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"短期留学"する大学生が急増している理由

プレジデントオンライン / 2019年3月6日 9時15分

サイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

いま「若者の旅行観」に大きな変化が起こりつつあります。長年、若者の消費動向を追いかけているサイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さんは「ハワイに短期留学する若者が増えている。話を聞くと、実態は留学というより観光だ。履歴書に『留学した』と載せることが、その目的になっている」といいます――。(第3回、全3回)
 サイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さんは、現役の高校生・大学生たちと日常的にコミュニケーションをとり、共同作業をすることで、若者の価値観やトレンド、それらの時代ごとの微細な変化を、15年以上にわたって定点観測してきました。
 原田さんは、ここ数年で、最近の若者、特に大学生の「旅行観」に大きな変化が見られるようになっていると指摘します。それらを明らかにすべく、「旅行には行くほう」だという9人の現役大学生に集まってもらい、若者の旅行観について議論しました。
 現代の若者は旅行に何を求め、旅でどんな消費活動を行っているのでしょうか。座談会の模様を3回にわけてお届けします。第3回は「海外旅行」についてです。

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<座談会の参加メンバー>
正田郁仁 法政大学 経営学部 2年
神谷菜月 明治大学 経営学部 3年
須田孝徳 早稲田大学大学院 商学研究科 修士1年
牧之段直也 早稲田大学 政治経済学部 3年
小野里奈々 法政大学 社会学部 2年
高貫遥 明治大学 経営学部 3年
今野花音 上智大学 文学部 3年
佐藤美梨 慶應義塾大学 文学部 2年
浅見悦子 青山学院大学 地球社会共生学部 3年

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■「ハワイ」は家族、ちょうどいいのは「ベトナム」

【原田】海外の行き場所で目新しいところはある?

【今野】私の周囲にはアフリカに行ってる女の子がちょくちょくいます。ルワンダ、エチオピア、タンザニアあたり。

【原田】女の子だけでアフリカって勇気あるなあ。まあ、今は女子の方がたくましくなっているし、ボランティアや経済支援などの観点からもアフリカに注目する若者も増えてきているのかな。

以前の大学生や若手社会人の初海外旅行ってグアムやサイパンが多かったんだよね。まずはグアムに行って、その次の機会にハワイ、みたいなパターンが多かった。君らの周りでグアムやサイパンに行ってる子は?

【一同】あまり聞いたことがないです……。

【原田】やはり。実は約20年前、日本人はグアムに年間100万人以上も行っていた。僕も社会人になってからの彼女との初めての海外旅行はグアムだった。

ところが、いまグアムに行く日本人は、年間62万人(2017年)。日本人が減り、中国人と韓国人が大幅に増えている。若者の人口減だけでは説明できない減り方だから、きっと何か新しくて大きいニーズをとらえ損なっているんだと思う。

グアム政府観光局「The Economic Impact of Tourism on Guam」(2016)より抜粋。日本の占め得る割合が減りつづけていることがわかる。

【原田】ちなみに、ハワイはどうかな?

【小野里】ハワイは家族で行くイメージですね。アジアに比べて渡航費も高いですし。

【原田】なるほど。今の若者は親と大変仲良くなっているので、若者が1人で「グアム→ハワイ」とステップを踏んだ過去とは違い、いきなり親にハワイに連れて行ってもらえるんだね。

■ごく普通の若者の間で、ベトナム人気が急上昇

【今野】アジアだとベトナム、タイ、シンガポールが人気です。

【原田】僕が若い頃も東南アジアにバックパッカーなどで行く若者は多かったけど、最近、バックパッカーなどの尖った若者に限らず、ごく普通の若者の間で、ベトナム人気が急速に上がってきているよね。どうしてだろう?

■ホイアンの「ランタン」、マーケットの「タイパンツ」

【牧之段】ベトナムはインスタ映え目当ての女子が多いですね。皆、ホイアンにある黄色い建物をバックに写真を撮っています。

ベトナム・ホイアンの街並み(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

【小野里】ホイアンのランタンがきれいなんですよ。夜景がすてき。友達がインスタのストーリー(動画)でホイアンの海辺の夜景を上げていたんですけど、「リアル・メディテレーニアンハーバー(地中海をモチーフにした東京ディズニーシーのスポット)だ」って言ってました。

【原田】またインスタ映えがベトナム旅行のキーになっているだ! しかし、ディズニーシーのような景色のために、東京の若者がベトナムにいくとは(笑)

【神谷】なんか行った人みんな、ステテコみたいな、モンペみたいな柄のパンツをはいてませんか。

タイパンツ(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

【牧之段】タイパンツですね。マーケットで安く売ってる、ボヘミアンぽいデザイン。寝間着にもなります。タイだけじゃなくて、ベトナムでも広く売られてます。

【小野里】タイパンツは、帰国後に合宿とかにはいてくる子が結構いますよ。

【牧之段】あと飲み会にもはいてきますよね。話の種になるから。

■中途半端な段階のベトナムこそ「ちょうどいい」

【原田】ほかにもベトナムが好まれる理由はあるかな?

タイパンツ(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

【牧之段】僕たちにとって「ちょうどいい」って感覚がベトナムにはあると思います。気軽に自転車で観光できるから現地っぽい感覚を味わえる。屋台でおいしいものが食べられる。ビーチもあって、夜市が楽しい。

【原田】なるほど。僕らが若い時代の、発展してないベトナムにバックパッカーとして行く動機とは全く違って、今はベトナムも発展していて、不便はないし、怖くもない。一方で、欧米とは違う、発展途上国独特の非日常的な感覚も味わえる。上の世代からすると、ある意味で中途半端な発展段階のベトナムこそ、君らにとってはサイコーにちょうどいいんだ。

【牧之段】そうですね。加えて、なによりご飯がおいしいのは大きいです。

【原田】非日常感も味わえて、映えて、飯もおいしいんだから、そりゃ、若者にウケるわけだね。確かに若者研究で世界中をまわっているけど、ベトナム料理のおいしさは世界有数。まあ、ダントツ1位は日本だと思うけど。

【小野里】友達の女子2人がそれぞれ別々にベトナムに行っていて、おいしいと思ったご飯だけを、ひたすらインスタに投稿しまくっていました。グルメ重視の子はベトナムに行きがち。

■韓国や台湾は、もはや「国内旅行の延長」

【原田】映えよりグルメ重視の若者はベトナムに行くんだ。すごく非日常でもないし、日本とまったく一緒でもない。ラグジュアリーすぎない、アドベンチャーすぎない。「サイコーにちょうどいい」。要は、インスタ映えとチル(第2回参照)のバランスが取れてるんだ。

【牧之段】ヨーロッパの食べ物は日本人としては結構挑戦になりますけど、ベトナムはなんとなく日本食の延長上にあるというか、味覚的にも食材的にも日本人の口に合いますよね。あと、ビールを飲み始めたばかりの大学生が屋台で現地のビールを飲んで、「おいしいね!」って言うには、うってつけ。まさに、ちょうどいい。

【原田】ある種、国内旅行の延長みたいな?

【牧之段】国内旅行の延長は韓国とか台湾です。そこをもう少し「海外っぽく」すると、ベトナム。

ベトナム・ホイアンの様子(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

【原田】なるほど。距離順なんだ。今の若者にとって、まずは東アジアの韓国か台湾。次のステップは東南アジアのタイかベトナム。ただし、タイは日本人が行きすぎているから、若者の間では、今、ベトナムがきている。で、グアム、サイパンを飛ばして親とハワイ、と。

【神谷】「海外旅行!」というのを感じれるのはベトナムあたりからかもしれないです。

【原田】えっ? 日本から距離で一番近いのは韓国で、若者たちもたくさん韓国に行っているけど、そうじゃないんだ?

【神谷】韓国はもちろん海外ですが、値段も距離も手軽で、「国内旅行の延長」のような感覚で旅行する大学生が多いように思います。

【原田】それくらい若者の間では韓国は近い国になっているんだね。

■留学先としてのドイツは「安くて、英語が通じる」

【原田】バブルの頃に比べて明らかに日本人旅行者の数が落ちてるのは、グアムもそうなんだけど、オーストラリアもそうなんだよね。僕は小学生の高学年から中学生の途中まで親の仕事でシドニーに住んでいたので、先日、シドニーへの旅行者も滞在者も日本人が少なくなっていて悲しかった。

オーストラリアは30年近くたくさん移民を受け入れ、経済成長を達成してきたけど、この30年でオーストラリアにおける日本人のプレゼンスは大幅に下がってしまった。僕がいた頃の日本とオーストラリアは蜜月の関係だったのに。ゴールドコーストなんて日本が開発したといってもいいくらいだけど、今は閑古鳥が鳴いてるらしい。

【小野里】オーストラリアは留学先としては聞きますけど、旅行で行ったという話は周りでは聞かないですね。

【原田】留学先で言うと、神谷さんはドイツに行って帰ってきたばかりだよね。留学先としてのドイツを選ぶ大学生が結構増えてきているみたいだけど、なんでだろう。ドイツ生活はどうだった?

【神谷】私ははやってるから行ったわけじゃないんですけど(笑)、食品や雑貨など、生活必需品がとにかく安くて、学生は暮らしやすかったです。

【原田】イギリスやフランスに比べれば、ドイツは物価がかなり安いよね。先進国なのに安く留学できる。加えて英語圏じゃないけど、国民の多くが英語をうまく話せる。英語圏でアメリカより安いカナダの大学だと志望者も増えて競合が増えるから、楽にリーズナブルに留学できるのがドイツなのかもしれないね。それから、ドイツに限らず、セブ島の語学留学や、韓国留学なんかも増えているし、かつてに比べると留学先が多様化しているのは確かだろうね。

■「アジア人が少ない」というのもポイント

【神谷】留学先としてはカナダやアメリカが定番だと思うんですけど、私は留学先を決める時、先輩から「カナダの有名な大学は、日本人も含めてアジア人がかなり増えているので、異国感を味わいたいなら他の国も考えてみたら?」と言われました。ドイツは、英語も通じて、先進国で、比較的費用が安くあがる、という点に加えて、アジア人が少ないのもポイントでした。

「若者と旅」座談会に参加した大学生たち。(撮影=プレジデントオンライン編集部)

【高貫】バイトの友人で、タイやインドに留学した子がいます。

【原田】インドは珍しい。英語は学べるけど、かなり聞き取りにくいインド英語を学ぶことになっちゃうね。

【高貫】本気で語学を学びたいわけじゃなかったので、そこそこ英語を学べて、何より安く留学ができる所を選んだそうです。カレーも好きだったので良いかなと思ったとか。欧米だとレベルの高い留学生が本気で勉強してるイメージだったので避けたそうです。

【原田】インドに行ったことのある日本人の駐在員の多くが言うけど、とにかくカレー味の料理が多いから、インドに長くいるのは食生活の面から日本人にはハードらしい。日本人はインドでみんな食べ物で苦しんでいる。しかし、それを理由に行く子もいるんだね。

タイ留学も、もう少し理由を知りたいな。英語が勉強できるわけじゃないし。食べ物はおいしくて、人は優しいけど、タイ留学の動機は何なんだろう?

【高貫】タイ料理が好きで、せっかく留学するなら食事も楽しめるところがいいと思ったそうです。また、留学費用をすべて自分で工面しなければいけなかったため、安いアジア圏が都合がよかったそうです。

【原田】2人とも安さと食べ物で留学先を決めているんだね。語学と学びたいことで主に留学先を決めていた時代とは大違い。まるで旅行先を選ぶかのような選択基準だね。

■エントリーシートで「留学先」の欄を埋めたい

【今野】私は私はハワイとバンクーバーの語学学校に2カ月ずつ留学してたんですけど、私と違うクラスの日本人の子は日本人同士でずっと固まっていて、授業を休んで遊び回ってました。海でバーベキューとか。彼女たちは、日本であらかじめ友達と約束して「同じ語学学校に入ろうね、同じ寮に入ろうね」って示し合わせてたんです。こうなると本当に友達と旅行に来てる感覚ですね。短期留学だとそういう旅行目的の子も結構います。

【原田】ハワイへの「留学」は、たしかにここ数年、学生からよく聞くようになってきたね。

【神谷】留学斡旋の文言で「シアトル・マリナーズの試合が見られます」「フロリダのディズニーワールドに行けます」みたいな触れ込みは、わりと聞きます。

【原田】昔と比べて、英語以外に留学にいろんな目的ができているんだね。1カ月くらいの短期留学はここ5~6年、若者の間で急に増えている実感がある。そんな短期間では、ろくに英語も学べないだろうと思っていたけど、旅行としてこぞって行ってるんだね。

【神谷】あと就活の際、エントリーシートに「留学経験」という欄のある企業を多くみかけます。そこを埋めるため、というニーズもあるんじゃないかと思います……。

【原田】なるほど! 就活時のエントリーシートのために、これだけ「短期留学」に行く若者が急増しているんだね。ちなみに、短期留学っていくらかかるの?

■「短期留学」は1カ月で40万~50万円くらい

【浅見】私は高校生の時にフランスに1カ月行ってたんですが、だいたい30万円でした。フランスのわりに安かったのはホームステイだったから。あと、神奈川県がいくらか出してくれたんですよ。フランス語が勉強できる高校だったんですけど、仏検を持っていて筆記が通れば補助をもらえるというものでした。

【原田】神奈川県はすばらしいね。僕が以前フランスの若者を調査していて驚いたのは、貧しい家庭の子でも国の補助で乗馬が習えること。日本は特に若者に対して自己責任論の強い国だから、世界の先進国と比べてきちんとした奨学金の支給が少なすぎる。地方自治体も、若者が東京に出ていってしまうことを嘆くだけじゃなく、今の若者ニーズに合った補助金を出すべきだよね。ハワイで遊ぶだけでは困るけど、その地域の未来を担う人材を育てるには、彼らのニーズをきちんと把握できてないといけない。

【須田】行き先にもよりますけど、普通は1カ月で40万~50万円くらいじゃないでしょうか。僕はオーストラリア留学で60万円だったんですけど、大学が補助金を30万円出してくれたので、実質30万円で行けました。

【原田】留学補助を与える大学も増えているんだね。補助金をもらうにあたっては、試験や面接はあるの?

【須田】いえ、ありません。なるべく留学未経験者を対象にしているプログラムで、TOEICのテストを受けて志望留意書が通れば補助金を受けられます。僕の時は130人くらい受けて100人くらい通ったはずです。

■短期留学で留学生数を稼ぐという姑息な手段

【原田】130人中100人も! それは倍率が低い。それならハワイで遊んじゃうやつも含まれちゃうね。しかし大学は、なんでそんなに補助金を出すんだろう。

【須田】「これだけ留学させてます」ってアピールになりますからね。実際、短期留学の場合は補助金を出す大学は多いのに、長期留学だと返済が必要な奨学金制度を採用している大学が多いので、補助を出しているとは言えないです。

【原田】そうか。少子化で大学も困っているから、生徒を取るための保護者へのアピール材料に留学を使うようになってるんだ。しかも、短期留学で留学生数を稼ぐという姑息な手段で。長期留学こそ大学が推奨して補助を出すべきなのに。

ハワイで友達と戯れる大学生と、留学の内容はさておき、金のかからない短期留学生の輩出数で食いぶちを維持しようとする大学との共犯関係が成立しているんだね。「シアトル・マリナーズの試合が見られます」の文字がパンフレットに躍るわけだ。大学の「短期留学生数」にだまされてはいけないね。

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原田曜平(はらだ・ようへい)
サイバーエージェント次世代生活研究所 所長
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年12月よりサイバーエージェント次世代生活研究所・所長。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『さとり世代』『ヤンキー経済』『これからの中国の話をしよう』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」、日本テレビ「バンキシャ」レギュラーとして出演中。

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(サイバーエージェント次世代生活研究所 所長 原田 曜平 構成=稲田豊史 撮影=プレジデントオンライン編集部)

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