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ハーバード生の10%が“進路未定”の理由

プレジデントオンライン / 2019年2月28日 9時15分

ハーバード大学を首席卒業したバイオリニスト・廣津留すみれさん

世界最高峰の大学生たちは、どのように進路を決めているのか。ある年度のハーバード大学では、卒業後そのまま就職した学生は66%に過ぎず、10%は進路未定だった。なぜそうなるのか。ハーバード大学を首席卒業したバイオリニスト・廣津留すみれさんは「最近のハーバード卒業生は、自分の目標を達成するためにフレキシブルに対応できる生き方を選んでいる」と分析する――。

※本稿は、廣津留すみれ『ハーバード・ジュリアードを首席卒業した私の「超・独学術」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■今のハーバード生はキャリアの“自由度”を重視

ハーバード生の「卒業後の進路」と聞いて読者のみなさんはどんなイメージをお持ちでしょうか。コンサルや金融業界でバリバリ稼いだり、弁護士としてドラマ『スーツ』のように大きな訴訟を次々と解決したりして、組織でのし上がっていき、社会の最前線に立ち、世界のビジネスシーンを引っ張っていく人達になっていく、いうところでしょうか。

もちろん、そのイメージも間違いではありません。そのために寝る間を惜しんで勉強して大学に入り、世界のリーダーとしての資質を学んで卒業していくのです。しかし、「10年後はどんな仕事があるかわからないから、長期計画は立てないほうがいいよね」と語ったのは、某有名コンサルティング会社にいるハーバード時代の私の友人です。

今の会社・職業がいつまであるかわからない。別の職業ができるかもしれない。そこにフレキシブルに対応できるようにしておこう。そのための準備だけは怠らない――。彼女や私を含め、ここ10年のハーバード卒業生たちの多くが、このような考え方の元に、キャリアを積んでいるのです。

■ストレートに就職したのはわずか66%

学内新聞「Harvard Crimson」の統計によると、私の代である2016年卒のハーバード学部生の就職率はたったの66%でした。その他の14%は「大学院に進学」して専門性を追求、7%は「フェローシップ」、つまり奨学金をもらって国外の学校で学んだり、研究の機会を得たりと自分の興味に思う存分時間を使い、2%は「旅行」つまりは旅人となり、10%はなんと「未定」。

日本の感覚では「新卒のステータスがあるうちに急いで就職しなければ」と思うかもしれませんが、ハーバード生の肌感覚では「若いうちにしかできない経験と学位の取得に励みたい」という思いがあります。2%が旅に出て今しかできない体験をしておきたいというのも、こういった時間感覚に余裕のあるアメリカならではでしょう。

■単に「お金を稼ぎたい」ではない高給志向

さて、「卒業生の66%しかすぐに働こうとしない」ハーバード生ですが、なぜこのような現象が生まれるのでしょうか?

廣津留すみれ『ハーバード・ジュリアードを首席卒業した私の「超・独学術」』(KADOKAWA)

この疑問を解決するため、まずは就職する66%の内訳を見ていきましょう。

一番分かりやすいのは、「53%がコンサルティング・金融・テクノロジー業界に就職」というデータです。イメージ通り、彼ら彼女達は各業界でバリバリ働いてお金を稼ぎます。

ただ、その職業選択に至るまでの思考のプロセスには特徴があります。

これまでのように単に「お金を稼ぎたい」ではなく、「学費ローン返済のために」「起業資金を調達するために」「大学院資金を貯めるために」という目的のもと、報酬の高い職業を選んでいる卒業生が実に多くなっているのです。

■“次”を前提にした新卒就職も多い

そして、「働く」ことを選んだ人にしても、米国では日本のような終身雇用制度がないため、1つの組織でトップを目指すのではなく、できることなら転職して次々に良いポジションを狙う、というのがハーバード生の卒業後のプランの1つとなっています。

今の仕事で良い立ち位置にきたら、そこで築いた人脈を連れて、次の目的地へささっと動きます。短時間でお金と地位を手に入れてより大きなゴールへ近づくための効率の良い方法なのです。

先程の私の友人はいずれ、今の会社を辞めて大学院に進むつもりでいるようです。このように多くの学生が、いったん就職してから再び大学院に戻り、専門性を磨くことや新しい知識を習得することを望みます。

つまり、「66%が就職」といっても、それは一時的なものを含めてなのです。卒業生が学部卒業後に直接大学院に移らず、いったん就職するのは、今後の活動資金をつくるためです。

■2017年度アカデミー賞はハーバード生多数

次に、53%に当てはまらない、少数派の仕事を選ぶタイプとはどういう人でしょうか?

日本でも大人気となった『ラ・ラ・ランド』の監督と作曲家、『ムーンライト』の作曲家、女優のナタリー・ポートマン(以上ハーバード卒業生)が2017年度のアカデミー賞にノミネートされたときには、在校生&同窓生向けの一斉送信メールで、「リスクをとってこの職業をしているこの卒業生たちを称えたい」という内容がハーバードから送られてきました。

また、スタンドアップコメディアンを始めてテレビに引っ張りだこの友人が最近ポッドキャストを始めたという話や、アニメーションを作り続けてきた友人がSundanceという有名映画祭で賞をとったという話など、普通は「ハーバード生」のイメージにないような職業につく同級生たちが活躍する姿も既にみています。

この場合は、大学からのメールにあるように「リスクをとって」安定が保証されていない職業を選んでいるため、必ずしもお金や人脈目当てではありませんね。

この人達は、この道をつき進めばいつかはその分野で世界のトップになれる、と考えているハーバードの中では珍しいハイリスク・ハイリターンを好む野心的な人たちです。

■起業家タイプも野心だけではない

それ以外の分野で野心的といえば、「スタートアップ」、つまりは「起業」をさかんに口にする、テック系(IT業界)の住人たちです。

しかし、彼らもあるジャンルで一発当ててやるという野心がある一方で、自分がつくった会社なら、そのとき世の中がどう変化していても、そこに合わせたビジネスモデルをつくり出すことができると考えているのです。

実は私自身も、このグループの一人です。私はハーバード大学を卒業後、ジュリアード音楽院に入学し、無事に卒業。現在は、バイオリニストとして世界を飛び回っていますが、エンタテイメント系のビジネスは、時代の変化に対して強靭だ、と私は思っています。

音楽ストリーミングサービスが普及して、どんな音楽も無料で聴けてしまうようになる一方、演奏会場に足を運んでライブを楽しむ人が今、ジャンルを問わず増えています。

今後、AIが作曲し、機械が奏でる曲ができたとしても、この世の中にはあえて生身の人間やライブだからこそ可能なことがエンタメの世界には溢れている。そう考えて、私は自身で演奏を続けつつ、エンタテインメント会社を設立しました。

■キーになるのは「フレキシブルさ」

これまでざっくりとカテゴリ別に分けましたが、何の道に進むのであれ、最近のハーバード卒業生の卒業後の進路に対する考えははっきりしています。

「一番の目的は、自分の目標を達成させること」
「その目的達成のために、フレキシブルに対応できるようにする」

という考え方です。

その時々の社会のトレンドや規範に流されず、5年後、10年後、20年後に自分が何をやっていたいかを深く考えること、そしてそのために自分に何が一番必要なのかを見つけること。

弁護士になりたいから若いうちに時間を投資してロースクールに行くのか、ヘルスケア企業を設立したいから関連コンサルでお金を貯めるのか、ピアニストとして活躍したいから海外の音楽院で研鑽を積むのか、ファッションデザイナーになりたいから世界一のファッションショーに踏み込んでいくのか。

また、いつなくなるかもしれない職業に全てを賭けるだけではなく、変わりゆく時代の流れに臨機応変に対応するためにはいまどんなスキルが必要なのか、を考えているのです。

これを見極めるためにまだまだ時間が必要だ、という人たちが、初めに登場した統計で焦ることなく「旅行」「未定」を選び、その間に慎重に行く先を決めているのでしょう。

■自分がやりたい事をやるのが正解

生活にお金が必要だから、親に期待されているから、周りの友達が皆就活しているから、という消極的モチベーションではなく、自分が熱量を持ってやりたいと思える分野への積極的モチベーションがあってこそ、世界のリーダーとなる人材は目標達成に向けてスタート地点からがむしゃらに努力できるのです。

日本の皆さんも近年、終身雇用に固執することなく、転職する、起業するという方が増えていると聞きます。その選択肢の1つに、ある専門分野や領域を「学ぶ」「学びなおす」という選択を入れてみてもいいのではないでしょうか。

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廣津留すみれ(ひろつる・すみれ)
バイオリニスト、Smilee Entertainment社 CEO
1993年、大分市生まれ。小中高まで地元の公立に通い、2012年ハーバード大学に現役合格、2016年に首席で卒業。ジュリアード音楽院の修士課程に進学。2018年に首席(William Schuman Prize)で卒業後、ニューヨークで起業し、多方面に事業を展開中。ニューヨーク在住。

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(バイオリニスト、Smilee Entertainment社 CEO 廣津留 すみれ)

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