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人気業界8社の人事部"面接の決定的質問"

プレジデントオンライン / 2019年3月3日 11時15分

写真=iStock.com/bee32

SNSや口コミサイトの浸透で面接内容が公開され、対策が必須になっている新卒採用。情報がオープン化される中、企業はどのような視点で学生を見ているのか。人気8業界8社の採用責任者を直撃した。

■企業がインターンを行う2つの目的

2018年9月、経団連の中西宏明会長が、採用日程の時期などを定めた“就活ルール”の廃止に言及して論議を呼んだ。しかし、採用現場ではとっくにルールは形骸化している。その背景にあるのは超売り手市場による企業の人材獲得競争の激化だ。インターンシップ(以下インターン)を実施する企業が増えているのも、何とかして優秀な学生を採用したいという企業側の焦りの表れといえる。文科省の有識者会議では「インターンで取得した学生情報は採用選考活動に使用できない」としているが、実際には日系企業でもインターンに採用枠を設けているところは多い。

リクルートキャリアが運営する就職みらい研究所の調査によれば、2017年度にインターンを実施した企業は68.1%、18年卒で参加した学生も55.2%と全体の半数を超えた。

よって学生たちは、就職活動の本選考の前に、まずは企業のインターンに参加するための選考を受けることになる。大学生向け就活サイトを運営するワンキャリアの北野唯我氏によれば、企業側はすでにこの段階で優秀な学生を確保する策を講じているという。

「企業がインターンを行う目的は2つ。1つは、自社に関心を持ってくれる学生の母集団形成と広報・PR。もう1つは、本選考では受けに来てくれない優秀な学生の囲い込みです。たとえば商社やベンチャーでは、『外資コンサルや投資銀行を志望するハイクラスの学生を採用したい』というニーズが高いので、インターンではあえて似た選考を行うことがよくあります。代表的なのがケース面接。選考プロセスを近づけることで、コンサルや投資銀行の志望者にも『面接の練習に受けてみようか』と思ってもらえる。それでインターンに優秀な学生が集まれば、その企業のブランディングになり、上位校の学生たちに自社の魅力づけができるわけです」

■超売り手市場で増加する“踏み絵”面接

ケース面接とは、一見するとすぐには答えを出せないような問いに、フェルミ推定などを応用して論理的に回答するものを指す。「日本に電柱は何本あるか?」「スタバの売り上げを2倍にするには?」などの質問が有名だ。

とはいえ、こうした一部の動きを除けば、就活の面接で聞かれる質問は今も昔もそれほど大きく変わらず、「志望動機は?」「学生時代に頑張ったことは?」などのベーシックな質問が中心だ。ただし、質問の内容は同じでも、「どこまで深掘りして聞かれるか」についてはかなりの変化が見られる。

「今の面接では、志望動機をしつこいくらいに聞かれます。優秀な学生は奪い合いですから、企業側は『どれだけ本気でうちに入るつもりがあるか』を見極めたい。だから商社であれば、『なぜ商社を志望したか』はもちろん、『なぜ三井物産ではなく三菱商事なのか?』『なぜ伊藤忠商事ではなく三井物産なのか?』といった競合他社と比較した質問にも説得力ある回答を求められる。浅い答えしか返ってこないと、『それならうちでなくてもいいのでは?』と返ってくる。今の面接は、いわば“踏み絵”面接なのです」

踏み絵を差し出す企業に対し、学生は情報収集によって武装する。武器になるのは、実際に内定を獲得した先輩たちの就活体験談や口コミだ。これらに目を通し、企業ごとの選考内容を把握したうえで対策を立て、面接に臨む。今は志望動機の模範回答を紹介するサイトも多くあるため、「ネットで見た志望動機をそのまま答えようとしたら、隣の人がまったく同じ話をして困った」という笑えない体験談も多い。ただし北野氏は、「情報がオープンになったこと自体は、学生間の情報格差をなくすという点で悪くない」と話す。

「以前は慶應大学のように卒業生と在校生の縦のつながりが強い大学の学生だけが、先輩から貴重な情報を得ることができた。今はその機会が均等になったことで、中位校の学生でも意識の高い学生は2年生からインターンに参加して実績をつくり、本選考で上位校の学生と競い合うケースが出てきている。また、企業側も学生の口コミを参考にして、面接やインターンの内容を改善するようになった。これは採用をアップデートするという意味ではよい変化だと思います」

一部では採用選考にAIを導入する企業も現れ、「将来的には、人による採用面接はなくなる可能性もある」と北野氏。新卒採用における面接は、今まさに大きな転換点を迎えている。

■大手商社の場合▼あなたはどのような人間ですか?

上位校の学生に高い人気を誇る商社。三菱商事は昔からトップ層の学生の人気が高く、続いて伊藤忠商事と三井物産が拮抗。少し遅れて、住友商事と丸紅が続く。北野氏は「商社の採用では同業他社はもちろん、外資系コンサルや外資系金融も競合になる。特に上位3社はこれらの外資系企業を意識し、ケース面接を行っています」と言う。17年は、三菱商事が2次面接でケース面接を実施。「通勤電車の過剰乗車を防ぐ施策をできる限り多く、かつ多角的に講ぜよ」「個人経営の塾を立て直すための施策を3つ考えよ」などのお題が与えられた。伊藤忠商事もグループディスカッション形式のケース面接を行っている。

「ただしケース面接は選考過程のごく一部。商社の面接で最も重視されるのは”総合力”です。商社のビジネスは、コミュニケーション力や人を巻き込む力が問われることが多い。海外経験や、異文化の人たちを動かして何かをやり遂げたエピソードがあれば鉄板です」(北野氏)

重視する点は同じでも、質問には各社のカラーが出る。三菱商事では「少子化のなか、企業がグローバルに勝ち続けるには何をすべきか?」、伊藤忠商事では「トランプ大統領をどう思うか?」などだ。各社の特徴ごとに対策を練る必要がある。

伊藤忠商事の面接官はココを見ている!
▼1分の動画で熱意ある自己PRができるか●澤瀉久修

当社は、5大商社のなかでは最も従業員数が少ない会社です。その分、一人ひとりに個の力があり、物事をやり抜く強さを持った人材を採用したいと考えています。

人事・総務部長代行 兼採用・人材マネジメント室長 澤瀉久修氏

選考での独自の取り組みとしては、エントリーシート提出時に、1分間の自己PR動画を2本出していただきます。テーマは、1つは「あなたが伊藤忠で成し遂げたいこと」、もう1つは「あなたはどのような人間ですか」というもので、その理由とともに自己表現してくださいとお伝えしています。スマートフォンなどで撮影をしてもらい、エントリーシートだけでは伝わりにくい、採用試験に臨む意気込みや熱意などを見させてもらっています。

■なぜ伊藤忠なのか 熱意を持っているか

面接で見ているポイントとしては、学生の志向と当社のビジョンが合っているかどうかです。面接というのは、こちらが学生を見るものですが、同時に学生も私たちを見ていると意識しています。お互いやりたいことや目指す方向性がマッチングしなければ、いかに優秀でもそのポテンシャルを発揮することはできないと考えています。選考ですから、どうしても採用・不採用という結果が出ますが、それはその方の人としての優劣を判断しているわけではないのです。

このほかには、面接のなかでも、冒頭に申し上げた個の力ややり抜く意志の強さ、困難な状況に直面したときの姿勢や対応力、いい意味で周囲を巻き込むことのできるリーダーシップなどを重視して見ています。志望動機やなぜ商社なのか、なぜ商社の中で伊藤忠なのかという定番の質問は当然しますが、何らかの判断を下したときに、なぜその選択をしたのか、自分の言葉でしっかりと説明できるかどうかも重要なポイントです。

最終面接までくると、学生の皆さんは特に優秀なので、合否を分ける差というのは本当に紙一重です。その最後の判断材料になるものを挙げるとすれば、やはり当社を選んだ理由や熱意の部分です。

当社は、多少不器用だったり、論理構成に粗さがあったりしても、そこに強い意志やほかの人にない個性があれば、そちらを評価する社風です。さまざまなバックグラウンドを持った学生にきていただきたいと思います。

■航空会社の場合▼あなたらしい写真で自分を説明してください

「安定・高級・グローバル」と、学生が好む要素を兼ね備えた航空業界。就職人気は、全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)の一騎打ちだ。「この2社は圧倒的強者なので、『何万人と応募してくる中で、誰を選ぼうかな』という余裕の姿勢を感じます。その中で内定をもらう学生のタイプは、ひと言で表すなら、誰にも嫌われない”いい子”。多様な文化と関わる機会が多いため、重視されている印象です」と北野氏は解説する。

ただし、ライバルがはっきりしているからこそ、面接では「なぜJALではなく、ANAなのか」といった志望動機を相当深く突っ込まれる。志望動機はかなり細かく詰めておかないと、優秀な学生でも面接で落とされる。要は面接官に対して、いかに真剣に「私はあなたの会社がこんなに好きです」と語れるかが勝負だ。

質問内容には、両社の社風の違いがはっきり表れる。ANAはJALに比べて個性的な人材を求める傾向があり、「自由に新サービスの企画をするなら何をやりたいか」といった自由度の高い質問が目立つが、JALは「入社したらどんなキャリアを実現したいか」という堅実なプランを問われる。また、経営破綻から再生した歴史があるJALは、学生時代に頑張ったことを質問して、苦境や逆境を乗り切る力があるかを見るのも特徴だ。

ANAの面接官はココを見ている!
▼世界に通用する自己表現力はあるか●國分裕之

エントリーシートには「自分を表現する写真を一枚載せてください」とお願いしています。何らかの活動をしている写真を選ぶ方が多いですね。

取締役常務執行役員 人財戦略室長 國分裕之氏

面接では、まずはその写真について掘り下げてお話を聞きます。ほかに、なぜANAを志望しているのか、入社後どんなことをやりたいか、これまでの経験で自信のあることは何か、といったことを質問しています。自分の経験をこの先にどう繋げていきたいか、どう成長していきたいか、といったことを話してもらえたらと考えています。

■多様性の中で輝くあなたの個性とは?

エントリーシートの写真をはじめ、すべての質問には共通して「あなたらしさとは何か教えてください」という意図があります。学生の皆さんが、自分の言葉で自分をしっかり表現できる人なのかどうかを知りたいということです。その自己表現力が、入社後に必須となる様々な人との「コミュニケーション」に生きると考えています。

航空会社はグローバルでの競争に勝ち抜かなくてはなりません。その意味でも、コミュニケーションは特に重要です。日本人は自己表現が不得意と言われますが、自分自身を表現できて初めて他人と理解し合えるものです。その点は、当社が掲げるグローバル人財像の「世界とたたかい、よく知られ、愛される」にも表現されているのです。

また、人財の多様性は非常に大切だと考えており、採用でも個性と同様に重視しています。例えば、地域に偏りがないように全国の大学出身者をできるだけ採用しようとしています。また、外国籍の方や留学経験者、海外の大学を卒業している方、トップアスリートをはじめ体育会系出身者も採用しており、今後は芸術系に能力を発揮した方も採用できたらと思っています。

こうした多様性の確保の背景には、大きな変化に対応できるような発想力が重要という考えがあります。そのためには、仕事を頑張るだけでなく、プライベートも充実させ、そこでも様々な体験をすることが必須になってきます。そこで、例えば運動をやっている方には、入社後には運動以外の趣味にも新しくチャレンジするなど、自分の中での多様性づくりにも取り組んでほしいと考えています。

■外資系コンサルの場合▼ドラえもんの道具で儲けるには?

難関大学の学生を対象とした就職人気ランキングで、ここ数年上位を占めるコンサル業界。マッキンゼー・アンド・カンパニーやBCGなどの戦略コンサルが最上位だが、アクセンチュアやデロイト トーマツ コンサルティング、PwCコンサルティングなどの総合コンサルも人気が高い。「外資系戦略コンサルではケース面接が定番で、地頭のよさや論理的思考力だけが重視されると思いがちですが、それは誤解。基礎的な学力や思考力があるのは前提ですが、そのうえでクライアントから可愛がられる人間性や高い成長意欲があるかを見られる。インターンシップが本選考を兼ねる場合が多いので、先輩から厳しい指導を受けてもそれを素直に聞き入れ、改善することができる学生は高く評価されます」

これまでコンサル業界の面接では、志望動機を聞かれることは少なかった。「コンサルタントはプロであり、目標を達成できるスキルや能力があれば、志望動機は関係ない」と考えられてきたためだ。「しかし最近は業界の採用数が拡大し、人材確保の必要が生じたため、今後は他業界と同様に志望動機を重視する可能性は十分ある。最近になってマッキンゼーが英語の筆記試験をやめて日本語に切り替えたのも、選考を通過する人数を増やすため。面接でも、業界ならではの特殊性は徐々に薄れていくと予想されます」

BCGの面接官はココを見ている!
▼論理的思考、地頭のよさ、クリエーティビティ●荻原英吾

新卒採用の場合、採用までに3~4回の選考ステップがあります。その1つとして「ケース面接」を行っています。答えが簡単に出せない質問に対して、仮説を立てながら回答を論理的に導き出してもらうというものです。時間としては30分~1時間程度でしょうか。

プリンシパル 荻原英吾氏

ケース面接での質問内容はたとえば、「ドラえもんの道具を1つ使ってマネタイズするなら、どんなことが考えられるか」といった問いを投げます。これに数字とロジックを組み合わせて答えを導き出してもらいます。

ケース面接で、当社では主に3つのポイントを見ています。物事を論理的に考える「ロジカルシンキング」、議論に付いていくスピードを見る「地頭のよさ」、既存のものを組み合わせて新しいアイデアをつくる「クリエーティビティ」です。

■BCGで結果が出る第4のポイント

戦略コンサルティングの仕事は、かつては経営経験をもとにクライアントに価値を提供する仕事でした。業界として大きくなった理由は、業務経験の少ない新卒コンサルタントでもクライアントへのコンサルティングを可能にするメソドロジー(方法論)を発展させたことにあります。したがって面接では、このメソドロジーを身に付けるために必要な先の3つの能力があるかを重点的に見ています。

さらに当社では、面接の評価において先の3つに加え、その人の「チャーム」、独自の魅力を重視しています。戦略を構築しても、クライアントがそれを実行して結果を出さないと意味はありません。戦略の実行に向けてクライアントに納得してもらい、動いてもらえるパーソナリティや経験があれば、それは強みになります。また、AIなど最新のデジタル技術に精通していたり、医大を卒業して医療分野の専門知識を持っている、英語がネーティブ並みに話せる、といったことも評価しています。

何千人もの学生の方に受けていただく中から、採用できる人数は限られています。採用には多くのコストもかかる。学生の方の強みや魅力に気づかず安易に切ってしまうと、その機会損失は大きなものになります。そうしたことがないよう、できるだけその方の強みや魅力を面接で引き出せるよう努力しています。

■大手金融の場合▼学生時代、どんな失敗をしましたか?

金融には銀行・証券・保険などの業種があるが、共通点はインターン経由の早期選考を行うことと、懇親会などの名目で呼び出されて行われるリクルーター面談を重視すること。「リクルーター面談は、カフェなどのカジュアルな場で行われることが多いため、本選考とは別ものと誤解しやすい。『三菱UFJ銀行では、9回もリクルーター面談があった』という学生もいるほど、力を入れる会社が多い」と北野氏は説く。

インターンやリクルーター面談を重視する理由は2つ。1つめは、金融の仕事は事業内容や商品で同業他社と差別化が難しいため、社員と学生の接触を増やして「この人たちと働きたい」と思わせる必要があること。もう1つは、人で勝負するしかない金融業界では、「誰からも嫌われない」という学生が求められること。北野氏は「9人のリクルーターが面談して、全員が『いいんじゃない』と思えば、万人受けする人材の証明になる。面談で聞かれるのは、学生時代の体験などごく一般的な質問がほとんどです」と解説する。

面接の質問としては、お金の価値観を見る「100万円の使い道は何にするか」(日本生命保険)などの質問もあるので日頃から準備が必要だ。なお、金融業界は最終面接で「うちに来てくれるなら内定を出す」と言われ、その場で答えなければいけない。

東京海上日動の面接官はココを見ている!
▼ありのままの自分を説明できるか●北澤健一

当社の面接では、志望動機や入社後にやりたいことは重視していません。面接のほとんどを「その人自身を知る」ことに使っています。学生が考える志望動機は、あらかじめ面接用に作り込まれたものが多く、「その人らしさ」が見えてきません。そのため、当社では学生時代の経験を通じて、ありのままの姿を知ることを大切にしています。そして、面接で見えてきた「その人らしさ」が、社会に出てどう生かされ、成長し活躍できるのかを知りたいと思っています。

理事・人事企画部長 北澤健一氏

面接では、学生時代に何をしてきたかを中心にお聞きします。何のためにそれに取り組み、どんな課題があり、どのように克服してきたか。これは「現状の課題を分析し、対策を考え、実行する」という経験をしてきたかを知るためです。この経験がある人は、ビジネスシーンでもそれを再現できる可能性が極めて高いと考えています。

■失敗談でもOK 事前準備は不要

学生時代の経験については、失敗談でもよいと考えています。運動や勉強、アルバイト、ボランティアなど何でもよいので、そこでの課題にどう対応したか、失敗した場合には、そこから何を学んだかを話してください。

失敗談でもいいとお話ししたのは、当社を取り巻く事業環境も関係しています。人口動態等の社会構造の変化、近年の自然災害の多発と予測困難性、テクノロジーの進展は、損害保険業界の事業環境に大きな変化をもたらしています。こうした状況に適切に対応していくためには、これまでに挑戦したことのない領域であっても、失敗を恐れず飛び込むことが必要になってきます。今後の変化が予測できない状況にある中で、100%成功する施策だけを選んで実行することなど到底できません。失敗を恐れずに取り組む実行力を学生にも求めています。

そういった点も含めて、面接ではその方の生き方や判断軸を丸裸にするくらいまで徹底的に対話することになります。事前に準備してきたことを話されているなと感じたら、我々としてはあえて、それでは対応できない質問をします。志望動機も質問しませんので、面接に際して何か準備していただく必要はありません。ありのままで面接に臨んでいただけたらと思います。

■大手ITの場合▼面接までにどんな準備をしましたか?

IT業界の就職先は、NTTデータや楽天などの日系企業と、グーグルやマイクロソフト、日本IBMなどの外資系企業に分かれる。両者は採用方法や採用時期が異なる。「日系企業は総合職としての一括採用が中心で、採用選考のピークは4年生の春から夏にかけて。外資系は職種別採用が中心で、3年生のうちに内定を出す企業も多い。日系大手なら安定、外資系なら自由や多様性のあるカルチャーを求める学生に分かれます」と北野氏は言う。

ところが求める人材や面接で見られるポイントは、意外にも日系と外資系で共通する部分が多い。NTTデータに代表される日系大手は、地味な作業をコツコツと真面目にやる職人型の学生を好むため、面接では「学生時代に何を成し遂げたか」「苦労をどう乗り越えたか」などが質問される。

一方、「外資系ならユニークさや創造性が問われるのでは」と思いがちだが、実はそこに落とし穴がある。「外資系の日本オフィスは、あくまで国内市場向けのセールスやマーケティング機能を担う支社という位置付け。日本人相手に地道に営業や顧客対応をします。外資系でも、結局は真面目で粘り強いタイプが採用されやすく、グーグルのように何度も『もうほかにアイデアはありませんか?』と聞くアイデア力を求める企業は稀」と北野氏は説明する。

NTTデータの面接官はココを見ている!
▼面接の準備をどこまで本気でしてきたか●髭 直樹

近年は採用で新たな試みをしています。理由のひとつは、以前であれば当社を希望してくれた優秀な学生が、「自動運転の研究をしたいから自動車メーカーに入りたい」「フィンテックをやりたいから金融に行きたい」というように、当社ではなくほかの企業を志望するケースが増えたからです。

人事本部人事統括部採用担当部長 髭 直樹氏

こうした状況に対応するため、一例ですが、海外留学していて卒業時期が日本の大学とずれてしまう学生を対象にした米国での就活イベントに参加したり、立命館アジア太平洋大学や公立はこだて未来大学のような特色ある大学に、新たに採用活動をしに行ったりしています。

当社では、文系理系を問わず希望者がおり、プログラミング経験などがない文系の方が、SEとなり活躍するケースも珍しくありません。SEと営業の採用は一括で行い、「営業・SE職」として毎年400人ほど採用しています。文系の学生の場合はITに興味があるかを知るために、面接では「最新のiPhoneに興味があるか」といった質問をする場合があります。

■急な英語の質問に対応できるか

このほか、想定外の質問をあえてすることもあります。これはその人の柔軟性を見たいからです。例えば「グローバルに関係する業務がしたい、英語が話せるしTOEICは高得点です」といったことをエントリーシートに書いている方は多いのですが、そういった方には、突然英語で質問したりします。これは実際に英語を話せるかどうかを問うているというより、そういう困難な状況を乗り切れるかどうかを見ています。仮に英語が全然話せなくても、うまい対応をして何らかのいい印象を残す人もいます。こういった想定外のことへの柔軟な対応は、何が起こるかわからないビジネスの場で生きると考えています。

18年の最終面接の際には、「2次面接から今日までにどんな準備をしましたか」と聞いたことがあります。これは自分の人生を決めるかもしれない最終面接を前に、限られた時間の中でしっかり準備するという姿勢があるかを知りたいと思って質問をしました。会社に入れるかもしれない、入りたい、となったときに、可能な限り準備しようと思えるかは、ビジネスにも通じる大切な心構えでしょう。

■大手メーカーの場合▼毎日ワクワクして生きていますか?

ひと口にメーカーといっても、学生の就職人気で見ると、業種によってはっきりと明暗が分かれる。日本を代表する産業だった電機メーカーは、学生たちも東芝やシャープの窮状を見聞きしているので、上位校の学生が第1志望にすることはほとんどない。対して、サントリーやP&Gなどの食品・消費財大手、トヨタ自動車をはじめとする自動車はブランド力が高く、人気は根強い。給与水準が高く、社会貢献度が高いイメージのある製薬メーカーも、一定の人気がある。

面接の傾向も、勝ち組の人気企業とそうでない企業で大きく分かれる。後者については、企業側が学生の獲得に必死で、志望動機や入社の意志を確認する”踏み絵”面接が多い。よって、「なぜメーカーか」「メーカーの中でなぜこの業種か」「その業種の中でなぜこの会社か」という三段論法で回答を準備する必要がある。

「一方、サントリーをはじめとする人気企業は、面接で学生の人間的な魅力を見ようとする余裕がある。これらのメーカーで好まれるのは、周囲から『あの人、何か感じいいよね』と思われるバランスの取れたタイプ」と北野氏は説明する。よってこれらの面接では、回答の内容はもちろん、柔らかい物腰や人当たりのよい話し方なども含め、他人に好感を持たれる雰囲気づくりが必要だ。

サントリーの面接官はココを見ている!
▼本人も気づかない隠れた魅力を引き出す●成瀬雅昭

まず、エントリーシートで、白紙のフォーマットに「今までの人生における挑戦または創造の経験」をテーマに自由に表現していただいています。文字だけでも、写真やイラストを使ってもらっても結構です。手間はかかりますが、その分個性を存分に発揮できます。このエントリーシートに対してワクワクしてくれる方に来ていただきたいという学生へのメッセージでもあります。

人事部課長 成瀬雅昭氏

面接では、エントリーシートに書いていただいたことを中心に話を伺います。例えば、大学時代の取り組みについてシートに書いていただいた場合に、なぜそれを始めたのかを高校、中学と遡って語ってもらう場合があります。これまでの人生でどんなことに悩んで、どんな決断をしてきたのか、その人の人生のストーリーを聞きたいと思っているのです。その過程で、面接向けに準備したわけではない話題の中から、本人も気づいていないようなその人の魅力を引き出すことができたらと考えています。

■求める人物像はなし 強い個性は大歓迎

当社では採用にあたって、あえて求める人物像を規定していません。もちろん、10~20年後を見据えたときにどういう人材が必要かは人事部で徹底的に議論していますが、採用の際はいったんそれを横に置き、あまり囚われないようにしています。ほしい人材像の枠を意識しすぎると、目の前にいる学生のよさをそのまま見ることができなくなってしまう恐れがあるからです。

また、複数回ある面接の前半では、判断に迷った方に関しては通過させています。これまで当社にいなかったような強い個性を持った方を安易に不合格にしてしまうことを避けたいからです。創業者精神である”やってみなはれ”と”利益三分主義”を継承できる人材であれば、枠におさまらない方もウエルカムです。

採用の大切さはウイスキーづくりに似ているかもしれません。10~20年後にお客様の味覚がどう変わり、どんな味が喜ばれるかを想像しながらウイスキーの原酒づくりをします。完全に予測するのは難しいので、ブレンダーはいろいろな可能性を考え、様々な味わいの原酒を用意します。採用でも同じで、人材の多様性は、経営環境の変化に対応する力につながっていくのです。

■大手不動産の場合▼どんなチャレンジをしてきましたか?

不動産業界の中でも「MM」と呼ばれる総合デベロッパーの三井不動産と三菱地所は、事業規模でも学生の就職人気でも断トツのビッグ2。続いて、住友不動産や東急不動産、野村不動産、森ビルなどが続く。

「大手デベロッパーは採用人数が少ないので、『内定をもらった自分は特別』というレア感が欲しい学生たちが集まります」

デベロッパーは商社や金融、鉄道、エネルギーなどのインフラと併願する学生が多いため、面接ではまず「なぜデベロッパーなのか」を聞かれる。「人気企業なのでとりあえず受けに来た」という学生を振るい落とすため、三菱地所のように「丸の内に足りないものは何ですか?」といった難易度の高い質問も飛び出す。「国内外を含めたさまざまなエリアで大規模な土地開発を手がける事業のため、多様な価値観を持つ人たちを巻き込んで物事を動かした経験が話せれば、面接受けは圧倒的によくなります」。

また、大手デベロッパーは離職率が低いのも特徴だが、それは採用面接で自社にカルチャーフィットする人物を見極めているから。よって面接では、各社の社風や伝統なども踏まえ、「なぜ三菱地所ではなく三井不動産なのか」といった競合比較での志望動機を語ることが求められる。

三井不動産の面接官はココを見ている!
▼歴史をつくる「挑戦心」があるか●平原秀人

採用選考では、主に学生の持つポテンシャルの高さや人柄を見ています。総合職の採用は年間40人程度で、選考は、書類検査・適性検査と3回の面接を行っています。

■会社の歴史に通じる面接通過の要点

面接で主に質問するのは「これまでどのような経験をしてきたか」。会社の歴史にも通じるのですが、見ているポイントのひとつが「挑戦心」です。好奇心があり、何事にもチャレンジする意欲のある人を求めています。

人事部 人材開発グループ長 平原秀人氏

三井不動産の設立は1941年。戦後しばらくは、財閥解体の影響もあり、保有資産はそれほど多くなく、経営的にも余裕がない状況でした。転機が訪れたのは高度成長期のはじめ。住宅や工場などが都市に集まりだし、土地が不足し始めたため、臨海部の埋め立て事業に取り組みました。さらには日本で初めての超高層ビルである霞が関ビルディングを竣工させることで日本の都市のあり方を変貌させるなど、新しい価値を数多く提供してきました。こうしたパイオニアスピリットが会社の基盤となっており、新しいことに挑戦する人材が社内で活躍しています。

また、不動産開発には時間のかかる事業も多くあります。特に、まちづくりなど大規模複合開発の場合には、さまざまな関係者の合意形成が必要となりますが、強い信念を持って諦めずに進む粘り強さや、調整を円滑に進めるためのコミュニケーション力も必要だと感じています。

■海外比率を3割に 変わる欲しい人物像

当社では18年5月に長期経営方針である「VISION 2025」を発表しました。重要戦略のひとつとしてグローバルカンパニーへの進化を掲げて、2025年頃には連結営業利益における海外事業の比率を3割に伸ばす方針です。この方針のもと、求める人材として語学力とともに、異文化や多様な価値観を理解し、尊重できる資質を持っていることが重要だと考えています。

将来、幅広いフィールドにおいてマネジメント能力を発揮できるよう、人材開発にも力を入れており、入社後おおよそ10年で3部署ほどを経験します。幅広い部署でチャレンジできる可能性があるので、その環境を生かしてほしいと考えています。

■優良ベンチャーの場合▼あなたの人生をグラフ化してください

「メガベンチャー」と呼ばれるDeNAやサイバーエージェント(CA)をはじめ、ベンチャーでも上位校の学生から志望先として名前が挙がる会社は多い。ベンチャー側もインターンシップ採用を積極的に行い、優秀な学生と早期に接触する機会を増やしている。

「ベンチャーには、大きく分けて2つのカルチャーがあります。1つは、事業ドリブン(起点)型の会社。外資系コンサルや投資銀行の出身者などが創業し、事業の強さで成長していくタイプで、DeNAが代表格です。もう1つは、組織ドリブン型の会社。組織力で成長するタイプで、CAやビズリーチはこちらに該当します」と北野氏は解説する。

事業ドリブン型の採用選考は戦略コンサルに近く、面接では志望動機よりも、「自分はビジネスが好きで、それにコミットできるだけの能力やスキルがある」と伝えなければ採用には至らない。一方、組織ドリブン型の企業は、”人”が軸の採用をする。面接官と学生がお互いに『この人と一緒に働きたい』と思えるかという、共感性や相性が面接の合否を決定づける。

加えて、ベンチャーならどの会社でも求められるのが主体性で、大企業よりも、自発的に考え、動くことができるかが問われる。よって面接では、主体的に行動した学生時代の体験や、入社後に何をしたいかというビジョンを明確に語れると評価が高い。

ビズリーチの面接官はココを見ている!
▼ベンチャーのスピード感を楽しめるか●坂本 猛

「これまで生きてきた中で、何を考え、意志決定し、行動してきたか」。この観点の質問を重ねることで、変化やストレスを受けたときに自らを変えられる人かどうかを見ています。そのために、例えば幼少期から現在までの感情の変化を表した「モチベーション曲線」を書いてもらい、上下の振れ幅が大きいポイントを掘り下げて質問していく方法をよく使っています。

人事本部本部長 坂本 猛氏

当社はベンチャー企業のため、社内では毎月のように組織変更や人事異動があり、新しい事業に挑戦する機会が生まれています。新卒数年目でマネジャーになることも当たり前。スピード感のある環境をどう使いこなし、楽しめるかという点を採用では重要視しています。

■環境の変化にどう対応してきたか

選考の際に特徴的なのは、面接の回数が決まっていないこと。個々で異なりますが、約1時間の面接を5~10回ほどします。面接者は主に人事担当者と現場で働く各部門の社員やマネジャーですが、ときには部長や役員が入ることもあります。

採用は通年で行っています。インターンは夏と冬に募集し、最速で、大学3年生の12月までに内定が出る場合もあります。

面接では、前述のとおり、変化に対応する力を見ています。過去に変化を経験していない人が、社会人になって突然変化に対応できるとは考えづらいので、事実ベースで確認します。その際、その人の様子や状況をカラーで想像できるくらいまで掘り下げて聞くのですが、エピソードの詳細に欠けていると感じた場合は、問題意識を持って取り組んでいないと判断します。問題意識を持つことは、現状を変えるために行動していく指針になります。それが結果的に、変化対応力につながると考えています。

仮に、エピソードが作られたものだったとしても、その人の持つ「意志決定基準」はごまかせないでしょう。例えば部活選びの際に、校内一強い部を選択していたら、「強い環境の中で自分を追い込んでいくタイプ」と推測します。他の事例を聞いていく中で、意志決定の軸がずれていたら、なぜずらしたのかを聞いていきます。一点の確認ではなくて、複数の面から確認していくと、その人の価値観や本質が見えてくると考えています。

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北野唯我
ワンキャリア執行役員
メディア編集長。神戸大学経営学部卒。博報堂、BCGを経てワンキャリアに参画。著書に編集部名義で『就職一流内定』(プレジデント社)、単著に『転職の思考法』(ダイヤモンド社)。

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(塚田 有香 構成=田中裕康、吉田洋平、小野ヒデコ 撮影=研壁秀俊、今村拓馬、的野弘路 写真=iStock.com)

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