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北朝鮮が核を捨てることがありえない理由

プレジデントオンライン / 2019年2月19日 9時15分

悲願の統一を果たした後、韓国より優位に立つために、北朝鮮は絶対に「核」を捨てる気はない――。北朝鮮が開発したと主張する「水爆」を視察する金正恩委員長(左から4人目 写真=AFP/時事通信フォト)

2月末、ベトナムで2回目の米朝首脳会談が開かれる。トランプ米大統領は自身のツイッターで、北朝鮮を核放棄に導けるという自信を示している。だが著述家の宇山卓栄氏は「北朝鮮が求める『段階的な非核化』にトランプ大統領が応じた場合、アメリカや日本が求める『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』が遠ざかる恐れが高い」と指摘する――。

■日本にとっては最悪のシナリオも

2月27日~28日に開かれることに決まった2回目の米朝首脳会談。前回の記事でも述べたとおり、米朝間で何らかの合意があった結果、2回目の会談が開かれるに至ったのだとすれば、その会談でアメリカが北朝鮮に対し、いくつかの譲歩を行う可能性は低くありません。

北朝鮮は1回目の米朝首脳会談後、核実験場やミサイル実験施設の一部を解体しました。そしてこのことを恩着せがましく強調しながら、「今度はアメリカが譲歩する番だ。譲歩があるまで、自分たちは一切、動かない」と言い張りました。会談後からこれまでの8カ月間、非核化に具体的な進展がなかったのは、そうした北朝鮮の要求をアメリカが断固として拒否し続けてきたからです。

しかし今回の2回めの米朝首脳会談で、トランプ米大統領は米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄を条件に、制裁緩和などの譲歩を行うかもしれません。さらに、豊渓里(プンゲリ)の核実験場やミサイル実験場の発射台の廃棄、寧辺(ニョンビョン)の核関連施設の閉鎖などを、段階的な譲歩と交互に行っていく方式で、米朝が手を打つことも十分に考えられます。実際、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、そうした北朝鮮の意思をアメリカに伝えています。これらの譲歩の中には、前回記事で詳しく述べた「終戦宣言」も含まれるとみるべきでしょう。

しかし、このような「相互段階方式」は、あまりにもリスクが大きいと言えます。アメリカや日本が最終的に求めている「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」が達成される前に、北朝鮮が制裁緩和で息を吹き返してしまうリスクがあるからです。

また、アメリカに届く長距離核だけが先行的に廃棄される一方で、日本を射程距離に収める中距離核の存在は残り、その状況が既成事実化していくというリスクも想定されます。核廃棄が完全に行われていないにも関わらず、アメリカが日本に北朝鮮への経済支援を行うように求めることがあれば、それは日本にとって最悪のシナリオとなります。

韓国の文在寅大統領がアメリカに伝えたとされる北朝鮮の「非核化」への意思とは、あくまで「未来の核能力廃棄」に過ぎず、これまで蓄積した核兵器の廃棄には触れていない点にも注意が必要です。「CVID」を実現するには、北朝鮮にまず、国内のすべての核施設・核兵器のリストを提出させなければなりません。そして何よりも重要なのが、査察・検証の受け入れです。

文大統領が盛んに求めている開城(ケソン)工業団地の再稼働や金剛(クムガン)山観光事業の再開も、絶対に認めるべきではありません。これを認めてしまえば、共同事業という名のもとに南北の陸路の往来が自由になり、物資のやり取りの監視が困難になって、一挙に北朝鮮に支援物資が流れ込んでしまいます。

国連安全保障理事会の専門家パネルが指摘した韓国による北朝鮮への石油搬入も、韓国政府は「南北協力事業プロジェクトで使用した」と弁明しています。開城工業団地が再稼働すれば、そこが制裁の抜け道として使われるのは明白で、アメリカは北朝鮮への制裁手段を事実上、失ってしまいます。

文大統領は北朝鮮への制裁を無力化させようと必死です。彼にとっては、北朝鮮の非核化を求める国連決議の枠組みを遵守することよりも、北朝鮮の意向に沿って動くことの方が大事なのです。国際社会を敵に回す韓国の行為は、厳しく批判しなければなりません。

■北朝鮮が核を保有する本当の目的とは

そもそも、北朝鮮の究極の目的は何でしょうか。一般には「金王朝の安泰と延命」と見られていますが、単に彼らが自己保身にだけきゅうきゅうとしていると見るならば、それは彼らの本質を理解していないことになります。

北朝鮮の究極の目的とは、南北朝鮮の統一です。アメリカを排除して、南を併合すること、これは金日成(キム・イルソン)の時代以来、一貫して変わることのない方針です。そのため、北朝鮮は常に韓国を意識し、同時に韓国の繁栄をうらやんでいます。韓国との経済格差がここまで開いてしまえば、本来、北朝鮮は韓国の下位に従属し、統一の際には併合される立場になってしまいます。弱小の北朝鮮が韓国と対等に、いや、韓国よりも優位に立つためには、核戦力の保有が欠かせません。

核戦力は韓国も手にすることのできない「宝剣」です。北朝鮮は貧弱な経済でありながらも、毎年国内総生産(GDP)の約3割を軍事費に当てています。しかし、いくら軍備を増強しても、豊かな経済力に支えられる韓国軍には勝てません。北朝鮮は核保有によってのみ、韓国を越えることができるのです。

核保有は軍事的な優位性を確保するばかりではなく、外交的・政治的優位性を確保することにもつながります。そのため、北朝鮮は絶対に核を放棄しません。国連安全保障理事会の専門家パネルの報告書によると、1回目の米朝首脳会談の後も、北朝鮮は北西部の寧辺(ニョンビョン)の核施設を稼働させており、そのことを示す排水が衛星等で確認されています。また、南部の平山(ピョンサン)のウラン鉱山では採掘が行われています。つまり、北朝鮮は核開発を依然、続けているのです。

■「カネより大事なもの」をトランプは理解できるか

「北朝鮮は経済成長や支援と引き替えに、核を手放すのではないか」という観測も一部にありますが、実際にはそれはあり得ないことです。北朝鮮の現体制は核開発とともに築き上げられ、核戦力の保有ということを政権運営の中軸に据えています。そんな北朝鮮にとって、核放棄は自らの存在否定に等しいものです。

トランプ大統領が「北朝鮮は核放棄と引き替えに経済的に躍進するだろう」ということを繰り返し述べ、彼らが核放棄に向かうと信じている節があるのが、とても気にかかります。「カネ勘定こそ正義」と心から信じている彼は、カネよりも大事なものがある相手を見誤っているのかもしれません。

トランプ大統領は国内政治で多くの難題を抱え、苦境に立たされています。昨年11月の中間選挙では民主党が下院で過半数を占め、ロシア疑惑などでトランプ政権を追い詰めようと狙っています。2020年の大統領選挙での再選への展望も、描けない状態に陥っています。そんな中、2回目の米朝首脳会談の舞台を政治的に利用し、外交の「華々しい成果」をアピールしようとしているという見方も少なからずあります。

「北朝鮮が核を絶対に放棄しないという前提に立つならば、首脳会談を行うこと自体が無意味だ」とする指摘は、1回目の米朝首脳会談の時からありました。残念ながら、こうした批判が次第に説得力を増してきている状況です。

■「交渉による打開」戦術が突き当たる壁

現在の危機的状況は、歴代の米政権が朝鮮半島を放置してきた結果です。それに比べれば、トランプ大統領は1回目の米朝首脳会談で、北朝鮮を交渉の場に引きずり出すことに成功しました。具体的な非核化は進展していませんが、トランプ大統領やアメリカの実務者たちの努力で、北朝鮮に関する多くのことが国際社会に明らかになり、状況の困難さに対する認識も共有されたのは一歩前進と言えるでしょう。

とはいえ、今後どのようにして、この膠着状態を打破していくのか。軍事作戦はハイリスク、制裁による締め付けにも限界があるという前提で、アメリカをはじめ国際社会は交渉による打開を目指していますが、結局「核を放棄する気がない北朝鮮といくら話し合ってもムダ」という壁にぶち当たります。究極的には、軍事攻撃で金王朝を滅ぼす以外に、朝鮮半島の非核化を実現できる手段はないのではないかと、私は思います。

トランプ大統領は2回目の首脳会談で、何らかの成果を出したいと考えているでしょう。たとえそうだとしても、北朝鮮の核の恒久化につながるような、安易な妥協や譲歩だけは避けてほしいと祈るばかりです。

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宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、著作家。テレビ、ラジオ、雑誌、ネットなど各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説。近著に『朝鮮属国史---中国が支配した2000年』(扶桑社新書)、『民族で読み解く世界史』、『王室で読み解く世界史』(以上、日本実業出版社)など、その他著書多数。

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(著作家 宇山 卓栄 写真=AFP/時事通信フォト)

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