男性優位な社会で男が幸せになれないワケ
プレジデントオンライン / 2019年3月20日 6時15分
■「いい加減な仕事」が許せない日本人
仕事のなかでストレスを感じることが「いつもある」「よくある」と答えた人の割合が、日本では49.1%と世界一です(図表1)。一つ理由として挙げられるのが、日本人の完璧主義です。とりわけ、仕事に対するプロ意識が高すぎるのだと思います。
「職人」という言葉があるように、日本人はまず自分自身がいい加減な仕事をすることを許せません。それが長時間労働につながることもあります。また、日本社会のほうもプロフェッショナルな仕事を求めます。海外の商店で、スタッフが釣銭を投げるように返してきた、といった話を聞くことがあります。しかし日本でこれは到底許されないことですし、恐らくあり得ない話でしょう。
日本人が好むプロフェッショナルな仕事ぶりは、消費者には歓迎されるし、働く側も誇りに思います。もちろん、いい加減な仕事をしたり、さぼったりするのはいけません。しかしプロ意識が行き過ぎると、働くときのストレスになってしまいます。
■消費者にとって理想的だが、働く人が疲れる国
完璧主義の仕事を貴ぶ日本は、常にサービスを受ける側の人にとっては理想の国でしょうが、サービスを提供する側にとっては疲れる国です。北欧の働き方がゆったりとしてよいと見える裏には、サービスを受ける側が“要求しすぎない”社会があります。
完璧主義が日本人の生来の気質である勤勉さから来るという話もありますが、それは多分につくられたことではないかと思います。“日本人は勤勉”というイメージは今の若者たちも持っています。でも、「日本の大学生と米国の大学生、どちらの方が勤勉だと思う?」と問われて、「日本の学生」と答える人はあまりいないと思います。ですから日本人が勤勉というのは、そもそも幻想なのです。
■仕事満足度も世界ワースト1位
「仕事の満足度」を尋ねたデータもあって、日本は世界でワースト1位です(図表2)。また、「現在の自分の仕事を面白い」と答えた人の割合も世界でワースト2位(図表3)。半数以上の人が面白く感じていません。これは仕事に求める(求められる)クオリティが高すぎて、それがストレスとなり、仕事が楽しくないと感じている人の割合が高いのだと考えられます。
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そのストレスの原因には、本来やらなくてもよいような仕事が多くて疲弊してしまっているという事情もあると思います。日本の会社組織では、とかく形式にこだわります。物事が決まるまで数々の根回しなど儀式的なことが必要で、それだけで疲れてしまいます。それがよい結果につながるわけではないから徒労感だけが残ります。日本の会社も幹部の人たちが形式にこだわらなければ、みんながもっと楽に仕事ができるはずです。
■男性優位なのに仕事満足度が低い現実
ところで、この「仕事の満足度」を男女別に見ると、日本では、男性の方が女性よりも満足度が低く、しかもその差は世界で2番目に高いという結果が出ています(図表4)。男性優位な社会なのになぜと思うかもしれませんが、男性が稼ぐことを強く求められる社会は、男性にとってしんどいのです。日本の男性が幸福を感じにくい理由も、男性のほうが会社組織に縛られている度合いが高いことが考えられます。ちなみに男性の仕事の満足度の低さが日本を上回る唯一の国はジョージアですが、この国も、男女平等に関する評価が決して高いとは言えない国です。
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■夫の家事の“やり直し”をしてはいけない
男性が仕事のストレスを減らし、幸福度を高めるためには、人生における仕事や会社のウエートを下げていくしかありません。男性が今よりも家庭で活躍できるようにすれば、仕事と家事、育児のバランスがよくなって、仕事のストレスが軽減されるかもしれません。
男性のストレスを下げるためには、女性の協力も必要なのです。女性が男性の家庭進出を妨げていると、いつまでたっても男性のストレスは高いままです。
また、男性が家庭進出したときは、家事や育児に完璧を求めないようにすることが重要です。夫がたたんだ洗濯物がピシッとしていないからたたみ直したという話はよく聞きます。でも家事を2人でやると、分業の利益がなくなり、ある程度の非効率さは生じるものです。0.5+0.5=1ではなく、0.7+0.7=1くらいで考えるのが良いと思います。
■大学も変わってきている
多少、男性の家事のやり方がプロフェショナルでなくても受け入れるおおらかさを持ってほしいです。男性が弁当のおかずを冷凍食品で揃えても、きついダメ出しはしないようにしてくださいね。「お母さんの手作り弁当」でないとダメと言ってしまうと、それが呪縛となって男性は家庭に進出できなくなってしまいます。家事や育児で求められるレベルが低くなれば、男性の家庭進出もスムーズになり、やがては働く女性も助かります。
大学でも男性の家庭進出を促す方向に動いています。たとえば、うちの大学では、研究者が家庭で活躍できるように資料を整理してくれるリサーチャーを雇うお金が支給されるようになりました。当初は女性研究者だけを対象にしていました。女性支援のために育児中にアルバイトを雇える制度だったのですが、今は男性の研究者も育児のために使える制度に変わっています。
いくら女性側だけ支援しても、男性の家庭進出を進めなければ、女性は外に出られません。それに気づいて制度が変わったのです。今は男性研究者もこの制度を使って、家事や育児の一部を担うようになっています。
これから女性の“会社進出”は続くわけで、女性の仕事ストレスが強くなったり幸福度が下がっては元も子もありません。男性も女性もワークとライフに完璧を求めすぎず、みんながゆるく働きゆるく暮らすことができる世の中になってほしいと思っています。
(明治大学国際日本学部教授・学部長 鈴木 賢志)
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