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"午後の眠気"を完全撃退するための睡眠術

プレジデントオンライン / 2019年2月21日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/sakkmesterke )

仕事中の眠気とどう付き合えばいいのか。スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所の西野精治教授は「働き方によって睡眠をコントロールする方法はさまざま。睡眠負債を抱えがちなビジネスパーソンは、体調管理の一環として、積極的に、正々堂々と20分ほどの仮眠をとったほうがいい」と説く――。

※本稿は、西野精治『スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■シフト勤務者の多くが体調不良を抱えている

日本ではいま、交代勤務で働く人の割合が3割近くになっていると聞いたことがあります。その多くが、睡眠障害、めまい、消化器系等の不調、勤務時間中の眠気、倦怠感などの問題を抱えているといいます。

交代勤務に伴うこうした体調不良も、「概日リズム睡眠障害」の一種です。

ただ、交代勤務とひとくちにいってもさまざまな勤務体系があり、産業による特徴もあります。2交代や3交代など夜勤のパターンによっても異なりますが、日本では、月に5~8回(週に1~2度)程度の夜勤が一般的です。

救急指定病院や入院患者さんのいる病院では、看護部門は日勤・準夜勤・深夜勤の3交代制、医師・薬剤部・検査部門は宿直勤務が多いです。

消防署、あるいは、警察署(交番)、警備業の施設警備部門などでは、いつ発生するかもしれない火事・事故・事件に備え、当番者が深夜も含めた24時間待機の体制をとっています。消防署・警察ではそのため、2部あるいは3部勤務が導入されており、この勤務体系も、2交代、3交代とよばれることもありますが、看護部門等の勤務体系とはまったく異なります。

一方、車の製造業では、昼夜の2交代(連続2交代勤務)を1~2週間交代で行なっているところもあります。

■連続2交代勤務は身体への影響は大きい

これら2交代制の利点は、深夜勤務手当を節約できること、また連続2交代勤務では需要の変動を残業(最大3時間×2)で吸収できることがあげられますが、これはあくまでも、従業員の健康問題を度外視して表面上の経済性を目的とした交代勤務です。

こういった1~2週間交代の連続2交代勤務による健康被害や、就業中のパフォーマンスの低下により経済性においてもマイナスの影響を与える可能性が高いので、今後その見直しが迫られると思われます。

身体本来のリズムにそぐわない時間帯の就業であっても、覚醒度を上げ、パフォーマンスを向上させるにはどうしたらいいか。

■ブルーライトの効果的な利用法

対策のひとつに、交代勤務の現場でも、「光療法」の活用があります。

たとえば、夜間に稼働している職場で高照度のライト、特にブルーライトを使うと、メラトニンの分泌を抑えることになるので、勤務中に眠くならないのです。

西野精治『スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣』(PHP新書)

イメージとして、野球場のナイター照明を思い浮かべてもらえばいいでしょう。ナイター照明は、非常に明るく感じます。暗いと、プレイする選手も、観客もテンションが上がりません。あの煌々とした明るさには、パフォーマンスを上げる効果があるのです。

夜にブルーライトを浴びることは、身体が本来もっているリズムのためにはいいこととはいえません。ただ、現代社会で交代勤務をまったくなくすことは不可能です。交代して夜間でも働かなくてはいけないのであれば、眠くなってうっかりミスが起きてしまうよりは、眠くならず、意識が覚醒しやすい環境をつくるべきでしょう。

その場合、朝に仕事を終えた後、さらに朝日を浴びてしまうと体内時計は完全に混乱してしまい、眠れなくなります。

■体内時計を調整できれば睡眠は取れる

ある事業所では、夜間勤務を終えた人たちに、日中は室内を意識的に暗くして過ごしてもらうようにしたところ、睡眠が改善されたという報告もあります。生体リズムには反していますが、体内時計を完全に昼夜逆転させてしまうわけです。

身体には順応性があります。逆転生活でも、きちんとメリハリをつけて新たなリズムを確立することができれば、睡眠もしっかりとれますし、覚醒時の仕事効率が劣化することもありません。

さまざまな原因で生体リズムがいったん乱れ、脱同調が起こっても、生き物にはそれを再同調させる機能が備わっています。新しい環境になんとか順応しようとするのは、生体としてのホメオスタシス機能によるものです。

■身体の順応性をうまく利用する

これをうまく利用する方法もあります。

たとえば、病院の看護職のような日勤・準夜勤・深夜勤の3交代制の場合、後ろにずらしていくほうが順応しやすいですから、日勤→準夜勤→深夜勤の順でシフトを組み、数日間で交代していくのは比較的同調させやすいのです。

しかし、製造業などに多い昼夜の2交代勤務を2週間サイクルで行うようなシフト勤務の場合、2週間ごとに脱同調を起こしている状態になります。

一方、夜勤を2日やって、休日をはさんで今度は日勤というように、短期間に大きく時間帯が変わるシフトは、身体は対応しにくいものの、脱同調の期間そのものは長くはありません。

もっとも、脱同調に対する許容性、順応性には、当然ながら個人差があります。人それぞれ、再同調のしやすさは異なります。

■健康管理への配慮は組織を映す鏡

無理なシフトスケジュールを続けていると、心身の負担となり、疲れやすく、ミスも生じやすくなります。シフト勤務者は、がん、糖尿病などの生活習慣病、うつなどの精神疾患のリスクが高まることは、厚生労働省の資料などにもはっきりあらわれています。

昨今、シフト勤務者の健康被害の問題がこれだけ取り上げられるようになっている状況のなかで、従業員の健康管理に対する配慮がどれだけなされているかは、その組織の体制を映し出す鏡のひとつともいえます。

交代勤務のために頑固な不眠症状がある際、睡眠薬を服用して眠ろうとする人もいると思いますが、私は薬の服用はあまりお勧めしません。鎮静型の睡眠薬には種々の副作用があり、日常生活に及ぼす影響、QOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)への懸念が大きいからです。

■体内時計は1日1時間ずつしか調節できない

時差ぼけも、外的な要因により身体のリズムの内的脱同調が引き起こされることから生じます。身体の順応性を示すこんな実験があります。

マウスやラットは夜行性なので、夜に活動性が高く、昼間は休息状態にあります。それを、昼間に明かりを消して、夜につけるというかたちで、突然、昼夜逆転させたサイクルにするとどうなるか。最終的には、新しい明暗サイクルに同調することができます。

ただし、体内時計は1日1時間ずつしか新しいサイクルに同調できません。ですから、6時間ずらしたら、新しい明暗サイクルに同調するのに、6日かかります。これは人間の身体でも同じです。

再同調するには1日1時間ずつしか調節できないのに、いきなり現地の時刻に合わせなら、7時間前にずらせばいいのですが、それには1週間ぐらいかかります。しかも、後ろにずらすより前にずらすほうが同調するまでに時間がかかり、長いほうに再同調するときも、よりつらいのです。

時差の幅とずれの方向は、渡航地により当然異なります。パリへの渡航でもサンフランシスコ渡航と同様にシミュレーションしてください。長期間の滞在ならそのペースで少しずつ再同調させていけばいいですが、旅行や出張だと、同調するまで7日だとすると、せっかく同調したころには帰国ということになります。

■海外出張の時差ぼけ解消方法

では、短期間の滞在の場合、どうしたら時差ぼけに悩まされずに、現地で有意義な時間を過ごせるか。

ひとつは、現地時間の朝に太陽の光をしっかり浴びることです。1日の始まりの段階でマスター体内時計をリセットさせる。光の効用で、体内時計の調節とメラトニンの分泌時間のコントロールをするのです。といっても、現地時間の夜、ただちにメラトニンが分泌されるわけではありませんが。

あるいはまた、メラトニンを直接取り入れるという方法もあります。アメリカでは、メラトニンはサプリメントとして空港などでもよく売られています。時差ぼけ調整にも役立つことがよく知られているからです。

海外旅行で、いくつかの国や都市を転々とすると、自分の身体のリズムがどこの時間に合っているのかわからなくなることもあります。

■昼食後の眠気を撃退させるには

昼食後の午後2時ごろになると、「どうもやる気が低下する」「眠気が出てくる」、こんな経験はありませんか? それを「アフタヌーンディップ」と呼びます。

昼食を摂って満腹になることで、脳への血流が減るからといわれますが、むしろ、これは体内リズムの問題です。昼食を摂ろうが摂るまいが、覚醒レベルがちょっと低下しやすい時間帯なのです。

霊長類の猿なども、この時間帯によく昼寝をしますので、私は、「アフタヌーンディップ」は、系統発生による昼寝のなごりではないかと思っています。

■メジャーリーガーがガムを噛む理由

とはいえ、昼食を食べすぎると、満腹感から気だるさが出て、意欲が低減しやすいことは確かです。ランチは適度な量にしておいたほうが、午後のパフォーマンスにはいいと思います。

アフタヌーンディップを撃退するには、覚醒系の神経伝達物質が活発になるようにすればいいのです。

たとえば、ものを「嚙む」ことは、脳を活性化させる働きがあります。ランチも、量をたくさん食べるのではなく、よく嚙んで食べることを意識すると、脳にも、消化にもいい。

ガムを嚙むというのも眠気覚ましに効果があります。メジャーリーグの試合を観ていると、選手たちはプレイ中によくガムを嚙んでいます。あれには、意識の覚醒度を高めるのと、よけいな緊張による力みをとる、ダブルの効果があるといわれています。

力んでしまうと肩や腕にへんな力が入ります。口もグッと食いしばるような感じになる。しかしガムを嚙んで顎を動かしていると、その力みが抜ける。ですから、アメリカのスポーツ選手は、ガムを嚙んでいることが多いのです。

■眠気撃退のコーヒーは“ホット”で

眠気撃退の定番といえば、カフェイン。カフェイン入りの飲み物の代表格がコーヒーで、世界中で古くから愛用されています。紅茶や緑茶にもカフェインは含まれています。カフェインは、動物の体内では構成できない植物由来の覚醒を促す物質。DNAなどの核酸成分でもあり、眠気を促すアデノシンという物質の作用に対抗します。

冷たい飲み物のほうが目が覚める気がするかもしれませんが、身体の深部体温を高めるほうが活動量を上げられるので、温かい状態で飲んだほうが効果が期待できます。

核酸は微生物も含め、すべての生物の構成成分ですので、睡眠の起源は非常に古いものだと私は考えています。アデノシンを介して睡眠を調節することは、太古から存在し、植物や下等生物から人類まで必要としてきた……などと想像を膨らませてみるのも眠気覚ましによいかもしれません。

■能率アップのためには20分の昼寝

強烈な眠気があり、能率が落ちてしまうようなら、やはり仮眠をとるのが正解です。

オフィスに、そのための仮眠コーナーが設けられていると、休憩しやすくなります。ベッドを用意したり、個室にしたりというような大げさなものでなくても、その一角だけ明かりを落とし、リクライニングできるチェアを用意しておいて、アイマスクをかけて寝るくらいの感じで十分でしょう。

なまじベッドなどがあると、つい長く横になってしまいたくなるので、20分程度の仮眠には、首や肩などをリラックスさせられる程度のシートのほうが、ちょうどいいのです。

こそこそと寝るのではなく、眠気も疲れも吹き飛ばし、リフレッシュして能率アップを図るために、積極的に、正々堂々と20分ほどの仮眠をとる。睡眠負債を抱えがちなビジネスパーソンの体調管理の一環として、もっと広まってほしい習慣です。

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西野精治(にしの・せいじ)
スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長
1955年、大阪府出身。大阪医科大学卒業。1987年、大阪医科大学大学院4年在学中、スタンフォード大学精神科睡眠研究所に留学。過眠症「ナルコレプシー」の原因究明に全力を注ぎ、2000年にその発生メカニズムを突き止めた。2005年、SCNLの所長に就任。

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(スタンフォード大学医学部精神科教授 西野 精治 写真=iStock.com)

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