アイリスオーヤマ社員が全然辞めないワケ
プレジデントオンライン / 2019年3月7日 9時15分
■家電事業が好調で売上高は前年比113%のアイリスオーヤマ
2018年度決算速報によると、アイリスオーヤマを含む25社のアイリスオーヤマグループの総売上高は4750億円と前年比113%、経常利益5.7%を確保できる見込みだ。アイリスオーヤマ単体でも売上高は1550億円で前年比113%となっている。
こうした背景には、国内では家電事業やLED照明を中心とするBtoB事業やネット通販事業の好調、海外でも家電製品の販売が順調に伸びていることがあるようだ。
家電やLED照明事業の売上が大きく伸びているのはなぜか。
それはユーザーイン発想の「なるほど家電」と呼ばれる新商品の開発や、エアコンやドラム式洗濯機などの大型白物家電事業の拡大、さらには4Kテレビの発売など、積極的でスピーディな取り組みに起因している。それを可能にしたのが、パナソニックやシャープなど他メーカーの技術者たちの大量採用だ。
■2012年、“開発したい”技術者たちが他社から集結しはじめた
1971年に創業したアイリスは、もともとはプラスチック収納や園芸関連商品に強みがあった。2000年代半ばから家電に参入し、ホームセンター向けの空気清浄機やシュレッダー、その後、IHクッキングヒーターやサイクロン掃除機も手掛けるようになった。そして、2010年3月にLED照明事業に本格参入。当時、他メーカーが1個約1万円で売っていたものを、アイリスは2500円で売り出すことに成功したのだ。
ただ、ユーザーの認知度はそれほど高くはなかった。その後も、いわゆる“ジェネリック家電”と呼ばれる単機能で価格の安い家電を扱っており、既存メーカーに対抗できる勢力ではなかった。
転機が訪れたのは、2012年12月。商品開発力強化のために大阪で技術者の採用を開始したことだった。この頃から大手メーカーからアイリスへ転職する人が増え、2013年には梅田に大阪R&Dセンターを開設。2014年8月には心斎橋に移転して、拡充させた。これが消費者視点に立った家電のスピード開発につながった。
■元パナソニック、元シャープ社員などが開発「なるほど家電」
その代表例が「なるほど家電」と呼ぶ商品群だ。マーケッターが生活シーンにおける不満を発掘し、それを解決するためのアイデアをカタチにしている。
例えば、「極細軽量スティッククリーナー」は静電モップ付きの縦型掃除機だ。静電モップで棚の上などを拭くことができ、モップに付いたホコリは充電台の下に差し込むと掃除機の回転ブラシがホコリをかき出して吸引、さらには除電プレートで静電気を除去する。
また、布団乾燥機「カラリエ ツインノズル」は、ふとんを2組同時に温められる。家事の時短ができることで、ユーザーに好評を博している。
2016年には仙台と大阪で分散していた家電開発の拠点を大阪に集約。大阪R&Dセンターには約80人の技術者が在籍しており、そのうち他の大手メーカーから転職してきた技術者は約50人。つまり6割超が中途採用の技術者なのだ。
同社に集まってきた技術者は平均年齢45歳と年齢層が比較的高い。それは「とにかく開発したい」という気持ちから、転職してきた人たちだからだ。大手家電メーカーにいたころは、さまざまな制約でなかなかカタチにできなかったが、その不満を解消しようと、技術者たちが生き生きと仕事をしている。
■「作りたいものがない」人は採用されない
「逆に作りたいものがない、やりたいことがない」という指示待ちのような人はアイリスオーヤマでは採用されないということでもある。大阪R&Dセンター家電開発部マネージャーの淡路雄一氏はこう語る。
「成熟した市場においては、消費者のニーズの変化を捉えて、必要とされているものをタイムリーに出していくことが重要です」
つまり、得意な部分を生かしてフォローアップしながら、チームでスピーディに開発できる人材でなければ務まらないのだ。よって、現場で集まって情報共有していく“立ちミーティング”もお馴染みの風景だ。
■関東圏の技術者を見込んで浜松町に研究開発拠点を作った
アイリスの快進撃は今後もさらに続く、というのが業界関係者の共通の意見だ。
大阪R&Dセンターの強化に続き、2018年11月には浜松町駅から徒歩3分の場所にアイリスグループの東京本部を構えた。大阪勤務を望まない経験豊富な技術者を積極的に採用するとしており、昨年11月時点で約150人の従業員のうち30人は技術者だという。
東京本部は「働き方改革」を見据えたワンフロアのオフィスで、LED照明と家電製品の設計、デザイン、品質管理購買・調達、営業、人事、広報などの機能を備え、家電事業の研究開発拠点としてだけでなく、法人向けビジネス営業拠点の役割も担う。
プレス向けの内覧会でお披露目されたオフィスは、照明や床材、オフィス家具などをすべて自社製品で設えており、“オールアイリス”の底力を見せて圧巻だった。
オフィスは7つのエリアにわかれており、250席の“フリーアドレスエリア”のほか、素早く情報共有できるスタンディングテーブルエリアや、1人で考えを深めるための集中エリア、リラックスして発想力を柔軟にさせるソファエリアなどが設けられている。
大阪R&Dセンターは雑然とした印象が否めなかったが、それと比較すると、広々として居心地がよさそうだ。空間づくりや家具などには先進的な要素が詰まっており、「ここで働きたい」と思わせるオフィスだった。
■新卒採用での有能な人材確保のためには魅力的なオフィスが必要
東京本部の設計を担当したアイリスチトセ マーケティング本部・取締役本部長の大山紘平氏は「魅力的なオフィス環境こそが、効率のよい仕事を可能にし、さらには優秀な人材を採用して辞めさせない肝である」と話す。
企業向けのLED照明で業績を上げている同社ならではの取り組みとして、今回の東京本部のオフィスでは時間制御ができるLED照明「ライコネクス」を採用。スケジュール制御で調光して省エネに役立てるだけでなく、18時以降は照度を下げたり、消灯したりして長時間の残業を防ぐという。さらにはサーカディアンリズムに則った調光・調色で自律神経を整え従業員の良質な眠りにつなげようとする取り組みも観られる。
商品開発とオフィス環境の両面で、ほかのメーカーにはない際立ちをみせるアイリスオーヤマ。今後の展開から目が離せない。
(家電ジャーナリスト 神原 サリー 写真=神原サリー)
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