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天皇執刀医が術前にTBSラジオ聞くワケ

プレジデントオンライン / 2019年3月4日 9時15分

心臓血管外科医 天野 篤氏

2012年2月、天皇陛下の冠動脈バイパス手術を手がけて注目を集めた天野篤医師。これまでの症例数は約8200例。“ゴッドハンド(神の手)”は健在で、いまも年間約400例の手術で自ら執刀し、成功率は危険性の高い緊急手術も含めて98%を誇る。16年には順天堂医院の院長に就任した。日本一忙しい外科医は、究極の集中力を求められる手術に、いかに臨んでいるのか?

■プレッシャーを回避する仕事術

毎日5時半に起床します。PCに向かい、メールチェックや原稿のまとめなどの仕事に加えて、ECサイトでプライベートな買い物をしたり、株価を見たり。

日中は私的なことをやる時間がないので、朝にぜんぶ済ませる。その際流すのはTBSラジオです。健康関連の話題が多い生島ヒロシさんの『おはよう一直線』、時事ニュースが参考になる森本毅郎さんの『スタンバイ!』は、私にとって大事な情報源です。

患者さんには経済界の経験豊富な方たちも多いので、時事ニュースは大切です。医者は専門知識だけ詳しければいいと考えるのは間違い。患者さんと深いコミュニケーションを取るには、コモンセンスを身につけていなければなりません。ラジオのほか、新聞2紙やインターネットをざっと見て、同じニュースがどう取り上げられているのかを調べ、自分の頭の中を整理します。

出勤したら、7時半頃に会議が始まります。9時には1例目の手術が始まり、14~17時に2例目まで終了。その後は院長としての仕事に取り掛かるか、3例目を組むこともあります。

手術中の集中力維持に困ったことはありません。私は体さえ言うことを聞いてくれたら、頭はすぐにくっついてくるタイプ。ですから、短時間でいかに疲れを取るかを工夫します。

たとえば仮眠。手術の合間に自分の教授室や医局のソファで短い仮眠を取るのです。行儀が悪いですが、椅子の背もたれを倒して机に足を乗せた姿勢になると、足の位置が高いことと、ふくらはぎが冷えることによって血流が体の中に戻り、寝入りやすくなる。

事務仕事も、集中できないときは無理に続けません。仮眠を取るほどでもないときには、YouTubeのゴルフ解説番組を見ながら、10分程度アプローチの練習をするのです。そのときは仕事のことはいっさい考えません。いったんリフレッシュしてから仕事を再開したほうが、仕事の効率は上がります。

仕事は期限内に終わらせることを心がけています。出来栄えが70%でもかまいません。100%にこだわって期限を延ばすより、ひとまずケリをつける。先延ばしにすると、残した仕事とこれからやるべき仕事の2つからプレッシャーを受けることになる。これは精神的によくない。だから、なんとか1つだけは終わらせて、プレッシャーがかかる方向を1つだけにするのです。

■陛下との出会いで、仕事観が変化した

50代で業界の中でもそれなりのオーソリティとしてとらえられるようになり、エビデンスのある医療から逸脱しないレベルで、自分の考えたことを表現できるようになりました。

たとえば血管は、血液が漏れないようにしっかり縫合するのが基本です。しかし、場合によっては、あえて緩く縫ったほうがきれいな出来栄えになり、血管が長く持つことに気づきました。緩く縫えば圧迫止血をする時間を短縮できるので、手術時間も短くなります。このような画期的な手法を、52歳を過ぎたあたりからいくつも見つけて、手術がスピードアップしました。

オーソリティになって手術以外の仕事も効率化しました。それまでは学会の仕事に時間を取られていましたが、学会から一歩引いて、やるべきことに集中できるようになった。自分の中で、「外科医のゴールは手術」と言えるようになったのは大きいです。

ただ、当時は「自分が技術的に向上したい」「難しい手術をやって注目されたい」という気持ちが強かったことを正直に告白しなければいけません。

それが変わったのは、56歳で天皇陛下の手術を手がけてからです。術後、陛下の容体が気になってご公務をチェックしているうちに、自分の小ささに否応なしに気づかされました。

自分本位ではなく、公のために活動しなければならない。そう考えて、患者さんに対して点ではなく面で接する、つまり個人プレーから、病院全体を動かしたり開業医さんと連携するなど、組織的に対応する方向に舵を切りました。その結果、より多くの患者さんに手術のチャンスが行き渡るようになりました。

私は同じ失敗を2回続けたら引退すると公言しています。しかし、それはまだ先のことでしょう。現在63歳で今春には院長も退任予定ですが、その先を見据えて、いまも切開を小さくする技術に取り組んでいますし、ロボット手術にも興味があります。気持ちが前を向いている限り、外科医として急速に衰えることはないと信じています。

▼天野先生のある日のスケジュール
5:30 起床
【プライベートなことは朝にする】
ラジオで時事ネタを情報収集したら、新聞2紙やインターネットニュースを読み、自分なりの視点を整理する。ほかに、プライベートのメールを打ったり、インターネットで買い物をしたりすることも。
7:00 出勤
7:30 最初の会議
9:00 手術1例目
12:00 手術2例目

【人に任せられるところは任せる】
手術はチームプレー。難しい手術でなければ、最初は他の医師に任せて途中から執刀する。空いた時間に会議など院長としての仕事を片づける。
15:00 手術3例目
18:00 気分転換にゴルフ練習

【集中できないときには10分ほど別のことをする】
気分転換に医局でゴルフ練習。YouTubeの番組「右手のゴルフチャンネル」「ゴルフTV山本道場」を見ながら体を動かす。
18:30 事務作業
【期限を最優先に作業する】
完璧を目指して期限を延ばすと、仕事は増える一方。一定水準を満たしたら、期限を守ることを優先して終わらせる。
25:00 仮眠
【取るべきときにどこでも眠れる】
忙しいときには病院に泊まる。研修医時代は硬いパイプ椅子を並べて寝ていたので、「ソファはふかふか。すぐ眠れる」。コツは足を少し上げること。

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天野 篤(あまの・あつし)
心臓血管外科医
1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒業後、関東逓信病院(現NTT東日本病院)、亀田総合病院、新東京病院、昭和大学横浜市北部病院循環器センターを経て、順天堂大学医学部心臓血管外科教授。2016年から順天堂大学医学部附属順天堂医院院長に就任。著書に『熱く生きる』『あきらめない心』ほか多数。

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(順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長 天野 篤 文=村上 敬 撮影=大槻純一 編集=高嶋ちほ子、干川美奈子)

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