早稲田を出て2カ月で警察官を辞めたワケ
プレジデントオンライン / 2019年3月5日 15時15分
※本稿は、青木真也『ストロング本能』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■信念さえあれば豊かに生きられる時代
日々、与えられた仕事をこなしているのに、達成感を得られない。忙しく働くだけで、成長はしていないように感じられる。……そんな悩みがあるとしたら、人に流されている可能性が非常に高いと思っていいでしょう。
僕は「人に流されない覚悟が、レベルの高い自己実現を可能にする」と信じて、ここまでやってきました。何かやりたいことがあっても、人に流されるとどんどんつらくなっていきます。反対に、人に流されなければ、どんどん成長していきます。
以前の右肩上がりの社会では、人に流され、「みんなと一緒」であることが優遇される風潮がありました。しかし、いまの世の中で「みんなと一緒」はババを引く可能性が大きいというのが僕の意見です。そもそも「人に流される=思考がもうそこにはない」といえます。思考停止状態のぬるま湯に浸かってなんとなく群れているだけでは、目標達成や自己実現はできません。
人に流されていると、「何のためにやっているのか」という信念の濃度も薄まっていきます。これが実によくない。いまは、信念さえあれば勝てる時代です。大勝ちはできなくても、豊かに生きられる時代なのです。だからこそ、人に流されることは避ける。そして、とにかく「自由」だけは手放してはいけません。
■公務員のように欲を禁じられるのはつらい
たとえば「1億円やるから格闘技を辞めろ」と言われても、僕は辞めません。お金のために自由を手放したくない。何にも縛られず、自由に好きなことをやっていたい。
僕は、自分で選択できて、自分でクリエイティブに創造できることの価値と喜びを知っています。それに、何もできなかった警察学校の2カ月も知っている。だから、自由の価値を本当に素晴らしいと、より強く感じているのです。
僕は、基本的に自由の身ですから、どんな仕事でも受けることができます。格闘技の枠に縛られることもありません。「おまえ来いよ」「行きます」でOKなわけです。行きたくなければ、「行かないよ」と言える自由はやはり最強だと思っています。自由だからこそ、ときには欲望をむき出しにすることもできます。
欲をかくことはとても大切です。公務員は、まったく欲をかけません。「欲をかいてはダメだ」という教育を受けるのです。副業もダメです。そうなってくると、「自分の立ち位置を上げよう」とか「ここでひと山当てよう」みたいな山師的感覚がなくなってしまう。欲は、僕が思考の中心に据えて大事にしている本能をドライブするエナジーです。そのエナジーを禁じられてしまうのはつらい。
■エナジー爆発、アントニオ猪木の生き方に学ぶ
公務員的な生き方と対極にあるのがアントニオ猪木です。「やりたい」「したい」「食べたい」「気持ちよくなりたい」というエナジーが人一倍あります。おいしい話が大好きで、揉めごとも大好き。本能で生きている状態です。
10年ほど前、必要最低限の物を持って生活する「ミニマリスト」が流行りました。いまでも実践している人がいるかと思います。しかし、僕は、「とにかく物を捨てる」「物を持たない」という行為が目的化することに、ものすごく違和感を覚えるのです。
ミニマリストは、なりたくてなる存在ではなく、あくまでも気づいたら自然にそうなっていたというものであるべきではないでしょうか。そもそも自分に必要がなくなり捨てていくから、ミニマリストになるわけです。それが憧れのアイコンとなり、形から入るからおかしなことになるというのが僕の意見です。完全に本質からズレているのです。
あくまでもミニマリストは手段であり、目的ではありません。手段が目的になってしまうと「ミニマリストになったはいいけれど、そのあと何すればいいんだ?」となるでしょう。ミニマリストは「生き方」「ライフスタイル」であるべきです。
本当は「持ちたい」のですが、たくさん持っている人の「こんなに持ってるぜ」というスタイルがいやだから、流行に乗って「ミニマリストになる」と宣言し、そっちに振り切ろうとする。そんな自称ミニマリスト程度の覚悟では、本当の意味での自己実現はできません。
■後輩に「かんばってきたね」と声をかけた理由
大切なのは、人に流されず、「自分だけのものさし」を持つことです。自分だけのものさしとは、信念と言い換えてもいいでしょう。そして、人は信念があるから、がんばり続けることができます。
先日、「格闘代理戦争」というテレビ番組で、後輩選手の試合が終わったあとに、多くの人が「がんばったね」と言うなかで、僕は「がんばってきたね」と言いました。後輩がその言葉をどう理解したかわからないけれど、「がんばってきたね」と言ったのは、番組出演が決まって、何とかして上に行きたいとあがいてきたその試合までの経緯を知っていたからです。僕は試合のことではなくて、後輩が信念を抱き、がんばり続けたことに対して、声をかけました。
言葉をどう相手に伝えてあげられるかは、みんなあまり深く考えないのですが、僕としてはもっと考えてほしいと思っています。「きた」の2文字を入れるか入れないかで、言葉の意味がガラッと変わります。人間は言葉をしゃべる生き物です。言葉がなくなると、大きなものを失ってしまいます。
言葉をどう伝えるか、どうやって言ったら伝わりやすいか。逆に、どうやって言ったらカドが立つか、どこまで伝えたらいいかは、やっぱり大事にしていきたい。そのため、僕はそのことばかりを考えています。
■言葉を持っている人はかっこいい
僕はプロレスが好きだったから、格闘技をやる前から「言葉の力」というものを意識していました。昔、武藤敬司がケガ明けで試合をしたときに「リングが冷たく感じたよ」と発言したことがありました。復帰したばかりで慣れていない感じを「冷たい」と表現した。そのとき僕は中学生だったのですが、この言葉に衝撃を受けたのです。武藤敬司は言葉のあるレスラーなので「うわ、こいつ、かっこいい」と素直に思ったのです。
ずっと、アーティストやアスリートが発する言葉に魅了されてきました。ボクシングの畑山隆則が坂本博之と戦ったときに、「相手のほうがパンチがある。僕は顎が弱い。彼は顎が強い。僕はパンチがない。だから、僕が勝つんだ」と言っていて、畑山も言葉があってすごいなと思いました。
2018年は、言葉の逸材が出てきました。僕のなかで、いちばんおもしろかったのは至学館大学の谷岡郁子学長です。ボクシングの「男・山根」もよかった。僕は、ああいう人が出てきたときに「すごい逸材が出てきた!」とその才能を喜ぶのですが、それに対して本気で怒っている人がいるのは、ありがたくもあり、何かつらくもあり、非常に複雑な気持ちになります。
■ジャンルをスライドさせて自分の言葉に落とし込む
ああいった才能を根絶やしにしちゃったら、日本にとってマイナスになってしまう、それが僕の意見。それこそ「白か黒か」というつまらない世界になってしまいます。ジャンルをスライドさせて自分の言葉に落とし込む言葉を持っている人か持っていない人かというのは、教養の差によるものです。物語を知らないと、言葉を持つことはできません。
教養や物語がないのはやっぱりさみしい。「言葉を持っている」というのは、ある種の宗教みたいなもので、信じる言葉があるということです。信じる言葉がある人は自分を騙せます。迷ったときに、言葉にすがることができるのです。
つらいのは、結局、世の中が「損得」とか、わかりやすいものに流されていってしまうことです。
僕はストーリーが見える選手になりたいと思っています。ちゃんとストーリーがあるというのは、その人が戦う意味があるということです。そして、僕は言葉でもストーリーを表現したい。
普通にいまから言葉を勉強しても、賢い人には競り負けてしまうのがわかっています。よって、僕は格闘技とリンクさせてしゃべるようにしています。そうすると、自分にしかないオリジナルになる。ビジネスの話を格闘技に持ってきたり、格闘技の話をビジネスに持っていったりするのは有効です。この「横移動」ができると、だいぶ強くなります。大事なのは、人に流されることなく、自分の言葉でしゃべることなのです。
(総合格闘家 青木 真也)
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