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"完全自由席"で部署が大混乱した根本原因

プレジデントオンライン / 2019年3月22日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/eternalcreative)

働き方改革の施策として「フリーアドレス」が注目されている。座席を自由にして、部署のメンバーは毎日違うところに座るのだ。ところが、ある企業が60人いる部署で試験実施したところ、組織が大混乱し、10日間で中止となった。なぜ失敗したのか。その理由とは――。

※本稿は、小笹芳央『モチベーション・ドリブン』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■「働き方改革」の本質をとらえているか

世の中はまさに働き方改革一色。「今さら何を言ってるの? ウチではもうフリーアドレスもテレワークもすっかり当たり前になっていますけど?」という方も多いと思うが、だからこそ、私には気になっていることがある。

あなたのチームや組織、一皮めくったら、腐り始めていませんか、ということだ。

過激な表現をしたが、具体的にいえば「追求したはずの効率性が下がった」ように感じたり、「社員に働きやすさを提供したはずが、社員同士の距離感が広がった」ような感覚を持ったりすることはないだろうか。もし思い当たる節があるなら、早急に手立てを講じる必要がある。

ここ数年、ベンチャーや中小企業の経営者、大手企業の人事担当役員から、こんな質問をされることが増えた。

「残業時間の削減はどのように進めていけば良いか」
「女性管理職比率はどうやって上げているか」
「副業解禁をするべきだろうか」

一つひとつの質問に答えながら、それらは局所的な課題であり、本質をとらえていないことに、なんともいえない違和感を覚える。

■やみくもな改革は組織を疲弊させる

当社は2000年の創業以来19年、多くの企業の組織変革をサポートしてきた。その経験から言えることがある。部分的な変革を行って、その部分が良くなったとしても、組織全体としてはプラスにならないことがある。そして場合によっては、組織全体にとってマイナスになってしまうことすらあるということだ。

働き方改革には多種多様なメニューがあるが、その中のどれが自分たちにとって必要で大切な改革なのか。それを知ることなく、やみくもに改革に取り組んでしまうと、組織は混乱し、疲弊する。

さらに質が悪いのは、一度悪しき働き方改革が組織に浸透してしまい、混乱をきたすと、元に戻すのも容易ではないことである。一度変わった組織を戻そうとしたところで、舵がきかなければ最悪の場合、壊れる組織も出る。

そうならないためには、働き方改革の目的はあくまで「組織の生産性の向上」であることを、今一度、認識する必要がある。

■フリーアドレスでの混乱を実際に経験

たとえば働き方改革のメニューの中に、「フリーアドレス」という施策がある。フリーアドレスは働く場所(アドレス)を自由(フリー)にする施策で、簡単にいえば、社内のどこのデスクで仕事をしてもいいという働き方改革だ。

小笹芳央『モチベーション・ドリブン』(KADOKAWA)

いつも同じデスク、同じ上司や同僚の近隣で働くよりも、いつも違う環境で働くことで新しい同僚とのコミュニケーションが生まれたり、新しいアイデアが生まれやすくなったりするのではないかと期待されている施策である。

また、自分のデスクがないので私物を置くことができず、書類などの保管スペースも限られるため、ペーパーレス化が進むなどのメリットもある。

実は、当社でも実験的に管理本部でフリーアドレスをやってみたことがある。管理本部長だけは指定席を決めたが、あとは約60人全員、フリーアドレスで完全に自由にした。結果、何が起こったか。

組織が大混乱した。上司に相談したくても、どこにいるかがわからない。上司も部下に直接伝えたいことがあっても、どこにいるかわからない。メールを送っても、四六時中見ているわけではないので、なかなか返信がこない。しょうがないので、社内を歩き回って探すことになる。なんというムダだろうか。

■トライアルなしに進めるのは危険すぎる

しかも、管理本部というのは、総務や経理、法務など、現場で働く人たちが何かあったときに相談に行くサービスセクションだ。そのサービスセクションの人たちが、社内のどこにいるのかわからないのだから、現場の人たちから不平不満が続出した。

こうして実験は失敗に終わり、10日ほどで管理本部の完全フリーアドレスは即座に中止となった。もしもトライアルをせず、もっと一気に、全社的に「せーの」で始めていたら、元に戻すのに大変な苦労を強いられただろう。今現在、「働き方改革急進派」として施策を推し進めている方々には、トライアルなしに進める危険性を念押ししたい。

■フリーアドレスは組織図を壊す

なぜ、完全フリーアドレスがうまくいかないのか。その答えは組織図にある。

企業にはほぼ必ず組織図がある。なぜ組織図があるのかといえば、それが権限の配分図であり、コミュニケーションチャネル図だからだ。組織図があるから、何をどこの誰に相談すればいいのかがわかる。

ところが、社内を完全フリーアドレスにすると、この組織図がない状態になる。100人の組織なら、社内を見渡しても100人の個人がいることしかわからない。まさに要素還元的な組織であり、関係性やコミュニケーションはむしろ大きく阻害される。組織が個人の集合体でしかないため、組織力はまったく発揮されない。

つまり、社内を完全にフリーアドレスにすると、組織図がなくなり、組織が組織としての体をなさなくなる。だから、完全フリーアドレスはほぼ間違いなく失敗するのだ。

もしフリーアドレスを実施するなら、部門ごとにエリアを決め、そのエリア内をフリーアドレスにする。総務部エリア、人事部エリアをつくって、そのエリア内をフリーアドレスにすれば、組織図=コミュニケーションチャネル図がある状態を維持できるので、相談などのコミュニケーションも簡単にとれる。

こうした部門ごとにエリアを決めたフリーアドレスを当社では「デザインアドレス」と呼んでいる(一般的にはグループアドレスと呼ばれている)。

■新人や若手を育てるのにも不向き

またフリーアドレスは、期待に反して組織やチームのコミュニケーションがとりにくいため、「人が育たない」ことも大きな問題だ。特に新人や若手は、まだ右も左もわからない状態なのだから、いつでも質問したり、相談したりできる先輩の存在が欠かせない。

組織やチームを家族にたとえると、ちょっと目を離したら何をしでかすかわからない小さい子供がいるときに、フリーアドレスをやりますか、ということだ。小さい子供を自由に遊ばせるのは、子供部屋の中だけか、親がいる部屋の中だけであろう。

私が組織変革に際し、常に念頭に置くべきコンセプトとして挙げている「ONE for ALL, ALL for ONE(個人は組織のために、組織は個人のために、と意訳して考えてほしい)」の観点からいえば、完全フリーアドレスはONEに傾きすぎている。

だから、部門ごとにエリアを決めることでALLにも配慮し、「ONE for ALL, ALL for ONE」のバランスをとることが大切になるのだ。この「ONE for ALL, ALL for ONE」の視点は、働き方改革の数々の施策を自社に落とし込む際に、絶対に欠かせない視点である。

■「個」の価値が圧倒的に高まっている

現代は、「ONEが暴れ始めた時代」といっても過言ではない。インターネットは、情報収集においても情報発信においても、ONEにとって大きな武器となっている。他社情報を収集できることで転職がしやすくなり、自社の悪い情報を口コミサイトで発信することもできる。会社を辞めようと思ったら、ひと昔前と違ってすぐに辞められるし、転職もたやすい。

ひと昔前までは、日本企業のほとんどが終身雇用、年功序列であったため、転職のハードルは非常に高かった。だからONEは、暴れることなく社内でまじめに忠誠心をもって働くことを選択した。

これに対してALLである企業も、簡単に従業員を解雇することなく、雇用の安定と右肩上がりの給料を保証した。お互いにとってウィン・ウィンの関係であり、「ONE for ALL, ALL for ONE」のバランスもとれていたのだ。

しかし、終身雇用、年功序列は崩れ、日本の労働市場では人材の流動化が進み、明らかにステージが変わった。しかも、経済のソフト化やサービス化が進んでいるため、よりONEの価値が高まっている。だから、ONEが暴れ始めたのだ。

ALLとしては、こうした強いONEから選ばれるために、ONEと向き合って、人材流動化が進む労働市場に適応していく必要がある。

■組織の力を分散させない施策も重要

ただ、ONEから選ばれる企業になるために、あまりにONEに媚びて「ALL for ONE」に傾きすぎた働き方改革の施策を行うと、ALLとしての成果が大幅に減じてしまうのは、フリーアドレスの事例で見た通りだ。

多くの日本企業で今静かに進行しているのは、こうした「for ONE」の施策を多々行うことで「for ALL」の力が弱まり、組織文化が薄まったり、一体感が消えてしまったりといった、組織がバラバラになる現象だ。一度変化に適応したONEに「再び元の働き方へ戻せ」というのは、想像以上に難しい注文なのである。

「for ONE」のための施策は、組織の力を分散する。だから、返す刀で組織の力を統合する施策も同時に行わなければならないのだが、こちらは忘れられている。だから、「for ALL」の力が弱まってしまうのだ。

ONEが強い時代に合わせ、「ONE for ALL, ALL for ONE」を高い次元で実現できる企業は、おそらくどのような業界においても勝ち続けていくことができるだろう。

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小笹芳央(おざさ・よしひさ)
株式会社リンクアンドモチベーション会長
1961年、大阪府出身。1986年、早稲田大学政治経済学部卒業、株式会社リクルート入社。2000年、株式会社リンクアンドモチベーションを設立し、同社代表取締役社長に就任。2013年、同社代表取締役会長に就任し、グループ14社を牽引する。『会社の品格』(幻冬舎新書)、『モチベーション・マネジメント』(PHP文庫)など著書多数。

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(リンクアンドモチベーション社長 小笹 芳央 写真=iStock.com)

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