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「沖縄の民意」を見くだす安倍首相の驕り

プレジデントオンライン / 2019年2月28日 15時15分

2月25日、県民投票を終え、多くの報道陣に囲まれて取材に応じる沖縄県の玉城デニー知事(写真=時事通信フォト)

■「辺野古移設」反対の意思は明白だ

普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設の賛否を問う沖縄県民投票が2月24日、投開票された。その結果、「反対」は71.7%、「賛成」は18.9%、「どちらでもない」は8.7%だった。

法的な拘束力はないが、反対票が投票資格者総数の4分の1を超えたことから、県民投票条例の規定により、玉城デニー知事は安倍晋三首相とトランプ米大統領に結果を通知する。

反対票を投じた県民の数は、投票資格者総数の過半数に達していなかった。投票率も52.48%と低かった。この点を捉え、辺野古移設を容認する自民党県連からは「県民の総意ではない」との批判の声が出ている。

しかしながら投票率の低さの一因は自民党にもある。自主投票の形をとって静観し、投票を積極的に呼びかけなかったからだ。県民投票の盛り上がりを回避して投票率を下げるという戦術だが、民主主義を無視する姑息な手口だ。この点については2月17日掲載の「沖縄県民投票をスルーする自民党の姑息さ」で指摘しているので、ここでは繰り返さない。

■「70%超」に戸惑う安倍首相の言葉

一方、安倍首相は投開票翌日の25日朝、首相官邸で記者団に対し、「世界で最も危険な普天間基地が固定化され、危険なまま置き去りにされることは絶対に避けなければならない。日米合意から20年以上、普天間の返還が実現していない。もうこれ以上、先送りできない」とこれまでの主張を繰り返した。

その一方で、「これまでも長年にわたって県民の皆様と対話を重ねてきたが、これからも対話を進めていきたい。ただ単に、辺野古に新たな基地を作るのではなく、移設をするためということを理解していただきたい」と沖縄県民の理解を得る努力を重ねていく考えも示した。

さすがに反対票が70%を超えたことに戸惑ったのだろう。この日の国会答弁でも同じことを述べていた。辺野古移設反対派の圧勝に、決まり文句しか出てこなくなったのかもしれない。

■米軍基地も住民の総意なしには成り立たない

日本の国土面積のわずか0.6%にすぎない沖縄に、7割もの米軍施設が集中している。だれが見ても異常な事態だ。沖縄は米軍機の騒音や事故、それに米兵の犯罪に悩まされ続けてきた。にもかかわらず、私たちは沖縄の基地問題を真剣に考えてきたのだろうか。沖縄だけに米軍基地を負担させるべきではない。

県民投票の結果を受け、辺野古移設の問題だけではなく、日本国内の米軍基地の在り方、さらには日本の安全保障の将来までを考える必要がある。

「安全保障政策は政府の専権事項だから米軍基地の移設場所は政府が決めるものだ」との考え方がある。だが、それは大きな間違いである。安全保障は国民のためのものであり、日本政府のためにあるのではない。たとえ米軍基地といえども、国民である住民の総意なしには成り立たない。

■この結果を無視するなら「国民投票」しかない

アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による二度目の米朝首脳会談が開催されるなかで、「終戦宣言」によって朝鮮半島をひとつにまとめようとする動きが出ている。中国も国力を蓄え、経済、軍事の両面でアメリカに対抗している。

そうなると、日本は安全保障上、どう動けばいいのだろうか。このままアメリカに追従していくだけでいいのだろうか。早急に方向性を見いださなければならない。

これまで日本は軍事面でアメリカにすがって戦後の経済成長を成し遂げた。それはしたたかで、合理的なやり方だった。しかしこれからはそうはいかなくなる。

トランプ政権を見ていれば分かるが、内政も外交もアメリカはその国力が衰えつつある。それゆえトランプ氏はアメリカ第一主義を掲げるのだ。だが、アメリカ第一主義が成功するかは、かなり不透明である。

日本は独自の安全保障政策の道を探っていく必要がある。そのためにも私たち国民ひとり一人が米軍基地の在り方や安全保障の問題をしっかり議論していくべきだ。

辺野古移設の是非は沖縄だけの県民投票でなく、本来「国民投票」という日本のすべての国民の判断で決めるべき問題だ。これ以上、安倍政権が県民投票の結果をないがしろにするならば、関係法案を整備して国民投票を実施すべきである。

■最高裁が「埋め立て承認」の効力を復活させた

ここで辺野古移設をめぐる経緯を簡単に振り返ってみよう。

1995年の米兵による少女暴行事件を受けて、当時の橋本龍太郎首相と大田昌秀沖縄県知事が協議し、普天間飛行場の返還と沖縄の振興を進めることで合意した。これが出発点である。

しかし橋本首相は普天間飛行場を県内移設することでアメリカと合意し、大田知事はこれを拒否した。

2013年12月には仲井真弘多知事が辺野古の埋め立てを承認するも、翌年11月に辺野古移設反対の翁長雄志氏が知事に当選し、2015年10月に翁長知事が埋め立ての承認を取り消した。

ところが2016年12月、今度は最高裁が「埋め立て承認の取り消しは違法」とする判決を下し、「埋め立て承認」の効力が復活。その結果、2017年4月に政府が辺野古の護岸工事に着手した。

その後、2018年8月に翁長知事が死去。同年9月に翁長知事の後継として玉城氏が知事に初当選した。

こうした経緯を振り返るだけでも、政府と沖縄の間で何度もボタンの掛け違いがあったことが分かるだろう。この掛け違いをきれいに直す必要がある。

■埋め立て費用は2405億円から2兆5500億円に

玉城氏は県民投票の結果をバネに、引き続き安倍政権と対決する方針だという。最大の武器は辺野古北側の「軟弱地盤」の問題だ。政府は大規模な地盤改良を実施する方向だが、それには工事の設計変更が必要で、玉城氏にその変更を申請して承認を受けなければならない。玉城氏はこの申請を承認しないとみられ、政府は何らかの法的対抗処置を取らざるを得ない。その場合、工事が大幅に遅れるのは間違いない。

しかも地盤の問題などから費用が当初の2405億円から2兆5500億円に跳ね上がるとの試算もある。すべて私たちの税金である。

このまま玉城氏が安倍政権と対立し続けると、日本の安全保障に大きな影を落とす。いがみ合ってばかりでは辺野古移設の問題は解決しない。なんとか歩み寄る方法を模索したい。国民みなが真剣に考えて知恵を絞るべきである。

■「沖縄県民を含む国民の安全を損なう」はずるい

「移設を進めることができなければ、市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性を取り除くことはできない。中国などの脅威から日本を守る、抑止力を保つことにも反する。沖縄県民を含む国民の安全を損なうことにつながる。投票結果は極めて残念である」

こう書くのは2月25日付の産経新聞の社説(主張)である。

普天間飛行場に比べれば、海を埋め立てて米軍のキャンプ・シュワブを増設する辺野古移設の基地は、ヘリや輸送機の飛行は海上が中心になるから格段と安全だろう。

しかし中国の脅威から日本を守るには辺野古でなくともいいはずだ。ましてや前述したように朝鮮半島の勢力図が変化しつつあるなか、中国の立ち位置も変わる。アメリカの対応も変わってくる。

ここは先を見越して動く必要がある。防衛では先見の明が欠かせない。先を見通せなければ、抑止力も効かない。

ボタンを正しく掛け直した後、たとえば沖縄県外の日本国内に新たな米軍基地を建設する方法も検討すべきである。本土の既存の自衛隊基地を拡大して一部を米軍が使用することも可能だ。グアムの米軍基地を増強する方法もあり得る。とにかく辺野古に固執していては一歩も前には進まない。

産経社説は「沖縄県民を含む国民の安全を損なう」と書くが、安倍政権の本音は、沖縄県民を犠牲にして日本の安全と国益を守ろうというものだ。それを社会の公器である新聞の社説が、いかにも沖縄県民の安全が守れないというような書き方をするのは、ずるくて卑怯だ。納得がいかない。社説は正々堂々と本音で書くべきである。

■県民投票は基地問題に「なじまない」のか

次に2月26日付の読売新聞の社説。その冒頭から「沖縄県の基地負担を軽減する長年の取り組みを混乱させることにならないか。安全保障政策を県民投票で問うことの危うさを直視すべきだ」と主張する。産経社説と同様、米軍基地問題を沖縄に一方的に押し付けるつもりなのでは、と疑いたくなる書きぶりである。

読売社説は中盤でこうも指摘する。

「米軍施設の移設先は、日本を取り巻く安全保障環境や米軍の運用実態、沖縄の基地負担軽減を総合的に勘案して決めざるを得ない。国は、時間をかけてでも実現させる責務を負う。県民投票で是非を問うのはなじまない」

県民投票は本当になじまないのだろうか。沙鴎一歩は「『国民投票』で是非を問うべき問題だ」と主張したが、読売社説は正反対のスタンスを取る。どこまでも安倍政権を擁護したいのだろう。さらに読売社説は主張する。

「英国が欧州連合(EU)離脱の是非を国民投票にはかった結果、大混乱に陥っている」
「複雑に利害が絡む国政の課題は、有権者に直接問うのではなく、国政選挙で選ばれた国会議員に委ねるべきである」

イギリスのEU離脱問題と日本の辺野古移設問題を等しく並べる読売社説の真意がわからない。複雑に利害が絡む国政の課題だからこそ、地元沖縄に直接問える県民投票がいいのではないか。米軍基地で経済効果の恩恵を受けるのも、米軍機の騒音や事故、米兵の犯罪に悩むのも沖縄県民だ。その沖縄県民がどう考えるのかを問うのが民主主義だろう。

■安倍首相が「数の力」に驕っているのは明らか

産経や読売とは反対のスタンスを取るのが朝日新聞の社説である。2月25日付の朝日社説の見出しは「沖縄県民投票 結果に真摯に向きあえ」だ。

朝日社説は「辺野古問題がここまでこじれた原因は、有無を言わさぬ現政権の強硬姿勢がある」と指摘したうえで主張する。

「最近も、埋め立て承認を撤回した知事の判断を脱法的な手法で無効化し、土砂の投入に踏みきった。建設予定海域に想定外の軟弱地盤が広がることを把握しながらそれを隠し続け、今も工期や費用について確たる見通しをもたないまま『辺野古が唯一の解決策』と唱える」
「自分たちの行いを正当化するために持ちだすのが、『外交・安全保障は国の専権事項』という決まり文句だ。たしかに国の存在や判断抜きに外交・安保を語ることはできない。だからといって、ひとつの県に過重な負担を強い、異議申し立てを封殺していいはずがない」

安倍政権の強硬姿勢はどこから来るのか。数の力に驕っているのは明らかだ。安倍首相は「対話を進めていきたい」と語った。それは口先だけだ。沖縄の民意が「反対」を支持したにもかかわらず、辺野古の埋め立てを続行している。一体、いつ対話をするつもりなのか。もう嘘をつくのはやめてもらいたい。

■明白な民意を無視し続ける姿勢は、民主主義の危機

朝日社説は「自分たちのまちで、同じような問題が持ちあがり、政府が同じような振る舞いをしたら、自分はどうするか。そんな視点で辺野古問題を考えてみるのも、ひとつの方法だろう」とも書く。

その通りだが、もはや「ひとつの方法だろう」などではなく、私たち国民ひとり一人が自分の問題として考えなければ、辺野古移設を含めた沖縄の米軍基地問題は解決していかない。

朝日新聞は翌26日付紙面にも「これが民主主義の国か」との見出しを付けた社説を掲載し、次のように指摘している。

「日米合意や安全保障上の必要性を強調し、明白な民意を無視し続ける姿勢は、日本の民主主義を危機に陥れている」

民主主義とは何か。沖縄の県民投票の結果が投げかける重要な問いである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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