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来年お披露目「空飛ぶバイク」開発秘話

プレジデントオンライン / 2019年3月25日 9時15分

ジャーナリストの田原総一朗氏とA.L.I.TechnologiesCEO兼CTO 小松周平氏

東京に「空飛ぶバイク」をつくっている会社がある。経営者はもともと外資系証券会社でトレーダーをしていたという。スター・ウォーズの世界を実現させようとする男の素顔とは――。

■祖父の影響を受け、スター・ウォーズの世界へ

【田原】小松さんは小さいころから社会貢献をしたいと考えていたそうですね。

【小松】保育園のころ、ある映画を見ました。お金持ちの裕福な子どもが乗った飛行機がアフリカで不時着。その子はアフリカの現状を知り、いかに自分が恵まれていたのかを痛感するというストーリーです。その映画を見て、僕も自分が恵まれているなと。

【田原】ご両親は何をされていたんですか?

【小松】父も母も公務員です。

【田原】宇宙に興味があったそうですね。どなたの影響ですか?

【小松】じつは祖父が戦時中にパイロットでした。祖父は宇宙に憧れを持っていて、その話を聞くうちに僕も宇宙に関心を持つようになっていました。最初はスター・ウォーズの世界みたいに宇宙人っているのかなとか、どんな星があるのかなといった興味でしたが、だんだん宇宙がどうやって誕生したかとか、そもそも自分の存在って何だろうと考えるようになって、すっかりハマりましたね。

【田原】宇宙が好きなのに大学ではエネルギー工学を研究されていたそうですね。なぜエネルギーを?

【小松】研究していたのは宇宙で使うためのエネルギーです。太陽光発電の衛星を打ち上げて、宇宙でつくったエネルギーを無線で送電する研究をしていました。通信ロケットなど宇宙に関するいろいろな研究テーマがありましたが、やるからには新しいことをやろうと思っていました。

【田原】大学時代には、国境なき医師団のボランティアメンバーとしてシドニーに行かれたそうですね。

■エンジェル投資の失敗を糧に、ベンチャーに参画

【小松】はい、そうです。高校時代にも語学留学を兼ねてニュージーランドでボランティアをしたことがあって、大学に入ってからもまたやりたいなと。オーストラリアでは、町をきれいにする活動や、アボリジニーの支援団体の手伝いをしていました。そのとき気づいたのは、何事も自分でやったほうが早いということ。たとえば資金や物品を調達するときも、いちいち本部に申請が必要で、時間がかかる。それなら自分でお金を稼いで財団などを立ち上げたほうがいいと思っていました。

A.L.I.TechnologiesCEO兼CTO 小松周平氏

【田原】大学院を出られて、外資系の証券会社に入られる。どうして証券会社に?

【小松】当時は外資系金融機関に優秀な人材が集まっていました。そういう人たちとコミュニケーションすれば、自分の知らない世界に触れられるんじゃないかと思いまして。

【田原】オフィスは日本?

【小松】採用は日本支社です。ただ、1年目はニューヨークでトレーニングを受けていました。そのあとは日本に戻って日本橋に通勤していました。しばらくしてリーマンショックが起きて、2009年にシンガポールのファンドに転職しました。

【田原】ウォール街じゃなくてシンガポールのほうが魅力的だった?

【小松】当時のシンガポールは発展途上で、国と一緒に成長していける機会に自分をベットしようと思いまして。結局、向こうには5年半いたのかな。じつはシンガポールで、起業のきっかけとなる出会いもありました。楽天野球団の初代社長で、いまユーネクストで副社長をされている島田亨さんです。お会いしたときに、「起業するなら、考えていても仕方ない。いま動け」と背中を押していただきました。

【田原】起業するにしても、どうして空飛ぶバイクだったんですか?

【小松】空飛ぶバイクにすぐいきついたわけではありません。起業への思いはあるものの、一方で吹っ切れないところもあって、まずはエンジェル投資家としてスタートアップに投資するところから始めました。ただ、投資した会社が倒産したり、事業が頓挫して、ことごとく失敗。その原因を分析しているうちに、やっぱり自分で直接経営しようと。

【田原】自分でやったほうがいいと思って、A.L.I.テクノロジーズを創業するんですか?

【小松】いえ、すでに会社はありました。日本に帰国後、東大の先生に呼ばれてOBと学生の飲み会に行って、A.L.I.テクノロジーズを創業した後輩に出会いました。ドローンの開発をする会社でしたが、当時はあまりうまくいっていませんでした。その会社にエンジェル投資家として入られていた千葉功太郎さんの後押しもあって経営を引き継ぐことになったんです。

【田原】それまでも投資して失敗したのに、まだ会社を買うお金があったのですか?

【小松】物欲がないほうなので、ちゃんと貯めていました。

【田原】ファンドって儲かるんですね。でも、高給取りだったのに、辞めたわけですね。

【小松】お金をもらうより、新しいものをつくったほうがいいと思ったんです。

■ドローン操縦士を育成するスクールを開講

【田原】それで空飛ぶバイクを?

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【小松】僕は最終的に宇宙船をつくりたいんです。ただ、いきなり宇宙は難しい。そこで現実的には、空飛ぶバイクからスタートかなと。当時5人のスタッフにそう話したら、空飛ぶバイクでさえ「おもしろいけど、本当にできるのか」という反応でしたが(笑)。

【田原】僕もよくわからない。空飛ぶバイクは、どうやって地上から浮くんですか?

【小松】地面効果といって、プロペラを回して風を思い切り地面に吹きつけて浮く力をつくり出します。浮くこと自体は難しくないのですが、人が乗って進むとなると、いろいろな技術が必要になる。車体には強度が求められるし、姿勢制御もしなくてはいけません。そのあたりを計算して設計を行い、試作品をつくったら、人が乗った状態で10センチ浮きました。浮くことが確認できたので、そこから本格的に開発をスタートさせました。

【田原】設計や試作品の製作は小松さんが?

【小松】基本設計は僕です。試作品は下町の工場のおじちゃんたちと仲良くなってつくってもらいました。最初の実験は品川の倉庫で行い、次は山梨で。社長になって3カ月後の17年5月のことでした。

【田原】うまくいってなかったドローン事業のほうはやめたんですか?

【小松】いえ、続けています。じつは会社を買収する以前からドローンには関わっていて、ドローンの操縦士を育成するスクールをつくったりしていました。

【田原】操縦士?

【小松】15年4月に首相官邸にドローンが落下して問題になりましたよね。世間は、この事件のせいでドローンビジネスが委縮すると言っていましたが、僕はドローンが広く認知されて逆にチャンスになると思いました。具体的には、墜落させると危ないので操縦が免許制になって、操縦士の育成スクールが流行ると考えた。そこである専門学校に操縦士のコースをつくりました。この講座を始めて3~4カ月経ったころ、僕はA.L.I.参画の準備に取り掛かった。育成からは手を引きましたが、講座はまだ続いているようです。

【田原】そこでドローンと手を切って空飛ぶバイクに集中してもよかった。どうして会社としてもドローンを続けたのですか?

【小松】ドローンの制御技術やセンサーの使い方は、空飛ぶバイクにも有効です。ドローンの技術を突き詰めることが、空飛ぶバイクの開発にも役立ちますから。

【田原】でも、買収前はドローン事業がうまくいってなかったんですよね? 空飛ぶバイクの開発資金が必要なときに、赤字を垂れ流すわけにはいかなかったのでは。

【小松】うまくいかない原因はわかっていました。自分たちがつくったものはすごいだろうという姿勢で市場を無視する企業は少なくありません。A.L.I.も買収前はまさにそういう状態で、クライアントのニーズに合わせてつくるという発想が欠けていたのです。技術はいいものを持っていたので、お客様へのコンサルティングから入って開発につなげるというやり方に転換したらうまくいく確信はありました。実際、買収1年目から決算は黒字になっています。

【田原】具体的に聞きたい。コンサルティングって、何をしたのですか?

■JR九州や東京電力にも、ドローン技術を提供

【小松】たとえばJR九州に線路点検に使うドローンを提供しています。鉄道会社も人手不足で、線路の保守や点検を機械化したい。でも、ドローンは危険だという印象があって、導入には消極的でした。そこで安全に活用するコンサルティングから導入していただきました。ほかにも大型の橋梁点検を行う電機メーカーさんにドローンを活用したソリューションを提供しています。

【田原】東京電力と提携して「ドローンハイウェイ構想」を打ち出したそうですが、これは何ですか?

【小松】首相官邸にドローンが落ちた後、規制が強化されてドローンの産業利用が難しくなりました。ただ、東電さんは電線網を持っていて、その上なら産業利用ができる可能性がある。僕たちは、その構想に対して、技術的な検証や開発の部分を提供しています。

【田原】ソリューションを提供するということは、機体を売るのではないということ?

【小松】機体も提供していますが、そこで収益を得ることは想定していません。じつはA.L.I.のドローンにはAIが入っていて、ある程度の操縦や事前の設定が必要な他社製と違い、自動で飛びます。ただ、ドローンの飛行には法律上、安全運航管理者が必要。僕たちは操縦士を育てているので、安全運航管理者を提供できる。そこでお金をいただくモデルとしています。

【田原】機体じゃなくてサービスで儲けているわけか。

【小松】はい、プリンターのインクジェットと同じです。ものを置いておいて、使ったぶんだけ料金をいただくモデルです。

【田原】少し脱線します。宅配便のラストワンマイルが問題になっていますね。この問題、ドローンで解決できませんか?

【小松】うーん、ドローンでいきなり家に宅配されても困るんじゃないでしょうか。だいたいマンションや普通のお宅でも、ドローンを下ろす場所がない。だからラストワンマイルを運ぶ世界は当分来ない。可能性があるとしたら中間地点ですかね。離島や山間部の中継所に荷物を運ぶときに活躍できるかもしれません。

【田原】ドローンと空飛ぶバイク、どちらも可能性があると思いますが、小松さんはどちらを主力にするんですか?

【小松】バイクです。僕自身、乗り物が好きで、無人のドローンより、運転できる空飛ぶバイクに引かれています。将来、ドローンが大きくなって無人で人を運べるようになるかもしれませんが、ファン・トゥ・ドライブは捨てがたい。

【田原】空飛ぶバイクの安全性はどうですか?

【小松】空飛ぶバイクは約50センチ浮いて走ります。技術的にはもっと高く飛べますが、日本では高さや横幅を道路交通法の範囲内に収めてやるのが一番わかりやすくて、普及しやすい。

■空飛ぶバイクの次に狙うは、空飛ぶクルマ

【田原】道交法? 空飛ぶバイクは何にあたるんですか?

【小松】中型バイクと想定しています。国交省に最初に持っていったときは、大型の消防車やバキュームカーと同じ特殊車両だと言われましたが、それだと乗れる人が限られてしまうので。

【田原】ということは、空飛ぶバイクにはナンバーがつくわけですか?

【小松】はい。ちなみに乗っている人の頭が一定の高さを超えると道交法の範囲を超えて飛行機と同様の扱いになるので、さらに厳しい規制がかかります。

【田原】海外はどうですか?

【小松】先進国で売り出すときには、それぞれその国の道交法の範囲内でやります。ただ、僕らがターゲットにしているのはアフリカや中東。それらの国では1~2メートル浮かせて走らせることになるかもしれません。

【田原】先進国より途上国?

【小松】じつは空飛ぶバイクにもっとも乗ってほしいのは交通に困っている弱い立場にある人たちです。地面に接しないので、砂漠や、地雷が埋まった草原も走れる。道路が整備されていない地域で移動に困っていた人たちの足になればいいなと。

【田原】先進国でもっと使い道がないかな。

【小松】空飛ぶバイクはハイブリッドにしました。だから災害などで停電になった地区に飛んでいけば、非常用電源として活用できます。もちろん普段からも活躍できる。日本の交通インフラは老朽化が進んでいますが、タイヤがないので道路を傷つけないというのは利点だと思います。

【田原】時速は何キロくらい?

【小松】目標は120キロですが、現時点では30キロ。一人乗りです。

【田原】市販できるのはいつごろになりそうですか?

【小松】20年にお披露目します。オリンピック前のイベントで発表して、期間中にプロモーションをして、そのあとにグローバルで申し込みを受け付けるイメージでしょうか。最初はリミテッドエディションで、数十台から100台程度の販売を予定しています。

【田原】値段はいくらくらい?

【小松】まだ決めていませんが、おそらくフェラーリと同じくらいかなと。

【田原】そうすると1000万円じゃきかないね。そんなに高くて、誰か買うのかな?

【小松】ZOZOの前澤さんが買ってくれそうな気がします(笑)。あとは石油王とか。もちろんこれは最初の限定版の話。目指すは弱者の乗り物なので、将来は量産化して、少し高い自転車くらいの価格にしたいです。

【田原】量産するなら工場が必要だ。

【小松】いずれIPOで資金調達をして、工場などの設備投資をしたいと思っています。ファブレスでやる選択もありますが、自前の工場のほうがノウハウを守れるし、雇用をつくれます。

【田原】資金といえば、サッカーの本田圭佑さんがA.L.I.に出資しているそうですね。どういう経緯ですか?

【小松】18年の春に、共通の友人を通して出会いました。彼はカンボジアなどの発展途上国で、ドローンを活用した物流をやりたいという志を持っている。僕もグローバルで事業を進めたいという思いがあって、彼の活動に共感していました。それで出資してもらうことになりました。

【田原】小松さんはいまブロックチェーンの研究もしているそうですね。空飛ぶバイクに関係ある?

【小松】空飛ぶバイクの次にやりたいのは、本当に高い空を飛ぶクルマです。ただ、現状で空に道路はありません。では、みんなどうやって飛ぶのか。僕の勝手な想像ですが、将来は空飛ぶクルマのフロントガラスに仮想の道路が映し出されて、それに沿って走るようになると思っています。仮想の道路は、誰かが管理して管制塔の役割を果たす必要がある。そこにブロックチェーン技術が使えるのではないかと。

【田原】車体と同時に、交通システムの研究開発をしているわけですか。

【小松】はい。じつは18年、僕たちはドローン国際レースの日本における運営に参画しました。ドローンレースに参画するのは、空のレギュレーションに関わるためです。先進国の信号の色がみんな同じなのは、F1レースのレギュレーションが各国にも波及しているから。おそらく空の道路でも同じことが起きる。ドローンレースのレギュレーションづくりをすることで、空飛ぶクルマのレギュレーションにもタッチできると期待しています。

【田原】空飛ぶクルマにしてもブロックチェーンで管理する仮想道路にしても、僕にはSFの世界みたいに聞こえる。それをリアルな世界でやろうと考えるところがすごいね。

【小松】昔、携帯電話のボタンがなくなると想像していた人は誰もいなかったと思います。でも、スティーブ・ジョブズがなくして、いまやあたりまえになった。結局、本気で信じて取り組むかどうか。僕はそれを空の世界でやろうとしているだけです。

【田原】小松さんはもともと宇宙船をつくりたいと言った。空飛ぶクルマの先には宇宙船がある?

【小松】はい。大きな宇宙船はイーロン・マスクが先にやってくれそうですが、惑星のまわりを気軽に飛べるような小型のモビリティにはいつか挑戦してみたいですね。

【田原】そうですか。夢が広がりますね。頑張ってください。

■田原さんから小松さんへのメッセージ

小松さんの武器は、想像力と実行力ですね。空飛ぶクルマは完全にSFの世界。ブロックチェーンで仮想道路の管理をするという発想も、普通の人はまず思い浮かびません。そして、実現するために、ロードマップを描いて具体的な行動に落とし込んでいる。夢を実現するための第一歩がドローンなら、空飛ぶバイクは二歩目になるのでしょう。

僕は免許の更新をしなかったのでいまは免許がないけれど、昔はバイクにも乗っていました。さっき試作機にまたがったら血が騒いでしまいました(笑)。発売されたら、ぜひ乗りたいですね。

田原総一朗の遺言:SFの世界を現実にしろ!

(ジャーナリスト 田原 総一朗、A.L.I.TechnologiesCEO兼CTO 小松 周平 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)

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