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VC投資に躊躇する地方企業はダサいのか

プレジデントオンライン / 2019年2月22日 9時15分

第3回「福井ベンチャーピッチ」の様子(写真提供=ふくい産業支援センター)

地方の中小企業はベンチャーキャピタル(VC)からの出資を躊躇する。それはせっかくの成長機会を逃すだけではないか。そんな言葉に、福井でベンチャー支援を続ける岡田留理氏は「事業の目的は成長だけではない。家業を継いだ“後継ぎベンチャー”が、経営の自由を守ろうとするのは理解できる。ベンチャー支援の方法はひとつではない」という――。

■地方のベンチャーが抱えていた課題

「地方経済を救うのは“後継ぎベンチャー”だ」で紹介した福井ベンチャーピッチを、今月末に東京で開催する。東京をベンチマークにすることの限界を感じ、地方らしさとは何かを模索したからこそ実現できた今回の東京開催。そんな福井ベンチャーピッチという「場」そのものが、地方のベンチャー支援の縮図であり、地方の現実だ。福井ベンチャーピッチをきっかけに、地方のベンチャーのありのままの姿を、より多くの人たちに見てもらいたい。

ベンチャーピッチとは、ベンチャー企業とベンチャー支援者をマッチングする、ビジネス・プレゼンテーションの場だ。成長意欲の高いベンチャー企業が、自社の魅力や将来性について、ベンチャーキャピタルや金融機関などの前でビジネス・プレセン(ピッチ)し、スピード感をもって資金調達・販路拡大・事業連携等につなげていく。このようなピッチイベントは、都市圏を中心に盛んに開催されている。

一方、地方では、自治体を前にした補助金審査や委託事業獲得のためのコンペなど、プレゼンをする機会はあるものの、ベンチャーキャピタルや金融機関とのマッチングを目的としたビジネス・プレゼンの「場」は少ない。地方のベンチャー企業がどんなに素晴らしいビジネスモデルを持っていても、それを伝える場がなければ、ベンチャー支援者と出会える機会は限られてしまう。機会が少ないがゆえに、チャンスをつかめずに埋もれてしまうのはもったいないことだ。

■福井県内初のピッチイベントを企画

そこで当ふくい産業支援センターでは、福井のベンチャー企業がチャレンジできる場を作ろうと、県内初のピッチイベント「福井ベンチャーピッチ」の企画に着手した。

前例のないピッチイベントの立ち上げ準備は苦労の連続だったが、「後継ぎベンチャー」という地方特有のベンチャー人材の金脈を見つけたことで突破口が開け、2017年10月に第1回福井ベンチャーピッチを開催した。福井のベンチャー企業5社が登壇し、ベンチャー支援者や一般聴講者らが多数集まる、活気のある場となった。

登壇企業からは「ビジネスの視座があがった」「いつか上場を目指したい」といった前向きな声をいただき、ベンチャー支援者からも「福井にこのような場ができるとは想像していなかった。ぜひ継続させてほしい」といった応援の声が多数寄せられた。

その後、福井ベンチャーピッチは、半年に一度の定期開催を実現させることに成功。福井のような地方でのピッチイベントの定期開催は全国的にも珍しく、多方面から取材や問い合わせを受ける機会が増えていった。

■「理想」と「現実」のギャップが浮き彫りに

順風満帆に思われた福井ベンチャーピッチ運営であったが、次第にピッチイベントを継続させる難しさに悩み始めた。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/faithiecannoise)

福井ベンチャーピッチ立ち上げ時は、目の前のことで精一杯で、正直言って先のことなどまるで考えていなかった。だが、回を重ねていくうちに、東京のピッチイベントをイメージした「理想」と、地方で開催する「現実」とのギャップが浮き彫りになり、東京のピッチイベントをベンチマークにすることに限界を感じ始めていたのだ。

ピッチイベントといえば、「ベンチャーキャピタルから出資を受ける場」というイメージを持つ人が多い。私も最初は、ピッチイベントさえ立ち上げれば、東京のスタートアップのように、ベンチャーキャピタルから出資を受けて急成長することを望む企業が次々と現れると思い込んでいた。

しかし、実際に運営してみると、現実は違っていた。福井ベンチャーピッチ登壇をきっかけに、金融機関からの資金調達や大企業との事業提携、全国への販路拡大につなげた事例は多数ある一方で、ベンチャーキャピタルから出資を受けた実績だけが極端に少ないのだ。

■VCからの出資を見送る「後継ぎベンチャー」

前だけを見ている東京のスタートアップとは対照的に、地方の場合は、家業を継いだ若手経営者が業態を変えてチャレンジする「後継ぎベンチャー」の割合が大きい。先代から受け継いだ会社を守りながらも、従来のやり方から大きく舵を切り、リスクを取って急成長していこうと決断するまでには、乗り越えなければいけないハードルがたくさんある。

ベンチャーキャピタルから出資を受けることで、事業提携先の紹介やハンズオン支援を受けられるメリットなどがある反面、出資者側の意向を反映させる必要があるために今までのような自由経営が難しくなり、会社内部からの反発を受けるリスクが増す。安定志向の経営者仲間から「今のままで十分ではないか」と心配されると、外部を介入させてまで無理してビジネスを大きくする必要はあるのだろうかと、気持ちが揺らぐこともあるだろう。

結果として、ベンチャーキャピタルからの出資の打診を見送り、ピッチ登壇をきっかけに融資枠が広がった金融機関からの資金調達を選択するケースが多いというのが現状だ。

■「成長意欲がない」と皮肉を言われても

そのような結果だけを取り上げて、「地方のベンチャーは成長意欲がないから」と皮肉られることも少なくない。出資の実績だけをもって「結局、福井ベンチャーピッチは結果を出せていないよね」と嫌味を言われたこともある。そんな時はいちいち、わかってもらえない悔しさともどかしさで落ち込んだり、結果を気にして一喜一憂したりすることもあるのだが、それでもなお、私が福井ベンチャーピッチという「場」を継続させることにこだわり続けるのには大きな理由がある。

これまで、福井のベンチャー企業には、ベンチャー支援者と出会うチャンスも、ビジネスを成長させるための選択肢も少なかった。それが、1年前に福井ベンチャーピッチという「場」が立ち上がったことで、各企業がビジネスモデルを見つめ直し、成長のための選択肢を増やし、悩みながらも着実に行動できるようになっていったのだ。

地方には地方なりのさまざまな状況が背景にあって、東京のように一足飛びにできることばかりではないが、福井のベンチャー企業を取り巻く環境は確実に変化し始めている。今がまさに過渡期であり、正念場なのだ。

■勉強会や個別相談会でもベンチャー支援

そのため、福井のベンチャー企業には、福井ベンチャーピッチという「場」を通じて、直接金融だけでなく、間接金融や事業提携、販路拡大など、ビジネスを成長するための選択肢を幅広くつかんでもらいたい。今後、ビジネスの成長を決断する時に必要となるビジネスネットワークの構築をサポートしながら、次にチャンスをつなぐお手伝いをすることもまた、地方でピッチイベント運営する上で大切なことだ。

急拡大を目指す若いスタートアップが山ほどいる東京とは違い、地方の場合はベンチャーの絶対数が少ない。そのため、後継ぎベンチャーをはじめ、創業したての若者や中堅世代の起業家など、さまざまなタイプのベンチャー支援を同時並行で行う必要がある。

短期的な成果を焦らずに、経営者の状況や目的に応じて柔軟に支援できる仕組みを構築していかなければならない。そこで力を貸してくれたのが、地元のベンチャー支援者の方々だった。

現在、当センターでは、福井ベンチャーピッチを運営する傍ら、県内の上場企業の社長らを講師とした経営者向けの勉強会を行ったり、地元のファンド運営会社のベンチャーキャピタリストによる個別相談会を設けたりしている。先輩経営者の成功体験談や専門家のもつ豊富な事例を学ぶ機会を提供し、ベンチャー人材の育成支援を行っているのだ。

■ベンチャー機運を高めた「好循環」

また、福井ベンチャーピッチ登壇企業へのサポート段階では、東海・北陸のベンチャー企業を長年支援しているベンチャーキャピタリストや、福井県出身のベンチャー支援者などの力もお借りしながら、登壇企業のビジネス・プレゼンの磨き上げを指導し、さらなる成長を応援している。

現役の上場企業の社長やベンチャーキャピタリストなど、豊富な経験や専門知識をもつ多数のベンチャー支援者から具体的なアドバイスを得られることで、不安や悩みが解消され、モチベーションが上がる。その好循環が生まれたことにより、県内では今、ベンチャー機運が高まっている。

「福井のベンチャー企業を盛り上げたい」という熱い思いを核に、組織の垣根を越えて力を貸してくれた県内外のベンチャー支援者の方々のおかげで、福井ベンチャーピッチという「場」を継続することへの希望をつなげることができているのだ。

■地方ベンチャー支援の縮図になっている

東京のマネではない、地方らしいピッチイベント運営を目指しはじめた今だからこそ、4回目を迎える次回の福井ベンチャーピッチを、今月末に東京で開催する予定だ。もっとたくさんの方に福井のベンチャー企業を知ってもらいたいという思いから決断した。

数年後の上場を視野に入れている県内有数のベンチャー企業から、勉強会や個別相談を利用しながら1年かけてビジネスモデルを成長させた20代の若手経営者まで、バラエティー豊かな福井のベンチャー企業8社が登壇する。そして当日は、福井のベンチャー企業を応援する支援者も一堂に会する予定だ。

東京のピッチイベントを見慣れているベンチャーキャピタルからみれば、ともすると、福井のベンチャー企業は小粒に思うかもしれない。しかし一方で、その小さな体に秘めた大きな可能性に驚くことだろう。悩みもがきながらも着実に前に進んでいるベンチャー企業がいて、それを全力で応援するベンチャー支援者がいて、地方らしさを模索している担当者がいる。そんな福井ベンチャーピッチという「場」そのものが、地方のベンチャー支援の縮図であり、現実なのだ。

福井ベンチャーピッチ開催をきっかけに、より多くの方々に、小粒ながらもピリリと辛い、地方のベンチャーのありのままの姿をぜひ見ていただきたいと私は思っている。

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岡田 留理(おかだ・るり)
公益財団法人ふくい産業支援センター職員/特定社会保険労務士
福井県生まれ。同志社大学卒業後、勤めていた職場を出産を機に退職。子どもが1歳の時、社会保険労務士試験にチャレンジし、合格。翌年、個人事務所を開業。経営と育児と家事を両立させながら、中小企業の顧問社労士、労働局の総合労働相談員、人材育成コンサルタントなどに取り組む。2015年4月に公益財団法人ふくい産業支援センターに入社。県内の創業・ベンチャー支援業務を担当し、現在に至る。(ふくい創業者育成プロジェクト http://www.s-project.biz/)

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(公益財団法人ふくい産業支援センター職員/特定社会保険労務士 岡田 留理 写真=ふくい産業支援センター/iStock.com)

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