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肺炎の原因となる加湿器の間違った使い方

プレジデントオンライン / 2019年3月12日 9時15分

鼻呼吸と口呼吸の違い(画像=『肺炎に殺されない! 36の習慣』)

花粉症の時期がやってきた。鼻づまりで口呼吸となり、喉の乾燥を防ぐために加湿器をフル稼働させる人も多い。だが使い方には要注意だ。呼吸器内科医の生島壮一郎氏は「加湿器の間違った使い方で、肺炎になる人もいる」と警鐘を鳴らす――。

※本稿は、生島壮一郎『肺炎に殺されない! 36の習慣』(すばる舎)の一部を再編集したものです。

■花粉症で鼻がつまれば「口呼吸」になる

鼻をかんでもかんでも、永遠に出てくる鼻水。安眠を妨げる鼻づまり。眼球を取り出してブラシで洗いたいほどの眼のかゆみ──。毎年、この季節に多くの人を悩ませる花粉症は、主にスギやヒノキなどの花粉によって起きる季節性のアレルギー症状です。鼻腔や眼の粘膜から体内に入ってきた植物の花粉を“外敵”とみなして抗体がつくられ、免疫機能が過剰に働くのです。

ひとたびアレルギーになると、花粉にさらされるたびに「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」などのアレルギーを誘発する物質が大量に放出されます。そして、異物とみなした花粉を排除しようと、鼻水や鼻づまり、くしゃみ、眼のかゆみといった症状が起きるのです。圧倒的に患者数が多いのはスギ花粉によるものですが、近年は初夏から初秋にかけて多く飛散するイネ科の植物による花粉症も増えており、春から秋までずっと症状が続く人もいます。

花粉症によって、鼻の粘膜がむくんだ状態が鼻づまりです。鼻の通りが悪くなるので、必然的に口を開けて、口から息を吸ったり吐いたりする「口呼吸」になります。

■口呼吸になるとウイルスや細菌の感染に弱くなる

そもそも、「鼻呼吸」と「口呼吸」はどう違うのでしょうか。

まず、鼻呼吸の持つ優れた作用について説明しましょう。鼻の重要な役割のひとつは、吸い込む空気(吸気)を加湿することです。鼻汁は、実に1日に1リットル近くも産生されて、鼻腔内の湿度を高く保ちます。口呼吸の場合も唾液によって加湿されますが、加湿効果は鼻呼吸には遙かに及びません。

また、鼻には大気中の異物の“関門”としての役割があります。鼻毛が大きな異物の侵入を防ぐとともに、鼻汁が小さな粒子を吸い取り、気管支や肺を守ります。さらに、鼻の穴の内部は鍾乳洞のように複雑な構造になっており、そこに生えている鼻毛との相乗作用で気流が屈曲することによって、直径10ミクロン以上の粒子の多くは鼻の粘膜で捕捉されます。

スギ花粉のサイズは約30ミクロンなので、そのほとんどが鼻腔で吸着され、そこでアレルギー反応が起きるのが花粉症です。この鼻の機能が落ちると、さらに奥に進んだところにある気管支でアレルギー反応が起こり、咳や喘息につながることもあります。

口呼吸になってしまうと、鼻呼吸に比べて加湿と異物侵入を防ぐためのフィルター効果が劣ります。乾燥した粘膜は傷つきやすいため、ウイルスや細菌の感染に弱くなってしまうのです。

■口呼吸では肺の「予備力」が使えない

そしてもうひとつ、最近、明らかになりつつある鼻の働きがあります。鼻で大量に産生されている一酸化窒素(NO)の効用に関する新しい知見です。

NOには血管を拡げる作用があり、以前から「肺高血圧症」の人には、肺の血管を広げる目的でNOを増やす薬が使用されていました。

実は、肺という臓器はいざというときにフルパワーを発揮できるよう、部分的に休んで“予備力”を備えています。たとえば、私たちが安静にしているときには、肺のてっぺんの部分は血流も落ちて、末梢の「肺胞」にも少量の空気しか入り込まない状態で休んでいます。しかし、体を動かして鼻から大量に空気を吸い込むと、鼻で産生されたNOが肺胞に届くことによって、休んでいた肺の毛細血管が拡がり、酸素が効率よく血液に取り込まれて全身に届けられます。肺の“予備力”が総動員された状態です。

口呼吸の場合には、この鼻パワーを利用することができず、NOの量も数百分の一にとどまるため、肺の“予備力”を呼び覚ますことができません。花粉症による鼻づまりで鼻呼吸がしにくくなるということは、単に空気の通るルートが変わるだけでなく、精巧にできている呼吸システムをフル活用できなくなることを意味するのです。

■加湿器がカビや細菌を撒き散らすことも

また、花粉症の時期は、空気が乾燥しやすい季節でもあります。花粉症で鼻がつまって口呼吸をしていると、よけいに喉が乾燥しやすくなるでしょう。この季節は、多くの人が室内の空気が乾燥しないよう、せっせと加湿器に水を注いで湿度を上げる工夫をしていると思います。

かぜやインフルエンザ予防の観点からも、加湿器を利用して部屋の湿度を高く保つことはよい習慣なのですが、実は、加湿器が空気中に撒き散らした「カビ」を吸い込むことによって、「過敏性肺炎」という肺の炎症を起こすこともあります。一般的な感染によって肺に炎症が起きる「細菌性肺炎」などとは、メカニズムが異なる肺炎です。

呼吸器科の外来には、原因不明の咳や肺炎が治らない患者さんも受診しますが、意外なものがその原因になっているケースもあります。この季節だけ、原因不明の咳や微熱が長引くという人は、加湿器の使い方も見直してみてください。

一般的な家庭用の加湿器は、蒸気やミストを放出するメカニズムの違いによって、①加熱式(スチーム式)②気化式③超音波式④ハイブリッド式の4タイプに分類されます。

①はタンクの水を加熱して蒸気を発生させます。カビや細菌などが繁殖しにくく、販売価格は比較的手頃ですが、電気代がかかります。②は不織布やスポンジに水を含ませ、空気を送って蒸散させることで加湿します。電気代は安いのですが、パワーも弱いうえ、掃除が行き届かないとカビの温床になることがあります。

③は超音波によって水の粒子を小さくして噴出させるタイプです。水を加熱しないため、タンクの内部が不潔になると雑菌が繁殖しやすく、そのまま空気中に放出されてしまうのが欠点です。①と②を合体させたようなシステムを採用している④は、水に温風を送って加湿するため、雑菌を放出しにくいという利点があります。加湿速度が速くて消費電力も比較的少ないのですが、機器そのものの価格はやや高めです。

■加湿器に入れる水は「水道水」がいい

加湿器を選ぶときは、値段やデザインだけでなく、加湿のシステムや構造も考慮して判断することが大切です。しかし、気化式や超音波式の加湿器でも、誰もが過敏性肺炎を起こすわけではありません。吸い込んだカビにアレルギー反応を起こす人だけに症状が出るため、気づきにくいのです。

生島壮一郎『肺炎に殺されない! 36の習慣』(すばる舎)

ふだんから肺や気管支が敏感な人は、できれば加熱式またはハイブリッド式の加湿器をチョイスするといいでしょう。

そして、どのタイプの加湿器であっても、しっかりメンテナンスをすることが大切です。取り扱い説明書に従って、吹き出し口や吸気フィルター、タンクなどの掃除はこまめに行います。

ちなみに、加湿器に入れる水は、浄水器の水ではなく水道水を使うことを奨めます。水道の水には消毒のための残留塩素が含まれており、細菌の繁殖を抑える作用があります。浄水器はこの残留塩素を除去してしまうので、飲用や調理には適していますが、加湿器には使用しないほうがいいでしょう。

■人間は「鼻」から呼吸するようにできている

人間の呼吸システムは、鼻から呼吸することによって、効率よく酸素を取り入れ、全身の組織に送り込めるように設計されています。花粉が大量に飛散するこの時期、花粉症に悩む人は放置せず、適切な対策を講じてください。マスクやメガネ、衣服などの工夫で、できるだけ花粉を吸い込まないようにするとともに、花粉を室内に持ち込まないことも重要です。

近年は、眠くなりにくい新世代の抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬、副作用の少ない点鼻薬や点眼薬など、治療薬の種類も増えました。重症の場合は、医師と相談して舌下免疫療法も検討されます。

適切な治療で花粉症の症状を悪化させないように努め、鼻呼吸を心がけることが、肺の機能にまで影響することがあるというのは驚きです。このような臓器や組織で起きている相互作用こそが、生命現象のダイナミズムを生んでいるといえるでしょう。

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生島 壮一郎(いくしま・そういちろう)
呼吸器内科医、産業医
1962年、鹿児島市生まれ。産業医科大学卒業後、日本赤十字社医療センター内科医員、呼吸器内科医員、同副部長、部長を経て現在は企業での産業医を主務としながら、日本赤十字社医療センターでの呼吸器内科外来診療も続けている。自身の手術後の治療と就労の問題に直面したことを契機に、約30年間の呼吸器疾患全般にわたる臨床経験をもとに診断・治療から予防医療、禁煙活動などに軸足を移して活動している。著書に『肺炎に殺されない! 36の習慣』(すばる舎)、『肺が危ない!』(集英社新書)がある。

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(呼吸器内科医、産業医 生島 壮一郎)

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