構築しながら着実に実行していく。そうすれば日本はまた必ず、清浄国に戻れるはずだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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