大和ハウス会長「現場で厳しくした理由」
プレジデントオンライン / 2019年3月22日 9時15分
■やる気がない部下に辞めてもらう
「君たちはお公家さんの集団か!」
1993年6月、大和ハウス工業の専務から当時のグループ会社の大和団地の社長へ就任した私は、最初の全体朝礼で大声を張り上げました。大規模な宅地開発を手がけていた同社は当時、バブル崩壊のあおりを受けて債務超過寸前に陥っていました。朝礼の会場は静まり返り、社員はみな伏し目がちで、私を正面から見ようとしません。上品で礼儀正しいけれど、闘志が感じられない。ただし、みな素直だから、やる気を引き出しさえすれば見込みは十分あると思い、あえてそういう表現でハッパをかけたのです。
その後、リストラ(人員削減)はしませんでしたが、代わりに厳しく働いてもらうことにしました。大規模団地開発からは撤退し、マンションと木造住宅の販売に力を注いでもらったのです。すると、1年目の3月に120人ほどが退社してしまいました。大半はバブル入社組で、それまでぬるま湯につかっており、厳しさに耐えられなかったのでしょう。一方、ほぼ同数のやる気に溢れた新入社員が入り、完全に攻めの体制に変わりました。
一方、役員に対してはより厳しく臨みました。ある支店で不正経理が判明、ひんぱんに優秀な社員が辞めていることがわかり、調べたところ駐在する常務取締役に原因がありました。辞表を求め、さらに悪弊が露呈してきた別の2人の役員にも辞めてもらいました。仕事は勝負です。己に勝てない人間が商売相手に勝てるはずがない。ましてや役員は責任ある立場で、社員の模範となるべき存在です。彼らには「やる気がないんやったら辞めてくれ」と率直に言いました。
こうした取り組みが奏功し、大和団地は2年目に黒字転換を果たし、7年後の2000年3月期には売上高1441億円と社長就任時に比べ倍増し、復配を達成しました。
私は、人間の能力というのは、普通の会社の普通の仕事をするうえでは差がないと考えています。違いは意欲があるかないかなのです。私は社員が意欲を出すように仕向けただけで、みんながやる気になったから業績が改善した。私はいつも「凡事徹底」と言っています。当たり前のことを当たり前にやる。難しいことをやれと言うのではなく、明るいあいさつ、思いやり、約束を守るといった普通のことです。
■言い訳を許さず、支店利益で全国1位
創業者でもある石橋信夫オーナーは「言い訳」が大嫌いで、私もその教えに従ってきました。しかし、人間はついつい言い訳をしてしまうもの。それは自分を正当化したいという本能の表れだと思います。部下が言い訳をするとき、私は最後までその言い分を聞きます。そして「それは言い訳やな」と確認すると、「そうです」と相手も認める。そこで「わかっとるんやったら、言い訳をする前に自己反省して改めていかなアカンわな」と諭すと、みな納得します。この納得感が大切なのです。
こういう対応ができるようになったのは、山口支店での経験が大きかった。36歳で同支店の支店長に抜擢され、私はやる気に満ちていました。率先垂範ですべての現場に出向き、クレームがあれば自ら駆けつけました。ところが、支店の社員約70人は誰もあとをついてこない。苛立った私は当初、部下を激しく叱責し、「鬼」と恐れられ、四面楚歌の状態でした。
赴任して半年後、石橋オーナーが視察に来ました。その夜、「支店長がこんなにも孤独なものとは思いませんでした」と愚痴をこぼしました。オーナーはひと言、「長たる者は、決断が一番大事やで」と答えるだけでした。具体的な話はなく、私は熟考し、「信念を持って進め」ということだと理解し、気持ちを入れ替えました。
それからは、社員一人ひとりとマンツーマンで徹底的に対話するようになりました。一方通行ではなく、自分の考えを伝え、相手にも率直な意見を言ってもらう。また、叱責したときには、その日か翌日に呼んで話をしました。なぜ私が怒ったのかをきちんと説明する。かみ砕いて話をすると理解してくれます。もちろん、率先垂範を実践していることが前提です。口だけの人間が信頼されることはありません。
こうして離れかけていた社員の気持ちが1つになった結果、2年目には1人当たりの売り上げと利益が全国でトップになりました。支店評価ではABCを超えて「S」評価を獲得しました。山本五十六の有名な言葉「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」のとおりで、それ以来、私は社員との徹底対話を大切にするようになったのです。
■逆算発想などで、売上高10兆円目指す
悲しいことに、人はとかく既成概念にとらわれやすいものです。特に新しいことに挑戦するときはそうなりがちで、いとも簡単に諦めてしまいます。本社の取締役特建事業部部長時代のことでした。建築の工業化を推進するなかで、現場施工の効率化の徹底を図るために、私は「4M工法」を提案しました。具体的にいうと4つのM=無。「無足場、無コーキング(充填剤)、無塗装、無溶接でやれ」と命じたのです。
ところが、技術者たちは「そんなことできません」と猛反発。すぐさま「試しもせんと、できんとは何じゃ。おまえらの頭のなかは既成概念でカチカチや。やってみてから言え」と叱り飛ばしました。これは目標を定め、それを達成するためには何が足りないのかを考えよという、いわば“逆算発想”です。研究開発の結果、足場を組まない「4M工法」は見事に実現しました。
また、私は「3現主義」(現場、現物、現実)を唱え、海外事業でも貫いています。現在のダイワハウスマレーシアを立ち上げたのは当時30代の社員で、まず現地で戸建て住宅を手がけたいと私に直談判してきました。資料に目を通した私は尋ねました。「この資料の内容は現地で見てきたんか」と。「まだです」と言うので、「話にならん。現地に行って調べてこい」と叱りました。机上の空論ではなく、3現主義に基づかない限り、現地の真のニーズを掴めないからなのです。そして、彼は見事にやり遂げ、初代社長に就任し、現在は日本国内で活躍しています。
会長・CEOである私が現場で社員を叱責することはほとんどなくなりましたが、これまで現場で厳しくしてきたのは、社是の最初に掲げられた「事業を通じて人を育てること」の実践にほかなりません。
2055年、当社は創業100周年を迎えます。石橋オーナーから、そのときは10兆円企業群になるよう宿題を出されています。19年3月期の売上高は4兆円を超える予想で、まだまだ努力が必要ですが、着実に歩んでいます。また、営業利益も9期連続増益の予想で、過去最高益の見込みです。社員はみな真剣勝負をしてくれており、「夢」は必ず実現すると信じています。
己に勝てない人間が商売相手に勝てるはずがない
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大和ハウス工業 代表取締役会長・CEO
1938年、兵庫県生まれ。61年関西学院大学法学部卒業。63年大和ハウス工業入社。取締役、常務取締役、専務取締役を経て、93年大和団地代表取締役社長に。95年に同社を黒字に転換。2001年大和ハウス工業代表取締役社長に就任。04年より現職。
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(大和ハウス工業 代表取締役会長・CEO 樋口 武男 構成=田之上 信 撮影=加々美義人)
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