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なぜ天皇陛下は"センチュリー"に乗るのか

プレジデントオンライン / 2019年3月13日 9時15分

2018年06月22日、21年ぶりに全面改良したトヨタ自動車の最高級セダン「センチュリー」(写真=時事通信フォト)

新天皇の即位を披露する祝賀パレードに、トヨタ自動車の「センチュリー」が採用された。いったいこのクルマのどこが特別なのか。自動車研究家の山本シンヤ氏が2018年に発売された「3代目」の魅力を分析する――。

■ほとんどのメーカーが撤退した「特別な高級セダン」

トヨタ・センチュリー、日産プレジデント、三菱デボネア、マツダ・ロードペーサー、いすゞステーツマンデビル……、かつて日本の自動車メーカーには「特別な高級セダン」が用意されていた。

おそらく、クルマ好きでもこれらのモデルの特徴をサラッと語れる人は少ないはず。なぜなら、これらのモデルは後席に座る人を優先した「ショーファードリブンカー」として開発され、主に官公庁や企業の役員車として活用されることがほとんどだったからだ。そのため、オーナードライバーにとっては縁のない「裏メニュー」と言ってもいいだろう。

ほとんどのメーカーは採算が取れない事を理由にこの市場から撤退してしまったが、トヨタは1967年に初代を世に送り出して以来、50年以上にわたってセンチュリーを進化・継承してきた。ちなみにセンチュリーという名前はトヨタグループの創設者・豊田佐吉生誕100年に由来している。

初代は「世界の豪華車に匹敵するプレステージサルーン」を目標に開発。3.0LのV8エンジン、モノコックボディ、トレーリングアーム式エアサスペンション(フロント)、エンジン上部に配置したステアリングリンク機構など、当時としてはかなり凝ったメカニズムが採用された。途中エンジン排気量拡大(3.0→3.4→5.0L)やAT変更(3速→4速)、内外装のアップデートが行われているが、基本は30年間不変。ちなみにクラウンは初代センチュリー販売期間中に3代目から10代目まで進化している。

■見た目を「現代流」にアレンジした3代目

2代目は1997年に登場。エクステリアは初代のデザインテイストを踏襲しており、遠目には見分けがつかないくらいだったが、メカニズムは30年ぶりの世代交代なので全面刷新。中でもパワートレインは日本車初かつ唯一となる5LのV12エンジンを搭載していた。

また、トラブルでも走行不能になることがないようにメカニズムの主要部分は2系統備えるなど、絶大な信頼性も備えていた。2代目も途中でATの変更(5速→6速)や灯火類の変更(フロント:ディスチャージ、リア:LED)、インフォテインメント機能の進化などが行われたが、基本は20年間不変だった。ちなみにクラウンは2代目センチュリー販売期間中に、10代目から14代目まで進化している。

そして、豊田佐吉生誕150年となる2017年の東京モーターショーで3代目が公開、翌2018年に発売が開始された。開発コンセプトは初代から続く「匠の技」「高品質のモノ作り」と「最先端技術」の融合である。

エクステリアは初代から2代目ほどキープコンセプトではなく現代流にアレンジ。ちなみに初代/2代目の富士山をイメージしたサイドビューはパッケージ優先でCピラーは立ち気味に変更されているが、一目でセンチュリーと分かる風格のあるデザインだ。

ちなみにヘッドライトやグリルの比率など各部の寸法にも意味があり、センチュリーらしさを表現するための黄金比だそうだ。2006年に御料車として開発された「センチュリーロイヤル」との共通性も非常に高い。

ボディサイズは全長5335×全幅1930×全高1505mm、ホイールベース3090mmと2代目(全長5270×全幅1890×全高1475mm、ホイールベース3025mm)より若干サイズアップ。ちなみにホイールベース延長は後席スペースの拡大に用いられている。

■和服でも乗り降りがしやすい高さ

また、量産車とは一線を画する品質管理も特徴の1つで、パネル単体や組み立て公差は一般的なモデルよりも厳しく管理。各工程での寸法公差や、ボディの微妙な傷や歪みは職人の手作業で修正、履歴もシッカリ残されるそうだ。

ボディカラーは4色用意される。塗装面の研磨は熟練工の手で3回の水研ぎが実施され、その仕上がりはまるで鏡のような映りこみを実現。ちなみにCピラーのエンブレム周りは“姿見”として身だしなみを整えるために念入りな磨きも行われる。

一方、インテリアには折上げ天井様式の採用や座り心地を追及したリフレッシュ機能、電動オットマン付きのアジャスタブルリアシート(ウール100%のファブリックと本革を設定)、大型ディスプレイ付きエンターテインメントシステム、20スピーカープレミアムオーディオを採用する。

前席よりも50mm近く低いサイドシルと段差のない後席サイドステップは、VIPが“優雅に”乗り降りできることが狙いで、和服でも乗り降りがしやすい高さや、後席に座るVIPの姿が1枚の絵として見えるように“額縁”の役目を果たすアルミ製の窓枠、そして上部に引き上げるタイプのダイキャスト製のドアハンドルなどなど、センチュリーならではの“おもてなし”も数多く用意される。

もちろん後席優先ながら運転席周りも抜かりはなしで、横基調でインパネは奇をてらわずシンプルなデザインだが、端正で品位のある質感はもちろん、操作系やスイッチ類の使いやすさもポイントの1つだ。

■「新聞も読める」フラットな乗り心地

パワートレインは5L‐V8(2UR‐FSE)+モーターを組み合わせたハイブリッドに変更。先代レクサスLS600hに搭載されていたユニットがベースとなっている。「センチュリー専用だった2代目のV12と比べると格下げだ!」と言う人もいるが、高出力化(280ps/480Nm→381ps/510Nm+224ps/300Nm)はもちろん、燃費性能(7.6→13.6km/L)や環境性能も大幅にレベルアップ。ちなみに実績あるパワートレインの信頼性が活かされており、2代目のような二系統化はされておらず一系統に集約されている。ちなみにLS600hはAWDだったがセンチュリーはFRである。

プラットフォームはパワートレイン同様に先代LS600h用を最適化して用いる。レクサスLSに採用のTNGA GA‐Lプラットフォームを使わない理由は、GA‐Lプラットフォームが5L‐V8(2UR‐FSE)+モーターの搭載に対応していないためだ。ただし、TNGA開発で得た知見がフルに盛り込まれている。

車体は剛性を上げながらも振動吸収性にも優れる構造接着剤を採用。塗布量はコストよりも効果を重視し、他のクルマの1.5~2倍の長さだ。また、サスペンションは空気バネやショックアブソーバー、ブッシュ、リンク類など乗り心地に影響する部分はすべて新規で開発。タイヤも乗り心地に特化してチューニングされたブリヂストン製レグノGR001を履く。

その結果、乗り心地のゆったり感や滑らかな走り出し、上質な振動吸収性、新聞も読めるフラットな乗り心地といった快適性に加えて、運転しやすさの向上も実現しており、走行安定性も飛躍的にレベルアップ。ちなみに走行シーンに合わせて4つのモード(エコ/ノーマル/スポーツ/スポーツ+)がセレクト可能なドライブモードセレクトも採用。スポーツ+では見た目から全く想像もできないような軽快なフットワークも披露する。

■「普通の人は買えない」という都市伝説

もちろん、センチュリーの真骨頂である静粛性は、ハイブリッド化に加えて振動/エンジン通過音の遮断や、徹底した吸遮音対策、アクティブノイズコントロールなどの採用も相まって、定常走行時はエンジン始動すら気が付かないレベルに仕上がっている。

現代のクルマにはマストアイテムとなる衝突回避支援システムも抜かりなしで、ミリ波レーダーと単眼カメラを併用し、昼間なら歩行者検知も可能な「トヨタセーフティセンス」を採用。タイミングの問題で最新のスペックではないものの、しかるべきタイミングでアップデートが実施されるのは間違いない。恐らく、将来的には高度運転支援も視野に入っているだろう。

価格は1960万円。2代目より約700万円高くなっているものの、20年分の進化や50台という月販目標台数(2代目は200台だった)などを考えると妥当だろう。ちなみにセンチュリーは、「普通の人は買えない」という都市伝説があるようだが、実際は誰でも購入できる。

なおセンチュリーは日本専用車だが、歴代モデルにはごく少数の輸出実績があったという。個人的には3代目は「メイド・イン・ジャパン」を象徴する1台として、左ハンドル仕様を設定するなど、世界にもっとアピールすべきだと思う。

■なぜ新天皇の祝賀パレードに採用されたのか

新型センチュリーにはスペシャルなモデルもある。その1台がトヨタ自動車豊田章男社長専用車の「センチュリーGRMN」である。

今年の箱根駅伝の大会本部車として活躍する姿がTVにも映っていたが、トヨタのモータースポーツ活動やスポーツモデル開発を担う「GRカンパニー」が製作。ショーファードリブンカーのノーマルに対し、内外装や走りの部分にドライバーズカーとしての要素をプラスした世界に2台しかない特別仕様だ。

もう1台は2019年10月22日に行われる新天皇の祝賀パレードに使用するモデルである。現時点で明らかになっているのは、「センチュリーを使用」「予算は8000万」というだけ。オープンカーに改造された特別なモデルになるだろう。

国内外の自動車メーカーに打診をしたようだが、安全性や環境性能のよさ、後部座席に乗る新天皇・皇后両陛下のお姿が沿道から見やすいこと、車列を組む他の車より大きなサイズ、といった理由からセンチュリーが選ばれた。むしろこうした要件をすべて満たすベース車両はセンチュリーしかないということだろう。

もちろん日本を象徴する祝典には、「日本製のクルマ」を使いたいという想いもあったはずだ。高級セダンからは各社が撤退してしまったが、日本製のセンチュリーがちょうどリニューアルされたのは、まさに絶好のタイミングだったといえる。

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山本 シンヤ(やまもと・しんや)
自動車研究家
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“わかりやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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(自動車研究家 山本 シンヤ 写真=時事通信フォト)

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