スターフライヤーが「豪華でも安い」理由
プレジデントオンライン / 2019年3月20日 9時15分
■全便・全席に「モニターと電源」は国内で敵なし
北九州空港を拠点とする航空会社スターフライヤーが復調している。2013年度決算では30億円の営業赤字を出した。だが運航路線を組み換えることで、再建に成功。旅客数は2015年度を底に復調し、2014年度以降は安定して営業利益を上げている。
競争力の源泉は顧客満足度にこだわる「プレミアム戦略」だ。スターフライヤーは、日本生産性本部の「日本版顧客満足度指数(JCSI)調査」で、調査開始以降、国内長距離交通部門では9年、その中の国内航空カテゴリーでは、調査開始以降10年連続首位を獲得している。
好評価の要因は、快適な機内環境のようだ。シートピッチは競合他社が31インチ(約79cm)を標準とするところ、34~35インチ(約86~89cm)と最大で約10cmほど広い。また全便・全席がレザーシートで、モニターと電源も備える。これらは国内線では例がない。
大手エアラインとは違うプレミアム感を上手に訴求し、高い満足度を得ている。ただし、こうした「プレミアム戦略」は、航空業界ではタブーとされている。失敗例が多いからだ。
■米国での「プレミアム戦略」は失敗例ばかり
規制緩和が行われた米国で、競争から一歩抜け出そうとプレミアム戦略が流行った。その代表例が「MGMグランドエア」だ。
映画配給会社のMGMがハリウッドのあるロサンゼルスとニューヨーク間で就航した航空会社で、128人乗りのボーイング727‐100型機を33人乗りに改造した豪華な客室がウリだった。筆者は一度、搭乗経験があるが、ハイヒールを履いた客室乗務員から受けるフランス料理のフルコースメニューや焼き立てのクッキーサービスには驚かされた。
だが極端に豪華にしてしまうと、適合する客層が絞られる。運賃とサービスのバランスが取れなくなるからだ。4分の1になった搭乗者数で収益を出す為に4倍の運賃を取らなければいけない。MGMのほかには、標準座席数228席の機体を48席に改造した「EOS航空」という会社もあったが、いずれも続かなかった。
■キーポイントは「豪華すぎないプチプレミアム」
日本でもプレミアム戦略を採用した航空会社はあった。たとえば「スカイマーク」は2014年に全席プレミアムをうたう「グリーンシート」を導入したことがある。標準座席数375席の機体を271席仕様とした。これは標準比72%の座席数となるため、単純計算で運賃は3割以上加算しなくては採算が合わない。そのハードルは高かったようで、スカイマークも2015年に取りやめている。
多くはないが、プレミアム戦略の成功例はある。米国の「ジェットブルー航空」は、スターフライヤーと同じエアバスA320を中心とした機材でシートピッチを広くし、シートモニターを装備している。1999年の創業時より大陸横断便などを上質なサービスで格安に提供した事で人気が出た。
成功の理由は、プレミアム感を出しながら、「LCC」(格安航空会社)に分類されるほど運賃を安くおさえたことだ。豪華すぎないプチプレミアムがキーポイントだろう。ジェットブルー航空も、圧倒的な資金力を元に、多くの路線を設け、一気に消費者の懐に飛び込んで受け入れられた。
■松石社長「成功の理由は北九州空港を本社にしたから」
スターフライヤーは「プレミアム戦略」を維持できるのだろうか。昨年11月、松石禎己社長に行ったインタビューの一部を紹介しよう。
――サービスと運賃のバランスや、サービスの維持向上の難しさなどの理由でプレミアム戦略が失敗するエアラインが多い。スターフライヤーは続けられるのか。
【松石社長】「スターフライヤーが成功できたのは、24時間運用のできる北九州空港を本社にしたからだ。機材の稼働率を高められ、価格競争力が出せる。自治体の支援も厚く、福岡空港よりも柔軟なスケジュールを設定できる。北九州から羽田への早朝便や深夜到着の復路便は、国内線ではほかに例がない」
――就航当初のシートピッチ国内最大という触れ込みも、他社の事例が出てきたこともあり話題性は薄くなってきた。
【松石社長】「たしかに就航から12年たてば、リピーターにも飽きが来る。機内装備の更新は、企業価値を維持拡大していくうえで最大の課題だろう。優位を維持できるように、設備投資を考えていきたい」
■「私の仕事は社内からプロパー社長を誕生させること」
――他社は機内Wi‐Fiを導入している。出遅れているのではないか。
【松石社長】「機内Wi‐Fiはかなりコストがかかる。時機をみているが、必ずスターフライヤーらしい内容でサービスを開始したい」
――スターフライヤーの筆頭株主は依然としてANAのままだ。松石社長もANA出身であり、取り込まれてしまうのではないか、という見方がある。
【松石社長】「スターフライヤーの社長の仕事は、社員を育て、社内からプロパー社長を誕生させることだ。それが独自戦略を貫くことにつながる。創業当時からのスマートラグジュアリーのコンセプトは受け入れられたが、飽きられることのないような革新性を引き続き追求したい」
■世界を舞台にした「満足度」で戦えるかどうか
スターフライヤーは2018年10月より4年半ぶりに国際定期便を就航させた。路線は、中部国際空港と北九州空港から台湾の台北桃園空港を結ぶもので、2路線それぞれ1日1往復する。
過去6年間の業績を見ると、2014年度からは利益が出る構造にはなっている。設備投資の内的要因、燃油費の上下などの外的要因もあって営業利益にブレはあるものの、営業収入は300億円代と安定してきた。
「日本版顧客満足度指数」は高い。10年連続首位をひとつの節目に、次は世界を舞台に勝負が必要だろう。2018年には、「SKYTRAX」の「ワールド・ベスト・リージョナル・エアライン」の表彰で10位を獲得した。この順位をさらに上げられるか。スマートラグジュアリーを維持するには、その達成が必要だろう。ただし2018年度は、原油価格高騰と国際線再進出のコスト増で大幅な減益が見込まれる。安定的な利益を出せる構造がサービス面にも関わってくる。
機内Wi‐Fiなど他社の追い上げは激しい。競争優位を失わないために、どんな手を打つのか。スターフライヤーは正念場を迎えつつある。
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航空ジャーナリスト
大阪府出身。幼いころからの航空機ファンで、乗り鉄ならぬ「乗りヒコ」として、空旅の楽しさを発信している。海外旅行情報サイト「Risvel」で連載コラム「空旅のススメ」や機内誌の執筆、月刊航空雑誌を手がけるほか、「あびあんうぃんぐ」の名前でブログも更新中。航空ジャーナリスト協会所属。
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(航空ジャーナリスト 北島 幸司 撮影=北島幸司)
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