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うつ病の25歳が障害年金受給を拒むワケ

プレジデントオンライン / 2019年2月21日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz)

一定の要件を満たすと受給できる障害年金。申請には医師の診断書が必須となる。障害年金を受給できれば経済的な不安は解消される。だが、新卒で勤めた“ブラック企業”のせいでうつ病になった25歳男性の両親は、「一度受給すると本人が再び働き出そうという気持ちがなくなってしまう」と危惧し、当面は申請しないことを決めた。すべては息子のひきこもり状態を変えるためだというが――。

■就活した入った会社はブラック企業まがいで、うつ病に……

ひきこもりの人の中には、精神科に通院していて精神疾患と診断されている方もいます。

関東地方に在住の山本卓也さん(仮名・25歳)もその一人です。大学を卒業後、いったんは就職したものの、ブラック企業まがいの厳しい営業ノルマについていけず、入社数カ月で自宅にひきこもるようになってしまいました。社員を追い立てるような企業ばかりではありませんので、気を取り直して、自分に合った勤め先を探せばよかったのですが、すっかり自信をなくした山本さんは、就職活動もせずに自室に閉じこもるようになってしまいました。

それから2年の月日が過ぎましたが、働けない状況は変わりません。気持ちの落ち込み方が激しいので親が精神科クリニックに連れて行き診察してもらうと、うつ病との診断を受けました。父親が定年を迎えたということもあり、両親が今後の家計の見通しはどうでしょうかと、心配顔で相談にやってきました。

山本さんの家族構成や資産状況、年収は以下の通りです。

◆家族構成
父親:60歳(会社員) 年収300万円
母親:55歳(公務員) 年収500万円
本人:25歳(無職)
◆資産
預貯金:4500万円
自宅:一戸建て(持ち家)※住宅ローン完済

■仕事ができないなら「障害年金受給」という選択肢も

将来の家計状況を分析すると、両親が存命の間は親が受給する予定の年金額が多く、本人に収入がなくても問題はありません。しかし、このままずっと収入を得られなかった場合は、両親亡き後に貯蓄の取り崩しが続きます。やがては家計が破綻することが予想され、何らかの対処が必要です。

本人が仕事をできないようなら、国民のセーフティーネットである障害年金(体に障害のある人だけでなく、うつ病などの精神障害や、糖尿病、がんなどの病気によって、一定の障害がある人に支給される)を受給するのがもっとも効果的です。私はご両親にこう話しました。

「障害年金の受給を申請されてみてはいかがでしょうか? 現在、精神疾患と診断されて通院を続けているとのことですので、主治医の先生に診断書を書いてもらうことが可能でしょう。申請は自分でもできますが、不安でしたら、社会保険労務士に手続きを依頼されるのもよいでしょう。なんでしたら、障害年金の申請を得意とする社労士の先生をご紹介しましょうか?」

■なぜ、25歳男性の両親は「障害年金受給」を拒むのか

本人はまだ25歳です。年約78万円の障害基礎年金が支給されれば、山本さんの経済的不安は軽減されます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Tinpixels)

「はい、そうするしか方法がないかもしれません。主治医の先生にお願いしてみます」

両親はそう話すものの、なぜか表情は曇ったままです。すると後日、父親が私の事務所に訪ねてきました。

「実は、せっかくご提案いただいた障害年金の申請なんですが、当面は見送ることにしました。主治医の先生も慎重でしたし……」

申請したものの、障害の程度が軽く却下されるケースもあります。そうなればしかたありませんが、申請自体をしないのはどういうことでしょうか。息子の生活の糧を得る機会を捨ててしまうようなものです。私は父親に率直に言いました。

「世の中には『働かないのにお金をもらって』などと言う人もいますが、そんなことは気にする必要はありません。息子さんは障害であり、年金を受ける権利があるのですから」

すると、父親は意外な返答をしました。

「いや、そうことではないんです。障害年金を受給してしまうと、回復への気持ちがなえてしまいそうな気がするのです。本人もなんとか、仕事ができるようになりたいと言っていますし」

■「怠けて、働かずに収入を得ている」という批判は当たらない

精神疾患での障害年金の受給については、さまざまな意見があります。

一部に、「怠けて、働かずに収入を得ている」という批判があります。確かに、モラルに欠けた受給者もいないわけではありません。しかし、ひきこもりや精神疾患に関する限りは、この批判は当たらないと私は考えています。

これらの人は、お金があるから働かない、お金がなければ働く、という単純なものではないからです。他人と接することができずに、働きたくても働けないのです。仕事をしていないことで一番苦しんでいるのは、当の本人でしょう。

コミュニケーション能力を身につけるには外出が必要で、そのためにはある程度のお金も必要です。障害年金を受給することで、本人がある程度のお金を管理でき、自由に使うことができれば、回復の一助になるでしょう。また、障害年金を受給することで、「自分の収入がある」「親に負担をかけない」という認識を持てば、自信にもつながります。障害年金を受給することが状況の回復、ひいては社会復帰につながると考えられます。

もちろん、経済的な側面も小さくありません。年間約78万円の収入が得られれば、その後の家計状況は大きく改善します。将来の不安を取り除くことは心の安定につながります。それによって前向きな気持ちになることができるでしょう。

■障害年金受給で回復しようという気持ちを抑えてしまう

一方、障害年金を受給すると、回復しようという前向きな気持ちを抑えてしまうのでは、という懸念があるのも確かです。仮に、その後、症状が改善され、普通に仕事ができるようになると、障害年金が打ち切られることになるからです。病状が回復すると収入がなくなり、経済的な不安が生じるのであれば、回復しようという意欲を持てなくなってしまいます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/TARIK KIZILKAYA)

さらに、一定の収入があることで、現状に満足して変化(=回復)を拒んでしまう可能性もあります。ひきこもりに限らず、誰にとっても生活の変化はストレスになるものです。

ある程度の収入があり、なんとか生活していけるのであれば、精神的な負担になる変化を避け、今の状態を維持していきたいという気持ちになるのも自然な成り行きです。

私はファイナンシャル・プランナーとして、各家庭の将来の家計の状況を分析します。その立場から、収入は少ないより多いほうがよく、障害年金を受給できるものなら当然のことながら受給すべき、と考えていました。

診断書を書いてもらう主治医の中に、障害年金の受給に否定的な考え方の人がいるということは聞いていましたが、「収入は働いて得るべき」という理解が不十分な固定的な価値観によるものではないかと疑っていました。

■理想は「子供の状況が回復し、社会になじめるようになること」

しかし、そうではないケースも多いのです。

障害年金の受給に否定的な意見の医師は、受給することでのマイナス面を懸念されてのことだったのでしょう。あるいは、患者の状況や年齢に応じて、申請のタイミングを見計らうことを勧めていたのかもしれません。

ひきこもりや精神疾患の子供がいる家族にとって一番望ましいことは、子供の状況が回復し、社会になじめるようになることです。その結果、働くことができるようになり、人並みの収入が得られれば、家計の状況も改善します。目先の収入増を見送ったとしても、本人の回復につながることを考えるほうが大切です。山本さんの言葉は、私に新たな気付きを与えてくれました。

「再雇用で、私もあと5年は今の職場で働けます。妻もまだ現役で、当面は二人に収入があります。5年後には息子も30歳です。その時点でも今と変わらないようなら、障害年金の申請をしようと思います。それまでは、なんとか働けるように頑張ってみようと、息子とも話をしました」

父親は、そう言葉を続けました。

障害で働けないのですから、障害年金を受給することは、何ら恥じることではありませんし、申請することを後ろめたく感じる必要もありません。障害年金は、収入がない人の生活を支えてくれます。山本さんが申請を見送ったのは、息子さんが収入を得られなくても生活に支障がない程度の余裕があったからです。

家計の状況が厳しければ、主治医の先生に事情を話して、協力をお願いするのも1つの方法です。また、今のところは家計に問題がないということで、受給する年金には手を付けず、将来に備えた貯蓄にしている家庭もあります。今働けないからこそ、将来の備えは大切です。

もし、この山本家と似た家庭環境の読者がいらっしゃったら、ひきこもる本人と相談しながら、障害年金の申請をどうするか、受給する年金をどのように扱うかを考えるといいでしょう。障害年金を受け取る権利は、あくまで本人にあり、支給された年金は本人のものです。親が勝手に決めることはできません。本人とよく相談しながら考えていくべきでしょう。その相談が、本人が将来を考えるきっかけにもなります。

障害年金を受給すると、家計の状況はかなり改善します。ただ、家族にとっての最終的な目標は、本人の状況が改善し、障害年金が支給停止になるような状態になることです。「お金がもらえなくなること」を前向きに考えられるようであれば、障害年金が回復の一助になることでしょう。

(ファイナンシャルプランナー 村井 英一 写真=iStock.com)

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