米で急増"廃墟モール"は日本でも増えるか
プレジデントオンライン / 2019年3月14日 9時15分
■消費の場がリアルからネットへ急速にシフト
米国で「デッド・モール(廃墟モール)」が急増している。
クレディ・スイスによると、米国には約11万6000のショッピング・モールがあるが、2017年には8640のモールが閉鎖に追い込まれたという。さらに2022年までに25%のモールが消えると予想している。背景には、アマゾンなど、EC(電子商取引)プラットフォーマーの成長がある。消費の場がリアルからネットへ急速にシフトしているのだ。
ショッピング・モールとは、駐車場を構え、一つの施設として管理される商業・サービス施設の集合体と定義される。ただ、日米のモールの運営形態はかなり異なる。米国では、百貨店やアパレル店舗を中心としたモールが多い。わが国では、総合スーパーを中心にアパレルや飲食店などがモールを構成している。
日本ショッピングセンター協会によると、わが国にあるショッピングセンター(モールを含む)は2017年末現在で3217カ所、総テナント数は16万591店だという。米国のようにわが国でもモールが急速に衰退するという見方もあるが、事態はそう単純ではない。なぜなら、日米の経済状況はかなり違うからだ。
長い目で見ると、アマゾンをはじめとするIT先端企業が小売り分野で存在感を高めることは間違いないだろう。その変化に適応できるかどうかが焦点になる。わが国の小売企業には米国の教訓を生かすだけの時間は残されている。
■ショッピング・モールを飲み込むアマゾンの急成長
米国の小売業界を直撃しているのはアマゾン・エフェクトだ。これはアマゾンの急成長により、さまざまな業種が大きな変化に直面している現象をさす。
アマゾンが目指していることは、“物流大革命”だ。“物流”は今後の世界経済を考える、最もホットなトピックの一つである。アマゾンは、ITプラットフォーム上でモノを注文し、代金の決済を行い、その上で、目的地に品物を配送するためのネットワークシステムを作り上げた。
アマゾンは、生鮮食品のネット通販にも取り組んでいる。そのために米国の高級スーパー「ホールフーズ」を買収した。そのうえでアマゾンは米国で年内に新しい食品スーパーを開く予定だという。
■空き店舗がアマゾンの配送センターに様変わり
わが国では、ヤマト運輸がアマゾンの求める物流サービスの基準(当日配達など)を満たすことができなくなった。それを受けてアマゾンは、自社で物流ネットワークを構築した。これは、わが国の物流における大きな変革といえる。街中にあった空き店舗が、アマゾンの配送センターに様変わりしつつあるのだ。
さらに踏み込んで考えると、アマゾンは物流革命を通して、人々がより快適に生活する環境づくりを目指している。そのために、EC、金融、物流、クラウドコンピューティングサービス、家庭版のIoT(モノのインターネット化)デバイスであるスマートスピーカーなど、自社のエコシステムを急速に拡大させている。
家に居ながらにして必要なモノが手に入ることは実に便利だ。日常の生活を見ても、食品から家電、書籍に至るまで、思いつくものはアマゾンで入手できてしまう。逆に言えば、米国のショッピング・モールや、そこに入る小売企業などは、アマゾンに対抗できるだけの魅力、優位性を顧客に提供できなかった。
■物流・小売業界の「王」だったシアーズの経営悪化
その結果、多くのショッピング・モールからテナントが去っている。2018年10~12月期、米国のショッピング・モールの空室率は9%に達した。米国不動産の専門家は「ゴースト・モール(テナントが去り、廃墟と化したショッピング・モール)は増加する恐れがある」と先行きを悲観している。
空室率が大きく上昇した一因として、米小売り大手企業「シアーズ」の経営悪化がある。かつて、シアーズは米国の物流・小売業界の革命児であり、“王”だった。
19世紀終盤、シアーズは物流網が未整備だった農村部の需要に着目し、カタログ通販を開始した。農作業の道具や衣類、娯楽品までを取りそろえたシアーズのカタログ通販を利用することで、米国の農村生活は激変した。
20世紀に入り、自動車が普及し始めると、シアーズはチェーン店舗の運営を開始。1970年代には全米最大の小売業者の地位を手に入れた。シアーズは人々に、買い物の楽しさと品質への保証という安心感を提供し、支持を得たのである。
■シアーズの経営悪化が廃墟モール増加に拍車をかけた
しかし、その後、米国ではディスカウントストアやネットショッピングが支持されるようになった。シアーズはこの変化に店舗の強化で対応しようとしたが、かなわなかった。同社には、カタログ通販とECを融合させる発想もなかった。
2018年10月、シアーズは連邦破産法第11条(通称、チャプター・イレブン、わが国の民事再生法に相当する法律)を申請した。2019年1月には再建の難航から事業清算の危機に瀕した。現時点でシアーズはファンドの傘下に入り、4万5000人の雇用は維持されているが、経営再建のめどはたっていない。
■日本には米国の教訓を活かすだけの時間がある
日本でもアマゾン・エフェクトはさまざまな企業に影響を与えている。だが日米の経済状況はかなり異なる。
まず、米国とは国土面積が圧倒的に違う。わが国では大規模なモールを建設する場所は限られる。加えて、EC業者の存在感も違う。米国ではアマゾンが生鮮食品ビジネスや無人店舗を運営しているが、わが国ではそこまでECは浸透していないといえる。
ただ、長い目で見ると、わが国の小売業界にもリアルからネットへの変化が押し寄せるだろう。変化に適応するために、わが国のモール運営企業などは、米小売企業の教訓を生かすべきだ。それは、過去の成功体験に浸るのではなく、新しい取り組みを進めるべきということだ。
国内でも多くのIT企業が成長し、ECやC2Cのマッチングサービスを提供している。それにあらがおうとするのではなく、使える要素は積極的に使えばよい。その発想が、わが国の小売企業の持続的な成長を支えるだろう。
■小売企業に対する消費者の信頼はかなり強い
わが国では、モールを運営する小売企業に対する消費者の信頼はかなり強いといえる。都市部では、ECを使いつつ、ショッピング・モールに出かける人も多い。モール内のスーパーではPB商品が人気だ。また、地方では大手小売り企業の電子マネーを用いた買い物だけでなく、バスなどの料金を決済することも増えている。
わが国の小売業者は、消費者の信頼をさらに高めるために、IT先端技術を用いるべきだろう。例えば、高齢者でも簡単に使えるタブレットを開発し、買い物だけでなく、医療相談、金融サービスなどを提供できれば、消費者にとっての利便性は高まる。
さらに大胆な発想があるといい。モール内に大型の室内遊技場を設営したり、スポーツジムや宿泊サービスなどを提供したりするのである。そうすれば、従来とは異なるモールの魅力を消費者に伝え、“コト消費”を喚起できる。小売企業の持続的な成長には、そうした取り組みが必要だろう。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=ロイター/アフロ)
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