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ジム・ロジャーズ"中国企業は守られすぎ"

プレジデントオンライン / 2019年3月7日 9時15分

図表1:出生率は人口置換水準を下回り続けている(画像=『お金の流れで読む 日本と世界の未来』より)

これから中国の経済はどうなるのか。投資家のジム・ロジャーズ氏は「中国企業は保護されすぎている。いずれ中国には倒産、破産する企業や都市、地方が出てくるだろう。中国政府は救済をしないことを明言しているが、経済成長を続けるにはそれを貫く必要がある」と予測する――。

※本稿は、ジム・ロジャーズ著、大野和基訳『お金の流れで読む 日本と世界の未来』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■中国を襲う「出生率の低さ」という危機

中国の弱みは何かと言えば、それはまず出生率の低さにある。

1979年から実施された「一人っ子政策」の影響で、ここ20年来、出生率が人口置換水準(人口が増加も減少もしない状態の出生率)をずっと下回っている(図1参照)。中国の出生率は1960年代から下がり続けていたが、「一人っ子政策」を導入したせいで、ついにこの水準まで落ちてしまったのだ。

一人っ子政策が始まってから30年の間に、男の子ばかり望む親が増えて人口の男女比がアンバランスになったり、高齢者人口が膨れ上がる一方で労働力人口は不足したりするなど、さまざまな問題が噴出した。そのため2014年には「単独二子政策(夫婦どちらか一方が一人っ子の場合は第二子の出産を認める政策)」が導入された。2年後にはそれも廃止され、子供を二人産むことが合法になった。

それでも中国人、とりわけ中流階級の多くは、子供を二人持つことを望んでいない。都会では特に、一人の子供に多額の養育費をかけることが習慣化してしまっているので、子供を複数持つのは経済的な負担になるのだ。それに加えて精神面でのストレス、キャリアへの影響もあり、二の足を踏む人が多い。日本や韓国など多くの国でもそうであるように、少子化は長期的に見て、労働力人口の減少や若者世代への負担増など、さまざまな問題の原因になる。

日本と同様、アジア諸国は移民を嫌うという傾向がある。中国人、そして韓国人の多くは海外に移住しているが、自国への移民受け入れは皮肉なほどに少ない。この傾向は、将来人口減少を引き起こし、大きな問題を引き起こす可能性がある。

■地方と都市とで広がる格差

さらには、地方と都市との大きな格差も問題だ。地方と都市とでは社会保障が異なり、それが両者の格差を広げているとも言われている。政府もそのことはわかっているはずだ。最近北京で開かれた会合でも、「この40年間で、都会の人たちはとても成功したが、田舎の人は成功していない」という主旨の発言があった。地方の人は、成功を求めて誰もが都会へ出て行ったのだ。

中国政府はいま、地方を助けるべくありとあらゆることを実行している。中国には3兆2000万米ドルという世界ランキング1位の外貨準備高(図2参照)があるから、財政支出を増やすことには問題がない。むしろ本当に必要な部分にどうやって金を回していくか、ということの方が問われるだろう。

図表2:外貨準備高は世界で1位だ(画像=『お金の流れで読む 日本と世界の未来』より)

銀行は、規模が小さかったり地方にあったりする企業に金を貸すことはしない。そういった企業の方でも、金を借りようとはしない。だから政府が手を差し伸べ、地方の生活水準を向上させ、消費を刺激する政策を取らなければならないのだ。

具体的には、起業を支援する「イノベーションセンター」を全国に建設したり、財政収入ではなく投資プロジェクトのリターンから返済する債券、特別目的債を地方政府には余分に発行させたりと、いろいろと手を尽くしている。特別なローンもできる。農業従事者であれば、いま大都市の北京では歓迎されるだろう。

■ここ数年で借金が急速に増えている

ここ数年で増え続けている借金も、大きな問題である。

中国の内外債務総規模は、2017年9月末時点で約255兆元(約4412兆円)を上回る。対GDP比は、342.7パーセントという高い数値を記録している。債務の対GDP比は2008年末から救いがたいほど上がり続けているが、300パーセントを上回ったのは2017年が初めてだ(図3参照)。

図表3:対GDP比債務残高は2017年に300%を上回った(画像=『お金の流れで読む 日本と世界の未来』より)

序章でも触れたように、どの国も毛沢東に金を貸そうとしなかったので、何年も中国は借金がなかった。毛沢東の前には戦争や内乱があり、その時も借金はなかった。しかし2008年終盤に政府が大規模経済対策を発表して以来、誰もが競って借金をする状況が続いている。2008年末からの債務の増加額は、中国GDPのおよそ100パーセントに上り、米国が2008年までの10年に記録した規模の2倍を超えている。日本ほどではないが、ものすごい勢いで借金が増えているのだ。

かつてこれほど大きな借金を抱えた歴史がないので、中国はその処理の仕方を知らない。日本や多くの社会は今も昔も借金を抱えているので経験と知識があるが、中国にはそのノウハウがないのだ。

■企業や自治体の借金も膨れ上がる

国家だけではない、企業や自治体の借金も膨れ上がっている。いずれ倒産、破産する企業や都市、地方が出てくるだろう。ところが中国政府は、破産するところが出てきても救済はしないと明言している。皮肉なものだ。彼らは共産主義の国だというのに、日本やアメリカよりもずっと資本主義的である。

中国は、1978年に鄧小平が「我々は何か、新しいことを始めなければいけない」と宣言して以降、ずっと資本主義化の道を歩んできた。この40年でますますオープンな市場になってきている。対して日本やアメリカ、その他いくつかの資本主義国は、銀行の国有化や企業救済など、まるで「社会主義化」したような政策を打ち出している。

1990年代の初め、日本でバブルが弾けた時、政府はどの会社も倒産させまいと奮闘した。その結果、いわゆる「ゾンビ企業」や「ゾンビ銀行」が生まれた。本来なら無能な企業・人材は淘汰され、有能な人材が再建して新しい健全な会社を作り上げるべきところを、日本は逆のことをやってしまった。政府が介入し、有能な人から資産を取り上げ、それを無能な人に渡して「その金で有能な人と競争せよ」と言ったのだ。頭がいい、有能な人から取り上げた金を無駄遣いするゾンビ企業・銀行が、日本にはいまだにはびこっている。過剰な保護政策によって生かされている「生ける屍」とも言える。

■地獄に送るべき人間を放置すると「この世は地獄」

バブル崩壊後、日本が「失われた10年」を経験したのはそのせいだ。それが「失われた20年」に延び、いまは「失われた30年」に突入している。そして、リーマンショック後のアメリカでも同じことが起きた。破産させるべき企業を救済し、刑務所に送るべき人間に退職金を保証した。結果、アメリカは有史上最大の債務国と成り果てた。もはや、アメリカの企業は世界で競争することができなくなっている。イギリスも同様だ。足取りをふらつかせるほどの対外債務があるが、イギリス政府は企業を倒産させようとしない。

「破産なき資本主義は地獄なきキリスト教」と、イースタン航空(1991年に経営破綻)のCEOであったフランク・ボーマンも言っている。地獄に送るべき人間を放置しておくと、この世は地獄そのものになる。

日本・アメリカと逆の例もある。スウェーデンは1990年代初頭、アメリカと同じような不動産バブルで経済破綻を経験したが、政府は過剰な救済措置を取らなかった。そのため2~3年はたいそう悲惨な時期が続いたのだが、その後は一転、好景気に沸いた。いまやスウェーデン経済の健全さは世界屈指である。1994年のメキシコでも、1990年代末のロシアやアジアでも、同じようなことが起きている。どの国も最悪の状態を経験し、それを抜け出してきたからこそ、信頼に足る成長国として台頭したのである。

中国にも、どうかそうであってほしい。中国政府の言葉が単なる脅しではなく、本気であることを望んでいる。救済措置を取らないことは、私を含めて多くの人を怖がらせるだろうが。

■中国政府が少子化や格差より解決すべき問題

 とはいえ、いまの段階では、中国の経済は保護されすぎていると言わざるを得ない。たとえば日本で株を買いたければ、電話一本で買える。ドイツでも同じだ。しかし中国では、それができない。

ジム・ロジャーズ著、大野和基訳『お金の流れで読む 日本と世界の未来』(PHP新書)

中国の株を初めて買った時のことだ。1988年、雑居ビルの中にあるちっぽけで散らかった取引カウンターで、事務員に株券を手渡してもらった。卒業証書のようにやたらと大きい、本物の紙でできた株券だった。株券にも受取証にも、偉そうな役人からハンコをもらわなければならなかった。

役人がやたらともったいぶってそろばんを弾いているので、「この間にも株価が上がってしまうから、早くしてくれ」と急かしたものだ。この光景を、私はいまだに覚えている。その頃と比べると、現在、特にこの15年間で株式市場はかなりオープンになったが、それでも他の国にはまったく追いついていない。

また、国内に多くの金が閉じ込められているのも大きな問題だ。日本では金銭を自由に国外へ持ち出せるだろう。自分の持ち金をどう使おうが、個人の自由だ。中国ではそれができず、国外に金を持ち出すのが非常に難しい。だから、不動産を買う以外に使い道がない。現在、不動産業界がバブル状態になっているのはこれが理由だ。中国政府はこのような歴史の残滓(ざんし)を一刻も早く解決しなければならない。いまは100年も前の1918年ではない、もう21世紀になって久しいのだから。

少子化や地方と都市の格差、借金という課題よりもまず先に中国が解決すべきは、この閉鎖された経済だろう。中国経済は、政府に操作されている部分が多すぎる。そもそも人民元という国の通貨が管理通貨なのだ。

世界的に見るといずれドル以外の通貨が基軸通貨になることは間違いないが、管理通貨である人民元がそうなるには、もっと自由に変動することができなくてはならない。

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ジム・ロジャーズ
投資家
名門イエール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街へ。ジョージ・ソロスと共にクォンタム・ファンドを設立、10年で4200パーセントという驚異のリターンを叩き出し、伝説に。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論の教授を一時期務め、またテレビやラジオのコメンテーターとして世界中で活躍していた。2007年、来るアジアの世紀を見越して家族でシンガポールに移住。
大野和基(おおの・かずもと)
国際ジャーナリスト
1955年、兵庫県生まれ。大阪府立北野高校、東京外国語大学英米学科卒業。1979~97年在米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始、国際情勢の裏側、医療問題から経済まで幅広い分野の取材・執筆を行なう。1997年に帰国後も取材のため、頻繁に渡航。アメリカの最新事情に精通している。

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(投資家 ジム・ロジャーズ、国際ジャーナリスト 大野 和基)

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