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都心で急増する"金遣いの荒い若者"の正体

プレジデントオンライン / 2019年3月18日 9時15分

写真はイメージです(写真=iStock.com/bernardbodo)

■「××離れ」とは真逆の若者の存在感が増している

日本は格差社会です。そう言っても、同意する人は少ないかもしれません。たしかに1990年代後半に出てきた「格差社会」という言葉は、最近あまり聞かなくなりました。しかし、SMBCコンシューマーファイナンスの調査によると、30~40代の23%が「貯蓄0円」だといいます。格差は存在します。ただ、見えづらくなっているのです。

2013年10月、私は『さとり世代 盗んだバイクで走り出さない若者たち』(KADOKAWA)という著書で、不況下の日本しか知らないため消費意欲に乏しい若者を「さとり世代」と名付けました。実際、「若者のクルマ離れ」「お酒離れ」「海外旅行離れ」など、ここ数年「若年消費が減退している」とよく聞かれます。

しかし現在、景気は回復基調にあります。若者の就職率は年々アップして、2018年の有効求人倍率は1.61倍。これはバブル期のピークである1.46倍を越える「超ウルトラ売り手市場」です。「少子化×労働力不足」によって、働き手としての若者たちは「金の卵」化しました。一部の若者は昔ほど「窮乏」していません。

■消費意欲が旺盛な若者「アクティブ・ミレニアルズ」

そんななか私は、ここ1、2年で、消費意欲の高い若者の存在感が高まっていることに気づき、彼らを“アクティブ・ミレニアルズ”と名付けました。“ミレニアルズ”とは、主にアメリカで言われているミレニアルズ世代(1980~2000年初期に生まれた若者たち。多感な時期からIT、SNS、スマホなどに慣れ親しんでいるため、デジタルネイティブとも呼ばれる)のことです。

アクティブ・ミレニアルズは「さとり世代」とは対照的に、消費意欲が旺盛で活動的(アクティブ)です。そのおおまかなイメージは「東京の大企業に勤める20代で、年収の中心帯は600万円から800万円」といったところ。転職サイト「doda(デューダ)」の調査によると、20代の平均年収は346万円で、600万円から800万円はたった2.8%(600万円以上すべてでは3.4%)ですから、かなりの高給取りということになります。

図表=転職サイトdoda「平均年収ランキング」より編集部で作成

そこで私は、アクティブ・ミレニアルズに該当する24~30歳の社会人男女16人を4グループに分け、それぞれ3時間を超えるグループインタビューを行いました。彼らの職業は銀行、証券、保険、商社、IT、広告代理店など。一般企業を勤務を経て父親の経営する会社に入社した男性や、アナウンサーを目指して芸能事務所に所属している女性もいました。今回は、この調査からわかったアクティブ・ミレニアルズの「4つの特徴」をお伝えします。

なお、彼らがどれくらいの金銭感覚を持っているかの目安としては、以下の発言からうかがい知れるでしょう。

「普段使ってもいい1回の食事代上限は3万~3万5000円」(証券・男)
「恵比寿の16万円のマンションに独り暮らし」(IT・男)
「40代で年収550万円より下の人は、自分の周囲にいない」(広告代理店・女)
「今は年収1000万円。いずれ1億は行きたいが、サラリーマンでは無理なので、会社を辞めて起業したい」(広告代理店・男)

日本のサラリーマンの平均給与からはかけ離れた金銭感覚と言うことができると思いますが、「自分の周囲にいない」という発言からも、日本が欧米のような階級社会に向かいつつあることを示していると言えるかもしれません。

■【特徴1】グローバルマインドの持ち主

「若者の海外旅行離れ」の風潮に反し、アクティブ・ミレニアルズは海外旅行によく行きます。場所は韓国・台湾・東南アジアといった近場だけではなく、メキシコやキューバといった中南米、ギリシャやマルタといった地中海周辺、モスクワ、中にはアフリカのタンザニアに新婚旅行に行った、という強者もいました。頻度も高く、「年に2、3回」は珍しくありません。「旅行の目的は非日常。皆が行かない過酷な場所に行くという自分の精神力を試したい」(IT・男)という声も。

アクティブ・ミレニアルズは帰国子女率が高いこともあり、グローバルトレンドには敏感です。国内マスメディアを通じて発信される国内トレンドより、ネット情報や海外在住の友人のSNSなどを通じて得られる世界の流行を常に追いかけており、本国とのトレンド時差がありません。また、日本の地上波テレビ番組はあまり視聴せず、余暇時間はNetflixとAmazonプライムで海外ドラマやバラエティ番組をみる人が多かったのも特徴です。

面白いのは、海外経験が豊富なアクティブ・ミレニアルズほど、ある種の“愛国心”が強いという点。「結局、一周してスーツは三越で買っている」(証券・男)、「時計はセイコー」(商社・男)、「ひととおり海外に行ったので、今は国内旅行に興味がある」(商社・男)など。「浴びるように海外文化に触れたことで、日本の良さを再発見した」ということなのかもしれません。

■【特徴2】タバコ、車、時計に金を使う

若者の喫煙率は年々下がっています。JTの調査(2018年全国たばこ喫煙者率調査)によると、年代別で最も喫煙率が高いのは40代で男性35.5%、女性13.6%。20代はほかの世代より喫煙率が低く、男性23.3%、女性6.6%でした。一方、20年前の1998年は、20代の喫煙率が世代別で最も高く、男性は63.7%、女性は23.5%でした。若者の「たばこ離れ」は顕著です。

しかし今回調査したアクティブ・ミレニアルズ16人のうち、喫煙者は13人(女性含む)もいました。若者の酒離れが進んでいると言われるなか、飲酒率も総じて高い傾向にあります。若者の嗜好品消費はこの10年大きく減じていますが、アクティブ・ミレニアルズこれらを文化、文字どおり“嗜(たしな)み”として積極的に楽しもうとする姿勢が見て取れます。

また、「若者の車離れ」がこれだけ叫ばれ、カーシェアもレンタカーも豊富に利用できる状況にありながら、車の所有欲が高いのも特徴です。車の所有欲が高いのはマイルドヤンキーも同じですが、マイルドヤンキーの志向は「国産ミニバンで近場に行く」。

しかしアクティブ・ミレニアルズは「外国製の高級SUVでアウトドア目的の遠出をする」という志向が特徴的です。さらに、1980年代バブル期の若者にあった「高級車を所有しているステータス自体に満足」というマインドではなく、実際に車を使い倒しているという点がポイントです。

■「よく働き、よく遊ぶ」という傾向にある

高級腕時計やハイブランドの服・靴の所有欲も、総じて高い傾向にあります。無論、懐に余裕があるからこそではあるのですが、「高価なアイテムは自分のテンションを上げるためのコスト。アガるものを買う」(IT・男)は彼らに共通する消費の動機を象徴的に示しています。一億総スマホ時代になり、時計を持つ必要がなくなっているのに、アクティブ・ミレニアルズは時計にも興味があるのです。

アクティブ・ミレニアルズは高給と引き換えにハードワークをこなしている人が多いため、「よく働き、よく遊ぶ」傾向にあります。昨今の若者が、“チル(英語の「Chill out」が語源の若者言葉で、「まったりする」「くつろぐ」といった意味)”を志向するのとは対照的に、余暇も活動的なのがアクティブ・ミレニアルズ。ON(仕事)とOFFの切り替えという意味では、一般的な若者のOFFが“チル”を意味するのに対し、アクティブ・ミレニアルズのOFFはもっとアクティブな消費活動なのです。

■【特徴3】将来不安がない

不況下の日本で多感な時期を過ごしてきた「さとり世代」は、将来への不安から堅実な生活や消費を営んでいました。しかしアクティブ・ミレニアルズには驚くほど将来への不安がなく、未来に対してポジティブです。「実家が裕福で当座は路頭に迷う心配がない人」が一定数含まれていること影響していますが、それ以外にも理由は大きく2つあります。

ひとつは、親や友達とのつながりが非常に強く、実際的・精神的両面でのセーフティーネットが強固であること。「会社が嫌になって辞めたとしても、親や親戚の紹介でなんとかなると思う」(銀行・男)、「起業している友達もいるので、いずれ一緒にやるという道もある。将来も特に心配していない」(IT・男)といった声が、それを表しています。

もうひとつが、自分の能力に圧倒的な自信があること。「どこにでも転職できる自信がある」(広告代理店・女)、「今の会社は副業OKだし、お金なんていつでもなんぼでも作れる」(IT・男)といった声からは、限りない自信がにじみ出ていました。

■「その気になればいつでも稼げる」という自信

よって、多くのアクティブ・ミレニアルズが、高給をもらっているにもかかわらず現在所属している大企業にも一切執着がありません。彼らの中には「せっかく入ったこの会社に一生しがみついていく」という意識はないのです。育ちに恵まれている人が多いからか、「今まで楽しく過ごしてきたし、今後、仮に景気が悪くなっても明るくすごしていけると思う」(証券・男)といった根拠のないポジティブシンキングもよく口にします。

なお、積極的な資産運用をしている人がいる一方で、収入が高いわりにまったく貯金をしていない(=将来不安を感じていない)という人も、一定数いました。IT系企業勤務で月収40万円の男性(恵比寿にひとり暮らし)は「貯金はほぼゼロ。給料は毎月ほぼ使い切る。交際費が最も大きい」とのこと。これも「その気になればいつでも稼げる、貯められる」という大きな自信の表れです。

■【特徴4】インスタより親や友達の影響を受ける

現在の若者トレンドはインスタ(Instagram)の大きな影響下にあると言っても過言ではありませんが、アクティブ・ミレニアルズは自分の価値観がしっかりと確立しており、インスタをはじめとしたSNSのトレンドにはあまり流されない傾向にあります。

一般的な若者が、テレビなどのマスメディアに露出する同世代のメディアスターに影響を受けやすいのとは異なり、アクティブ・ミレニアルズはそのような“大衆性”を避けようとしますし、そもそもテレビをあまり見ません。センスやトレンドの手本は、やや尖ったアーティストや、日本ではまだあまり知られていない海外のラッパー。昨今増殖したSNS上の安っぽい“インフルエンサー”はむしろ軽蔑する傾向にあるようです。

アクティブ・ミレニアルズは、国内でわかりやすく知名度の高いタレントに憧れません。この点、いまだ浴びるようにテレビを視聴してそこから影響を受け、著名なスポーツ選手やアーティストなどを憧れの対象としてカリスマ視するマイルドヤンキーとは対照的です。

■「インスタはつまんない奴がやってる」

各種SNSが登場から数年たってあまねくすべての若者に浸透し、当たり前の情報ツールとなった今、その先を行くアクティブ・ミレニアルズは、既にトレンド把握ツールとしてのSNSを見限っているように感じます。

「どんなすごい旅行に行ってもインスタに載せない奴が一番カッコいい」(IT・男)、「インスタはつまんない奴がやってる」(IT・男)と、インスタからは離れ気味。複数のアクティブ・ミレニアルズが「もはや、“いいね!”目的の写真投稿はやらない」と言い切っていたのは、印象的です。

では、彼らは誰の影響を受けるのか。それは③でも言及した「つながりの強い親や友達」です。会ったことも話したこともないメディアスターやインスタグラマーではなく、価値観や経済状況が似通っている親や友人に信頼を寄せ、センスやトレンドの影響を受ける。今やクラシカルな消費志向とも言える「車の所有」が彼らに浸透しているのは、バブル世代として車道楽の人が多かった親の影響もあると思われます。

そこまで親の影響を受けるのは、この世代の若者に特有の「親と仲がいい」が根底にありますが、SNSの影響を凌駕するほどの仲の良さは、アクティブ・ミレニアルズならでは。結果、親との関係が良いゆえ妄信的に外部の誰かに憧れたりはしない一方、親の意向に逆らえないという弊害も。「就職先は保険会社。特に志望していなかったが、おばあちゃんの代からの知り合い経由だからと親に強く勧められた就職口で、逆らえなかった」(保険・女)という人もいました。

■パリピの上位概念的な存在「フィクサー」とほぼ一致

最初に申し上げたように、彼らは人口比率こそ20代の3%前後と少ないですが、その上位層(とくに高収入で、経済状況が同程度の友人数が多い)は、トレンドの発信元や消費の発端となるインフルエンサー(大衆に影響を与える人)としての資質をもっています。彼らの消費志向を把握することは、世の若者トレンドを先んじて把握することと同じなのです。

私は2016年4月に『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(新潮社)という著書で、かつて日本で仮装ハロウィンや自撮り棒を流行らせた若者のトレンドセッター(流行の仕掛け人)として、パリピ(パーティーピープル)と呼ばれる大学生たちの実態と流行の伝播についてまとめました。

同書ではパリピの上位概念的な存在として、帰国子女や私大の内部進学者、富裕層の子弟で構成される「フィクサー」と呼ばれるトレンド発祥クラスタにも言及しています。お気づきかもしれませんが、アクティブ・ミレニアルズの上位層は、インフルエンス力の高い「フィクサー」とほぼ一致しているのです。

■マーケターは「一億総中流」という幻想を捨てよ

また、今回取り上げたアクティブ・ミレニアルズの親たちは、現在40~50代です。20年前に「格差社会」と騒がれたときに社会人となり、恵まれた環境で子供をもうけた人がほとんどです。つまりアクティブ・ミレニアルズとは、「格差社会」の第1世代の子供たちなのです。

彼らは、日本社会で始まった階層化の象徴です。いまはSNSで誰もがつながる時代ですが、彼らは「稼いでいない友達は、周囲にあまりいない」と言います。彼らは階層の上位におり、あくまで同じ階層の中で幅広い交際関係を築いているのです。

今後、日本企業には、こうした階層の「上澄み」に向けたマーケティングを行うことが求められるでしょう。それは「一億総中流」という幻想に縛られてきた日本のマーケティングにおいて、良くも悪くも新たな幕開けと言えるかもしれません。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
サイバーエージェント次世代生活研究所 所長
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年12月よりサイバーエージェント次世代生活研究所・所長。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」、日本テレビ「バンキシャ」レギュラーとして出演中。

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(サイバーエージェント次世代生活研究所 所長 原田 曜平 構成=稲田豊史 写真=iStock.com)

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