多忙な経営者がメールで守る"3つの原則"
プレジデントオンライン / 2019年3月12日 9時15分
■伝わるメールの3原則
ビジネスにメールが使われ出したのは1990年代後半のことである。当初は手紙やファクスの代用という側面が強く、便利ではあるが宛名や挨拶、署名などに関する少々煩雑な書式が付きものだった。それから20年ほどが経ち、メールの書き方も大きく変わってきている。
ネットイヤーグループ社長の石黒不二代さんは、変化の原因と方向性を次のように分析する。
「これまでは手紙の形式を踏襲して、宛名を書き、堅苦しい挨拶を入れてから本題に入るというのがメールの作法でした。しかし、チャット機能によるスピーディなやり取りに慣れてしまうと、そうした形式が無駄に思えるのか、チャット風の簡略化したメールを送る人が増えてきたように思います」(プレジデント誌2016年2月29日号)
プライベートではLINEやフェイスブック・メッセンジャー、ビジネスではSlackといったチャットツールが浸透したことで、メールの書き方が簡素化しているというのである。
手紙やビジネス文書の書式に則ったこれまでのメールを「手紙型」とするなら、21世紀のメールは「チャット型」と呼ぶのがふさわしい。
では、第一線のビジネスパーソンは実際にどんなメールを書いているのだろうか。
たとえばC Channel社長の森川亮さんは、NHNジャパン(現LINE)社長時代に「パソコンからメールを書くときは5行ほど、スマートフォン経由なら1~2行になりますね」(同12年3月19日号)と明かしてくれた。さらに次のような原則を守ることで、効率的な意思疎通ができると述べている。
①ストレートな表現で書く
②結論を伝えるときは「件名」欄に結論を書く
③場合によっては顔文字を使う
いいたいことを効率的に伝えるには、婉曲表現を避けてストレートに書くことが大事である。また「件名」を有効に使えば手間を省くことにつながり、本文を短くする効果がある。
だが、それだけでは受け手の気分を害し、コミュニケーションの効果を損ねるおそれもある。だから森川さんは「顔文字を使う」などの気配りを加えることで、そうしたリスクを最小化するのである。
■メールを書くときは「原則10行」
宅配ポータルサイトの「出前館」を運営する夢の街創造委員会社長の中村利江さんも、「メールを書くときは原則10行ほど。それを超えそうなら、段落をつけたり箇条書きにしたりして読みやすくするように心がけています」と、メールの短さやわかりやすさを重視する。
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最近の森川さんは、さらにアグレッシブだ。「いまはメールよりもLINEなどのチャットを活用しています」という。
「チャットの場合は、わかりやすさと同時にスピードが大事ですから、ほぼ1時間以内に返信するようにしています」
一方、メールの出番は「物事を整理してシェアするようなとき」という使い分けである。
ネットイヤーグループでも、社内での意思疎通はほとんどがチャットツールを通じて行われるようになったという。「若手はほとんどメールを使わなくなりました。ただ、セキュリティ上の問題があることから、仕事での利用は法人向けのツールに限定しています」と石黒さん。
伝統工芸品の販売を手がけるベンチャー企業「和える」社長の矢島里佳さんも、「社内ではSlackが大活躍です。メールは社外向けに使うだけになりました」と証言する。とりわけネット系企業やベンチャー企業で、メールからチャットへの移行が起きているのだ。
もっとも、石黒さんによれば、社外に向けたメールでは「本来の手紙形式を踏襲して丁寧なメールを出すことも少なくありません」。夢の街創造委員会の中村さんも「初対面の方への礼状は、できるだけ直筆の手紙にしています。メール社会だからこそ、手紙の効果が大きくなっていると実感しています」という。
チャット型だけではなく、手紙型のメール、さらには手紙もまだ健在なのである。
■読まれないという「割り切り」も大事
それがなぜなのかを明快に読み解くのは、マネックス証券社長の松本大さんだ。
「『書く』ことの前提は『読まれる』こと。手紙もメールもコミュニケーションの手段であり、主役は相手なので、自分の感覚よりも読んでくれる相手の感覚に合わせるのが当然だと思います」(同17年7月3日号)
何かを伝えようとするとき、どの手段を使い、どのようなスタイルで書くかは、送り手である自分ではなく受け手の事情によって決めるべき。だから松本さんは、手紙やハガキを出すときもあれば、長文の丁寧なメールを書くときもあるし、チャットを使うこともあるという。
コミュニケーションの主役は自分ではなく相手である。この原則は動かせない。ただ、相手の事情を忖度するばかりで「伝える」というメール本来の機能を果たせなくなってしまえば、本末転倒になるだろう。
松本さんが嫌うのは「長文でしかも言いたいことがわかりにくいメール」である。「一瞥して不要と感じたものは『ゴミ箱』に放り込むことにしています」(同)と手厳しい。
無礼といえば無礼だが、日々膨大なメールが行き来し、一般のビジネスパーソンでも処理が追い付かないのが現実だ。
「いまの時代、『メールは読まれないこともある』と割り切ることが大事です。出したメールに返事がなければ、うっかり消されたのかもしれませんし、書き方が悪くて伝わらなかったのかもしれません。こちらから送った大事なメールに返事がなかったら、私はメッセンジャーなりSMSで一言、念押しするようにしています」(同)
メールの本来の機能とは何ごとかを相手に「伝える」ことだ。速く確実に伝えるためには、一見非礼に思えることでも、割り切って取り入れるべきではないだろうか。
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ネットイヤーグループ社長
1958年、愛知県生まれ。名古屋大学経済学部卒、米スタンフォード大学MBA。ブラザー工業、スワロフスキー・ジャパンを経て、99年米ネットイヤーグループのMBOに参画。2000年現職。
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C Channel社長
1967年、神奈川県生まれ。筑波大学卒。日本テレビ、ソニーを経て2003年、現在のLINEに入社、07年社長。15年より現職。著書に『すべての仕事は10分で終わる』などがある。
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夢の街創造委員会社長
1964年、富山県生まれ。高岡高校、関西大学文学部卒。リクルート、ハークスレイ(ほっかほっか亭本部)などを経て、2001年夢の街創造委員会取締役に就任。02年から社長。
![](https://president.jp/mwimgs/d/7/-/img_d7513b7e5b648ce335a925e728e7bb3411406.jpg)
和える社長
1988年、東京都生まれ。2011年、慶應義塾大学法学部卒業と同時に、和えるを設立。同大大学院修士課程修了。著書に『やりがいから考える自分らしい働き方』『和える』などがある。
![](https://president.jp/mwimgs/f/6/-/img_f68afbdd7c337e7f706389baa62f9a0412354.jpg)
マネックス証券社長
1963年、埼玉県生まれ。開成高校、東京大学法学部卒。ゴールドマン・サックス証券ゼネラルパートナーを経て、99年にマネックス証券を設立。著書に『私の仕事術』などがある。
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(プレジデント編集部 面澤 淳市 撮影=永井 浩、貝塚純一、宇佐美雅浩 写真=つのだよしお/AFLO、iStock.com)
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