シンガポール"産休3カ月"復帰社会の幸せ
プレジデントオンライン / 2019年3月1日 6時15分
■産休は3カ月程度が一般的
ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。私が住んでいるシンガポールでは、政府が働く女性から家事や育児などの家庭内労働の負担を切り離して、職場で活躍できる制度を整えています。具体的にはヘルパーや保育園(待機児童はほぼない)や掃除サービスなどが整っていて、ワーママだけではなく、シングルの女性もヘルパーや掃除サービスを利用することも多いのです。
シンガポールでは働く女性の多くが出産ギリギリの臨月まで働き、産後は3カ月程度で復帰するのが一般的です。育休はなく、産休のみといったイメージです。母子には優しくないと思われるかもしれませんが、仕事を続ける上では産休、育休は短い方が復帰はスムーズです。
例えば、私はずっと同じネイリストの人にお願いをしていたのですが、彼女は3カ月程度で復帰をしたために他の人に変えることなく産後も彼女にお願いをし続けています。シンガポールでは有給病欠などを含めて休暇は取りやすいので多めに休むものの仕事を続けることができるのです。また、雇用が流動的で転職もしやすくなっています。
■小学校の卒業試験対策も家庭教師にお任せ
シンガポールの女性に「日本では、育休は2年あるんですよ」と言っても、「いいね!」とは言うものの、特別うらやましがることもないようです。それよりも、自分の好きな仕事をして稼ぎたいという気持ちのほうが大きいようです。
物価が高く、社会保障が手薄いシンガポールでは、中流家庭は生活をしていくために女性も働き続けることが必須です。そうでないと毎月の生活費を払い、老後のお金を貯めていくことが難しいのです。また、ヘルパーや掃除業者、ウーバーイーツなどのレストランのデリバリーサービスや持ち帰りサービス、買い物代行なども発達しています。シンガポールでは小学校の卒業試験でその子の人生が決まるとも言われていますが、試験対策も家庭教師にアウトソーシングするワーママも増えています。家庭教師のほうが教えることが上手だから、自分は稼ぐのに特化すると知人の女性は言っています。
■支出の優先順位が根本的に違う
シンガポールでは、女性が家庭外で働くことの「機会費用(ある選択を行なったことによって、得ることができなかった経済的価値)」が非常に低くなっているのです。シンガポーリアンの中間層の月収は40万円程度なので、それぞれ月5‐10万円程度のメイドや保育園を利用したり、外食やテイクアウトに変えたり、タクシーを利用したとしても働くほうが断然おトクだと考えるのです。
月収が20万円程度の販売員やネイリストの外国人労働者の中にも、子どもはマレーシアなど外国にいる親に預けて平日はシンガポールで働くという人もいます。便利な中心部に住んでいてメイド部屋がない、他人と一緒に住むのに抵抗がある、などの理由でヘルパーを雇っていない家庭も週1、2回は掃除の人やベビーシッターに来てもらうことは一般的です。掃除サービスやベビーシッターの1時間当たりの料金は日本よりはやや安く1600円程度です。
日本人の場合は、ネイルや美容院など美容費や被服費などにかけた後に余ったら家事代行に使うという考え方の人が多いです。しかし、シンガポールの女性はネイルなど一切しなくて、普段着はTシャツと短パンとビーチサンダルという人でもヘルパーを雇っています。支出の優先順位が根本的に違うのです。
■女性が罪悪感をもつ必要がない
シンガポールでは、ママが家庭外で働くのは当たり前。そのほうが経済的にトクだと国中の老若男女が思っているので、女性側も罪悪感が少なくて済みます。
シンガポールに行くまでの私は、フリーランスで働きながらもベビーシッターに預けている時間以外は子どもの面倒をすべて見ていました。
遡れば、出産直後からおかしな罪悪感を抱くことが多々ありました。その一つが母乳育児です。私はたまたま母乳育児を強く推奨する病院で出産・入院することになりました。そこでは、母乳が出ないと助産師さん達に怒られるばかり。個室代を含めると100万円も払ったのにどうしてこんなに押し付けがましくホスピタリティーがないのだろうと、シンガポールのサービスを知った後は首を傾げてしまいます。
■母乳は2カ月しかあげない
シンガポールに来た後に外国人の働くママ達と話を重ねるにつれ、変な罪悪感はすっかりなくなっていきました。
「母乳は出ないからミルクだよ。ヤギの粉ミルクが母乳に近くてうちの子どもは好きだよ」
「2カ月しかあげてないわ。チャイニーズセレブリティは母乳なんてあげないんだけど」
「ヘルパーは雇っていないの?」「どうやって回しているの?」「うちも料理つくらない」といった意見も。皆、手を抜けるところは抜いて、楽に生きているのです。
シンガポールにいるワーママの多くは、家事と子どもと遊ぶ以外の育児の多くはアウトソーシングしています。専業主婦の場合も、家事はアウトソースしてしまったほうが子どもと過ごす時間が増えていいという考え方が主流です。
■全てを自分でやろうと思わない
貨幣経済が発展した現在では、すべて自給自足でやっていくという考え方はどう考えても非効率で仕事が増えれば疲弊をします。それにも関わらず、日本ではインスタグラムなどのSNSで「こんなに頑張ってパーティーの準備をしました」的な投稿が多いので、働く女性も「やらなければ!」と洗脳をされがちです。
「1週間分のつくり置きしました」の投稿に関しては外国人には全く理解ができないようで、彼女はものすごく大家族なのかと真剣に聞かれました。もちろん趣味で負担にならない程度にやるのはいいと思います。
インスタグラムなどに手づくりの手芸や料理などを投稿している人たちの多くは富裕層で時間が有り余っているなど、恵まれた条件の家庭の場合も多いのです。環境が違うので、見て楽しむのはいいですが、真似をすると苦しくなることも多いのです。
さて、海外で暮らしてみると、日本ほど食が豊かで流通が発展した国はありません。スーパーで仕事帰りに半額になったお弁当やお惣菜を買って帰ったっていいではありませんか。最新のロボット掃除機を買って楽をしたっていいのです。特に、ベビーシッターや家事代行やタクシーなどのサービスがシンガポールよりも高めの日本では、家電製品や中食などの活用は有効でしょう。
自分が得意な仕事に特化させ、そこでお金を稼ぎ、シンガポールの働く女性に習ってアウトソーソングさせるところはさせてしまってもよいのです。
(1級ファイナンシャル・プランニング技能士 花輪 陽子 写真=iStock.com)
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