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社長のトイレ掃除で、業績がよくなる理由

プレジデントオンライン / 2019年2月20日 11時15分

写真=Adobe Stock

会社が行き詰ったとき、経営者は「何かを根本から変えなくては」と思う。そんなとき、頭に浮かぶことの1つが整理整頓だろう。机周りから始まった整理整頓を極めようとすると、最後はトイレ掃除に行きつく。「トイレ掃除で会社がよくなるなんて、精神論にすぎない。効果なんかあるわけがない」と嫌う人も多いが、「トイレ掃除」を愛する経営者は少なくない。掃除で会社はよくなるのか。規模を問わず、全国の企業に掃除を指導している日本そうじ協会理事長の今村暁さんに聞いた――。

■ゴミが、ささやいてくる

昔話をさせていただきたい。

私は今、企業に掃除の指導をしているが、かつて、不登校児を対象とした塾をつくって、子供たちと向き合っていた。日本長期信用銀行に新卒で就職したあと、人材教育の仕事をしたいと思い、3年目で銀行を辞め、学習塾を始めた。不登校児に特化すれば、困り果てた親たちが集まってくるだろうと高をくくっていた。しかし、現実は甘くなかった。

まず、思ったほど生徒が集まらなかった。入塾してくれても、次の日には来なくなった。経営状態は厳しくなり、自分が困り果ててしまった。しかたないから、塾に来なくなった生徒たちの家庭訪問を始めると、ある傾向に気づく。引きこもっている子たちの部屋は、散らかっていることが多かった。

ひどい場合、散らかっているどころではない。椅子は倒れ、ペットボトルが散乱している。窓を開けないから、空気も淀んでいる。大げさではなく、これこそがゴミ屋敷だ。試しに、ある生徒の部屋を一緒に掃除してみた。すると、彼の表情がみるみる明るくなり、なんと、自ら塾にやってくるようになった。

それまでの私は、子供たちに目標や夢を与えれば、結果が出ると思い込んでいた。しかし、そうではなかった。

不登校の子たちは、何年間もゴミだらけの部屋にこもり、「もっとがんばれ」「学校くらい行け」と親に言われ続けていた。部屋にたまったゴミからも「おまえはダメなやつだ」とささやき続けられていた。完全に自信を喪失し、目標や夢なんて、まったく見えない。そんな状況だから、ゴミが吐く全人格否定のささやきを消してやるだけで、引きこもりの子たちには、大きなことだった。

■自信を取り戻す、唯一の方法

もう少し、昔話におつきあいいただきたい。

私は、塾の方針を大きく変えた。学習指導でガミガミ言うのは止め、時間も最小限にした。そして、彼らが自分をダメだと感じない、楽しい空間づくりを心がけた。とにかく、みんなで一緒に遊んだ。友達がいなかった子供たちは「やっと居場所できた」と感じてくれるようになった。

ところが、「先生のところに来たら楽しいけど、朝起きるのが面倒だから、もう来ないかもしれない。親にガミガミ言われるのは嫌だけど」とある生徒がため息をついた。私はつい、「じゃあ、うちに泊まれよ」と言ってしまった。そんなこんなで、多いときには15人が狭いわが家で暮らすことになった。思わぬ形で始まった合宿だったが、子供たちのよくない習慣がもっと見えるようになった。

写真=Adobe Stock

たとえば、あいさつをしない。「おはよう」だけは言えるよう、私から声をかけ続けた。玄関は荒れ放題だから、「靴だけはそろえよう」と、これはルールにした。また、多くの子は座る姿勢が悪かった。だから、椅子から背もたれを外した。みんな朝が苦手だから、ジョギングに誘ってみた。ついでに腕立て伏せや腹筋運動を、ゲーム感覚で競い合って楽しんだ。成長を褒めてやると、子供たちは自ら動くようになっていった。

しばらくして、生徒の1人が「プロのドライバーになりたい」と夢を語り始めた。のちに彼は、自動車関係の短大に入学し、ソーラーカーコンテストに出場して日本一になる。卒業式では答辞を読んだ。多くの生徒が、ゆっくりと自信を取り戻していった。この経験は、私にある教訓を刻み付けた。「環境と習慣を変えないと、人は変われない」と。

■「集める」のではなく「集まる」

塾をつくったころ、私は「どうやって生徒を集めるか」「どうすれば優秀なスタッフを集められるのか」と、「集める」ことばかりを考えていた。ところが、子供たちが生き生きとしていられる環境を整えたら、自然に生徒が集まるようになった。「集める」と「集まる」は、まったく違うことを学んだ。「なぜ、客が来てくれないのか」とか「なぜ、優秀な人材が集められないのか」と悩む経営者は多いが、先にやるべきことは「集める」ことではなく、「集まる」環境をつくることなのではないか。

「トイレ掃除で会社は変わるのか」という問いに対し、私は「変わる」と確信している。これまでに約200社を直接指導してきたが、掃除を徹底し、環境を変えることで、例外なく業績が上向いた。多くの会社が、「集める」から「集まる」への変化を経験している。そして、社長も社員も、よい環境のなかでよい習慣を身につけることができた会社は、大きな成長を遂げる。その代表的な事例を紹介しよう。

■みるみる美しくなった会社

福岡県筑後市に九州木材工業という社員70名の会社がある。規模は小さくても歴史があり、創業から90期以上連続黒字を続けている優良企業だ。そんな会社の社長が社員2人を連れ、私が主催する研修にやってきた。社長に話を聞くと、「全体が緩んでいる」と危機感を隠さなかった。自分なりに2年ほど掃除に取り組んでいたが、まったく根付かず、社員から不平不満が噴出したという。

「掃除大賞2018」の様子。前年に大賞を受賞した九州木材工業の角博社長が大賞旗を返還。

それもそのはずで、社員に就業時間外の「サービス」で掃除をさせ、社長自身が率先垂範で動いていない、という「定番の失敗」をダブルで犯していた。初回の研修を終え、掃除の「肝」をつかむと社長はすぐに動いた。1日丸ごと臨時休業し、会社の不用品を整理した。なんと4.6t分が会社から消えたという。さらに、就業規則を変えた。始業時間を早くし、社員に「仕事」として掃除をしてもらうようにした。

私が現地を訪ねると、応接室に社員15人くらいがそこに入り、新入社員から社長までが一緒に床に這いつくばっていた。おしゃべりしながら、楽しそうに、コミュニケーションを取りながら、みんなで掃除をする姿があった。社長が本気になり、社員がそれについてきた九州木材工業は、みるみる会社が美しくなっていった。

■営業に行くな。うちに連れてこい

社員が一丸となり、見た目にも美しくなった九州木材工業には、大きな変化が訪れた。以前は、社長が営業マンに「もっと外に行け!」と発破をかけていたが、今では「営業に行くな」と言っているらしい。訪ねてきた客が「こんなキレイな工場は見たことがない」と褒めてくれる。自信を持った社長は、「営業に行くのではなく、お客様に会社に来てもらえ」と言うようになったのだ。九州木材工業の製品は高単価でリードタイムが長いが、工場を見た客に「この会社なら信用できる」と高く評価され、主力商品の契約がどんどん増えている。

掃除大賞2018を受賞した美容室F.Paradeの社員たち。生産性を上げ、定休日を増やしながら売り上げをアップさせた。

掃除で会社がよくなる理由について、多くの人は「整理整頓すると生産性が上がって、儲かるんでしょ」「スッキリするから、仕事がはかどるんでしょ」「コスト削減できるから利益が増えるんでしょ」などと言う。ハズレではないが、すべてを表現していない。私が考える掃除とは、社長をはじめ、社員たちが会社ごとにある理念やビジョンを突き詰めて、それに沿った振る舞いを身につけるトレーニングだ。

トレーニングを積んだ人・会社がよい結果を残すのは、ある意味当たり前だ。また、トレーニングなのだから、ここまでやったら終わりというゴールはない。よい会社が掃除を続ければ、さらによくなる。最後に、掃除の場所としてトイレを選ぶ社長が多いのは、会社で一番汚れた場所を自分でやることで、社員に自分の本気・覚悟を見せることができるからだ。

(メンタルリスクマネジメント代表取締役、日本そうじ協会理事長 今村 暁 撮影=小川聡)

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