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工藤公康「ゆとり世代選手はこう伸ばす」

プレジデントオンライン / 2019年3月19日 9時15分

日本シリーズを制覇し、言葉を交わす工藤公康監督(左)と甲斐拓也捕手(2018年11月3日、マツダスタジアム)。(時事=写真)

現役時代、日本一を11回経験した名投手は、福岡ソフトバンクホークス監督就任4年目で3度目の日本一を手にした。生え抜きの若手選手が大活躍するチームを率いる名伯楽の指導とは。

■最低限のルールで、現有戦力を最大化

――2018年シーズンは序盤から複数の故障者が出る波乱の幕開けとなりましたが、ペナントレースを2位で通過。そこからクライマックスシリーズ(以下、CS)を勝ち上がり、日本シリーズを2年連続で制しました。各選手も満身創痍といった中で、どのようにして最後までモチベーションを維持させたのでしょうか。

まず、昨シーズンは監督としては“失敗の年”と捉えています。リーグ優勝をすることが監督の最も大事な職責です。選手の頑張りで、CSを勝ち抜き、日本一になることができた。そこには感謝しかありません。

8月、9月という、ペナントレースを取れるか取れないかの瀬戸際で、私は「試合に集中するために、自分の一番いいコンディションをつくりなさい」という大きな全体ルールを設定しました。その目的のためならば、ベテランでも若手でも自己判断で練習メニューを選択したり、少なくしたりしてもかまわないということです。特定の選手だけに適用すると、チーム内に不協和音が生まれてしまいますから。この最低限のルールで、各選手がコンディション管理を練習から考えてくれたことが非常に大きかったと思います。

――選手を信用し、自己判断に委ねたわけですね。

全員それぞれにいいコンディションをつくってもらって、ベストな状態で試合に集中することを優先しましたが、実際には、どの選手も満身創痍だったと思います。それでもなお、「痛いの痒いの言っている場合じゃない」という思いで戦ってしまうのが野球選手の性。なので、昨シーズンは全体ルールとして設定してみよう、と考えました。みんな本当の意味のベストな状態とは違い、多少なりとも無理をしていることは間違いないのですから。

――個人個人が自己判断でベストな状態をつくることができるのでしょうか。

完全に選手任せというわけではありません。選手の状態はコーチやトレーナーがよく知っているので、彼らが選手にアドバイスしながらメニューを調整していきます。ただ、最終的な判断は選手に委ねます。チームが最後まで勝ち抜くためには、選手一人ひとりが自分の状態をベストにする方法を知っていなければならない。そのうえで、チームの皆が1つの方向を向けるかどうか。選手もコーチもトレーナーも同じ方向を見てくれていたから、日本一になれたのだと思います。

今のソフトバンクホークスの選手たちはペナントレースもCSも日本シリーズも“勝ち”を経験しています。選手自身がシーズンを通じての勝ち方を知っているんですね。ですので、勝負どころでは選手に声をかけるようにしていますが、逆に前半などは負けていても、あまりミーティングをしたりはしなかったですね。

――選手の状態は工藤監督も把握しているのでしょうか。

ソフトバンク監督 工藤公康氏

もちろんです。私も普段の練習から選手の状態を見ていますし、選手の側にいるコーチやトレーナーから情報をもらっています。その情報を私がフィードバックして状態を把握しておかないと、選手の起用や交代が行えません。監督が試合中しか選手を見ていなかったら、いい選手を使いたいだけ使ってしまうんです。選手というのは「行け」と言われれば「はい!」、「大丈夫か?」と聞けば「大丈夫です!」と答える。それで壊してしまうんです。

私たちはそうならないように、試合前のミーティングで各コーチと選手のコンディションを確認して、どこで交代するか決めておき、調子がよくても交代します。監督の私自身が選手一人ひとりの情報を持っておいて、早い決断をしていくことが、結果として故障者を増やさず、最後まで活躍してもらうことにつながると思います。

――選手の状態というのは、監督の感覚で測るのでしょうか。

自分の目で観察もしますが、トラックマン(球の回転数や軌道を測定できる機械)などのデータも重視します。選手のいいところは誰もが皆理解できるのですが、そうでない細かな変化はなかなか見えてこない。データを見るとそうした変化まで見えてくることがあります。そうすればすぐにコーチと対策を考えることができます。

■選手がよくなる姿を見るのが好き

――17年に日本代表として、ワールド・ベースボール・クラシックで大活躍した千賀滉大投手に続けとばかりに、昨シーズンは12球団ダントツの盗塁阻止率.447を記録した“甲斐キャノン”甲斐拓也捕手や、「第2先発」としてCSで2勝を挙げた石川柊太投手など、育成ドラフト枠から上がってきた若手選手が大活躍しました。どうやって育成しているのでしょうか。

未知の部分がたくさんある若い選手が、活躍できるきっかけを得られる環境がないといけない。それをつくっているのが“3軍制”です。ソフトバンクは3軍まで入れると90人近い選手がいる。その90人が常に切磋琢磨して、28個しかない1軍の席を争うという環境が、チームを強くしています。

人生で初めて、3軍でプロのコーチや先輩選手の指導を受けて、劇的に変わる選手は少なくない。私たちがいい悪いを決めるのではなく、使ってみて判断しています。すると、何が通用し、何が足りていないのかを、選手自身が感じますから。そのうえで科学的な根拠に基づいた指導をしていけば、ただコーチが「こうしろ」と指導するよりもはるかに成長が速いわけです。細かいことは、コーチには話はしますけど、選手自身にはあまり言いませんね。

――工藤監督は3軍の監督もやってみたいと発言されているそうですが、なぜでしょうか。

私は選手がよくなっていく姿を見るのが好きなんです。育成の子たちが、プロとしてどうすれば生きていけるかというところを教えるのが好き、ということですね。そこには、選手に長く野球をやってもらいたいという思いもあります。私自身は現役を29年やらせてもらったわけですが、その中で仲間が辞めていくのは寂しかったですし、自分でも後悔だらけの野球人生でした。まだまだできたことはあったはずだという思いは残っているんです。

2019年のスローガン、「奪Sh!(ダッシュ!)」には、リーグ優勝奪還と日本一への想いがこもる(2018年12月21日、ヤフオク!ドーム)。(時事=写真)

若い選手にデータやトレーニングに関する正しい知識を与えて、若いうちからしっかりと科学的根拠に基づいた指導をしていければ、もっと成長してもっと長く現役をやれる選手も増えるでしょう。

私は現役時代に肩を故障して、医師には「もう投げられるようにはならないよ」と言われました。野球ができないということが何よりも辛かった。怪我をしにくい体になって野球さえできていれば、諦めなければ復活するチャンスというのは必ずあると思いますから。

福岡ソフトバンクホークスという球団に入った選手には明らかな成長をしてもらいたい。たとえホークスでは上に上がれなかったとしても、「ホークスの選手はレベルが高いから、うちで雇いたい」と他球団から思ってもらえるようになってくれたら嬉しいですね。

■日本シリーズ中に、オフの練習を計画

――プロ野球はシーズンオフも含めて、1年間をどう過ごすかが重要かと思います。

そのとおりです。私の場合、現役時代はシーズンオフもトレーニングを欠かさずに、キャンプが楽だと感じるぐらいに調整していました。今はシーズン終了時に、コーチを通じて選手一人ひとり個別にシーズンオフに取り組むべき課題を出しています。ですので、シーズン終盤には試合と並行してコーチと一緒に、選手全員分の課題とトレーニングメニューをつくりこんでいきますね。

――日本シリーズを戦いながら、監督は翌年のチームづくりをスタートしていたわけですね。

シーズン終了後に考え出すようでは来シーズンに間に合いません。チームが勝ち続けるためには、何が足りないのか、どう変わっていかなくてはいけないのか、だからこのトレーニングが必要なのだと、選手がきちんと理解していることが大切ですから。チーム内の競争原理が働く中で、選手がいかにモチベーションを上げ、自分をマネジメントし、さらに価値を高めていくのか。その道筋を考えるのが私たちの仕事です。監督とコーチ陣が先の先を見据えておかないと。選手たちは目の前の試合、目の前の1打席、目の前の1イニングに集中していますから。

――選手のトレーニングに対する知識や思考のレベルを高めることも、監督の大切な仕事なんですね。

野球選手って現役を終えても、まだ人生半分じゃないですか。では残りの半分をどう生きるかと考えたときに、強いチームにいた人、それも自分を成長させて強くなる体験を持っている、勝ち方を知っている人というのは、監督やコーチとしてのセカンドキャリアが開けるんです。ホークスが強くなるということは、今の選手の将来をつくることにもつながるのです。

ホークスの選手たちは、現役を引退した後、いろんなところで勉強し、あちこちで強いチームをつくるでしょう。その強いチーム同士が戦うようになっていけば、日本のプロ野球がより魅力的なものになっていくことでしょう。私はホークスで監督をさせてもらっていい思いをさせてもらっているので、「次の時代もまたおまえたちの時代だよ」と言えるものをつくってあげられたらと思います。

■「絶対勝てる」と、繰り返し語りかけ

――18年、ペナントレースを2位で終えてから、CSまでのチームの雰囲気はどうつくりましたか。

フィジカルをベストなコンディションに持っていく方法についてはトレーナーやコーチとともに考えてうまくつくることはできたのですが、最後に重要になるのはメンタルです。選手たちが、「悔しい。俺たちは、このCSをなんとかして勝って、日本一になるんだ」という思いを強く持たなければ、どんなに強くても勝てないんです。弱気だけは、絶対に表に出してはいけない。私も、「絶対勝てるんだぞ」「日本一になれるんだぞ」「俺たちにはそれだけの力があるんだ」という想いは繰り返し選手に語りかけました。

8月に、若手、ベテラン選手とそれぞれ食事会をしたのですが、選手から「残り40勝9敗でいきましょう」「みんなで力を合わせて、1つになって頑張りましょう」といった言葉を聞けて、すごく嬉しかったですね。「あぁ、こいつらも同じ気持ちで明日から戦ってくれるんだ」と。

ただ、選手のメンタルケアについては、就任以来、常に試行錯誤しているのが実情です。チーム状況や選手の年齢層、順位などで、やり方は大きく変えないといけないかもしれないですし、“正解”はないのかな、と思います。昨シーズンのように食事会で気持ちをぶつけ合うことがよいときもあるでしょうし、そうではないときもあるかもしれません。日々悩みながらですが、選手やコーチはそれによく応えてくれていると感謝しています。

■今の子たちは、声がけで変わる

――工藤監督の現役時代と今とでは、教え方も違うと思います。選手に教えるときに、伝えるコツはありますか。

昔は、「つべこべ言わずに言われた通りに練習しろ」という指導でしたよね。反論なんかしたら練習を倍に増やされた。ただ、意味がわからずにやっていたことでも、「あぁ、あのときにやってたから、よかったんだ」って思えることがあるんです。やるかやらないかで言えば、やらなければ絶対に強くならない。強くなった者が勝つことははっきりしている世界なので。でも、トレーニングの効果が出るのってすごく先なんですよ。何年も先だったりする。ですので「何のためにやるんだろう」と疑問を持ちながら取り組むよりは、選手もその意味を理解してからやったほうがいい。そのため、理論や目的を伝えるように心がけています。

――工藤監督は選手との距離が近いと思います。それが特に若い選手にとってはいい気がします。

上の世代の監督さんはドンと構えて、威厳があって、無言で選手を動かす力があったと思うんです。でも今の子たちを考えると、それだけではダメかなと思いますね。やはり「ちゃんと見ているよ」ということを伝えてあげて、「頑張れよ」と一言声をかけるだけで、モチベーションも上がるし、変わっていける子が多いと思いますね。

コミュニケーションをはじめとして、昨シーズンは、日々いろんなことを悩み、考え抜きましたが、日本一のときの選手の笑顔を見て本当にホッとしました。この苦悩はずっと続くものですが、監督業とはそういうものだと思っています。選手だけでなくたくさんの人が支えてくれていることに、感謝ですね。

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工藤公康(くどう・きみやす)
ソフトバンク監督
1963年生まれ。愛知県出身。名古屋電気高から82年ドラフト6位で西武に入団。左のエースとして活躍。ダイエー、巨人でも日本一を経験。横浜を経て、2010年西武を最後に現役引退。野球解説者を経て、15年から福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。

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(ソフトバンク監督 工藤 公康 構成=嶺 竜一 撮影=藤原武史 写真=時事)

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