人手不足「解決策は外国人就労ではない」
プレジデントオンライン / 2019年3月23日 11時15分
■労働条件の多様化とテクノロジーの活用
2018年12月、外国人労働者の受け入れを拡大するための改正出入国管理法が成立し、19年4月から施行されます。背景には、国内の人手不足の問題があります。
人手不足の直接の原因は、生産年齢人口(15~64歳)の減少です。その中でも、若年層が大きく減少しています。総務省の労働力調査によれば、15~24歳の人口は2000年には1617万人いましたが、17年は1221万人と、約400万人(24.48%)減少しています。00年の頃の4分の3です。一方、同じ年の50歳以上の人口を比べてみると、4859万人から5856万人と約1000万人(20.51%)も増えています。こうしてみると、改めて高齢化が急速に進んでいることがわかります。
こうした中でも、多くの企業では依然として若年層を中心とした採用を行っています。そのため、なかなか人が採用できない状況が起きていると考えられます。「求人を出しても人が来ない」とよく言われますが、人は来ているはずです。ただ、企業が望む条件に見合う人が来ないということが実態ではないかと思います。
今後も若年層人口を中心に生産年齢人口は減少傾向をたどり、人手不足の傾向は強まっていくと思います。こうした人口減少の傾向は急には変えられません。今後、少子化対策に取り組んで子どもを産みやすい環境を整えて出生率が高まったとしても、そもそも若年層が減少傾向にある中で、出生数で死亡数を補うことは非常に困難で、対策をしても、その効果は21世紀中には表れないかもしれません。
なお、少子化対策というと、子どもを産み育てることばかりが注目されますが、今や、少子化対策は高齢化対策とも言えます。生産力が減少していく中で、どうやってこの社会を維持していくか。そのための労働力の確保も、出生率を高めることと同様に重要になっています。そこで一番のキーとなるのが女性の働き方です。単に女性の就業率を高めるだけでなく、子育てをしながらでも働きやすい環境を用意しないと、持続性が保てない可能性があります。女性の就業率のグラフを見ると、かつては出産・育児世代が離職し、子どもが成長してから再び働くために、真ん中の世代が凹むM字形になっていましたが、最近はその凹みがなくなり台形になってきています。背景には、子育てをしながら働く女性が増えた一方で、未婚率も上がっていることが挙げられます。ずっと働き続けるために未婚を選ぶ女性も増えているのです。この状況を変えない限り、出生率は上がりません。
人手不足の状況では、できるだけ多くの女性にも働いてもらいたいわけですが、同時に、子育てしながらでも働ける環境を用意しないと、出生率は一層下がり、将来の人手不足をより深刻化させてしまう可能性があります。仕事と子育てを両立しやすい環境を、社会全体で考える必要があるでしょう。
■一人ひとりに合った、労働環境を整備する
人手不足を克服するために、企業は何に取り組むべきでしょうか。
まず挙げられるのは、若年層の採用だけでなく、女性や中高齢者の活用をより積極的に進めていくことです。女性の就労に関しては、先に述べた通り、子育てがしやすい労働環境の整備が重要になります。
中高齢者については、年金対策のための再雇用といった消極的な姿勢では、人手不足の時代を乗り切ることはできません。むしろ、この世代の力を積極的に生かしていくことが重要です。そのためには、一人ひとりの職務経歴をしっかりと把握することが大切です。その情報がないと、再雇用後の仕事は、その人が直前にやっていた仕事に引きずられてしまいます。これでは、会社と本人の双方にとって意義のある仕事に就くことはできません。これまでのキャリアを棚卸しし、それを踏まえて今後のキャリア形成について会社と個人が真剣に考えるべきだと思います。
また、60歳を超えると健康状態も人によって差が出てきますので、多様な働き方への配慮も重要になります。
これらを踏まえると、多様な人が働きやすいように労働条件を改善することが必要になります。IT業界では、優秀な人材を獲得するために福利厚生を充実させていますが、他業界でもそういった努力が求められます。賃金を上げることはその1つですが、若い世代には、賃金が下がっても労働時間が短いほうがハッピーだと考える人もいます。多様な人材を引きつけられるような、魅力のある職場や労働条件をつくっていくことが、これまで以上に重要でしょう。
■外国人労働者より、AIやロボットが鍵
人手不足の解消策として、外国人労働者の受け入れにも注目が集まっています。しかし私は、安易に外国人労働者に頼るよりも、AI(人工知能)やロボットなどを活用して自動化を進めるべきだと考えます。なぜなら、外国人労働者の受け入れは、生産性を低いままに留める可能性が高いからです。人手が足りなければ、本来は省力化のための投資をして、生産性を高めるべきです。そういう努力をせず、安価な労働力に頼れば、生産性の高い産業との格差がますます広がり、生産性の低い産業はますます人が集まらなくなるという悪循環に陥ってしまいます。
高齢化先進国の日本が人手不足にどんな対策を打っていくのか、海外も注目しています。外国人労働者に頼るよりも、AIやロボットを活用して生産性や付加価値を高め、人間とテクノロジーが調和した社会で高齢化を乗り切るほうが、高齢化対策における真の先進国になれるのではないでしょうか。
特に人手が不足していると言われる分野でも、テクノロジーを活用することで省力化できる部分は多いと思います。例えば、農業の場合、高価な機械を一軒の農家で導入することは難しいかもしれませんが、複数の農家で共同購入したり、あるいは農地を共同で運営するようにすれば、少ない人数で安価に良質な農産物を作れる可能性があります。またサービス業では、AIを導入して来店客数予測をすることで生産性を高め、人員の適正化に成功した食堂の例もあります。このように、「人がいなければできない」という従来の意識を変え、テクノロジーを活用して少人数でも効率よく仕事ができるように知恵を絞ることが必要でしょう。
省力化がなかなか進まない理由は、ある程度の初期投資が必要だからです。例えば、私たちはパソコンを使わなくても計算することができますが、エクセルなどの表計算ソフトを使えば、より効率よく計算することができます。ただ、使い方を覚えるには勉強が必要です。その初期投資を面倒くさがらずにすることが大切なのです。
省力化の意識は、働く一人ひとりが自分のキャリアを考えていくうえでも重要です。私たちの働き方は、現在だけを切り取ってみると変わっていないように見えます。しかし、10年前や20年前の働き方と比べると、かなり変化しているはずです。スマートフォンやパソコンなどのテクノロジーは働き方に大きな影響を与えました。人間がやらなくてもいいことが増え、その分の時間を別のことに使えるようになりました。今後も同様で、AIやロボットなどの普及で人間がやらなくていいことが増えたときに、何をやれば自分の付加価値がより高まるのかを考えるべきです。
テクノロジーが人間の仕事を奪ってしまうのではないか、というネガティブな見方もあります。中には無くなってしまう仕事もあると思いますが、それは機械に任せて、代わりに人間は何をすべきかを考えることが、人手不足の日本では特に重要だと思います。
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中央大学大学院経済学研究科委員長、中央大学経済学部教授
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。電力中央研究所、一橋大学、獨協大学等を経て現職。専門は労働経済学。著書に『日本経済の環境変化と労働市場』、『多様化する日本人の働き方』(共編著)など。
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(中央大学大学院経済学研究科委員長、中央大学経済学部教授 阿部 正浩 構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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