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元国税調査官が語る"相続税ここが勘違い"

プレジデントオンライン / 2019年2月27日 9時15分

不動産も含めた相続資産が3500万円を超えると、相続税が発生する可能性が出てくる。さまざまな控除も用意されているが、きちんと申告しなければその控除も適用されない。(写真はイメージです。写真=吉野秀宏/PIXTA)

2015年に課税最低限が引き下げられたことで、相続税の申告義務の生じるケースが増えた。元国税調査官の大村大次郎氏は、「誰にでも相続税がかかってくる可能性がある。『うちには関係ない』と考えないほうがいい」と指摘する――。

※本稿は、大村大次郎『税務署・税理士は教えてくれない「相続税」超基本』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■「庶民だから考えなくていい」は大誤解

「自分は“庶民”だし、親は高額所得者でもなかったから、相続税がかかることはない」。そう思っている人も多いでしょう。しかし、ここで強調しておきたいのは、相続税というものは「誰にでもかかり得る税金だ」ということです。

2015年の税制改正により、相続税は3600万円を超える相続資産があればかかる可能性が出てきました。それまでは、最低でも6000万円を超える相続財産がないと相続税はかからなかったので、これは大きな違いです。しかもここでいう「相続財産」には不動産なども含まれますので、たとえば都市部にちょっとした家を持っているような場合は、すぐに相続税の課税対象になってしまうのです。

相続税というのは、「所得税の高額納税者」の遺族にだけかかってくる税金ではありません。税務署が所得税の高額納税者だけをチェックしておき、その人が死亡したときにだけ相続税を課す――というようなものでは決してないのです。

相続税は、その人の生前の“収入”とはまったく関係がありません。その人が死亡したときに持っている資産の額だけが、課税の基準になります。そのため、普通のサラリーマンの遺族にも、条件によっては相続税がかかってくることになるのです。

たとえば、所得税をまったく払っていないような、少ない収入しかなかった人であっても、コツコツお金を貯めていて、それが一定以上の金額になっていれば、その人の遺族は相続税を払うことになります。また昔からオンボロな小さな家に住んでいたとしても、地価が上がり、持ち主が死亡したときにかなりの高額になっていたりすれば、その遺族は相続税を払う可能性が出てくるわけです。

■若くして亡くなった人の相続も要注意

預貯金やこれといった資産がない若い人が亡くなったときでも、条件によっては相続税がかかってくる可能性があります。というのも、たとえば「生命保険の保険金」も相続財産にカウントされるからです。若いうちに結婚して子どもを持ったような人は、子どものために自分に多額の生命保険をかけているという場合も多いはずです。そういう人が死んだ場合、残された家族に相続税が発生する可能性があるのです。

また、若くして住宅ローンで家を購入したような人の場合にも、その可能性があります。住宅ローンの場合、契約者に生命保険がかけられているケースが多く、ローンの支払いの途中で死亡した場合は、ローンの残額はその保険金で支払われることになっています。だから、まだ多額のローンが残っていたとしても、死亡した時点でローンは完済されるので、その家の資産価値が一定額を超えていれば、相続税がかかるのです。

自分は若くて貯金もないからといって、相続税は関係ないなどと安心はできません。

■死亡前後に預金口座から現金を引き出すのはムダ

相続税では、基本的に故人が残した「金銭的価値のある資産」はすべて課税の対象となるとされています。相続財産として真っ先に思い浮かべるのは、預貯金、有価証券、金融商品、不動産などだと思いますが、それだけではありません。絵画や骨董品やアクセサリーなど、“金目のもの”はすべて課税対象になるのです。

『税務署・税理士は教えてくれない「相続税」超基本』(大村 大次郎著・KADOKAWA刊)

ここから、「相続」についてみなさんが誤解しがちなことについて触れておきます。「預貯金」が相続税の対象になってしまうからといって、その人が死亡する前後に多額のお金を引き出したとしても、そのお金は当然、相続税の対象になります。税務署は、預貯金の口座については、その詳細をチェックすることができます。だから、死亡前後に多額のお金が引き出されていれば、それは当然、知るところとなります。というより、むしろ、こういうことをしようとするケースが非常に多いので、税務署は死亡前後の口座のお金の出し入れは必ずチェックするのです。また、死亡前に引き出されたお金であっても、相続税の対象になることがほとんどです(医療費や葬儀費用、墓石等に使われた場合は別として)。

 

■家族名義の通帳も故人の財産とみなされるケース

故人(資産家)の名義ではなく、家族名義の預貯金口座のお金も、相続税の対象になる場合があります。資産家は、自分のお金を家族名義の通帳に預けるようなことが多々あります。ところが、名義が誰であっても、相続税では「実際にその通帳を管理している人は誰か」「誰のお金が入っているのか」ということが問われるのです。

資産家自身がその通帳をつくっていたり、資産家のお金が入っていたりするのであれば、それが家族名義であっても、その資産家のものとみなされ、相続時には相続資産に加えられるのです。たとえ、配偶者名義の預貯金口座であっても同様です。配偶者が、自分で働いているなどの理由がないのに、自分の名義で多額の預貯金を持っていた場合は、配偶者の所有物ではなく、故人の所有物として、相続財産に加えられるのです。

■配偶者のへそくりも「相続財産」になる!

では、故人が毎月渡していた生活費の中から配偶者がへそくりをしていた場合、それは、相続財産になるのでしょうか?

答えは「なる」です。配偶者が自分で仕事を持つなどしていて、それが自分のお金だということがわかれば別ですが、もっぱら故人の収入に頼っていた配偶者が、その収入の中からへそくりをしていた場合は、故人の死亡時に相続財産に加えられてしまうのです。(ただし、相続税では、配偶者は「最大1億6000万円の配偶者控除」を受けることができますので、よほど巨額のへそくりをしていない限りは、相続財産に加えられたところで、相続税の支払いの義務は生じないでしょう)

とはいえ、厳密に言えば、相続財産には加えられるので、相続分割の際の対象には入ることになります。つまり、相続人が遺産を分けるときの遺産には加えられるということです。法的なことを言えば、「へそくりも、いったん差し出して、相続人同士で分け合わなくてはならない」ということです。現実にはそこまでお人好しな人はいないかもしれませんが……。

■「死亡退職金」にも相続税はかかる

「退職金」にも相続税がかかる場合が多いので注意を要します。サラリーマンが在職中などに死亡し、死後、遺族に退職金が支払われた場合は、その退職金は、相続税の課税対象となります。課税対象となるのは、退職金、功労金その他これらに準ずる給与すべてで、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものです。また、退職後に死亡し、その後に支払われたものであっても、死後3年以内に支給が確定したものは、課税対象となります。

ただ、この退職金には、法定相続人1人あたり500万円の非課税部分が設定されています。もし法定相続人が3人いた場合、たとえば配偶者と子ども2人が法定相続人だった場合は、500万円×3人=1500万円で、非課税枠は1500万円となるわけです。

こうしたこと以外にも、相続に関して「誤解しがちなこと」「知っておくべき制度」は多くあります。「誰にでも相続税がかかってくる可能性がある」時代ですので、最低限のことを知っておくのは、自分や親族の資産・生活を守る上でも大切なことです。

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大村大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官、フリーライター
大阪府出身。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、テレビ番組の監修など幅広く活躍中。一方、学生のころよりお金や経済の歴史を研究し、別ペンネームで30冊を越える著作を発表している。「大村大次郎」の名前での歴史関連書は『お金の流れでわかる世界の歴史』で初めて刊行、その後「お金の流れでわかる歴史」シリーズを展開。

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(元国税調査官 大村 大次郎 写真=吉野秀宏/PIXTA)

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