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チョコレート叩き売りの極意は「接続語」

プレジデントオンライン / 2019年3月28日 9時15分

遠くから覗き込む通行人と目が合うと、「近くで見てね!」。そのタイミングも絶妙だ。

優秀なビジネスパーソンは「話し上手」といわれる。だが実際には「トーク力には自信がない」と答える人が多い。なぜイメージと矛盾するのか。7人のプロに話を聞いた。第7回はアメ横叩き売りの「巻き込む力」――。(全7回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年12月17日号)の掲載記事を再編集したものです。

■驚異のトークに、通行人が立ち止まる

「お店の改装に伴いましてー、商品の入れ替えを行う都合上ー、在庫の売り尽くしー。2万円の定価の半額1万円で1週間やってきたセールですがー、今日の6時で終わりが決まりましてー、それまでに1個でも多く在庫を減らしたいんでーす。もったいないけど今から10分間ー、全商品1000円なんでーす」

約500メートルの通りに、400もの専門店がひしめく上野アメ横。11月の平日日中。年末の買い出しスポットは、早くも修学旅行生や外国人観光客でごった返していた。

人ごみの中を進むと、威勢のいいかけ声があちこちから聞こえてくる。店頭に立った販売員による呼び込みと商品紹介だ。冒頭の声は宝飾店から発せられたものだった。1万円以上のアクセサリーや時計が10分だけ一律1000円……。突拍子のない値段設定に、どんな商品か確認したくなって足を止めてしまう。

タイムセールという「時間」で通行人を取り込む店がある一方、「量」で勝負する店もあった。アメ横名物、チョコレートの叩き売りだ。店頭に積んだ菓子類を、1袋1000円でビニールに入るだけ詰め込んでいく。

「ひとつ1000円。買うお客さんはどうぞ前のほうに。今日はこのチョコレートが入ります。入れちゃえ入れちゃえ。おまけです。牛乳で飲むチョコレートが入ります。ひとつ200円。入れちゃえ入れちゃえ」

複数の店員が「入れちゃえ入れちゃえ」を合わせて唱え、乳白色のビニールが膨れあがり、「はいよー!」と快活に客へ手渡す。店頭の光景を遠巻きに見ていた記者だったが、気がつくと光の角度で色みが変わるブルーサファイアを右手に、チョコレート菓子1袋を左手にぶらさげていた。売り込む調子のよさに、思わず購入してしまうのだろうか?

実演販売士の第一人者・吉村泰輔氏の著作『アキバ発!「売の極意」』によれば、販売する際は、五感の中でも特に情報量の多い視覚・聴覚・触覚に対して、万遍なくアプローチするように心がけるという。売りたい商品の機能を見せつけることで「目」に、説明の中で「便利。なのに、とても安い」といった引っかかる接続詞を入れることで「耳」に、そして商品に触れてもらうことで「体」を刺激するという技術だ。まさにチョコレートの叩き売りも、この3要素を兼ねそろえていた。抑揚の利いたかけ声で「耳」を、袋に詰め込む行為で「目」を、受け取ったときの重みで「体」に訴えている。

1袋の中身。種類も豊富だ。このほか、1袋1000円で乾き物を詰め込む店もあった。

そして何より、アメ横の買い物には新鮮な感覚があった。ネットで複数のECサイトを閲覧し、1円でも安い商品を探す経験が当たり前になった今、「とにかく安い」という骨太の主張。さらにそれを生身の人間に近距離から訴えられるのは、売買という行為が人と人の間で成立することを改めて実感させてくれる。

後に購入したチョコレートを実勢価格で調べたところ、約2000円。得をした感慨以上に「アメ横に行って買い物をした」という体験が、まるでテーマパークに行ったような興奮と余韻を残すのだった。

私の必殺トーク術:「2万円の物が今から10分だけ1000円!」

(プレジデント編集部 鈴木 工 撮影=金子山)

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